ミュンヘンからフランクフルトへ、初代ICE1一等車の乗車記【車内・車窓】

ドイツ・オーストリア・中欧

「ドイツ版新幹線」とも呼ばれるICE(Inter City Express)。
1991年の運行開始以来、その路線網はドイツを越えてヨーロッパ各国に広がっています。
それから30年以上が経ちますが、初期型の車両が未だに健在です。

2023年5月下旬、南ドイツのミュンヘンからフランクフルトまで初期型ICEの一等車に乗車しました。

なお、ICEの予約はドイツ鉄道のサイトから行うことができます。
詳しい予約方法等については以下の記事をご覧ください。

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最高速度は280㎞、ドイツ初の高速列車

フランスの新幹線TGVに遅れること10年、ドイツの新幹線ICE(Inter City Express)が1991年に登場しました。
東西のドイツ再統一の翌年のことです。
初代ICEの最高速度は280㎞/h。
当時はTGVが世界最速の300㎞/hを行っていましたが、日本の300系の270㎞/hより若干速い速度でした。

初代ICEは機器の代わりにジャガイモを詰め込んだような顔立ちで、お世辞にも精悍な車両とはいえませんでした。
しかし、ICEをヨーロッパ屈指の名列車たらしめたのは、「ドイツの高級車のよう」とも形容される内装のクオリティの高さです。
さらに食堂車が連結されているのも、高速性能や輸送力だけにとどまらないICEの魅力です。

初代ICE

その後もICEの進化は続き、分割併合を行い需要が比較的小さな線区でも運用するICE2、300㎞/hを越える高速性能を持つICE3、車体傾斜機能によってカーブ通過速度を高めたICE-T、そしてコストを抑えながら初期型ICE並みの走行性能を持つICE4が登場しました。

イケメン揃いのフランスやイタリアの高速列車たちと比べると、歴代ICEのルックスは今一つパッとしませんが、派手さに頼らない品質の高さはドイツの質実剛健さそのものです。

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ICE1の車内

二等車の車内と座席

ICE1の二等車の車内
二等車の車内

ICEの特徴として第一に挙げられるのは車内の快適さです。
デッキ部分も含めて落ち着いた内装で、座席も掛け心地が良いです。
基本的にオープンサロンタイプの客室ですが、一部にはコンパートメントもあります。

日本の新幹線と違って座席を回転することはできません。
各座席が車両中央部を向いている「集団見合い型」と呼ばれる構造になっています。

一等車の車内と座席

ICE1の一等車の車内
一等車の車内

一等車は革張りの黒い座席で、さらに重厚感が増しています。
一人掛けの座席の利用価値は言うに及ばず、二人掛けの座席でも間隔が空いています。

ICE1の一等車の座席
一等車の座席

一等車では食堂車のスタッフが注文を取りに来て、飲み物などを座席まで運んでくれるサービスがあります。
これはウェルカムドリンクではなく、有料なのでそこは注意しましょう。

ICE1のコンパートメントタイプの一等車
コンパートメントタイプの一等車

食堂車「ボードレストラン」

ICE1の食堂車の車内

初代から最新型車両まで連綿と続くICEの食堂車は「ボードレストラン(Bordrestaurant)」と呼ばれています。
ヨーロッパの高速鉄道では売店とスタンドテーブルだけの軽食堂車(バー・ビストロ)が多いですが、ICEには本格的な食堂車があります。
機内食スタイルではなく料理は皿に盛られ、コーヒーやビール・ワインもそれに相応しいカップやグラスで提供されます。

ICE1の食堂車はひときわ特徴があり、天井が高くドーム型になっています。
そして天井部分にも窓があるため、車内が明るく感じられます。

食堂車は隣の車両よりも天井が高いことが分かる

車両中央の厨房設備を挟んで、反対側はテーブル付きロングシートのようなエリアになっています。
飲み物だけならここで過ごすのも良いでしょう(食堂車で飲み物だけ注文するのも可)。

ICE1の食堂車の車内

ついに、東海道新幹線では車内販売さえ無くなりました。
サービスの低下を嘆いている皆さんは、ドイツで鉄道旅行はいかがでしょうか?

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【乗車記】ミュンヘン・フランクフルト間の所要時間は3時間強

予約した列車が消えた?

