続・山陽本線乗り歩きの旅①：尾道駅で途中下車、滞在2時間で市内を観光する

2025年3月に「青春18きっぷで山陽本線乗り歩きの旅」と題して、岡山駅を起点に途中下車しながら山陽本線の普通列車を乗り継いで西へ向かった。
予定では本州の西の端、下関駅まで行く予定だったが、事情により山口市で引き返さなければならなくなり、それ以来やり残した宿題にとりかかる機会をうかがっていた。
そして6月中旬にそのリベンジを果たすこととなる。
せっかくなので前回訪れなかった都市にも寄りながら2日間かけて、改めて「続・山陽本線乗り歩きの旅」を終わらせようと思う。

本記事は1日目の第1回。
詩的な街並みで知られる広島県東部の尾道で途中下車して、2時間弱で散策した。

山陽新幹線「さくら」で福山駅へ

今回の出発地は実家近くのJR神戸線西宮駅。
大阪と神戸のちょうど中間だ。
まずは快速電車に乗って三ノ宮駅へ。
ところで、私が子供の頃は西宮駅には各駅停車しか停まらなかった。
小学6年生くらいの時に朝ラッシュ時のみ一部の快速が停まりだして、まもなくして全ての快速が停車するようになった。
駅で配布されている時刻表の数字に、だんだん快速の色が増えていくのが楽しく仕方がなかったのを今でも覚えている。

さらに話が脱線して恐縮だが、幼少期の私はマンションの目の前のJR神戸線を走る列車の音だけでその種別が判別できた。
モーター音・速度・編成の長さといった情報を総合していたのだ。
あいにく、そんなドヴォルザーク（チェコを代表する作曲家。元祖鉄道マニアとしても知られ、「音テツ」のエピソードもある）のような才能は今ではなくなってしまった。
車両の種類が減って、かつ走行音が静かになったのも要因だろうが…

さて、三ノ宮駅から地下鉄に乗って新神戸駅へ行き、8時13分発の山陽新幹線「さくら545号」に福山駅まで乗る。
この場合の乗車券は特例が適用され、三ノ宮駅で下車して地下鉄を介しても新神戸駅で再入場することができる。（地下鉄の運賃は別途必要）
山陽・九州新幹線直通列車の「さくら」は指定席が横4列（2＋2）になっていて付加価値が高いが、今回は乗車時間がさほど長くないので自由席にした。

意外なことに姫路駅で降りる人が結構いた。
「さくら」は新大阪始発なので姫路に行く人は新快速を利用するものかと思ったが、混雑した電車に1時間以上乗るよりは新幹線料金を払ってでも所要時間は半分以下で、かつ座れるのは大きいだろう。
ともかく隣の人が降りたので窓側に座ることができた。
9時5分に福山駅着。
前回、つまり今年3月の乗り歩きの旅で訪れた場所である。

ここで山陽本線に乗り換えて尾道まで行く。
10分程度遅れていたためか、電車は酷く混んでいた。
東尾道駅を過ぎるといきなり海と造船所に対峙する。
海と言っても、尾道水道は川のように狭い。
そして市街地を避けるようにして、今度は山裾に張り付いてレールをきしませながら列車は尾道駅に着いた。
この海沿いに出てから尾道駅到着までの一連の流れは、山陽本線の数あるクライマックスのうちの一つだろう。

坂のまち尾道

尾道は水運で栄えた坂の街だ。
詩情溢れる街並みは数々の文学・映画の舞台ともなった。
その歴史を誇るように、街に迫る山腹には数多くの古寺が点在している。
もちろんその全てを巡ることなどしないが、とりあえずは千光寺せんこうじを目指して「古寺めぐりコース」を登っていくのが定番コースである。
近くまでロープウェイで行くこともできるが、まずは坂を歩いて行こう。

レトロなアーケード付きの商店街を線路沿いに東へ進むと、踏切の向こうに古寺めぐりの入り口が見えた。
途中には案内板もあるので、基本はそれに沿って歩いて行けばよい。
とはいえ道中には自然と誘われてしまう坂の小道があちこちにあるから、グーグルマップの経路案内のようにはいかない。

まず最初に着くのが持光寺。
まるでコンクリートのようにどっしりとした石の山門が構えている。
ここはあじさい寺として知られていて、ちょうど季節柄あじさいが咲いていた。
しかし今日は6月といっても梅雨を通り越して真夏日のような暑さで、本来は雨が似合うはずのあじさいもヒマワリのように容赦なく太陽を浴びていて気の毒だった。

路地にはゲストハウスもあって、外国人宿泊客が椅子に座ってぼんやりと景色を眺めていた。
なんと贅沢な旅行だろうかと思う。
もっとも私なんぞは時刻表が愛読書を越えて「体質」となっているから、スケジュールで縛られていないと逆に不安になってしまう。
そんな私でさえ、1日中滞在しても尾道は飽きることがないだろう。

公園や寺を経てさらに歩いて行くとようやく千光寺に着いた。
山腹の大きな岩にしがみつくように建つ寺だ。
ここからも眺めが良い。
山陽本線が尾道の古い街に敬意を抱いて迂回している様子がよく分かる。
貨物列車がヘビのように体をくねらせながら走っていった。

千光寺からロープウェイ山頂駅までは「文学のこみち」といって、尾道にゆかりのある文人の作品を刻んだ碑が並んでいる。
彼らの遺した尾道への思いをじっくり味わいながら歩きたいところであるが、その名前とは裏腹に「文学のこみち」はそれなりに急なハイキングコースとなっている。
暑さにバテそうになりながらふと後ろを振り返ると、林芙美子の有名な一節「海が見えた。海が見える。」の碑が瀬戸内海を背にして建っているのを見つけた。

山頂駅の隣には展望台が設けられていた。
多数の船が行き交う天然の運河の対岸は、「山並み」の合間にちらほら海面が光っているのが見えるので、それらが島なのだと分かる。
この多島海の向こうに四国があるのだろう。
ここから見えるのかどうか何人かいたボランティアガイドに聞こうとしたが、先客の対応で忙しそうだった。

帰りはロープウェイを使おう。
先ほどまで汗だくになりながら登ってきた街並みを、今度は空中散歩しながら眺める。
ただの一軒の民家も相当な歴史と文化を背負ってみるように見えた。
空いた窓から吹き込んでくる風が心地よい。

山麓駅から尾道駅までは歩いて15分ほどだった。
尾道の滞在はおよそ2時間。
手短だったが最低限の仕事はこなした散策だった。
引き続き山陽本線に乗って、次は宮島を訪れる。