山陽本線は神戸駅から九州の門司駅までを結ぶ路線です。
東海道本線に次ぐ、日本第二の大動脈といってよいでしょう。
山陽本線は青春18きっぷを利用した普通列車の旅に非常に適した路線です。
その理由は
- 瀬戸内海の車窓が綺麗
- 普通列車の本数がそれなりに多い
- 新しい車両も古い車両も快適なクロスシート
- 瀬戸内海の海の幸の駅弁が美味しい
といった点が挙げられます。
それでは東海道本線の大阪駅から本州最後となる下関駅まで、山陽本線の旅を始めましょう。
なお本記事では山陽本線を運転系統に従って、①JR神戸線(姫路まで)②岡山エリア(糸崎または三原まで)③広島エリア(岩国まで)④山口エリア(下関まで)の4つに区分分けしました。
JR神戸線以外は私が便宜的に使用しているにすぎず、正式な呼称でも都道府県に対応するものでもありません。
大阪~姫路のJR神戸線
新快速が130㎞で走る
大阪から姫路までは「JR神戸線」路線の愛称もあり、新快速が130㎞で特急並みのスピードで頻繁に運転されています。
西明石までは複々線化されていて、並走する各駅停車や快速列車を追い抜きながら走ります。
大阪から姫路までの90㎞弱の所要時間は新快速で約1時間。
なお1970年代の特急列車の所要時間は、停車駅が5つ多い今の新快速よりもやや遅いくらいです。
私鉄と競争してきた区間
大阪から三宮までは阪急電鉄と阪神電鉄、姫路までも山陽電鉄と競合関係にあります。
混雑緩和を至上命題にして各社で棲み分けしている関東に対し、関西では会社間の乗客獲得競争が古くから行われてきました。
国鉄時代にしては珍しく、京阪神地区の新快速用に開発された117系が、当時の普通車両としては破格の設備で運転されていました。
現在でも関西の車両は関東とは比較にならない程、車両やダイヤの水準が高く、関東の人が新快速に乗ったらその速さと快適さに驚くことでしょう。
須磨の海と六甲山
大阪駅を出ると淀川を渡り、しばらく直線主体の線路が続きます。
芦屋駅くらいまでは新快速が130㎞を出し続ける区間です。
どうでもいい話ですが、JR神戸線の線路のすぐ近くに私の実家があり、幼少時代の私は走行音だけで列車の種別を当てていたらしいです。
さて、私の実家を見て、やがて西ノ宮駅も過ぎた辺りから、右手に六甲山が迫ってきます。
まだ海は見えませんが海岸線も左から近づいてくるので、JRと山側を走る阪急電鉄、それから海岸寄りを走る阪神電鉄は両側から山と海に挟み撃ちにされながら収束し、神戸の中心である三ノ宮駅に到着します。
三ノ宮駅からしばらく市街地を通り、神戸駅が東海道本線と山陽本線の境目です。
海側のホームの大阪寄りには両線の起終点を示すキロポストがあります。
新快速などが走る列車線と各駅停車や快速が通る電車線が分かれ(中央線や東海道線・京浜東北線と同じ方式)、列車線は山側で電車線が海側の配置となります。
そして須磨駅あたりからは通勤路線とは思えないような美しい海岸が左手に広がります。
「新快速より各駅停車の方が海が近くてよく見えるのでは?」と思った方もいるかもしれません。
良い質問ですが、それでも私は列車線を勧めます。
なぜなら、列車線は確かに山側ですが一段高い位置を走るので、むしろ電車線より遮るものが無く見渡せるからです。
明石駅の前で海の景色は終わり。
山陽本線で次に海が見えるのは広島県まで待たなければなりません。
明石駅のすぐ進行方向右側に明石城を見て、直線の多い平野を進んでいきます。
姫路駅に向けて減速する頃に姫路城が前方右手にありますが、ビルに隠れてなかなか見えません。
姫新線のホームからだと正面から対面できるのですが…
姫路~糸崎・三原の岡山エリア
岡山乗り換えが多い
新快速は一部が相生を経て赤穂線の播州赤穂まで直通するものもありますが、基本的に相生と岡山乗り換えになることが多いです。
時々岡山から引き続き三原方面まで運転される列車もあり、岡山駅での乗り換えに伴う席取りバトルを回避することができます。
岡山エリアの列車は三原かその一つ前の糸崎で、広島エリアの列車に接続しています。
