東京から名古屋まで青春18きっぷで旅行する際、第一候補となるのは当然ながら東海道本線経由となります。
しかし、もう一つの選択肢として中央本線回りのルートを本記事で紹介したいと思います。
私自身、よく東京から中央本線経由の普通列車で名古屋・関西まで行きます。
青春18きっぷ旅行時の車窓の見所やおすすめの途中下車駅、注意点などについて書いていきます。
先にざっくりと中央本線経由のメリットを列挙すると
- 車窓が綺麗で変化にも富んでいる
- 青春18きっぷシーズンであっても、東海道本線ほど普通列車が混雑しない
- 目的地によっては時間のロスもあまりない
となります。
それでは、通勤電車が走り回る電車区間が終わる高尾駅から、中央本線の旅を始めましょう。
高尾~甲府
本数はあるがロングシート車が多い
10両編成の通勤電車がする発着する高尾駅で電車区間は終わり、中距離列車に乗り込んで、いよいよ中央本線の旅をしている実感が湧いてきます。
沿線風景も高尾で一変し、それまでの住宅地から山岳路線になります。
つまり中央本線にとって高尾駅は、運転系統と地理的な側面の二重の意味で臨界点であるといえましょう。
とはいえ実際には高尾以西からも首都圏へ通勤する人もおり、中央快速線の電車がここから先、大月やさらには富士急行の河口湖に直通することもあります。
また長らくセミクロスシートの115系が使われてきた(首都圏からの電車ではなく)中距離列車も方も、今ではロングシートの車両が多くなっています。
笹子トンネルを抜けて甲府盆地へ
高尾駅を出るとすぐに20‰を越える急勾配が現われ、それまでとは全くの別世界の山岳線になります。
大小幾つかのトンネルを過ぎて相模湖駅付近からは、トンネルの合間に相模湖(またはそれに注ぐ相模川)が望まれます。
その後も川が刻んだ谷間を、多数のトンネルと橋梁を駆使して走っていきます。
特に目を見張るのが、鳥沢駅を出てすぐ渡る新桂川橋梁で、ここからの眺めは何も遮るものがなく実に見事です。
どちらかというと、全体的に進行方向左側の方が車窓は良いと思います。
ちなみにこの辺りは複線化に際して、既存の線路の横にもう1組のレールを張り付ける方式(腹付線増)ではなく、防災も兼ねてより線形も良くした別のルート(別線線増)が建設された部分があります。
そのため、上り線と下り線が離れていたり、片方だけトンネルがあったりすることが多いのが特徴です。
そのあたりに興味がある人は進行方向右側に注目しましょう。
富士急行の乗換駅となる大月駅を出ると、そこからまた長い上り急勾配が始まります。
初狩駅と笹子駅は1960年代まではスイッチバック方式の駅で、今もその時代の設備が列車から確認できます。
現在は両駅とも鉄道としては急な25‰の勾配の途中にありますが、機関車索引の客車列車にとっては運転上問題があり、低速のジグザグ運転を余儀なくされたのです。
笹子駅を出るとすぐに5㎞以上ある笹子トンネルに入ります。
甲斐大和駅を挟んでまたトンネルを幾つか抜けると勝沼ぶどう郷駅です。
これまでの山間部の風景からは一転して、甲府盆地のブドウ畑を見渡しながら走っていくのは清々しい気分です。
塩山駅からは下り坂も緩み、沿線も市街地らしくなっていきます。
空いていた車内がだんだんと混んでくるのもこのあたりからです。
石和温泉駅を経て、列車は甲府駅に到着します。
甲府~塩尻
本数はまだ少なくはない
普通列車だと甲府駅で乗り換えることが多いですが、小淵沢駅まで直通する場合もあります。
特急列車は「かいじ」が甲府止まりなので、ここからは「あずさ」だけになりますが、普通列車もやや本数が減ります。
小淵沢までは1時間に1~2本で、小淵沢からはもう少し減るといった具合です。
もっとも青春18きっぷを使い慣れた人なら「少ない」という程ではないでしょう。
南アルプスから諏訪湖へ
甲府駅を出発してからもしばらくは市街地を走りますが、韮崎駅からまた上り勾配が現われます。
賑やかだった車内が静かになったこともあってかモーター音が一層響き、車窓からも寂しさが感じられてきます。
珍しく平坦な日野春駅には給水塔の跡があります。
