篠ノ井線は塩尻駅から篠ノ井駅を結ぶ長野県の路線で、松本盆地から山地を越えて善光寺平(長野盆地)に至ります。
この路線の見どころは、日本三大車窓の一つにも数えられる姨捨駅から見下ろす善光寺平の眺めです。
車窓の概要は
- 善光寺平を見渡しながら上り、山を越えていく篠ノ井~明科
- 平坦な松本盆地を賑やかに行く、明科~松本~塩尻
と、概ね前半と後半に分かれます。
2021年4月上旬に、篠ノ井線の列車の始発、長野駅から塩尻駅まで(松本駅で乗り換え)乗車しました。
日本三大車窓、スイッチバックの姨捨駅からの絶景
特急「しなの」「あずさ」の通う重要な交通路
篠ノ井駅~塩尻駅の距離は約67㎞、普通列車の乗車時間は長野駅から塩尻駅までおよそ1時間半強です。
本数は篠ノ井~松本が1時間に1本、松本~塩尻は1時間に数本あります。
また、私が乗った時のように松本で乗り換えになる場合もあります。
快速列車の本数は多くありませんが、数駅しか通過しないものから特急並みに速いものまで様々です。
普通列車(快速含む)の主力車両はE127系といって、進行方向右側(塩尻方面行きの場合)だけ4人用ボックスシートがあり片側はロングシートだけという珍しい車内レイアウトです。
また松本から塩尻では、中央西線(名古屋方面)や飯田線に直通する列車に、JR東海のクロスシートで快適な車両も使われます。
篠ノ井線を走る特急列車は「しなの」(名古屋~塩尻~長野)と「あずさ」(新宿~塩尻~松本)が、それぞれ1時間毎に運転されています。
長野県内にある南北の盆地間の地域輸送のみならず、東京圏や名古屋と松本・長野とを結ぶ重要な路線として機能していることが分かります。
乗車記:車窓は左側(塩尻行きの場合)がおすすめ
信越本線区間だけ快速
長野駅を11時12分(始発)に出発する快速松本行き2両編成は、発車5分前に乗車した頃にはもう座席はほとんど空いておらず立ち客も多いほど混んでいました。
ボックスを詰めてもらって何とか座席を確保します。
この列車の種別は快速ですが、通過駅は篠ノ井までの信越本線内の2駅だけで、篠ノ井線は各駅に停車します。
「○○駅は通過します」という車内放送を聞いて、数人の客が慌てて降りていきました。
長野駅から篠ノ井駅までは信越本線ですが、1997年の北陸新幹線(当時の呼称は長野新幹線)開業以降は前後区がはしなの鉄道に移管されており、この区間も篠ノ井線にまとめてしまった方が、簡潔かつ実態に合っている気がします。
列車は市街地やリンゴ畑を見ながら、新幹線の高架の下を走ります。
途中の犀川と千曲川の間は川中島と呼ばれ、古戦場としても有名です。
善光寺平からの山越え、その後新線トンネルで下る
篠ノ井駅を過ぎると山地が迫ってきます。
その次の稲荷山駅からは急勾配と急曲線で山裾に沿って登り、善光寺平がどんどん下に遠ざかっていきます。
JR東海の誇る特急「しなの」が走る篠ノ井線ですが、篠ノ井側の勾配区間は決して高速運転向けではありません。
それでも列車行き違いができるように、単線区間でも駅と駅の間に信号場を設けて輸送力を確保しています。
善光寺平の眺めが見えるのは進行方向左側(塩尻方面行の場合)です。
ボックスシートは右側にありますが、どうせロングシートに座っていても左側の景色は見えないので、席を選べるなら後で川が見えるボックスシートで良いと思います。
篠ノ井線のハイライト、姨捨駅もスイッチバックの駅です。
眼下に善光寺平とそれを育んでいる千曲川の景色が広がります。
この駅からの眺めとスイッチバックを楽しむためには、やはり普通列車でなければいけません。
一旦左奥の線路に入り、バックして右下に延びる線路を通って姨捨駅に到着。発車後中央に延びる本線に戻る。
幸いこの列車は姨捨駅で待ち合わせのためしばらく停車しました。
乗客たちは日本三大車窓に数えられる景色を思い思いに楽しんでいました。
