フランスの首都パリから国内第二の都市リヨンまでの距離は約450㎞。
両都市間の移動には高速鉄道が速くて便利です。
フランスの東海道新幹線とも言うべきこの区間には、現在3種類の高速列車が運転されています。
まず、これらを順に軽く紹介します。
1つ目がフランスの新幹線、TGVです。
おそらく外国で一番有名な列車ではないでしょうか?
フランス各地のみならず、周辺国にも積極的に乗り入れる現代のナポレオンです。
2つ目はTGVの格安版であるOuigoで、TGVを運行するフランス国鉄の子会社によって運転されています。
LCC(ローコストキャリア)の鉄道版とも言われます。
車両自体はTGVと同じタイプの二階建て車両です。
TGVとOuigoはフランス国鉄のダブルブランド戦略として、補完し合う関係にあります。
日本の通信業界に当てはめると、auとUQ、あるいはソフトバンクとワイモバイルの関係です。
最後の3つ目はイタリア国鉄のフレッチャロッサ(Frecciarossa:イタリア語で「赤い矢」の意味)。
こちらは近年対外拡張主義を明確にしている列車で、2021年よりフランスのドル箱路線にも参入しました。
本記事ではこれら全てに乗車した私が、列車を選ぶために参考となる情報をお伝えしていきます。
最高速度300㎞、所要時間2時間は同じ
パリからリヨンへは同じルートを通り、最高速度は時速300㎞、所要時間はどれも約2時間です。
よって各列車はダイヤではなく、サービスと価格によって差別化されています。
早速それぞれの特徴を表にすると、以下のようになります。
相対的な費用 | 上級クラス | カフェ | 快適さ | 荷物制限 | コンセント | Wi-Fi | |
TGV | 高い | 1等車 | あり | ◎ | なし※1 | 全席あり | あり |
Ouigo | 安い | なし | なし | ▲ | あり※2 | 一部あり | なし |
フレッチャロッサ | やや安い | 1等車・特等車 | あり | ○ | なし | 全席あり | あり |
※2:個数・サイズの制限あり。超える場合には追加料金が必要
表から分かる通り、特にTGVとOuigoは訴求するマーケット層が違うので、一概に「この列車がおすすめ」と断定することはできません。
全体的なイメージとしては、「高級路線のTGVと低価格のOuigoとで棲み分けていたところ、その間にフレッチャロッサが割り込んで来た」と思ってください。
それでは、前置きはこのくらいにして本題に入ります。
結論:とりあえずフレッチャロッサがおすすめ
ここでは類似の時間帯で複数の選択肢があり、どの列車に乗るべきか迷った場合を想定します。
最大公約数的な結論として、私のおすすめはフレッチャロッサです。
先ほど、「フレッチャロッサはTGVとOuigoの中間の立ち位置だ」と書きましたが、どの評価軸でも平均以上のパフォーマンスを叩き出しています。
つまり、幅広い中間層にとって魅力的なサービスを提供しているのです。
フレッチャロッサを選ぶ理由①:料金がTGVより安い
フルサービス列車のTGVと比べると、フレッチャロッサの方が料金が安いです。
料金は日付や列車によって変動するので、もちろん逆転するケースもありますが、全般的な傾向としてはそのように言えます。
まずは2カ月以上先の日付を照会して値段を見てみましょう。
区間はParis Gare de LyonからLyon Part Dieu、つまり両都市の中心駅です。
上の写真はフランス国鉄のサイトで、TGVとOuigoが検索結果に現れています。
TGVには左側に2等車、右側に1等車の値段が載っていて、1等車が無い列車がOuigoです。
昼間の時間帯なので、これらの列車は1日の中では安い方だと思ってください。
次に、同じ日付でイタリア国鉄のサイトより、フレッチャロッサの費用です。
上の写真では1列車分しか表示されていませんが、この日はどれも同じような金額でした。
早めに予約すると、TGVと同じフルサービスの列車でありながら、安さは格安列車のOuigoに近いことが分かります。
なお、フレッチャロッサでは2等車をスタンダード、1等車をビジネス、特等車をエグゼクティブと呼んでいますが、本記事では2等車・1等車の表記で統一します。
一応、3週間後の結果も調べましたが、傾向としては変わりません。
昼間のTGVは60€台からありますが、需要のある夕方は100€弱です。
Ouigoは相変わらず安いです。
フレッチャロッサの方は「TGVより安い」、というか「Ouigoよりは高い」くらいです。
フレッチャロッサを選ぶ理由②:ハード・ソフト両面でサービスが優れている
フレッチャロッサに使われるETR1000という車両は、2010年代半ばに開発された新型の電車です。
性能の高さはもちろん、走行時の快適性でも非常に優秀な車両です。
車内インテリアも明るく洗練されており、座席は一見やや狭そうに感じられますが、座ってみると掛け心地が良いです。
さらに、フレッチャロッサには客室上部にいくつかのモニター画面があり、有益な情報をタイムリーに英語でも提供してくれます。
