【鉄道で紀伊半島一周・後半】引退迫る?オーシャンアロー車両283系特急くろしおの旅

幹線

特急「くろしお」は大阪から和歌山県の新宮まで紀伊半島に沿って走る列車です。
本州最南端の黒潮が洗う海岸線がずっと続く、とても景色の良い区間です。
さて、「くろしお」のうち数往復は283系という、イルカの顔をした希少価値の高い車両で運転されています。

2023年12月上旬、283系「くろしお」に紀伊勝浦から新大阪まで乗車しました。
前半の記事と併せてご覧ください。

なお、乗車記の章では混雑具合についても触れていますが、オフシーズンの平日に新宮を朝出発する列車なので、「くろしお」の中ではかなり空いている便だと思ってください。

赤線が「くろしお」の経路、黒点付近が今回スタートした紀伊勝浦駅。
国土地理院の地図を加工して利用
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オーシャンアロー型283系「くろしお」

全席指定席で自由席はなくなった

「くろしお」の運行区間は新大阪~白浜~新宮です。
白浜止まりの列車が多く、新宮まで行くのは6往復だけです。
所要時間の目安は新大阪から白浜が2時間半、新宮までは4時間半弱です。

2023年3月に大阪駅のうめきたエリアが開業したことで、「くろしお」も大阪駅(地下ホーム)を経由するようになりました。
駅は「大阪」ですが、実際には他のホームからはだいぶ歩きます。
JRの大阪駅から私鉄や地下鉄の梅田駅まで乗り換えるくらいの感覚でいてください。

大阪駅うめきたホーム

現在「くろしお」は全席指定制の列車です。
自由席はないので注意しましょう。
近年はJR西日本でも特急の自由席が廃止される傾向にあります。

オーシャンアロー車両・283系

「くろしお」のうち4往復は、1996年に登場した283系という希少価値の高い車両で運転されます。
イルカの顔ような先頭部分が非常に印象的です。
以前は283系運用による列車は「オーシャンアロー」と名乗っていました。
今でもロゴマークにその名残を見ることができます。

283系はカーブでも高速で走れる振り子式車両です。
しかし、現在はメンテナンスコスト削減のために振り子機能を停止させています。
かつての「オーシャンアロー」は新大阪から新宮までを3時間半強で走ったものですが、当時と比べると随分スピードダウンしています。

283系で運転する列車はJR西日本のサイトで確認できます。
1号車がパノラマ型グリーン車で3号車に展望ラウンジがある列車が283系です。
その他の「くろしお」は287系または289系で運用されます。
これらは比較的新しいですが、283系のような個性はありません。

287系(左)と289系(右)
福知山駅にて

283系は近々引退か?

公式発表ではないものの、283系は2024年の引退説が囁かれています。
というのは2024年3月に北陸新幹線が延伸開業することで、「サンダーバード」用の車両(683系)に余剰が発生するため、その一部を改造して「くろしお」に転用して283系を置き換えるのではないかという憶測です。

実際に2015年に北陸新幹線が金沢まで延伸した時には、683系を改造した289系が「くろしお」に投入され、国鉄型車両を置き換えました。
283系が車齢30年近くであること、特殊な構造の振り子式車両(しかもその性能を持て余している)であることを考えると現実味が高いように思われます。

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283系くろしおの車内

普通車の車内と座席

283系「くろしお」の普通車の車内
普通車の車内

283系の車内を一言で表すと、明るく洗練されたインテリアです。
明るい雰囲気は車両外観を見れば容易に想像がつくと思いますが、それだけではなく気品も感じられる内装となっています。
いわば、平成初期のリゾートホテルのような感じです。
ただ、1990年代の車両なので座席にコンセントは付いていません。

283系「くろしお」の普通車の座席
普通車の座席

パノラマ型グリーン車の車内と座席

283系「くろしお」の普通車グリーン車の車内
グリーン車の車内
283系「くろしお」の普通車グリーン車の座席
グリーン車の座席

新宮寄り先頭1号車はグリーン車です。
283系が登場した当時に流行っていたパノラマ型のグリーン車で、前面展望(新宮行きの場合。大阪行きの場合は後ろ展望になる)を楽しむことができます。
座席配置は横3列、シートは大型で「毛触り」も良好でした。