乗換時間が1,2分というケースもあるので、特に長距離を乗り通す人は食料調達には要注意です。
所要時間は姫路~岡山が1時間半、岡山~三原も1時間半です。
相生から岡山は新幹線利用の第一候補
相生から岡山までは本数が1時間に1本と前後と比べると少なく、しかも混むことが多いので厄介な区間です。
また兵庫県から岡山県への県境ですが特筆すべき見所も無いので、新幹線を使うのもよいでしょう。
新幹線は自由席なら1駅だけだと安くなるので乗車券込みでも2160円で済みます。
ただし相生駅に停まる新幹線も決して多くないので、あまり効果が出ないケースも考えられます。
また追加料金は嫌だけど混雑もできるだけ避けたい人は、赤穂線経由で岡山を目指すのもアリです。
乗車時間なら本線とそれほど変わりません。
尾道水道の車窓
姫路駅で乗り換え時間があったら、ホームの駅そばに行ってみましょう。
姫路駅の駅そばは麺に中華麺を使用している非常にユニークなものです。
「本格的な美味しい蕎麦」とはいえませんが、旅の思い出になるでしょう。
また新幹線の改札口手前では駅弁も販売されています。
高架式の姫路駅を出ると網干駅あたりから田舎の風景になり、JR神戸線から山陽本線といった感じです。
新幹線と赤穂線に乗り換えできる相生駅からはだんだんと山間部になっていきます。
上郡駅からは上り勾配と曲線が続き、上り詰めた先の船坂トンネルで船坂峠を越えます。
兵庫県と岡山県の境となるこの周辺は集落も少ないです。
その先は中国地方。
船坂トンネルを出ると今度は下り勾配となります。
和気駅あたりからは川沿いを走りますが、万富駅まで来ると山越えはもう終わり水田の風景になります。
赤穂線と再会する東岡山駅を過ぎるとどんどん都会になって岡山駅に到着します。
この駅は鉄道交通の要衝で、中国・四国へ向かう列車が多数発着しています。
私のように時刻表で地理を独学した鉄道ファンなら、中国地方最大の都市は広島ではなく岡山だと勘違いされたことでしょう。
今なお国鉄型車両が集結しており、特急「やくも」に使用される振り子式電車の381系も見られます。
185系が「踊り子」から引退した今となっては、唯一の国鉄型車両による特急列車となりました。
岡山駅は駅弁の種類が本当に多くて選ぶのに困るのですが、「鰆寿司」は品のある美味しさでした。
岡山駅を出るとしばらく車両基地が広がりますが、その後は平坦な車窓です。
伯備線が分岐していく倉敷駅まではたいてい混雑するので、正直あまり面白くない区間です。
西阿知駅を過ぎてすぐに長い橋梁で高梁川を渡ります。
ここはなかなか立派な眺めです。
岡山県と広島県の境となる笠岡駅~大門駅では、川というか海の名残のようなものが見られます。
福山駅は高架式ですがその上に新幹線の線路があるので、ここは3層の構造になっています。
福山駅と三原駅では駅弁業者「浜吉」の弁当が買えます。
一番有名なのは「元祖珍辯たこめし」です。
福山駅を出発してひと山越えた後、東尾道駅~尾道駅~糸崎駅の間は瀬戸内海沿いを走る非常に綺麗な区間です。
川のように狭い尾道水道と帯状に密集した市街地に挟まれて、線路は急カーブで進んでいきます。
東尾道駅~尾道駅の途中に尾道大橋をくぐり、尾道駅~糸崎駅でも穏やかな多島海を見ながら走ります。
三原~岩国の広島エリア
広島都市圏のダイヤ
糸崎または三原からは広島エリアとなります。
それまでの黄色い国鉄型車両に代わって、ここでは新型車両227系が投入されています。
広島を挟んで瀬野から宮島口くらいまでは混雑しますが、糸崎・三原からであれば普通は座れます。
岡山エリアからの列車は糸崎行きの場合と三原行きの場合があります。
糸崎行きなら糸崎で乗り換えるしかありませんが、三原行きで広島エリアの列車が糸崎始発の場合でも、飲み物や駅弁の調達ができる三原乗り換えがおすすめです。
所要時間は三原~広島が1時間15分、広島~岩国が50分です。
山陽本線の難所、セノハチ
広島エリアの八本松から瀬野までは、山陽本線で一番の難所である「セノハチ」があります。
