世界中から人が集まる花の都パリと、フランス南東部にある芸術文化の都市リヨン。
この2つの都市間の移動にはフランスが誇る高速列車TGVが大変便利です。
本記事では実際の乗車体験をもとに、TGVの概要から予約方法、その他注意点などを解説します。
コロナ後の2022年10月、パリからリヨンまで乗車しました。
ちなみに、この区間にはTGVの他にも、格安版TGVのOuigoに加えイタリアのフレッチャロッサが参入しています。
これら3列車の比較については、以下の記事で解説しています。
TGVは最高速度320㎞のフランス版新幹線
ヨーロッパ初の高速鉄道
100~500㎞程度の中距離間隔で各国主要都市が点在する西ヨーロッパは、広大過ぎる面積がゆえに航空機に旅客を奪われたアメリカと異なり、戦後も鉄道サイズの先進地域として君臨しました。
20世紀の半ば、国境を越えて各地を結ぶ国際特急列車たちは、二度の大戦で疲弊したヨーロッパの統合と発展に大きな役割を果たしたのです。
鉄道発祥の地は産業革命を成し遂げたイギリスでしたが、戦後の高速化のフロントランナーを務めていたのはフランスでした。
ところが1964年10月、アジアの敗戦国日本が新幹線を世に送り出し、フランスの関係者を驚愕させました。
そして1981年、ついにヨーロッパにも高速鉄道時代が幕を開けます。
パリ~リヨンに約400㎞の高速新線が建設され、フランス版の新幹線TGVが最高速度260㎞で運転を開始しました。
ここに、新幹線は遂に世界最速の座を失うことになります。
なお、TGVはTrain a Grande Vitesseの略で、フランス語で「とても速い列車」の意味です。
以後、TGVは国内各地で運行されているのみならず、西ヨーロッパから東アジア・アフリカ・アメリカにも輸出され、世界の高速鉄道をリードする存在となっています。
TGVとinOuiの違い
ヨーロッパの高速鉄道の代名詞として親しまれてきたTGVですが、2017年にフランス国鉄のSNCFはそのブランドをinOui(「驚くべき」の意味)に変更しました。
これは2013年に同社が運行を開始した格安新幹線のOuigoとの差別化を図る目的があると思われます。
ただ、TGVという名称が消えるわけではありません。
高速列車の車両を指す言葉としては引き続きTGVが使われます。
よってinOuiとは「格安ではないフルサービスの高速列車(TGV)だ」という認識でよろしいでしょう。
それにしても一般的な企業理論とは逆で、「機動的・積極的な経営が期待できる」はずの民間企業JR各社よりも、フランス国鉄の方がよほど開明的に思えるのは私だけでしょうか?
パリからリヨンの所要時間は2時間
パリ~リヨンに限らず、現在のTGVはほとんどがオール二階建て車両です。
日本にも2021年まで全車両ダブルデッカーの「Max」が最高速度240㎞で走っていましたが、TGVは巨体をものともせずに時速320㎞(パリ~リヨンでは300㎞)で走るのですから驚きです。
この編成は決して特別な存在というではなく、今後登場する車両も二階建て構造になる予定です。
なので、基本TGVはオール二階建てで、たまに古い平屋構造の編成が走っていると思ってください。
パリ~リヨンの所要時間は約2時間です。
運転本数は1時間に1~2本で、さすがに東海道新幹線とは比べるべくもありませんが、ヨーロッパではかなり多い方です。
ヨーロッパでは(日本でいう)新幹線と在来線の線路幅は同じなので、都会のターミナル駅は他の列車と共用です。
そして、郊外に出てから本格的な高速運転を開始します。
TGVの車内・座席とサービス
2等車の車内
最近のTGVはリニューアルが進行中で、内装もかなりモダンなものに仕上がっています。
特に今までのTGVの2等車は、見た目はファッショナブルだがやや狭い感じがしたのですが、この新しいタイプは座り心地も良好です。
全座席に充電用のコンセントがあり、Wi-Fiも完備しています。
1等車の車内
どっしりと構えた大型の座席が通路を隔てて2&1で並ぶ1等車。
シックな重役室のような車内は非常に快適です。
充電用コンセントは背面テーブルを降ろすと現れます。
また、小さなテーブルのみ使用することもできます。
ところで、ヨーロッパの鉄道は「集団見合い型」と呼ばれる、座席が車両中央部を向いている構造が多いですが、新しいタイプのTGVの1等車はほとんどの座席が進行方向を向いています。
これがこの車両の革新的なところで、1等車の座席は向きを変えることができるのです。
日本人の我々からすると「だから何なん??」となりますが、ヨーロッパでは珍しいことです。
4号車にバー車両あり
4号車(または14号車)にはバーがあります。
ここでは軽食や飲み物・アルコールが販売されています。
長時間乗車する時は気分転換にも良いですし、パリ~リヨンのような短時間であっても日本では味わえない列車旅の醍醐味を体験してはいかがでしょうか?