16時過ぎのミュンヘン中央駅。
私が予約したのは16時49分発のハンブルク行きICE1128列車です。
ところが、駅中央のボードには後の列車は順次載るのに、ICE1128の情報はいつまでたっても出てきません。
改めてメールをチェックするも、ドイツ鉄道から運休・変更の連絡は無し。

不安になって、というか途方に暮れて、駅のインフォメーションで尋ねると
「貴方の列車は無くなってますね。」と窓口氏が一言。
あっけにとられて次の言葉を待ちますが、その場の沈黙に耐えられず
「運休ですか?どうしたらいいのです?」
と聞き返します。

どうやら予約した便は時刻と列車番号が変わったようで、たしかに10分程後にハンブルク行きICEがありました。
フランクフルトにも寄るのでそれに乗れとのこと。
何やらよく分かりませんが、教えられた列車のホームに行きます。
おおらかそうな顔をした初代ICE1が「細かいことは気にするな」と言わんばかりに、どっしりと構えて待っていました。

とりあえず適当な席に座ります。
一等車は空いていました。
16時50分頃、近代的なオフィスビルを見ながらミュンヘン中央駅(Muenchen Hbf)を発車しました。

南ドイツの田園風景

まもなく検札が始まりました。
「予約した便ではないのですが…」と言いかけたところで、恰幅の良い中年の女性車掌が
「どうして?どうして?」と畳みかけます。
若干たじろぎながらも事情を説明して、結局不正乗車の嫌疑は晴れました。
ついでにここに座っていてもよいか聞くと、この日の一等車は全て自由席になっているとのことでした。

とりあえず、一件落着したところで駅で買ったビールを開けます。
ミュンヘン中央駅から列車に乗る時は、いつもこのビールを買ってしまいます。

余談ながら、ヨーロッパでは予約した席とは別の席に座る人はよくいます。
日本でも最近「自分が予約した席に人がいたらどうするか」と話題になっているようです。
子供ではないのですから、そういう時には「そこは自分の座席だ」と言ってどいてもらえばいいだけの話です。
私に言わせれば、違う席に座っている程度のことを「車掌に相談する事案」や「迷惑行為」として仕立て上げる方がよほど迷惑です。

さて、列車は南ドイツの山がちな丘陵地を走ります。
昔ながらの集落の真ん中には、たいていひときわ高い教会の塔がそびえています。
この時期は黄色い花を敷き詰めた畑だけがよく実っているようです。

ウルム中央駅(Ulm Hbf)を過ぎると高速線に入り、250㎞/hくらいのスピードを出しました。
ここは昨年(2022年)に開通した新しい路線です。
ドイツなどヨーロッパの国では新幹線と在来線の線路幅が同じなので、高速線は部分的に建設されていることが多いです。

シュトゥットガルトに着く前に食堂車に行きました。
赤ワインとフジッリのポロネーゼを注文します。
ドイツワインもいいものが揃っています。

シュトゥットガルトで進行方向が変わる

山に抱かれた大きな街が見えてきたな、と思っているうちに国内屈指の産業都市、シュトゥットガルト中央駅(Stuttgart Hbf)に到着です。
ここで降りる人が沢山おり、乗車してそのまま食堂車にやって来る人もいます。
シュトゥットガルトから進行方向が変わりました。

ライン川沿いのマンハイム中央駅(Mannheim Hbf)から乗る人が多くいました。
依然として一等車は空いていますが、二等車はほぼ満席でした。
この辺りは工場が目立ち、シュトゥットガルトまでの牧歌的な景色とはだいぶ違います。

現代と中世が同居するフランクフルト

フランクフルト到着直前、旅の締めくくりとしてマイン川を渡ります。
他のドイツの大都市と比べても高圧的な、ヨーロッパを代表する金融都市の高層ビル群が見えてきました。
さらに円安ユーロ高が進まないか心配になります。
もっとも、フランクフルトの旧市街は中世的な街並みです。

フランクフルト中央駅(Frankfurt Hbf)に着いたのは20時過ぎでした。
ミュンヘンから3時間15分程度の所要時間です。
外はまだまだ明るいので、ホテルに籠ってしまうのは勿体ない気もします。
なおフランクフルトは産業経済や交通でもドイツの中心ですが、意外と人口は国内第5位でミュンヘンよりも少ないです。

駅周辺には(ドイツにしては)手頃な価格のホテルが多いですが、雰囲気があまりよろしくないエリアなので、一定の注意は怠らないようにしましょう。
観光の拠点となるレーマー広場は駅から徒歩圏内です。

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たった一代でICEのイメージを確立した傑作車両

歴代のICEの歩みの中で、初代以来車体は赤と白の配色のまま、内装もあまり変わっていません。
これこそICE1の出来栄えの良さを示しています。
30年以上経った2023年にようやく、ICEの車内インテリアが新しくなるという情報が出ました。
良いものを長く使うという、ドイツらしい精神性なのでしょう。

逆にTGVはデザイナーと組んで、度々内装のリニューアルや外装のイメチェンが行われています。
欧州二大国の気質の違いは、こんな所にも表れています。

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