山陽本線は基本的に勾配は緩く建設されていますがここだけは例外で、下関方面に行く場合だと急勾配を下っていくことになります。
現在も上り線(つまり神戸方面行き)の貨物列車は後ろに補助機関車を付けていますが、この区間が電化された昭和30年代末は電車特急でさえも機関車の後押しを必要としていました。
宮島口の駅弁、「うえの」のあなごめし
瀬戸内海のグルメ駅弁が豊富な山陽本線において、一つだけおすすめの駅弁を挙げるとすれば宮島口駅の「あなごめし」の他にはありません。
沿線に「あなごめし」を名乗る駅弁は沢山ありますが、この「うえの」の弁当は他とは一線を画しています。
アナゴは煮たものではなく焼いたもので、ご飯もアナゴの出汁で炊いているそうです。
駅弁というよりは、老舗食堂のテイクアウトと表現した方が良いくらいの逸品です。
パッケージも復刻版のものになっている。
値段は2160円と高く宮島口駅で改札を出る必要がありますが、それでも試すべき駅弁です。
「うえの」の場所は駅を出て正面の通りへ向かって右側すぐ(地下道で交差点を渡る)の所です。
店内だといつも待ちの行列がありますが、弁当はすぐに買えることが多いです。
山を越え広島、そして宮島へ
三原駅を出ると呉線を左に分け、山陽本線は新幹線と並走してトンネルに入ります。
なお呉線は広島まで遠回りになり時間もかかりますが、瀬戸内海の車窓が素晴らしいので旅程に余裕がある人はこちらを経由するのもおすすめです。
本郷駅からは山間部に入ります。
緩い勾配で川沿いに屈曲する線路の周りには、赤茶色の立派な瓦屋根を持った家屋が見られます。
西高屋駅まで来ると上り勾配はほぼ終わり、周辺も開けてきます。
酒蔵のある西条駅付近には煉瓦造りの煙突が散見されます。
八本松駅からはいよいよ山陽本線最大の難所、「セノハチ」です。
下り(下関方面行)だと急勾配を下っていくことになります。
山越えにありがちなトンネル区間は少なく、地形に逆らわずに遠回りしながら何とか建設したことがうかがわれる路線です。
「セノハチ」を越えて瀬野駅を過ぎても線路は川沿いですが、勾配は緩く、徐々に住宅が増えていきます。
呉線と再会する海田市駅から山陽本線は広島まで複々線となります。
外側の線路を旅客列車が、内側を貨物列車が走ります。
旅客線が抱き込むようにして広島貨物ターミナル駅があるので、この配線が貨物列車にとって都合が良いのです。
山陽本線だと広島駅行きの列車はありませんが、大阪を朝出るとこの辺んで昼時になることもあり、一旦休憩することもあるでしょう。
広島といえば牡蠣、ということで駅弁の「しゃもじかきめし」(9月~3月のみ)を探し回りました。
記憶がやや曖昧ですが、改札を出て駅の出口近くの駅ビルに入った所で売っていたと思います。
容器も縁起が良い。
広島駅を出るとデルタ地帯を何本かの橋で通り抜け、市街地を走ります。
宮内串戸駅から住宅地が少なくなり遠くに海が見え始めます。
宮島口駅で多くの外国人旅行客が降り、宮島を見ながら進んでいきます。
その後前方には臨海コンビナートが見えてきます。
大竹駅の先にある橋梁を渡ると、そこは山口県です。
広島で宿泊しようと思ってもホテル代が高い場合は、広島駅から50分の岩国のホテルに泊まるという選択肢もあります。
岩国~下関の山口エリア
ローカル色が強くなる
岩国でまた運転系統が分かれます。
ここからの本数は1時間に1~2本とそれほど減るわけではありませんが、車両はまた国鉄型に戻り、編成両数も減るので途端にローカル線らしさが感じられます。
岡山エリアと同じ黄色の115系ですが、ドアは片側3カ所だったのが今度は2か所だけになります。
岩国から下関から乗り換えなしで行けることが多いです。
所要時間は岩国~新山口が2時間、新山口~下関は1時間です。
昔は岩徳線が山陽本線だった
山陽本線は岩国から海岸沿いに進みますが、徳山の一つ前の櫛ヶ浜までは岩徳線もあります。
岩徳線は単線非電化のローカル線ですが、新幹線と同じ内陸部を通り、距離にして20㎞も山陽本線よりも短いのです。
なぜこんなことになっているのでしょうか?
