日豊本線は九州の小倉駅から鹿児島駅までを、東海岸経由で結ぶ路線です。
博多や熊本を通る鹿児島本線と比べて、歴史的に重要度が低かったのは事実ですが、それぞれの区間ならではの見所があるのが日豊本線の魅力です。
また、特急の列車名や車両の種類が豊かなのもこの路線の特徴です。
特急の運転系統別に日豊本線を分類すると
- 都市間輸送が盛んな小倉~大分
- 海沿いと山越えの車窓が楽しい大分~宮崎
- 南九州の山間部を抜け最後に桜島を望む宮崎~鹿児島
となります。
私が訪れた時は、豪雨による土砂崩れのため、隼人~鹿児島間は乗車できませんでした。
また次の機会に追記します。
(2020年9月追記)
鹿児島中央までの乗車記を追加しました。
(2021年3月追記)
783系は現在は日豊本線の運用から撤退しています。
「ソニック」の天下、小倉~大分
特急「ソニック」が最高速度130㎞で1時間に2本走る
小倉駅から大分駅までは一部区間を除いて基本的に複線で、130㎞運転及び振り子車両にも対応した高規格の線路です。
博多~大分間の需要が大きく、また小倉経由の鉄道より距離が短い高速バスがライバルなので、883系と885系による特急「ソニック」が1時間に2本運転されています。
いずれも個性的な車両なので好みが分かれるところでしょう。
個人的には885系の方が外観・内装ともに良いと思います。
ただし、883系のグリーン車では先頭のパノラマキャビンを利用することができる特典が付いてきます。
パノラマキャビンは博多・大分寄り(小倉駅で進行方向が変わる)の先頭1号車で、もちろんグリーン車利用客専用です。
別府湾の景色が印象的
西小倉駅で並走してきた鹿児島本線と別れ、しばらくは住宅地が、やがて工業地帯が広がります。
海が見えるのは豊前松江駅あたりからです。
県境を越えて大分県に来るとすぐに中津駅に到着します。
速達タイプの特急列車も全て停車する高架式の大きな駅です。
宇佐駅を過ぎてからは立石峠と呼ばれる国東半島の付け根部分を通ります。かつては蒸気機関車が苦闘していましたが、今では電化・複線化・ 勾配緩和された軌道を、振り子式電車が高速で駆け抜けます。
山越えもひと段落した日出駅からまた海沿いを走ります。別府湾の海岸線はなかなかリゾート感があります。
この区間を夜に乗車した時には、前方に旅館の明かりに照らされた別府湾が現れて感動しました。
なお下り線(大分方面行)からは海がよく見えますが、上り線(小倉方面行)は線路増設の際にトンネルを掘ったために景色がよくありません。
大分駅で途中下車。駅弁・土産を買う。
久大本線と豊肥本線の終着でもある大分駅は、高架化されており全体的に新しい感じがする駅です。
改札を出てすぐの所に、駅弁・土産を買える場所があります。
大分といえばとり天だと思っていましたが、唐揚げのお店もありました。
「豊後水道味めぐり」は鯖などの押し寿司が並んでいますが、それぞれのシャリの中に、しそや柚子などが挟んである粋な駅弁です。
「にちりん」に残された、大分~宮崎
ここからは単線になり、僅かな例外を除けば特急は「ソニック」が大分止まりで、「にちりん(シーガイア)」となります。
「にちりん」と「にちりんシーガイア」の違いは、大分以南の運行(前者)か、博多発着(後者)かの違いで、車両は両方とも783系と787系による運転です。
(2021年3月追記)
783系は現在は日豊本線の運用から撤退しています。
この区間はさらに
- 大分市街地から豊後水道の港町にかけての、大分~佐伯
- 大分と宮崎の県境の山間部、佐伯~延岡
- 宮崎県主要都市を結ぶ延岡~宮崎
の3つに分けられます。
海の車窓が美しい大分~佐伯
幸崎駅までは街中を走りますが、やがて山がちで複雑な海岸線が見えてきます。
幾つものトンネルをくぐりながら、 臼杵・津久見そして佐伯といった港町の駅に律儀に立ち寄っていきます。
地図で見るとかなり海岸線に沿って迂回しているのが分かります。
穏やかな入り江に沿って、漁村や造船所などがの風景が広がり、呉線を思い出すような情景です。