なお、その他の日本三大車窓ですが、北海道の根室本線の狩勝峠は新線に切り替えられ、もう一つの熊本県と宮崎県の境にある矢岳峠も肥薩線が2020年7月の台風で被災して運休しているので、現状では姨捨駅が唯一「現役」です。
被災前年の2019年7月に乗車。
余談ですが、日本三大車窓はどれも高所から景色を見渡す「パノラマ型」ですが、当然ながら綺麗な車窓はそのパターンだけではありません。
ですから、あまりこの種のキャッチフレーズに拘り過ぎるのは、賢明な旅行者の為すべき所ではありません。
さて、姨捨駅からもなおも登り続け、ひっそりとした山間部の冠着駅に到着します。
ここからしばらくは山越えの途中にあるポッカリ開けた区間です。
木造の古いしっかりとした駅が多く、この辺りではローカル線らしさが若干ながら滲み出ています。
西条駅からはかつて急曲線の連続する区間でしたが、現在は線路改良が行われており、松本盆地めがけてずっとトンネルです。
まだ単線区間ですが、トンネルや路盤は複線化の準備が整っているようです。
右手に川とアルプスの山々を見て松本盆地を南下する
明科駅で山越えは終わり、松本盆地を進んでいきます。
ここで乗客がさらに増えました。
近くを流れる犀川の対岸には、大糸線がほぼ平行に走っており、さらにその向こうには北アルプスの山がそびえています。
田沢駅から川が近づき、梓川を分かれると奈良井川と名前を変えます。
市街地が形成されていて沿線人口が多い割には松本駅まで駅はありません。
松本駅は南信州の拠点となる大きな駅で、ここから大糸線や松本電鉄(アルピコ交通)が発着しています。
新宿行きの特急「あずさ」も主にここから出ているので、一気に都会に来たような気がします。
私はここで塩尻方面行の列車に乗り換えました。
今度の車両は3両編成でロングシートでした。
松本駅からも平坦な線路が続き、住宅や大型商業施設が過ぎると、内陸型製造業の工場が散見されます。
ここからは塩尻まで複線化されており、東京と名古屋に行く特急が両方走る、長野県の鉄道路線で最も活気がある区間です。
天候にも恵まれた土曜日の昼間は気温も上がり、体育会系らしき学生たちは半袖姿です。
小綺麗な身なりをした若い女性の横で彼らの一人がファンタグレープをこぼして、周りの友達がゲラゲラ笑っています。
沿線風景も車内も賑やかです。
終点の塩尻に近くなるとブドウ畑が広がります。
塩尻はワインの生産で知られ、駅のホームでもブドウの栽培が行われています。
塩尻駅近くのカフェで3種類ほど試したのですが、特に白のシャルドネが個性的で良かったです。
それにしても、日本酒・クラフトビール・ワインが楽しめる長野県は、酒好きにはとても嬉しい場所です。
塩尻駅は篠ノ井線の終点であるだけでなく、中央本線を事実上の東西に分かつ駅でもあります。
なお、「塩尻」という地名は、鉄道開通以前の塩の運搬路において、太平洋側からの「南塩」と日本海側からの「北塩」という、南北の河川と盆地を利用した物流が接触する場所を意味しています。
今も昔もここは交通の要衝なのです。
線路改良や複線化が示す篠ノ井線の重要性
篠ノ井線の位置づけは「亜幹線」にとどまっていますが、新幹線開業で今や分断・第三セクター化された信越本線を差し置いて、長野県屈指の重要路線として機能しています。
また、混雑した車内も沿線の活気のあらわれだといえるでしょう。
その一方で、地形と予算の制約のもと、部分的な線路規格の向上(勾配や曲線の緩和)や複線化(未遂含む)、効果的な信号場の設置が行われているあたりは、亜幹線ならではの工夫・面白さがあります。
車窓はもちろん、線路設備にも注目することで、篠ノ井線の旅はさらに楽しくなると思います。
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