昔は「あともうひと頑張りだ」と言いながら、この先の上り勾配に備えて休憩中の蒸気機関車が水を飲んだのでしょう。
今ではそんな苦労はいざ知らず、E353系「あずさ」が身を傾けながら高速で通過してきます。
さて、日野春から先も勾配を上りますが山間部の車窓というより、南アルプスや八ヶ岳の山麓を走ります。
駅間も徐々に長くなります。
小海線が分かれる高原の駅、小淵沢駅を過ぎてもなお上り勾配が続きますが、富士見駅でついに中央本線のサミットとなり、標高は956Mです。
富士見駅からは高原を下っていきます。
茅野駅からは勾配も緩やかになり、山麓からも離れ諏訪盆地の街中に来ます。
ここから沿線人口も増えたので列車本数も増加するのかと思いきや、なんと茅野駅から4㎞ほど先の普門寺信号場から単線になります。
単線は岡谷駅まで続き(というか岡谷駅からは複線の短絡線がある)、この短い輸送上のネックのために、どこかで遅れが生じると各列車に影響が伝播し、特急「あずさ」に至っては首都圏のダイヤまでかき乱すことになります。
私もしばしばそのおかげで、「ラッキー」と思いながら遅延証明書を会社に提出しています。
さて車窓はといえば、上諏訪駅から進行方向左手より、建物の合間から諏訪湖を見ることができます。
諏訪湖の北岸を半周するように走り、岡谷駅からは「塩嶺ルート」と呼ばれる複線の短絡線を通ります。
塩尻駅まで長いトンネルを使って抜けるこの路線は曲線が緩和され、距離も在来線より16㎞も短縮されています。
在来線と合流して間もなく塩尻駅に到着です。
途中下車は駅そばのある小淵沢がおすすめ
「ずっと列車に乗っているのは疲れるから、どこかで休憩したい」と思う人もいるはずです。
私なら小淵沢駅で途中下車します。
甲府駅も山梨県の県庁所在地なだけあって、飲食店や売店などが多数ありますが、小淵沢駅は高原の駅らしい雰囲気が味わえて、「中央本線に乗っている」という気分を味わうのに最適です。
駅の屋上には展望台があり、遠くの山々を望むことができます。
もう一つ重要なのがここの駅そばです。
太めのしっかりとしたそばでメニューの種類も結構ありますが、「山賊そば」が一番有名です。
個人的には、とろけるくらい柔らかく煮込んだ「豚バラ軟骨」のトッピングも好きです。
塩尻~中津川
塩尻駅にも駅そばがある
中央本線は塩尻駅を境にして、東西に二分されています。
かつては軍によって、外国に攻められても使える内陸部を走る東京~名古屋間を結ぶ大動脈として構想されていましたが、実際は東京・名古屋双方からの列車は塩尻駅から松本方面に向かう運行形態になりました。
松本・長野へは篠ノ井線が延びています。
塩尻はワインの産地ということで、駅のホームにブドウ園があります。
赤ワイン用の品種は世界各地でお馴染みのメルロー、白ブドウはあまりワインでは見かけないナイアガラです。
そよ風に運ばれてブドウの芳香な香りが漂ってくる、とても癒されるスペースです。
乗換で時間が余ったら是非訪れてみてください。
塩尻駅にも駅そばがあり、改札の外からも内からも利用できるようになっています。
こちらのそばも本格的で美味しいです。
メニューには信州らしい「山菜鹿肉そば」があります。
こちらは改札の外からのカウンター。
木曽路の森林地帯を行く
塩尻から先はJR東海の管轄になります。
車両も会社も変わったためか、風景もどこかそれまでとは違うように感じられます。
塩尻駅を出て日出塩駅を過ぎたころから、川に沿って走り木曽路の旅らしくなってきます。
標高は上がっていきますが、小淵沢付近のように秀麗な山を眺めるというよりは、川沿いに広がる緑豊かな山村の風景です。
中央西線というと、383系の特急「ワイドビューしなの」が高速運転しているイメージもありますが、実際はこのあたりは勾配もそこそこで急曲線も多数、さらには単線区間も結構残っており、決して線路規格としては優秀ではありません。
それでも塩尻~中津川間の最速列車で表定速度90㎞をたたき出しているのは、振り子式電車の面目躍如といえましょう。
その特急列車も停車する木曽福島駅は、駅前にD51形蒸気機関車が保存され、駅舎も立派なので途中下車してみたい駅です。