個人的には日豊本線の中で最も景色が良い区間なので、特急ではなく普通列車で旅することを勧めます。
「宗太郎越え」の佐伯~延岡
この区間の特徴はズバリ、普通列車の本数が極端に少ないことです。
通しの列車は上りが早朝と夜の2本、下りに至っては早朝の1本だけ。
青春18きっぷ等を使った旅行者も、この区間を普通列車で通過するのはあまり現実的ではありません。
県境は「宗太郎越え」と呼ばれる男性的な響きの山越えで有名で、沿線には民家がほとんどありません。
途中駅にも駅らしい気配はなく、事実上単なる行き違い設備と化しています。
783系ハイパーサルーンのグリーン車
(2021年3月追記)
783系は現在は日豊本線の運用から撤退しています。
延岡駅にて。
佐伯~延岡間の移動は事実上特急一択なので、特急「にちりん」に乗車します。車両はJR化後初の特急用車両である783系です。
今となっては古い部類に入る車両ですが、九州各地で活躍しています。
グリーン車はシックなカーペットに、地味だがどっしりとした快適な座席が並ぶ車内です。
通路と座席に段差があり、窓からの見晴らしが良いのも特徴です。
旭化成の出資で高速化された延岡~宮崎
旭化成の城下町延岡
宮崎県北部の中心の延岡駅には貨物ターミナルがあり、駅前にも古いもののホテル・旅館が建ち、書店やカフェがある文化的な複合施設もあります。
大分以来の久々の中核都市に来た感じがしてホッとします。
宮崎までそれほど距離はありませんが、ここで小休憩するのも良いでしょう。
単線ながら高速化された線路
ここからは最高速度が110㎞に上がり、列車は息を吹き返したように走り出します。
延岡は旭化成の企業城下町ですが、宮崎空港から延岡駅までのアクセス改善のために、同社が高速化事業に一部拠出しています。
普通列車の本数も増え、沿線人口も多くなったことが感じられます。
しかし、依然として単線なので、特急列車が通過駅でも反対列車の待ち合わせをするのは勿体ないです。
リニアモーターカーの宮崎実験線が残る
延岡出発後まもなく海が近づいてきますが、今度の海岸線は真っすぐです。
さて、美々津駅から都農駅の間で奇妙な高架線が並走します。
これは1970年代から90年代に使われていたリニアモーターカーの宮崎実験線です。
実験場が山梨に移って現在、線路にはソーラーパネルが設置されています。
僅か3席しかない787系のDXグリーン車
延岡でわざわざ乗り換えて、今度は1時間後の787系の「にちりん」に乗車しました。
一部の787系を使った「にちりん」にはグリーン車のさらに上をいくDXグリーン車があります。
1列3席しかない設備でグリーン車とはまた違ったカーペットや内装です。
深々と倒れるレッグレスト付きの座席は、まるで飛行機のビジネスクラスのもののようで快適そのものです。
さて、気になるDXグリーン車の料金ですが、さほど高くありません。100キロまでが1,650円、200キロまでが2,670円、201キロ以上が3,700円です。
(追記)2023年4月1日よりJR九州のグリーン料金が改訂(値上げ)されました。
その結果、100㎞まで2,080円、200㎞までが4,760円、200㎞以上は6,150円となりました。
それまでは他のJR各社と比べて九州のグリーン料金は良心的で、100㎞以上の区間ではDXグリーン車さえも一般的なグリーン車よりも安く利用できました。
しかし今回の料金見直しによって、他のJR各社と同じになってしまいました。
食事に便利な宮崎駅
宮崎駅は県庁所在地の駅にしては小さな駅です。
需要があると思われる博多との往来は、飛行機はもちろん、日豊本線経由よりもバスの方が早く、JRも新八代駅で新幹線と接続するバスを宮崎から運行しています。
そんな宮崎駅ですが、炭火地鶏や宮崎牛といったグルメを味わえる店が並んでいます。
駅弁で有名なのは「椎茸めし」。
ゴボウ・タケノコ入りの炊き込みご飯が椎茸の香り高さを引き立てる、素朴にして上品な味わいです。
「きりしま」が走る宮崎~鹿児島
