豊かな自然とそれらが織りなす文化が我々の心を誘う信越地方。
長野・北陸と新潟との間に直通列車はありませんが、北陸新幹線と特急「しらゆき」を乗り継いで行くことができます。
途中には海あり山あり盆地あり、と様々な景色を楽しむことができる魅力的なルートです。
2023年3月上旬、昼の長野駅を発って新潟駅に向かいました。
長野・北陸と新潟を繋ぐ「はくたか」と「しらゆき」
上越妙高駅で乗り換え
長野駅から新潟に向かうには、北陸新幹線「はくたか」金沢行に乗って2駅の上越妙高駅まで行き、そこから接続する特急「しらゆき」に乗り換えます。
また、逆方向の金沢・富山方面から新幹線で「しらゆき」に乗り継ぐことも可能です。
つまり、「はくたか」「しらゆき」コンビは、長野または北陸と新潟を結ぶルートとして機能しています。
「しらゆき」は1日4往復運転されています。
上越妙高駅が始発(終着)の便と新井駅(2つ手前の駅で、この場合でも上越妙高駅は経由する)始発の便があります。
また、北陸新幹線「はくたか」は東京~金沢の列車のうち、長野まで準速達、長野~金沢が基本各駅停車になるタイプです。
それぞれの列車の所要時間は、「はくたか」(長野~上越妙高)が25分、「はくたか」(金沢~上越妙高)が1時間、「しらゆき」(上越妙高~新潟)は2時間です。
気になる接続時間は、北陸方面から乗り換えは10分以内のスムーズな乗り換えですが、長野からは30分程度と長めになりがちです。
「はくたか」の車両はE7系新幹線
「はくたか」に使われるのは、2014年に登場したE7系という比較的新しい車両です。
2023年3月より、北陸新幹線・上越新幹線全列車がこの車両で運転されるようになりました。
つまり、武田信玄や上杉謙信でさえ果たすことができなかった、信州・越後の完全制覇をE7系は成し遂げたのです。
E7系の車内は落ち着いた雰囲気です。
座席の赤と黒、そして床と荷物棚の茶色の配色から感じ取れる優美さは、北陸地方の雅な伝統工芸品に通じるものがあります。
もっと実用的な話をすると、E7系は全座席にスマホが充電できるコンセントが付いています。
日本列島の山岳地帯を横断する新幹線なので、最高速度は他の車両より劣りますが、その分車内設備では優れていると思います。
また「はくたか」には、限られた商品ながら車内販売があります。
「しらゆき」用E653系は普通車のみ
「しらゆき」に使用されるのはE653系という、先頭車両のボンネットが特徴的な車両です。
かつて常磐線特急「フレッシュひたち」に使用されていましたが、現在は新潟でセカンドライフを送っています。
「しらゆき」の車内は、その外観に相応しく明るい雰囲気ですが、座席の色はペアを組む「はくたか」に近いものになっています。
車両が製造されたのが2000年前後なので、スマホ充電用のコンセントは付いていません。
普通車のみの編成で、車内販売の営業はありません。
【乗車記】長野~新潟までの所要時間は3時間
長野から「はくたか」、景色は右側がおすすめ。
平日昼間の長野駅。
外国人観光客の姿もだいぶ見られるようになってきました。
日本経済にとってはもちろん、ノーマスクの彼らは私個人にとっても大変心強い存在です。
12時8分発の「はくたか559号」に乗車します。
自由席でも窓側に座れるくらい空いていました。
昼食の前に長野駅で買ったケルシュタイプの地ビールを飲みます。
軽くまろやかながら香り華やかです。
「コロナ対策対策」を兼ねた食前酒ですが、そんなわけでここ数年、車内でお酒を飲む機会が増えました。
さて、長野・上越妙高間はトンネルが多いうえに乗車時間も短いですが、トンネル以外の区間では新幹線ながら景色の見所が多いので、車窓を諦めないで欲しい25分です。
新幹線は高架を走るので、善光寺平と千曲川を眺めるには在来線よりも好都合です。
景色が良いのは進行方向右側です。
スピードをぐんぐん上げて盆地の北端に至り、すぐ傍の雪を被った山麓にはまだ住宅やリンゴ畑がへばりついています。
大急ぎで信濃の風景を堪能したところでトンネルに入ります。
トンネルを抜けて飯山駅に到着。
地面まで雪に覆われています。
「兎追いしかの山」で知られる唱歌「故郷」を作詞した高野辰之は、この近くの中野市で生まれ育ち、その風景を歌詞に詠みました。
そのため飯山駅の列車出発メロディーは「ふるさと」が使われています。
その後もずっとトンネル。
日本海を目指して日本列島を横断します。
ついに高田(頚城)平野が開けて上越妙高駅に到着します。
ここで降りる人が結構いました。
駅の後方には、先ほど貫通してきた山脈が聳えています。
乗り換えの上越妙高駅で駅弁「二大将軍弁当」を買える
長野方面からの接続はあまり良くなく、今回のケースでも乗り換え時間が30分以上あります。