例えば、途中停車駅の到着時間や天気・気温(もっともパリからリヨンは1駅ですが)であったり、遅れが発生した場合には「信号待ちのため停車中。20分遅れる見込み」というメッセージが表示・アナウンスされます。
日本と異なりヨーロッパの列車は遅れても何も言わないことが多いですが、意外なことに、こういった情報を一番こまめに報告してくれるのはイタリアです。
20年くらい前は「遅れる・汚い」という悪評がつきまとっていたイタリアの鉄道も、近年ではすっかり汚名返上を果たした感があります。
フレッチャロッサを選ぶ理由③:1等車にウェルカムサービスがある
1等車限定のサービスになりますが、フレッチャロッサではウェルカムサービスがあります。
出発後に水やソフトドリンク、スナック類をもらうことができます。
TGVの1等車にはこのようなサービスはありません。
ビストロ(カフェテリア)まで行くのも面倒だけど、コーヒーと軽いつまみくらいはあれば…という人には嬉しいサービスです。
フレッチャロッサを選ぶ理由④:最上位のエグゼクティブがある
実際にパリからリヨンまでの移動で利用する人はほぼいないとは思いますが、フレッチャロッサにはTGVにもない特等車、エグゼクティブクラスがあります。
他のクラスと異なり、早期割引が効きません。
1両に10席しかない豪華車両で、ウェルカムサービスもより充実しており、駅のラウンジ(FRECCIAClub)も利用可能です。
2時間の移動でも贅沢をしたい人は、こちらを利用すると良いでしょう。
なお、TGVにも1等車+αのBusiness Premierというクラスがあります。
料金はエグゼクティブと同程度ですが、付加サービスがあるものの車両自体は1等車と同じなので、1等車以上を望むのであればやはりフレッチャロッサがおすすめです。
一番安いのはOuigo、スーツケース制限と発着駅に注意
パリからリヨンの所要時間は2時間です。
この程度なら快適性やドリンクサービス云々より、とにかく「安いが正義」と考える人もいるでしょう。
その場合はOuigoです。
快適とは言い難いが、2時間なら我慢できる?
ここで、(サービスを簡素化した)LCCの鉄道版というポジションのOuigoには、通常の列車にはない制約があることを理解しておきましょう。
無料で持ち込める荷物は、55 x 35 x 25 cm以内のスーツケースと36 x 27 x 15 cm以内の手荷物1つずつ、あるいは36 x 27 x 15 cm以内の手荷物2つです。
1週間以上ヨーロッパ旅行すると、これより大きくなってしまうことが多いと思います。
規定以上の大きさの荷物がある時は5€の追加料金が必要です。
予約時(Ouigoは事前ネット予約のみで、現地購入不可)に追加料金を払わず、乗車時に超過が判明した場合には20€払わなければなりません。
また、一部のOuigoには市内中心部から10㎞以上離れた駅に乗り入れる列車があります。
いくら安くても、観光旅行でこのような列車を利用するのは考えものです。
とにかく、Ouigoは旅慣れた節約旅行者におすすめです。
なお、「Ouigoのネット予約決済は日本発券のクレジットカードではできない」という情報を見かけますが、私は2022年8月末にフランス国鉄のサイトから予約(10月乗車分)できました。
快適さを求めるならTGVの1等車
フレッチャロッサのエグゼクティブ程贅沢する気はないが、値段はあまり気にしない、多少コストがかかっても車内の快適性を重視したい、という人にはTGV、特に1等車がおすすめです。
日本からの観光旅行では、結構需要のあるゾーンかもしれません。
ほとんどのTGVが二階建て車両で運転されており、これらは近年内装がリニューアルされ、とても機能的で落ち着いた車内インテリアに仕上がっています。
また、フレッチャロッサは2列ずつ向かい合わせになった席(ボックスシート)が大半で、日本人にとっては一般的ではない構造です。
その点、TGVは向かい合わせの席が少なく、1等車は座席が回転(日本では当たり前だが、実はヨーロッパでは珍しい)できるのでほとんどが進行方向を向いています。
TGVは3つの列車の中で最も高いですが、早めに予約すると1等車でも60€程度からチケットが買えます。
これは東京~名古屋の「のぞみ」普通車より安いです。
なお、たまに旧型の平屋構造のTGVもありますが、1等車予約時の座席選択画面のタイミングで二階建てか否かを判定することは可能です。
詳細は以下の関連記事をご覧ください。
ヨーロッパ高速列車競争の最前線
日本の新幹線に続くこと1981年に開業したパリ~リヨンのTGVは、ヨーロッパ初の高速鉄道でもあります。
以来、この区間はフランスで最も忙しい高速線として、二階建て車両の導入やOuigoの運転開始など、新しいサービスの実験台となってきました。
ついに「外資」のフレッチャロッサ参入を迎えた今、ヨーロッパの高速鉄道では、国内線における国境を越えた競争がこれからも広まっていくでしょう。
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