「スーパーひたち」はJRの旅立ち、651系とその時代【普通車・グリーン車の車内や座席】

東日本の車両
スポンサーリンク

130㎞運転の「スーパーひたち」

常磐線の特急「スーパーひたち」で登場

651系はJR東日本にとっては初となる特急用車両として、1989年に常磐線で営業運転を開始した車両です。
この車両は、在来線で最初に130㎞運転を行ったことでも知られています。
新幹線が並走していない常磐線は、首都圏から水戸・日立・いわき(旧・平)など沿線各都市への特急列車の需要が多く、また高速バスとの競争も激しいため、民営化当時(1987年4月)でも485系「ひたち」が30分毎に運転されていました。

特急「ひたち」に使われていた485系(左)。
大宮の鉄道博物館にて。

それまでの485系「ひたち」と区別するため、651系を使用する列車は「スーパーひたち」の名前が付けられます。
最高速度が向上したため、上野~水戸間ではノンストップの最速列車の所要時間は1時間5分までに短縮されますが、この場合の平均速度は108㎞にもなります。
また651系は車体傾斜車両ではありませんが、曲線通過速度もそれまでの485系よりも5~10㎞高くなっています。

タキシードボディのすごいヤツ

651系の車体側面
車体側面。
現在は高崎線用としてオレンジのラインが入っている。

651系はその斬新な外観でも注目を浴びました。
それまで特急電車といえば信頼できるものの野暮で退屈な485系だった時代、白いタキシードを着こなした貴公子の登場は、民営化後の各社の意欲的な車両が続々と登場する時代の幕開けでした。
キャッチコピーが「タキシードボディーのすごいヤツ」ですから、その当時の興奮が想像されます。
私も子供のころ用事で東京に行った時に、親に頼んで「スーパーひたち」に乗せてもらった記憶があります。(乗車区間は上野~松戸でした。。

またスピード感を強調するだけでなく、先頭部のボンネットは特急車両としての格を感じさせ、列車名が正面のヘッドマークではなく電光掲示板で表現されるのも未来を思わせました。
実際のところ651系登場前の1987年の時刻表でも上野~水戸間の所要時間は73分なので、短縮されたのは8分でした。
率にすると10%以上なので十分大きな数字ですが、その頃は8分という時間よりも、新型車両導入というインパクトが何よりも大きかったのです。

勝田駅に停車する「スーパーひたち」時代の原色のままの651系
勝田駅に停車する「スーパーひたち」時代の原色のままの651系

E653系登場後も主役は譲らず

後に新型車両となるE653系が「フレッシュひたち」として常磐線に投入されます。
E653系は編成ごとに色が異なるカラフルな外見ですが、グリーン車無しのモノクラスでした。
全体的に柔らかく遊び心のある車両なので651系とは対照的でしたが、ビジネス客が多い常磐線の特急運用にとっては若干浮いた存在ともいえるかもしれません。

結局E653系「フレッシュひたち」は旧式の485系を置き換える列車だったので、依然として「スーパーひたち」が常磐線のフラッグシップであることには変わりませんでした。
自分が元気なうちは主役の座を道楽息子には任せられぬ、といった651系の気負いが感じられます。

E657系投入により高崎線に転用

2010年代になると、さすがの651系にも老いが見え始め、後継の新型車両E657系の計画が持ち上がります。
E657系は親のE653系よりも祖父の651系を見習ったような真面目な若者でした。

当初の予定だと2012年に常磐線特急の運転系統をいわき駅で分割し、いわき以南を651系とE657系「ひたち」、いわき以北をE653系「ときわ」として運転することになっていました。
また同年内に「ひたち」はE657系に統一され、651系は長らく務めた常磐線のフラッグシップ車両の座を孫に譲るはずでした。