乗車記【フランスらしい丘陵地を走る】
駅名に注意!Gare de Lyon(リヨン駅)はパリにある。
ヨーロッパ、特にフランスで鉄道旅行する際に気をつけたいのが、都会のターミナルの駅名です。
今回乗車するGare de Lyonは日本語訳すると「リヨン駅」ですが、これはリヨン方面(南方面)への列車が発着するパリの駅なのです。
というのも、パリには「パリ駅」という駅はなく、行き先によって幾つものターミナル駅が存在します。
駅名は行き先(Gare de Lyon)や方角(Gare du Nord)が付くことが多いですが、とにかくリヨン行きの列車は「リヨン駅」に発着します。
この駅は非常に広く、3つの乗り場(Hall)から成ります。
一番正面にあるのがHall1で、Hall3は地下にあります。
今回の場合Hall2から出発しましたが、結構歩いたので早めに到着することをお勧めします。
ここの内装も美しい
パリ・リヨン駅で列車に乗る時、ゲートにチケット(スマホの画面でも可)のバーコードをかざしてプラットホームに出ることができます。
発車2分前になると閉まってしまうので、ギリギリ到着は避けましょう。
定時性・安全性の観点からは良いことですが、私のような鉄道ファンにとっては列車を見たり撮ったりするのが難しくなるので複雑な思いです。
パリ・リヨン駅内の老舗レストラン「ル・トラン・ブルー」
ところで、パリ・リヨン駅構内(Hall1)には豪華絢爛なレストラン「Le Train Bleu」(ル・トラン・ブルー)があります。
駅ナカの食堂とは思えない、まるで宮殿を利用した美術館のようなレストランです。
「こんな立派なところで食事をするのは敷居が高いかな」と感じる人は、飲み物だけのカフェとして利用することもできます。
グラスワインでもいろいろ種類がありましたが、迷ったらフランス白ワインの定番、シャブリです。
繊細で酸味が強く、高貴な雰囲気を味わうことができます。
ちなみに服装に関しては、カフェとして利用する限りは外国人観光客も多いので、特に気にする必要はありません。
リヨンまでノンストップ
日差しがまぶしい昼下がりのパリ。
14時前にパリ・リヨン駅をHall2から出発するTGVの1等車に乗車しました。
中途半端な時間帯ですが、スールをお洒落に決めてキーボードをたたくビジネスマンで車内は混雑していました。
駅構内でも流れる冷たく不気味なチャイムが鳴った後、舌を打つ音と息を吸い込む音を派手に響かせながら、車掌が出発前のアナウンスを始めました。
なお、TGVにスーツケースを持ち込む際はネームタグを付けて、タグにあるQRコードのアクセス先から名前を入力しなければなりません。
ネームタグ無しで車両端に荷物を置いていると不審物扱いされるので注意してください。
恥ずかしい話ですが、別の列車で私はこのルールを知らず、事情があって隣の車両にスーツケースを置いていたため、ひと騒動起こしてしまいました。
さて、定刻通りリヨン行きTGVが出発しました。
ヨーロッパの列車に乗って驚くのは、都会を出るとすぐに田園風景となってしまうことです。
パリは大都会ですが、それでも10分も郊外を走ると一面畑です。
東海道新幹線ならまだ品川を出た辺りです。
パリ~リヨンは距離・時間的には東京~名古屋に相当しますが、途中に中程度の都市さえもなく、大半のTGVはノンストップでリヨンに着きます。
また、私の記憶ではトンネルも1度もありませんでした。
この辺り、日本とフランスの自然・経済地理の違いが鮮明です。
景色は単調と言えばそれまでですが、フランスらしい起伏のある小麦畑・葡萄畑・牧草地を浮き沈みしながら、大海原を航海する船のように時速300㎞で疾走していきます。
4号車にあるバーに行って、ミニボトルのボルドーワインを購入しました。
ヨーロッパの高速列車ではグラスも用意してくれるものもありますが、TGVの紙コップは少し残念です。
ボルドーワインの中でも力強い方でした。
リヨンの中心駅、Lyon Part-Dieu(リヨン・パールディユー)駅に到着
やがて列車はスピードを落としリヨンに近づきます。
