山形新幹線の新型車両E8系、最速「つばさ131号」乗車記【車内・混雑具合】

幹線

2024年3月、山形新幹線に新型車両E8系がデビューしました。
最高速度が300㎞/hに引き上げられたことでスピードアップが実現し、乗り心地も大きく向上しました。

2024年3月末、東京駅を9時24分に出発する最速のE8系「つばさ131号」に、終点の新庄駅まで乗りました。
本記事ではE8系の概要・車内について、それから実際の乗車記と共に車窓や混雑具合について記していきます。

紫線が「つばさ」の運行経路
国土地理院の地図を加工して利用
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最高速度300㎞、新幹線の「車両関係」を激変させたE8系

福島駅から分岐して山形駅経由で新庄駅まで延びる山形新幹線「つばさ」に、秋田新幹線「こまち」と同じE3系が投入されたのは1999年のこと。
その後は同世代の幼馴染E2系との併結も実現し、「つばさ」の最高速度は時速275㎞となりました。

一方、東京からの所要時間が長い秋田新幹線では、新型のE6系が併結相手のE5系と共に「最強カップル」として最高速度320㎞/hで運転を開始します。
多少の不安定な時期を経て、東北新幹線(山形・秋田含む)では320㎞/hのE5系&E6系による「はやぶさ&こまち」と、275km/hのE2系&E3系による「やまびこ&つばさ」という、いわばカースト制に則った車両関係に落ち着いたのでした。

そして2024年3月、山形新幹線の新型車両E8系の登場は、そんな安寧を破る出来事でした。
東北新幹線の全体的なスピード底上げのため、E8系の最高速度は300km/hに引き上げられました。
275㎞/hを越えて走る区間が宇都宮~福島と短いので、E6系ほどの最高速度は求められず、また先頭車両の鼻が長くなって定員が減りすぎるのも避けるため、山形新幹線にとっての最適解としてこの速度になったのです。

ところで、「つばさ」が300km/hをするとなると、最高速度275㎞/hのE2系では相手が務まりません。
運行開始時のE8系による運用は「つばさ」の3往復だけですが、今後の置き換えも見据えてか、結局E3系・E8系に関係なく「つばさ」と併結する「やまびこ」は全列車がE5系となりました。
ここに、東北新幹線は「勝者総取り型」の車両関係へと変貌したのです。

なお、E8系の運用・詳細についてはJR東日本のサイトから確認できます。

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E8系の車内と座席

普通車の車内

E8系の普通車の車内
普通車の車内

歴代のミニ新幹線車両と同じで、普通車でも2&2列の座席配置です。
私がE8系に乗車して印象に残ったは、紅色に染まった座席下半分と床の情熱的な配色と、天井部と窓の上の木目調が醸し出すクールさのコントラストです。
なので、E8系のキャラクターをどう解釈すればよいのか迷ってしまいます。
席に座っている時はクールな「上半身」しか見えないので、清楚系のイメージが強くなりがちです。

E8系の普通車の座席
普通車の座席

E8系の座席には令和時代のスタンダードとして全席にコンセントが備わっています。
場所は肘掛けの下です。

グリーン車の車内

E8系のグリーン車の車内
グリーン車の車内

暖色系の普通車とは対照的に、グリーン車の内装は緑と黒を基調としています。
特徴的なのは通路で、川のように波状のラインが描かれています。
同じ横4列座席でも、普通車と差別化された良い客室です。
というか、横一列の座席の数でしか物の良し悪しを評価できないような人間がそもそもグリーン車を利用するべきではありません。

E8系のグリーン車の座席
グリーン車の座席

グリーン車の座席にはレッグレストが付いています。
旅行の帰りなど、疲れた時にはこの設備の有難みが分かります。
ちなみに座席のリクライニングの仕方が分からず迷っていると、隣の席の紳士が教えてくれました。

車内販売は山形まであり

「つばさ」には車内販売の営業があります。
このご時世、新幹線でも珍しいことです。
併結相手の「やまびこ」には車内販売はありません。

ただし、営業している区間は山形駅までで、取扱商品も限られています。
「つばさ」にはホットコーヒーはありません。
よって、弁当やお酒は基本的に乗車前に買うものだと思った方が良いでしょう。

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乗車記:山形駅までは混雑していた

E8系がデビューした翌々週の平日の朝。
この時間帯は列車本数が多く、東京駅のホームは大忙しである。
今回乗車するのは9時24分発の「つばさ131号」。
春休み期間のためか、家族連れがたくさん新型車両の入線を待っていた。

10分以上前に、E8系「つばさ」が彼氏のE5系にエスコートされながら入線してきた。
車内清掃のためしばらくは乗車できない。
子供たちの撮影会が始まったので、こちらはしばらく待機する。
始めて対面したE8系の顔立ちは秋田新幹線のE6系に似ていて、しっとりと艶のある白い肌に切れ長の目をした東北美人であった。

ドアが開いたのは出発3分前だった。
席についてゆっくりする間もなく東京駅を定刻に発車。
この時点での乗車率は6割程度か。
隣の席に乗ったのは、(失礼ながら)鉄道ファンと思しき真面目そうな青年だった。
上野駅を通過し、再び地上へ。
もう3月下旬なのに今年は桜の開花が遅くまだ咲いていない。
今年度は異常気象と言われ続けたが、人よりも桜の方が気候変動対策を進めているのかもしれない。

