日本のふるさと、飯山線普通列車の乗車記【越後川口~長野の車窓など】

ローカル線

飯山線はしなの鉄道の豊野駅とよの(長野県)と上越線の越後川口駅えちごかわぐち(新潟県)とを結ぶ路線です。
日本屈指の豪雪地帯を走る路線としても知られています。
飯山線の沿線概況は

  • 魚沼丘陵を越える、越後川口~十日町
  • 信濃川沿いの豪雪地帯をいく、十日町~戸狩野沢温泉
  • なおも川沿いに盆地の長閑な風景を見る、戸狩野沢温泉~豊野~長野

といった具合です。
2021年4月上旬に越後川口駅から長野駅まで飯山線に乗車しました。

赤線が飯山線。
国土地理院の地図を加工して利用。
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飯山線の乗車記

車両はお馴染みのキハ110系

飯山線の始点は豊野駅ですが、列車は全て長野駅まで直通します。
途中の戸狩野沢温泉駅を境に運転系統が分かれており、本数が少ない越後川口~戸狩野沢温泉は2~3時間に1本です。
この他、十日町駅で乗り換えが発生することもあります。
乗り換え時間を含まない越後川口~長野間107㎞の所要時間は約3時間で、臨時の観光列車を除いて全てが普通列車です。

飯山線で使われている車両はJR東日本内ローカル線の標準型ともいえるキハ110系というディーゼルカーです。
通路を挟んで4人用と2人用のボックスシートが並んでおり、両端がロングシートという構造です。
また、車内にはトイレもあります。

飯山線の車窓。信濃川沿いに長野盆地へ

私が乗車したのは越後川口駅を7時54分に出発する列車でした。
ところで、朝一番に新幹線で東京を発ってもこれに間に合わせることはできず、前日に浦佐駅近くに泊まりました。
前日の夜到着した時は薄気味悪い廃墟のようだった浦佐駅の前には、レーニンや毛沢東を思わせる大きな像が建ち、「裏日本の開発に偉大な功績を残した」田中角栄元総理大臣を讃えています。

要するに「我田引鉄」?

魚沼丘陵を越える

さて、越後川口駅から乗った飯山線の列車は、1両編成の長岡駅始発だったので意外と混んでおり、運転席近くのロングシートに腰かけます。
出発してすぐに魚野川を渡り、魚沼丘陵にさしかかります。
山間部では地面はまだほとんど雪に覆われています。

通学時間帯だったので高校生が多くいましたが、正面では女子学生が大きく脚を開いた状態(もちろんスカート着用)で寝ています。
随分とおおらかな田舎に来たものだなと感心させられました。

下条駅で軽い山越えが終わり、右手に信濃川が寄り添ってきます。
やがて市街地に入り、北陸新幹線金沢開業までは東京対北陸のメインルートだった北越急行線の高架が現れると十日町駅です。
ここで大胆な学生たちが下車し、車内は幾分空きました。

車窓の見どころ、信濃川は左手に

十日町駅からもしばらくは比較的平坦な盆地を走ります。
いつも思うのですが、新潟県の民家は灰色っぽい頑強そうな木造家屋が多く、雪景色や針葉樹林によく似合います。
そして、浦佐駅前のコンビニで買った越後淡麗辛口の定番、八海山も、この堅牢な風景と絶好のマリアージュです。

越後田沢駅付近で信濃川を渡ると、以降ずっとこの川は進行方向の左手に付き添います。
飯山線の車窓が綺麗なのはここからですから、進行方向左側(長野方面行の場合)の座席を確保するようにしましょう。

悠久なる大河も早春では「雪解けを集めて早し」といったところです。
川がS字を描いて流れ、遠方にはまだ春の訪れを拒んでいるかのような雪山がそびえています。

途中の津南駅付近には少し大きめの集落がありますが、日本屈指の豪雪地帯としても知られる山間部が続きます。
この辺りにはトンネルも多く、険しい地形に建設されたことが窺えます。