Lyon Part-Dieu(リヨン・パールディユー。実際の発音はもっと難しい)駅に到着する直前にローヌ川を渡ります。
橋からの景色を見ただけで、リヨンは美しい街だということが分かるでしょう。
列車はこの先別のリヨン市の駅まで行きますが、中心駅はここパールディユー駅です。
リヨンは観光地としての魅力はもちろん、スペインのバルセロナやイタリアのミラノへの列車も発着する、ローマ時代からの交通の要衝です。
予約方法と費用
SNCFの公式サイトから予約できる。値段は安くて50€。
TGVの予約はSNCFの公式サイトから行うことができます。
先に目的地を入力してから出発地も指定する流れになります。
駅名が分からなければ都市名(Paris,Lyon)でもかまいません。
日付・区間などを決めて検索すると、上の写真の通り候補が出てきます。
金額が記されたボックスは左が2等車、右が1等車です。
今回は10時発の便の1等車を選択します。
同じTGVでもかなり料金が異なります。
おおよそ、2等車だと50€くらいから、1等車だと60€からあるが列車によっては100€以上も多い、という認識です。
1st ClassとBusiness Premiereの違い
さて1等車を選択すると、1st ClassとBusiness Premiereという2つのプランが出てきました。
Business Premiereは割引が利かない代わりに、変更・返金が手数料なしで可能、乗車時に飲み物がサービスされる他、主要駅でのラウンジも利用できます。
ただし、ユーロスターのように食事サービスが有るわけではなく、また値段の差も大きいので、事前に予定が定まっている旅行者であれば通常の1st Classで良いと思います。
Show detailボタンを押してサービス内容を確認してから、Select–at○○€ボタンで先に進みます。
1等車の場合は座席指定も料金に含まれています。
デフォルトのラジオボタンのままSelect your seatを選択します。
座席選択画面です。
この段階で分かる注目すべきことは、今回の列車は2階建て車両だということです。
もし上の写真にあるDECKのbottom,topの選択肢が無い場合は、古いシングルデッキ車両で運転されることが分かります。
乗客の名前と連絡先を入力します。
女性はMrs、男性はSir、FirstNameが下の名前、LastNameが苗字です。
電話番号は先頭の選択肢からJapanを選んで、そのまま普通に番号を入れて大丈夫です。
もしそれでだめなら最初の0の代わりに+81を入力してください。
クレジットカード使えない問題について
最後に支払い方法です。
実はここが意外と難所でして、SNCFのサイトは海外のクレジットカードをたびたび拒否することで知られています。
これは日本のみならずアメリカやオーストラリアでも確認されているようです。
複数のカードがあれば別のものも試してみましょう。
国内で問題なく使えても短期間に海外サイトを利用しすぎるとエラーになることもあるようで、しばらく期間をおくと成功することもあります。
しかし、こればかりはどうしようもないケースもあるかと思います。
多少の手数料(5~10£)を払ってRAIL EUROPEなどの代理店を使うのも手です。
新幹線のライバル、TGV
2011年にMetz駅で撮影
世界を代表する高速列車として何かと比較されるTGVと新幹線。
乗車記パートで述べた通り、外部環境に差がありすぎて簡単に優劣をつけることはできませんが、純粋に「工業製品」として見ると、その精巧さ・完成度の高さにおいて、新幹線の方が優れていると私は思います。
しかしブランド力や営業力に加え、時代に合ったサービスを提供するソフト面では、フランスのTGVには敵いません。
日本が新幹線の平均遅延時間を10秒縮める(これ自体は世界に誇るべきことである)ことに心血を注いでいる間に、フランス・ヨーロッパの鉄道は大きく変化していることを実感させられます。
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