後ろの席で子供が騒いでいる。
おかげで、保育園の引率のように過保護な内容を2か国語の自動音声+車掌肉声で行う、不快な車内放送が聞こえずに済んで良かった。
大宮駅に入線する際に、隣のホームからは北陸新幹線の敦賀行き「かがやき」が出発していた。
新幹線にもかかわらず、朝ラッシュの通勤電車並みのダイヤである。

大宮駅を出るとぐんぐんと加速していき、上越新幹線が名残惜し気に分岐していく頃には、宇都宮駅までの最高速度である275㎞/hに達する。
新幹線の旅の本格的な始まりを告げるダイナミックな光景である。
車内は満席だ。

宇都宮駅を通過した。
いよいよ本領発揮する300㎞/h運転区間である。
スピードメーターアプリを睨んでいたが、数字は275のまま動かない。
昨年上越新幹線の最高速度が240から275に引き上げられた時は、平野部で明らかに速くなったことが実感できたが、東北新幹線の宇都宮以北はアップダウンとトンネルが多いので、275から300になっても分かりづらい。

福島駅には定刻に着いた。
なお、帰りに乗った最速ではないE8系「つばさ」では300㎞/h到達を確認できたので、最速便の131号が最高速度を出し渋ることは考えづらい。
通信状態かアプリが悪かったのだろう。

「つばさ」では福島駅で降りる人はおらず、乗って来る人も僅かだった。
福島駅の「つばさ」も盛岡駅の「こまち」も、併結相手のE5系より先に出発する。
やはりモテる車両はレディーファーストである。

福島駅からの山形新幹線は、実際には新幹線車両が通れるように線路幅を広げた在来線で、それまでの東北新幹線と比べて格段に線路が悪くなる。
ここでいかに揺れを抑えるかが新型車両の進歩の見せ所である。
果たして、E8系は従来のE3系よりも快適だった。
E3系では直線部分でもカタカタ揺れるが、E8系の乗り心地の向上は明確に感じられた。

さて、山形新幹線に入ると沿線には果樹園が目立つ。
小雨の天気のため蔵王山は見えなかった。

間もなく板谷峠越えが始まる。
ここは日本でも屈指の険しさで、「山形新幹線化」されるまではスイッチバックが幾つもあった急勾配区間である。
スノーシェルターに覆われていた駅を通過する。
山越えのサミットとなる、その名も峠駅である。

その後は重力変化で前のめりになるのが感じられる。
上り勾配から下り勾配に転じ、太平洋側から日本海側に出て、雨は雪に変わった。

急勾配が落ち着くと米沢駅に停車。
駅弁「牛肉どまんなか」で有名な駅だ。
ホームを歩いている人の数からすると、一車両あたり5,6人くらいが降りたと思われる。

この先の山形新幹線は盆地と軽い山越えが交互に現れる。
特に赤湯駅(米沢駅から10分くらいの駅で当列車は通過)の先、右手眼下に米沢盆地を見下ろしながら飛行機が離陸するように勾配を登って行く区間は、山形新幹線で最も車窓が良いと思う。

2020年12月

山形に近づくと辺りは住宅が増えて活気づく。
駅到着前の車内チャイムが鳴ると同時に、まるで号令に反応するように乗客たちが一斉に起立して降りる支度を始めた。
11時46分に山形駅に到着。
ここで7割近くの客が降り、乗る人は数人だった。

山形駅を出るとすぐに、左手に山形城を間近に見る。
桜の季節はここも見所の一つである。

山形駅からは停車駅が多くなり、近距離利用の地元客も時々乗ってきた。
将棋駒の生産が日本一の天童でもまとまった数の乗客が降りた。
隣の真面目そうな青年もここで下車。
そういえば、最初抱いた鉄道ファンのイメージよりは、将棋指しのように見えなくもない。

住宅地は途切れ、最上川の気配を感じながら盆地を北上する。
一度はやんだ雪がまた降りはじめ、やがて薄く積もってきた。
その頃には私のいる号車の乗客は5,6人になっていた。
最速の「つばさ」とはいえ、山形以北はおまけ区間のような気がしてならない。

3分遅れ、つまり12時34分に終点の新庄駅に到着。
山形県北部の最上地方の中心地だ。
ここは東北地方の十字路の中心点とも呼べる鉄道交通の要衝で、東西南北方向にそれぞれ列車が発着している。
私の好きな駅である。

だが、街は小さく寂れている。
最上地方に田中角栄クラスの政治家がいて、山形新幹線延伸を働きかけたのだろうか?
駅舎も一応洒落たものになっているが、周辺で立派なのはそれくらいで、外を歩くと新幹線の終点にしては悲しい気持ちになる。

E8系乗車の翌日は大雪だった
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(3+6)/2=8

近い将来にE2系とE3系は引退し、東北新幹線ではE5系・E6系・E8系による三角関係、否、トロイカ体制がしばらく続くことでしょう。
置賜・村山・最上・庄内と、地方ごとに特色ある山形県の将来を担うべく、E3系とE6系の間を取った設計のE8系の活躍を期待したいものです。

一方で、山形新幹線に乗っていると沿線に廃屋が目立つことに気付きます。
E8系が対峙しなければならない最大の障壁とは、板谷峠の急勾配でもなく、恋敵のE6系でもなく、我が国で最も急速に進む東北地方の日本海側における人口減少という現実なのです。

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