しかし2011年に襲った東日本大震災のため、いわき以北の運転計画の見通しが立たず、結局2015年まで細々と常磐線特急で生き残りました。
なおその後、列車名は速達タイプの「ひたち」と停車タイプの「ときわ」に改められ、「スーパーひたち」と「フレッシュひたち」の名前は消滅しました。

スポンサーリンク

651系の車内

普通車の車内と座席

651系の普通車の車内
普通車の車内

普通車は今の感覚だと可もなく不可もなくといったところでしょう。
全体的に落ち着いた雰囲気の車内で、座席の○○色は沿線の△△を表現して…というような細かい芸もありません。

またJR東日本の新型車両は座席がスタイリッシュ、といえば聞こえが良いですが、背もたれが薄いので、このような古い車両に乗ると包容感を感じます。

651系の普通車の座席
普通車の座席

グリーン車の車内と座席

651系のグリーン車の車内
グリーン車の車内

グリーン車は横3列で床はカーペットが敷いてあります。
E351系やE657系など、最近のJR東日本の車両はグリーン車でも4列座席ですが、当時はそこまで輸送力重視ではなかったのでしょうか。

こちらの座席にはフットレストが付いていて、グリーン車らしいどっしりとしたシートです。
内装・車内の雰囲気は普通車とそれほど変わらないと感じました。

651系のグリーン車の座席
グリーン車の座席

デッキは古さを感じる

車齢の高い車両によくあることですが、デッキは古さが目立っています。
くずもの入れも今やレトロな感じがします。
特にトイレに入ると「昔の車両っぽいな」と思わずにはいられません。

人間はどこから老いるのかはヘルスケア業界の会社ごとに(会社の造る製品によって)見解は異なりますが、「車両はデッキから老いる」というのが私の持論です。

スポンサーリンク

「草津」や「スワローあかぎ」に運用も、近々定期列車引退か?

高崎線転用で第二の人生を歩む

ドタバタしながらも常磐線特急からは勇退した651系は、2014年より高崎線の「草津」「スワローあかぎ」で運用されています。
北陸新幹線開業してからは地味な路線になってしまった高崎線にとっては、一時期「新特急」を名乗っていた中途半端な185系に代わり、往年のスターの再就職は明るい話題でしょう。

高崎線用になった車両は窓の下にオレンジのラインが入っていますが、それ以外は往年の姿を保持しているのは嬉しいことです。
タキシードの貴公子は決して融通が利かない偏屈ものではなく、観光輸送も通勤輸送もこなす器用さも持っていたのです。

651系スワローあかぎ
上野駅で通勤客を迎える「スワローあかぎ」

高崎線運用もE257系に置きかえ

コロナ騒動も少しずつ沈静化の兆しが見えてきた2022年冬、JR東日本から2023年3月のダイヤ改正より、高崎線特急にE257系リニューアル編成を投入するとの発表がありました。
老いてもなお気品を感じさせる651系に対して、E257系は首都圏の標準車両として設計されており、しかも今回投入される編成にはグリーン車がありません。
そのため、列車としての格は下がると言わざるを得ません。

車両更新に伴い列車名も、「草津」から「草津・四万」に、「スワローあかぎ」から「あかぎ」へと変更されます。
これによって、651系は定期列車の運用を失うものと思われます。
今思えば、新生JRの華々しい旅立ちに始まり、世紀の変わり目から続く停滞期、そしていよいよ始まった在来線の「片づけ期」を見届けた車両人生でした。

スポンサーリンク

総評

651系は新生JR東日本の意気込みをそのまま形にしたような車両です。
登場から30年以上経った現在では古さは隠せませんが、気品のある白い車体は、あっという間に老朽化してしまう周りのステンレス製の通勤車両とは比較にならないくらい美しく見えます。
良いものは古くなってもやはり良いのです。

今や当たり前になった130㎞運転の先駆者であり、積極的な新技術の採用や居住性の改善によって後の車両設計の創意工夫の手本となった651系は、国鉄の分割民営化の象徴ということができるでしょう。

タイトルとURLをコピーしました