「きりしま」の車両は4両編成の787系
宮崎県第二の都市、都城市の中心駅は都城駅と西都城駅です。
普通列車の場合だと、どちらかの駅で乗り換えになるパターンが多いですが、ここから先の鹿児島県の国分駅までの本数は少ないです。
一方国分から先は鹿児島の通勤・通学圏なので、列車本数も結構多くなります。
鹿児島市内は湾と崖に囲まれていて物理的に拡大する余地がないため、日豊本線の国分~鹿児島間の都市がベッドタウンとして発展しているようです。
特急「きりしま」が1~2時間に1本走っているので、効果的に利用しましょう。
なお「きりしま」の車両は2021年以降は全て787系ですが、DXグリーン車・グリーン個室は付いていません。
車窓の締めくくりは桜島
宮崎駅を出ると、南国らしいシュロの木に見守られながら大淀川を渡ります。ここは昔から撮影スポットとして知られています。
清武駅から勾配が始まり、有名な青井岳を越えます。
都城駅は広い構内と国鉄風の駅舎を持ち、駅前にはホテルや商業施設が建っています。延岡駅と同様、それなりの市の規模を感じさせます。
もう一つの西都城駅は高架化されており駅の外観も新しいですが、駅の内部・ホームはやはりどこか古めかしいです。かつて売店があったであろうコンコースは無駄に広く、東欧の駅を想起させます。
私は西都城駅で駅弁を買いましたが、同じ業者の店舗が都城駅にもあるそうです。
両駅で買える「せとやま弁当」の名物駅弁は「かしわめし」です。
かしわ飯というと折尾駅が有名ですが、こちらの肉はそぼろではなく、しっかり味付けされた塊肉です。
その食べ応えは、「柔らかくて食べやすい」などといった安っぽい誉め言葉に対する、強烈なアンチテーゼのように思えます。
西都城駅を出発すると、左手に廃止された高架の志布志線の線路跡が見えます。
次の五十市駅を過ぎてしばらくするとついに鹿児島県に入ります。
やがてまた勾配が始まり、大隅大川原駅と北永野田駅の間にあるサミットが日豊本線の最高地点です。
右に左に急曲線を描きながら、急勾配を征服していくこの区間は、日豊本線で一番最後に開通した区間でもあります。
日豊本線のサミットが前方に見えた。
しばらく下りが続いた後、列車本数が増える国分駅です。
国分駅からはかつて大隅線が桜島や大隅半島に沿って志布志まで伸びていました
そして肥薩線が分かれる隼人駅に到着します。
隼人を出るといよいよ錦江湾こと、鹿児島湾が左手に少しずつ見えてきます。
その向こうには大隅半島や桜島が見えます。
重富駅あたりからは右手の山地が海のすぐ傍まで迫ってきており、それに押し出された線路は海岸に沿って進んでいきます。
日豊本線の旅もいよいよ最後の見せ場を迎えます。
後方のかなたには大隅半島が見える。
崖の下にあるこじんまりとした竜ヶ水駅からは、噴煙を上げる桜島が綺麗に見えます。
名峰と呼ばれる山はどこでもそうですが、その高さ・大きさ以上に存在感を感じる火山です。
列車本数が多い割には単線なので、列車行き違いのためこの駅でしばらく停車していました。
なおも桜島が目の前にそびえます。
行き交うフェリーや鹿児島の市内が見えてきて、貨物ターミナルのある鹿児島駅に到着します。
日豊本線と鹿児島本線の終着はこの駅ですが、もちろん中心の駅は鹿児島中央(旧・西鹿児島)駅です。
鹿児島中央駅までは市内を通るのではなく、北側の山地を城山トンネルで抜けます。
そのままあっけない感じで市街地と駅前の観覧車に迎えられて、鹿児島中央駅に到着します。
新幹線未開業の幹線旅行の楽しみ
日豊本線では、普通列車でのんびりと移動したり、複数の特急車両を乗り比べたりと、様々な楽しみ方ができます。
海が見られる距離も長いですが、その中でも臨海工業地帯・入り組んだ海岸線・平坦な日向灘など、いろいろな表情を見せてくれます。
また山岳地帯であっても、近代的な複線トンネルで突き抜けたり、あるいは急曲線・急勾配の単線で挑むところもあります。
そうした変化から各地の地理的・経済的特徴を垣間見るのが、日豊本線の旅の真髄といえるのではないでしょうか。