283系「くろしお」の普通車グリーン車の車内

天井灯の配置が一直線でなかったり、荷物棚にもライトがあったりと照明も凝っています。
特に暗い所では少し暗いシックな雰囲気となります。
「くろしお」が走る紀勢本線にはトンネルが多いですが、グリーン車では照明の演出を楽しむことができます。

3号車に展望ラウンジあり

283系「くろしお」の展望ラウンジ

283系の3号車には誰でも利用できる展望ラウンジがあります。
窓側(もちろん海側)を向いたカウンター席と、通路を隔ててやはり同じ方向を向いたソファーのような席が設けられています。
新宮まで乗ると乗車時間が長いので、気分転換に使えるフリースペースがあるのは良いことです。
カウンター席は足元にもガラス窓があり、海岸線の車窓をまた違った視点から眺めることができます。

車内販売は無いが白浜駅の売店で買い物ができる列車もある

白浜駅
このすぐ右横に売店がある

特急「くろしお」には車内販売はありません。
ただし、大阪行きの列車は途中の白浜駅で5分以上停車するので、その間に買い物をすることができます。
改札を出てすぐの所に売店があるので時間は充分です。

次章で述べるように、e5489から買えるWEB早得を利用する方は注意が必要です。
規則ではWEB早得は途中下車不可となっており、ここで紹介した方法は一旦改札の外に出るので途中下車に当たります。

有人改札なので、「買い物だけしたい」と言って許可されるケースもあるかもしれませんが、基本的にはできないのだと認識しておきましょう。
ちなみに、特急券だけのWEB早得だと乗車券は普通の切符なので、途中下車しても問題ありません。

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予約はe5489で。割引切符のWEB早得あり。

特急「くろしお」の予約は、JR西日本のネット予約サービスe5489で行うことができます。
14日前までに予約できるWEB早得14だと通常価格より2割程度割引されます。
これは乗車券と特急券がセットになった商品ですが、特急券のみ(乗車券は別途購入)のWEB早得もあります。
前の章で述べた通り、WEB早得は変更・途中下車不可だということに注意しましょう。

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【乗車記】混雑度と車窓の良さは反比例する

リゾートホテルとビジネスホテルを足して2で割ったような温泉付きホテルをチェックアウトして、朝の那智勝浦町を少しだけ散策します。
昨晩見かけた団体や外国人の観光客の姿はなく、港では漁を終えた人とその家族が後片付け作業を行っていました。
対岸や島にあるホテルの灯りが輝いていた夜とは異なる表情を見せています。

白浜まで:空いていて景色も良い区間

さて、8時49分に紀伊勝浦駅発の「くろしお16号」に乗車します。
水族館からやって来たような283系の配色は、明るい海と砂浜を思わせます。
先頭車両の顔を見て、昨晩食べたイルカの刺身を思い出しました。
車内は空いていて乗車率は2割あるかないかといったところです。

発車すると早速左手には太平洋。
海の景色というより、真っ黒の岩礁が印象的です。
薄く張り出した千畳敷のようなものもあれば、不格好な山のような形で突き出したものもあります。

興が乗って来たところで朝食にしましょう。
紀伊勝浦駅周辺の売店で購入したのは、熊野名産の「めはりずし」に炙りくじら・ウツボの揚煮、そして地酒と地ビール。
「朝食というか晩酌のつまみやろ」という突っ込みは甘んじて受けますが、御飯・魚・肉・酒がそろったご当地完全セットです。
和歌山県の海鮮グルメには、マグロやクエ以外も面白いものが沢山あります。

古い車両でテーブルが小さく、撮影にはやや不向きだった…

アジア系外国人観光客の姿もちらほら見られますが、地元民も意外といました。
散歩がてら列車に乗ったかのような年配の客が、海と山に挟まれた小さな駅で降りていきます。
全体的に客層はローカル線の普通列車に近いです。

本州最南端の串本駅に到着する間際に、奇勝・橋杭岩はしぐいいわが見えます。
まるで思い思いの形をした岩たちが朝日を浴びて、向こうに見える紀伊大島に決然と臨んでいるようです。
自然がこんなに変わったものを造ると信じられなければ、現代アートのオブジェか何かだと思ってしまいます。

その後も小さな漁村をかすめながら海沿いを行きます。
小学6年生で初めて青春18きっぷを使って遠出した時に、紀勢本線からの太平洋の水平線を見て私は生まれて初めて地球は丸いことを実感したものです。
後ろの車両から6両編成の先頭車が見えるくらいの急カーブが連続します。
できる限り海岸線に忠実に、やむを得ない時にだけ諦めてトンネルで通過です。
右手には目の前に崖が迫り、線路建設の苦労が偲ばれます。