時は戦時中に遡りますが、その頃は現在の岩徳線が「山陽本線」を名乗っており、現在の山陽本線は「柳井線」と呼ばれていました。
ところが海岸沿いの柳井線沿線には海軍の施設が多かったため、1944年に柳井線を複線化のうえ山陽本線に編入、それまでの山陽本線は岩徳線としてローカル線に成り下がったのです。
ちなみに、その2年前の1942年には本州と九州を繋ぐ関門トンネルが開通していますが、これも工業地帯や石炭のある北九州に貨物列車を走らせるのが最大の目的でした。
なお柳井線の複線化のために使われたレールは、やはりローカル線に転落していた御殿場線の片方の線路を、1943年に撤去したものを転用していました。
東西で不思議な縁を感じますが、戦争中に主要幹線の近代化が進むという皮肉な例は山陽本線以外にも結構あります。
なおも続く瀬戸内海の絶景
岩国駅からも左側はしばらく工場地帯ですが、藤生駅を過ぎるとすぐ横に綺麗な海が見えます。
通津駅~由宇駅では海岸は見えませんが、神代駅~大畠駅は壮観な大島大橋を眺める、山陽本線でも有数の景勝区間といえるでしょう。
柳井駅からは山間部となります。
小さな山越えのあと、光駅、下松駅と街らしくなっていきます。
徳山駅周辺は広大な工業地帯です。
しばらく工場や貨物ターミナルを見ながら進んでいきますが、戸田駅~富海駅は埋め立て地のない美しい海岸沿いの景色です。
それまでの視界いっぱいに広がる多島海というよりは、ローカル線のような奥まった入り江です。
漁港が佇むローカルな雰囲気。
海岸線は途中から防波堤で見えにくくなってしまいます。
防府駅まで来ると線路は高架になり、その後も水田地帯を走って新山口駅に到着です。
ここでは山口線や宇部線と接続しています。
フライと天ぷらが味わえる「ふく福飯」
新山口駅からは海岸沿いは走らず、むしろ山間部の集落が印象的な車窓になります。
しばらく平地ですが、本由良駅から山越えが始まり途中川沿いも走ります。
宇部駅・小野田駅はレトロな雰囲気ですが、これら工業都市を結ぶために新幹線とは異なり山陽本線はジグザグのルートを通ります。
宇部駅~厚狭駅では最初は左側に、やがて右側に線路跡が残っています。
これは美祢線や宇部線へ直通する貨物列車が使用していたもので、今のローカル線の賑やかだった時代を偲ばせています。
厚狭駅からも山越えで、埴生駅からはやや遠くに海が見えます。
このまま海岸沿いを走ってくれれば良いのですがあまり眺望はよくなく、長府駅からはまた山越えになります。
新下関駅からはもう市街地になります。
幡生駅では山陰本線が合流してきます。
高架の下関駅は、ブルートレインの機関車付け替えが行われた長大なホームを有しています。
今でも旅情の漂う海峡の駅です。
大阪からおよそ560㎞。
途中下車・休憩無しだと合計で10時間少々で下関まで来ることもできます。
通路から生産地域へ
陸路よりも水路が主役だった時代から、瀬戸内海に沿った多くの街が繁栄してきました。
本記事では沿線観光は取り扱いませんが、尾道や柳井などを途中下車して散策するのも山陽本線の楽しみの一つです。
山陽鉄道の時代よりこの路線は航路と激しい競争を続けていた。
戦後も沿線には産業都市が建設され、太平洋ベルトの一翼を担っていますが、それでも瀬戸内海の景色は変わりません。
天然の運河によって経済的・文化的に育まれてきたこの地を繋ぐ山陽本線は、重要幹線でありながら、一方でローカル線のような車窓・雰囲気も持ち合わせているのがその特徴であり魅力です。