そんな手持ち無沙汰な我々の心境を見越してか、上越妙高駅には充実したお土産屋や軽食コーナーがあります。
特におすすめしたいのが、ここで買える直江津駅の駅弁です。
ここの「鱈めし」と「さけめし」はいずれも駅弁大将軍で優勝した輝かしい経歴があります。
私が今回選んだのは両者がいっぺんに味わえる、その名も「二大将軍弁当」。
これが最後の一つで、「鱈めし」も売り切れていました。
なお2022年には新作の「にしんめし」が駅弁副将軍に選出されました。
平野→海→山→平野、「しらゆき」の景色は4段階構成
上越妙高駅13時7分発の「しらゆき5号」はこの駅は始発で、発車15分程前に車内に入ることができました。
出発の数分前には金沢方面から接続する「はくたか」の乗り換え客が乗って来て、自由席はおよそ半分くらいの席が埋まりました。
出発と同時に弁当も開幕、そして新潟の地ビールを開栓します。
「二大将軍弁当」は鱈と鮭の二組の親子が揃っています。
カニと牛肉ばかりが注目される昨今の駅弁界にあって、見た目や珍しさに頼らない実力派です。
鱈の甘露煮がしっかり味付けされており、イクラも濃厚なので、ペアリングとしてレッドエールのビールを選んだのは大正解でした。
「はくたか」と「しらゆき」の乗り継ぎは、長野と新潟の地ビール飲み比べの旅でもあるのです。
近くの席では、鉄道マニアがコンビニの菓子パンと水を頬張りながら、車内放送を録音しています。
さて、「しらゆき」の車窓は
- 上越妙高駅~直江津駅:高田平野
- 直江津駅~柏崎駅:日本海沿い
- 柏崎駅~長岡駅:山間部
- 長岡駅~新潟駅:越後平野
と、明確な4段階に分かれています。
当然ながら、海沿いの進行方向左側の座席を確保しましょう。
①高田平野パート
高田平野にはもう雪は残っていません。
針葉樹林と点在する屋敷林が北国の風情を伝えています。
鉄道交通の要衝、直江津駅からの乗車は多くありませんでした。
北陸・新潟・長野の結節点として立派な構内を持つ直江津駅ですが、北陸新幹線開業後はその機能も上越妙高駅に移った感があります。
2021年5月
②日本海パート
日本海沿いを走りますが、実際に目の前に海が広がるのは柿崎駅あたりからです。
この日は天気良好で、明るい日本海の風景でした。
もっとも、それでも何処かに寂しさが漂うのが日本海。
岩場で初老の男性が一人釣りをしています。
もし釣り竿が見えなかったら、ギョッとする光景です。
③山間部パート
ホテルや貨物列車のコンテナが賑やかな柏崎駅を過ぎ、海沿いの行路は越後線に任せて、「しらゆき」は内陸の山間部へと進んでいきます。
海から離れるにつれて季節が逆回転するように、見る見るうちに銀世界となります。
主に左側に流れる川沿いに、集落が断続的に現れます。
この山間部の区間では、特急「しらゆき」はノンストップです。
少しずつ開けて雪も減り、千曲川改め信濃川を渡ると市街地、そして長岡駅に到着です。
信濃川とは飯山駅以来の再会です。
信濃川沿いにはローカル線の飯山線が忠実に通っていますが、海側に回って大回りしてきたとはいえ、こちらは新幹線と特急利用です。
「飯山線がお世話になりました」と大河に向かって言いたくなります。
④越後平野パート
長岡駅でかなり降りましたが、乗ってくる人も多かったです。
この越後平野パート内では、有料の快速のように利用されているようでした。
なお、長岡駅で上越新幹線「とき321号」に乗り換えると25分早く新潟に着きます。
差額は1,500円程度なので、判断が分かれるところです。
以降はひたすら広々とした越後平野を走ります。
新幹線の高架は遥か遠く、巨大な二階建て車両の「MAX」でさえも小さく見えたものです。
春を待つ山村を無愛想に通過していった「しらゆき」も、このパートではこまめに停車していきます。
やがて前方に大きな工場が見えてきて、新潟市街地に至ります。
終点の新潟駅は大規模工事がここ数年行われています。
在来線ホームも新幹線ホームに隣接する高架式になっています。
あまり風情のある越後到着ではありませんが、そもそも地方に風情や感傷を求めるのは都会のエゴです。
ということで、自粛などせずに駅弁と地ビールで地方を活性化させましょう。
新幹線と在来線の協調
兄弟のような関係にある北陸新幹線と上越新幹線。
この2つの新幹線の駅を繋いでいるのが特急「しらゆき」です。
コロナでも結局変わることのなかった東京一極集中時代において、地方都市間、それも北国同士を新幹線と特急のペアが結んでいることは注目されます。
「はくたか」と「しらゆき」の旅は、様々に移り変わる車窓を眺めながら、鉄道の幅広い活用の可能性を思う旅です。
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