周参見駅すさみからしばらく内陸部。
概して畑や水田は狭く、あちこちで黄色やオレンジ色の柑橘類の実がなっています。
ミカン畑があるのではなく、その辺に自生しているようです。
たまにハイビスカスに似た鮮やかな赤い花も見られます。

白浜の近くに来ると初めて平地が開けました。
遠くには観覧車が見え、ホテルやモダンな住宅が増えてきます。
人工的な要素がとみに強くなります。

白浜~和歌山:まだ混雑具合はほどほど、海は時折見える。

「くろしお16号」は白浜駅で7分停車です。
多客期にはここで3両増結します。
ここで混雑度が一段階上がり、乗車率は5割程度でしょうか。

今までずっと単線だった紀勢本線は、白浜からはついに複線になります。
レールも重くなって乗り心地も良くなり、スピードも上がります。
沿線の家も入母屋造りが増え、ビニールハウスの広めの畑が現れ、作物の育ちも良くなりました。
白浜までが絶景ローカル線だとすると、今や景色の良い地方幹線の風格があります。
紀伊田辺駅を出てしばらくすると海が望まれますが、その後は内陸部が多いです。

御坊駅を過ぎてしばらく走ると、有田川右岸に出ます。
ミカン畑が広がり、ようやく県別生産量一位の産地に来た実感が湧くでしょう。

海南駅近くでも海が見えます。
この辺りまで来るとビルや工場が建ち並んでいます。
もはや「南紀」の旅情はなくなり、関西経済圏に組み込まれた都市部といった様相です。

和歌山~新大阪:混雑する区間。山を越えて大阪へ。

11時48分に和歌山駅に到着。
スーツを着たビジネスマンが一気に乗ってきました。
7,8割の席が埋まり、長閑な車内の雰囲気が一変します。
和歌山から大阪までは紀州路快速も運転されていますが、30分余計に時間がかかるため、所要時間が1時間で済む特急利用が多いのでしょう。

和歌山を出ると、まもなく紀ノ川を渡ります。
果てしない太平洋を見てきた後でも、この川の広さと水量には感心しました。
渡り終えると90度右に曲がり、勾配を登りながら川沿いの和歌山平野を見渡します。

和歌山県と大阪府の県境はちょっとした峠越えです。
大阪府に入るとミカン畑に代わってネギ畑が目につきます。
なお、関西でネギというと白ネギではなく青ネギを指すのが普通です。
タコ焼き・うどん・お好み焼き…
「鴨が葱を背負って来る」のが関東なら、「小麦が葱を背負って来る」のが関西です。

天王寺駅から大阪環状線の電車と一緒に走ります。
山手線に特急が走っていると考えると、東京の人は驚くかもしれません。
高層ビルを背景にごちゃごちゃした運河と街並みが展開する、いかにも大阪らしい風景です。

野田駅(通過)の手前でそっと大阪環状線と距離を置いて、そのまま地下に潜り大阪駅うめきたホームに到着。
昼間の新大阪方面行のホームはひっそりしていました。

大阪を発車してもしばらく地下ですが、うめきたエリアが開業して初めて乗る区間なので私は緊張していました。
地上に出ると何事も無かったようにしれっと他の線路と合流し、皆で一緒に淀川を渡ります。

12時51分、僅かに残った客を乗せた「くろしお」が、終着の新大阪駅に着きました。
紀伊勝浦駅から4時間、昨日の名古屋駅からの「南紀」も合わせると、計8時間で紀伊半島を鉄道で一周(大阪~名古屋は除く)したことになります。

6号車は貫通型の先頭車
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優秀なリゾート車両だけに引退が惜しまれる283系

紀勢本線の西側は、南の海に張り出した印象的な黒い岩礁が日差しを浴びて輝く、冬を感じさせないほど明るく穏やかです。
283系はそんな路線にぴったりの車両でした。

やがて引退するのは仕方がないにせよ、その代わりにやってくるのが遊び心の無い北国のお古というのは、文化の断絶という観点からは惜しまれます。
一方振り子式の技術面では、伯備線「やくも」に新型の273系が投入されるので、一応の継承は果たされたことは喜ぶべきでしょう。

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