大隅線は日豊本線の国分駅から垂水・鹿屋を経て、日南線の終着駅である志布志駅へと至る、今は亡き南九州の大隅半島を走る路線です。
錦江湾沿いに桜島を眺めながら走る景色の良い路線でしたが、自動車の普及・道路の整備によって全線開通から僅か15年で廃止されました。
2020年9月に旧大隅線の代替バスに乗って、国分から志布志まで薄命の大隅線を偲びました。
国分から垂水までは景色が良い
私が乗ったバスは国分駅前を朝の7時過ぎに出る便だったので、鹿児島中央を5時台に発車する日豊本線の特急「きりしま」に乗車しました。
日豊本線のこの区間も、崖に押し出された海沿いを走る景色の良い所です。
また、国分駅にはかつての大隅線の線路跡があります。
通学時間帯のため、バスは学生で満員でした。
しかし市街地を少し走っているうちに彼らはいなくなり、海が見えてきた頃には車内はガラガラになっていました。
バスはずっと錦江湾に沿って走ります。
ここではカンパチの養殖が盛んに行われています。
次第に桜島が見えてきます。
もともとやや曇り空なので噴煙を上げているのかどうかは分かりませんが、近づいていくにつれて上空が暗くなっていきます。
大隅線は桜島と大隅半島の付け根をトンネルで抜けていたようですが、バスが通る道路は一旦桜島に上陸します。
橋を渡るとゴツゴツした岩肌に背の低い植物が生えていて、植生が突然変わったのでどこか違う大陸に来たような不思議な気分になります。
もちろん驚いているのは私だけで、周りの地元客は平然としています。
やがて垂水駅というバス停に着いたのでそこで下車します。
100mくらい(たぶん)歩いた所にかつて駅だった垂水鉄道記念公園があり、ホームと線路がちょこんとあります。
特に駅舎や車両が残っているわけでもなく、敢えて訪れる必要があるかと言えばありませんが、今回はバス乗り換えの都合上立ち寄りました。
ところで、旧大隅線を辿って志布志へ向かうバスは垂水港発の便が多いです。
垂水鉄道記念公園から垂水港までは歩いて20分程度の距離なので、徒歩で移動します。
これまでバスで通って来た道を引き続き歩いていくだけですし、港の場所はすぐにわかるので迷うことはないでしょう。
垂水港には、ちょうど鹿児島から来た薄緑色の軍用船のようなフェリーが到着していました。
バスはフェリーからの客を待って出発しました。
私はわざわざ旧大隅線と錦江湾に忠実に来ましたが、鹿児島市から鹿屋方面へは水陸一体となったルートの方が便利なようです。
なお、国分駅から垂水港までバスの所要時間は1時間10分程です。
垂水港からもしばらくは海沿いを走ります。
天気の良い日は大隅線から沖合に薩摩半島の開聞岳も見えたらしいですが、この日は快晴ではなかったので、あの薩摩富士のおおらかな姿を想像するだけでした。
時折進行方向の左側に大隅線の路盤跡が見えます。
長らくお世話になった錦江湾と別れるてしばらく走ると鹿屋市内に入ります。
鹿屋のバス停の少し前に軍用の航空機が見えました。
旧日本軍の特攻基地というと対岸の薩摩半島の知覧が有名ですが、大隅半島の鹿屋にも海軍航空隊の特攻基地があり、現在は自衛隊の施設になっています。
垂水港から鹿屋までの所要時間は1時間弱です。
鹿屋市鉄道記念館ではディーゼルカーの車内見学もできる
鹿屋市は鹿児島県では霧島市に次いで3番目に人口が多い都市ですが、それだけに鉄道が廃止されてしまったのは残念です。
鹿屋を素通りして志布志まで行くこともできますが、ここで一旦下車し、鹿屋市鉄道記念館を訪れます。
時刻表で「鹿屋」と表記されるバス停は「リナシティ」という商業施設前にあり、市役所近くにある鉄道記念館までは徒歩20分程度の距離があります。
コミュニティバスで市役所前まで行くこともできますが、待っている時間が惜しいので暑い中歩いて向かいました。
それまでバスで走って来た道を真っすぐ行くと市役所に着くので道順は分かりやすいです。
市街地の中心部を行くと確かにそれなりの規模の都市だと実感できますが、全体の雰囲気としてくたびれた印象がしないでもありません。
鹿屋市鉄道記念館は大隅線廃止後にできた、赤い屋根のログハウス風の建物です。
南九州では昭和後期に多くの路線が廃止されましたが、廃線を偲ぶ施設ではここが規模の大きさ・展示内容として随一といってよいでしょう。
内部には写真や駅名標などの他、大隅線現役時代の映像資料も見ることができます。
また建物の隣にはかつて大隅線で活躍したディーゼルカーが保存され、車内に入ることもできます。
懐かしい雰囲気が漂う車内には広告も当時のまま残っています。
年配のスタッフの方もいろいろと親切に説明してくださり、これだけ充実した施設が無料で開放され運営されていることには感謝の念を禁じ得ません。
もう少し鹿屋でゆっくりしたいところですが、時間も迫っているので鹿屋のバス停に戻ります。
バスを降りてから乗るまでの滞在時間は1時間40分程度でしたが、このくらいあれば記念館で余裕をもって見学できます。
見学時間を30分としても、移動時間を考えると1時間では短すぎると思います。
鹿屋から志布志までは特に海を眺めるでもなく、山を越えるわけでもなく、畑を進んでいきます。
志布志の手前でようやく海を見ます。
桜島が浮かぶ錦江湾も良いですが、今度の海は広々とした太平洋です。
鹿屋から志布志までは1時間程度の所要時間です。
現在は盲腸線である日南線の終着駅でこじんまりとした志布志駅ですが、かつては大隅線の他にも西都城へ向かう志布志線が発着するジャンクションでした。
昔の駅は現在の駅より数百メートル離れた所にあり、今では鉄道記念公園になっています。
駅舎に背を向けて大通りを少し歩いた所にあります。
公園の規模からして、それなりに大きな駅だったと想像できます。
また蒸気機関車とディーゼルカー(車内見学不可)が静態保存されています。
垂水港~鹿屋~志布志のバスはほぼ1時間毎に運転されていますが、この先の日南線の列車は1日8往復と少ないので要注意です。
大隅線の廃止は妥当だったのか?
大隅線全通後まもない時刻表を調べると、宮崎と鹿屋を結ぶ急行「佐多」と、鹿児島と鹿屋・志布志を結ぶ快速列車が1日1往復ずつ設定されていますが、それ以外はローカル輸送の列車が数時間毎に運転されるのみだったようです。
特に鹿児島~鹿屋は県内の主要都市を結ぶルートですが、如何せん錦江湾沿いに迂回するよりフェリーを介した方が距離が短いため、県内の都市間輸送機能を担えなかった点も、大隅線にとっては不利になったのでしょう。
大隅線が皮肉にも自家用車の普及後になってから全線開通し、僅か15年で廃線となったのは交通政策の貧困といえます。
しかし、その車窓の良さを生かし観光ルートの一つとして、今でも大隅半島の発展に寄与していたかもしれません。
鹿屋市鉄道記念館のスタッフも「鉄道が無くなった喪失感」を口にされていましたが、再生する可能性があった路線が切り捨てられたことは残念でなりません。
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