宇部線は山陽本線の新山口から宇部新川経由で宇部へ至る路線。
また小野田線は宇部線の居能から山陽本線の小野田までを結ぶ路線で、雀田~長門本山の支線もあります。
両線とも私鉄として開業した後に、石炭などの重要物資を輸送するために1943年に国営化された歴史を持っており、現在でも私鉄らしさが至る所で感じられます。
戦後も美祢線沿線からの石灰石輸送の貨物列車が運行されていましたが、現在では廃止されています。
新山口→宇部新川→居能→小野田というルートで、その独特の旅情を探っていきましょう。
新山口~宇部新川~小野田の旅行記
新山口から宇部線の105系に乗る
新山口駅から宇部線に乗って宇部新川駅を目指します。
宇部線の電車は新幹線に一番近いホームから発車します。
新山口駅を出ると次の上嘉川駅くらいまで山陽本線と並走します。
こちらは単線ですが、向こうは立派な複線の幹線です。
地形に忠実に線路を敷いたためか、直線の線路にもアップダウンがある簡素な造りの線路はいかにも旧地方私鉄らしいです。
駅もこじんまりとしたものが多いです。
常盤駅で海沿いに出ます。
宇部線は工業都市の電車というイメージがあるため、埋め立て地ではなく砂浜のある海岸を見るのは意外な気がします。
草江駅の付近には山口宇部空港があります。
ここは羽田との間に1日10往復の便がある空港です。
新幹線でも東京から4時間以上要し、「のぞみ」も停車しない都市が多いので、隙間需要が結構あるのかもしれません。
寝台特急「あさかぜ」があれば…と考えるのが鉄道ファンの性ですが、本記事とは関係ないので割愛します。
宇部岬駅はなかなか立派な構えをした古い駅です。
この辺から工業地帯も遠くに見えてきます。
やがて市街地となりますが、急カーブが連続して駅間も2㎞に満たないなど、JRの線路というより、ガタゴト走るナローゲージの軽便鉄道のような印象です。
新山口から50分程度で宇部新川に到着し、ほとんどの乗客が下車しました。
宇部新川駅で乗り換え
乗り換えとなる宇部新川駅は独特な造りです。
まず線路と駅舎が離れているために、ホームが広く噴水のようなものがあります。
改札を出ても駅は何とも変わった構造で、まるで2階建ての建物から2階部分の空間を撤去したのかのようです。
粗末な待合所は鉄道駅というより、田舎のバスターミナルに近く、この一角は昔は別の用途に使われていたようにも見受けられます。
駅前にはビジネスホテルが幾つか建っていて、工業都市ならではのビジネス需要もあるのでしょう。
正面には工場の煙突も見えます。
夕暮れ時の小野田線、クモハ123系で小野田へ
宇部新川駅からは小野田線の電車に乗って山陽本線の小野田駅を目指します。
今度乗るはかつて荷物車として使われていた車両を改造したクモハ123系です。
と聞くと外見も相まっていかにもショボそうですが、この車両にはトイレが付いています。
宇部新川駅の次の居能駅から小野田線の線路となり、すぐに厚東川を渡ります。
小さな電車がゆっくり走るので、実際よりも相当長い橋のように感じます。
小野田線は宇部線以上にみすぼらしい風情を湛えた路線です。
途中駅はバス停のような駅で、線路とレールの摩擦で発するフランジ音をキンキンカンカンとたてながら急カーブをくねくね曲がります。
雀田駅では長門本山行きの小野田線の支線が分岐します。
この駅のホームは扇形になっていて、下の写真で見える電車が本山支線の長門本山行きです。
こうした配置もどこぞの地方鉄道を思わせます。
小野田港駅のあたりは海や工業地帯が広がっています。
宇部線と同様に駅間が短く、小野田港駅~南小野田駅の距離は600Ⅿしかありません。
小野田駅の一つ手前の目出駅の前後はやや丘陵地になっています。
日も暗くなり、周りの景色が工場から山がちになると、途端に寂しくなったような気もします。
終点の小野田駅で新山口駅以来の山陽本線と再会です。
宇部新川~小野田の所要時間は30分ですが、距離にして15㎞にも至りません。
結局新山口から小野田までは、宇部新川駅の乗り換え時間40分を含めて2時間程度でした。
ちなみに同区間を山陽本線だと30分弱です。
クモハ42形が最後まで走っていた小野田線本山支線
今回は乗車しなかった雀田~長門本山の本山支線ですが、2003年の3月まで旧型国電のクモハ42形が運行されていたことで知られてます。
クモハ42形は戦前に京阪神地区の電車として第一線で活躍し、その後横須賀線にも転用されました。
最晩年のクモハ42と、学校をサボって旅行中の少年時代の筆者。
とっくに時効が成立しているのでこの際自白しますが、私は中学3年生だった2003年の3月の上旬に、春休み前の平日にもかかわらず学校を休んで、兵庫県から引退間際のクモハ42形に乗りに行きました。
前日は宇部新川駅前のホテルに宿泊し、翌朝6時台発(現在でも朝の1本だけ宇部新川始発の支線の列車がある)の長門本山行きに乗って折り返しました。
ワンマンカーで車内放送が自動化されていましたが、博物館で見るようないかめしいチョコレート色の車体と、古めかしい車内、そして釣駆けモーターの重く低い唸り声に感動したのを覚えています。
工業地帯を走るゲタ電
新山口から山陽本線が緩い勾配で山越えをしながら各都市をジグザグに結ぶ一方、宇部線と小野田線は海沿いの工業地帯をコトコト走ります。
特に車窓には特筆すべき要素はありませんが、ちょっと神経を研ぎ澄ませば何気なく、あちこちから漂ってくるローカル私鉄の趣こそが、これらの路線の魅力だといえます。