その次の上松駅はかつて森林鉄道が運転されており、使われた車両が保存されています。
とりわけ森林資源に恵まれた場所なのでしょう。
さて、上松駅を出てすぐのところからトンネルに入る前に、進行方向右下には名所である「寝覚の床」が見えます。
疲れでウトウトしてきた人も、ここで目を覚まして注目しましょう。
私の記憶では特急列車でも、近くを通るときに車内放送があったと思います。
その後だんだんと谷が広がっていきますが、相変わらず重なるようにして続く山々は綺麗です。
南木曽駅~田立駅間はトンネルと緩い曲線の複線という、別線線増らしい区間ですが、トンネルの合間に見える渓谷は印象的です。
こまめに川を渡りながら、列車は中津川駅に到着します。
中央本線随一の難所
塩尻~中津川間は中央本線で最も普通列車の本数が少ない区間です。
特に日中は数時間に1本の運転なので、ここをいかに処理するかで中央本線の旅の効率が決まるといっても過言ではありません。
車両は新型のクロスシート車両が使われており、快適に旅を楽しむことができます。
なお普通列車の所要時間はおよそ2時間ですが、383系による振り子式の特急「しなの」は1時間程度で走破し、1時間に1本の運転です。
やむを得ずこの区間をワープする場合でも、右に左に傾きながら大型の窓で(ゆっくりではありませんが)景色が楽しめます。
中津川~名古屋
一気に本数が増える
中津川からは一気に本数が増え、電車の編成も長くなります。
1時間に2本程度の運行ですが、名古屋に近づくにつれてさらに本数は増えていきます。
名古屋への列車の種別は快速になっていますが、実際に快速運転をするのは多治見からです。
また車両はロングシートのものです。
丘陵地帯と渓谷を見ながら名古屋へ
列車ダイヤとしてはもはや近郊路線らしくなるものの、車窓にはまだまだ長閑な風景が広がります。
また依然として上下線が離れたり、一方だけトンネルになる区間が多数あります。
土岐市駅から先は幅の狭まった川沿いを走ります。
住宅地の広がる大きな多治見駅まで来ればそろそろ、と思ったのも束の間。
すぐにトンネルに入り、次の古虎渓駅はトンネルに挟まれた谷間の駅です。
こんな大胆な設計はやはり複線化の際の線路改良の賜物ですが、川沿いを走っていた旧線も残されて別の用途に使われているようです。
旧線の線路も残っている。
高蔵寺駅からはついに、車窓は都会らしくなります。
市街地の中を高架線で進んでいき、金山駅では東海道本線と合流します。
やがて新幹線や名鉄線などとも並走し、賑やかな形で名古屋駅に到着して中央本線の旅を終えます。
東京(首都圏)~名古屋までの所要時間
行き当たりばったりでもさほど不便を感じずに何とかなる東海道本線と違って、中央本線経由の場合は事前に時間を調べておく必要があります。
例えば私がよく使うダイヤだと、朝早起きして高尾始発5:14の列車に乗ると、名古屋には11:35には着きます。
所要時間は6時間20分と意外に短いです。
乗継が良く、朝早いので特急待ちも「しなの」1本だけと少ないのでおすすめです。
この乗り継ぎが使える(つまり高尾始発列車に間に合う)のは中央線沿線では中野以西です。
もっともこれは恵まれたケースで、7時間以上かかることの方が多いです。
ちなみに東京5:20発の東海道本線経由でも、名古屋着は11:12とあまり変わりません。
国分寺以西の中央線沿線からは山手線で品川に出てもこの列車には乗れません。
いずれにせよ首都圏側が中央線沿線の場合は、それほど遠回りでもない合理的なルートだといってもよいでしょう。
日本の屋根を走る
中央本線の魅力は今まで見てきたように、とにかく車窓の見せ場が多く、なおかつ変化に富んでいることです。
山と川に抱かれた集落やアルプスを望む高原、そして渓谷など長時間の乗車でも飽きることがありません。
また、単線が一部に残っている一方で、スイッチバック跡やトンネルで一気に抜ける新線切り替え区間もあるなど、険しい山岳路線を線路改良した足跡があちこちで見られるのも特徴です。
東海道本線の代替ルートとしても充分に機能しますが、途中下車して観光しながら旅をしたくなる路線でもあります。