森宮野原駅もりみやのはらの手前で新潟県から長野県に入ります。
ここも飯山線の中ではかなり大きな駅で、JR日本最高積雪地点でもあるようです。

昭和20年に7.85Mの積雪を記録した

長野県になって信濃川は千曲川と名前を変えますが、サミットを越えたわけではないので車窓の雰囲気はそれほど変わりません。
あいにく雪が多い地域なので、線路は雪崩覆いなどの防災設備に守られています。

とはいえ、積雪の量はだいぶ減ったように感じます。
また、長野県になって変わった点としては民家の屋根でしょうか?
新潟県では灰色で質実剛健だったのが、赤や青の屋根が目立つようになりました。

西大滝駅から先は積雪はほとんどなくなり、地形も穏やかになっていきます。
鴨が千曲川のゆったりとした流れに身を任せています。

やがて戸狩野沢温泉駅とがりのざわおんせんに到着し、長野行きの2両編成に乗り換えました。
今度は進行方向左側のボックス席を確保できました。

戸狩野沢温泉からは混雑してくる。千曲川は相変わらず左側。

戸狩野沢温泉駅の乗り換え時間は僅か5分でしたが、雪の代わりに花が咲いていて春の陽気が感じられます。
上着を脱いでキャリーバッグに詰め込みました。
穏やかな瀬戸内気候の兵庫県南東部に生まれ、その後も東京に在住する私でも、雪国の人々にとっての春の訪れの喜びを少しだけ理解できたような気がします。

戸狩野沢温泉駅。
「冬の旅」における「春の夢」は現実化した?

しばらく平坦な水田地帯を走ります。
いかにも平凡な表現ですが、川沿いが多い飯山線では意外と珍しい風景です。
沿線で農作業をしている人の姿は、春の生命の息吹といえましょう。

長閑な田園風景から突如として巨大な北陸新幹線の高架と駅が現れて飯山駅に到着します。

ところで、飯山は昔から千曲川沿いの物資の集積地として栄えていました。
明治時代に長野~直江津の路線を建設する時にも飯山は経由地の候補でしたが、地元の人が鉄道を忌避きひした(未知の機械文明に対する反感が当時は結構あった)ため信越本線(現・しなの鉄道)のルートから外れ、人と物の流れから取り残されました。
鉄道誘致運動の結果何とか飯山線というローカル線が建設されたわけですが、2015年に延伸した北陸新幹線が飯山に寄ることになり、120年以上にも及ぶ雪辱を果たしたわけです。

千曲川沿いの盆地には家が増えてきたようです。
川の向こう側の山の斜面にはリンゴ畑が広がっています。
この辺りに来てようやく長野県に来た実感が湧いてきました。

このまま長野に行くのかと思いきや、蓮駅はちす替佐駅かえさは飯山盆地と長野盆地の間の山道です。
川岸の限られた土地に段々畑が広がっています。

川沿いの桜並木はちょうど見ごろのようです。
駅に停車する度に乗客が増えて、車内はかなり混雑してきました。

次第に耕作地に代わって住宅や工場が増えていき、飯山線の終点である豊野駅に到着します。
しなの鉄道線になってからも、リンゴ畑などを見ながら長野駅を目指します。

今や新幹線で東京から1時間半以内で結ばれた長野駅は、信州というよりは関東の外縁部のような雰囲気もあります。
それを承知したうえでキノコそばをすすり、地酒や駅弁を買って旅行気分を味わいましょう。
食事時ならソースカツ丼もよいでしょう。
私が思うに、鉄道旅行とは国土の画一化と地方の特色との葛藤に向き合う営為でもあるのです。

駅前ののホテルから撮影した長野駅
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日本人の原風景

おそらく日本人なら誰もが知っているであろう「兎追いしかの山、小鮒釣しかの川」に始まる「故郷ふるさと」の作詞者である高野辰之たかのたつゆき氏は、ここの風景を詠んだのだといわれています。
なるほど、飯山線の沿線には絶景ポイントなる「点」はありませんが、それでもやはり我々の心の琴線に響く「田舎の風景」にあふれています。
そこには商業主義や猿真似的要素に毒されていない、純粋な美しさがあるのです。
飯山線の普通列車に乗って、スマホの電源を切って車窓をただ眺めているだけで楽しめた人なら、もう立派な鉄道旅行者といえるのではないでしょうか。


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