因美線は東津山駅(津山駅の隣)と鳥取駅を結ぶローカル線です。
この路線は普通列車しか走らない(東)津山駅~智頭駅と、智頭急行経由の特急列車が通る智頭駅~鳥取駅の二つの区間に分けられます。
2022年9月上旬に津山から鳥取を目指しました。
廃止も噂される津山~智頭
本数は1日7往復
津山~智頭の区間は列車本数が少なく、早朝と夕方の快速を含めても1日に7往復しかありません。
車両は主にキハ120形と呼ばれるバスのような1両編成のディーゼルカーが使われており、車内は一部がボックス席で残りはロングシートです。
普通列車の所要時間は1時間10分程度です
かつては急行「砂丘」(岡山~津山~鳥取)が最大で4往復走るなど鳥取への道として利用されていましたが、1994年に智頭急行(上郡~智頭)が開通してから主要ルートはそちらに移り、智頭以南は忘れられた存在になっています。
県境に跨り沿線人口も少ないため、本来の役割を終えたこの区間は廃止がたびたび話題になります。
同様に姫新線(姫路~津山~新見)も区間によっては非常に乗客が少ないため、廃線予備軍として認識されています。
そんな線区たちを包み込んでいる津山駅は、かつて鉄道交通の要衝だった時代を思わせる姿を、今の我々にも見せてくれています。
乗車記:混んではいないが、ガラ空きでもなかった。
津山駅を11時35分に発車する列車に乗車します。
平日の昼間ということでガラ空きかと思っていたのですが、意外と人が乗っていました。
もっとも、前の列車は5時間前、次は3時間半後というダイヤですから、やはり相当乗客数は少ない区間なのでしょう。
客層としてはやはり中高年が圧倒的に多いです。
津山駅を出ると、しばらくは津山盆地を走ります。
水田と住宅と時々工場があり、左手遠方には中国山地が横たわります。
やがて盆地が尽きて山間部に入ります。
いつも思うのですが西日本、殊に中国地方の民家は山村の風景に溶け込んでいて美しいものです。
この区間の見所の一つとして数々の古い駅舎が挙げられます。
美作滝尾駅もその一つで、まるで映画のセットのような駅です。
左手に加茂川を見ながら勾配を登って行きます。
灰色で重厚な造りの民家と、明るい黄金色の稲穂の対比が鮮やかです。
昨日まで大雨だったので勢いよく川が流れています。
長閑な風景に感心していると唐突に殺風景な露天掘りが現れ、他の乗客も驚いて見入っていました。
美作河井駅は因美線全通前は終着だったこともある駅で、使われなくなった線路は撤去されているものの構内が広いです。
この駅には転車台があるのですが、ホームの反対側だったので見逃しました。
ここが岡山県の最北で、いよいよ山陰の鳥取を目指します。
山越えに臨む列車と同じく、私も岡山駅で買ったお酒(津山線の続き)を飲んで気合を入れます。
お行儀の良い吟醸酒ではありませんが、芳醇でローカル線にはぴったりです。
急勾配・急曲線の道をゆっくりと辿り、やがて物見トンネルに入ります。
しばらくするとエンジンの音が急に静かになってスピードは上がります。
トンネルの中に分水嶺の県境があって、ここで勾配も上りから下りに転じるのです。
トンネルを抜けると日本海側です。
赤褐色をした石州瓦の屋根の割合が心持ち増えたような気がします。
何より雲が明らかに分厚くなっていて、天気の変化からも山陰に来たことが実感されました。
山地の県境付近の閑散線区の割には、沿線に集落が多い印象です。
数駅に一人くらいのペースで乗客が降りていきます。
あたりが開けてきて、コンクリートの建物が見えてくると智頭駅に到着です。
ここで鳥取行きの列車に乗り換えます。
高速化が行われた智頭~鳥取
特急列車が主役
因美線の智頭以北は、智頭急行経由の特急「スーパーはくと」(京都~鳥取~倉吉)・「スーパーいなば」(岡山~鳥取)といった特急列車が走る陰陽連絡線の一部として機能しています。
普通列車の本数も1日10往復程度に増えますが、それ以上に特急列車の方が多いです。
相変わらず単線非電化ではありますが、一部では高速化により最高速度が110㎞になっており、特急を迎える路線として面目を施しています。
前章で紹介した時刻表の急行列車は最速でも智頭~鳥取で34分を要していますが、現在の所要時間は最速27分です。
普通列車の所要時間は特急の待ち合わせをする関係でばらつきがあり、早くて50分以内、遅くて1時間以上です。
車両は智頭急行のディーゼルカーが就くことが多く、4人用ボックスシートにトイレ付きです。
ちなみに、「スーパーはくと」も智頭急行の車両なので、JR因美線の智頭以北は「正社員比率」が全国でも稀に低い区間です。
乗車記:2両編成の列車は郡家まで空いていた
鳥取行きのディーゼルカーは、特急「スーパーはくと」と同じ色をした智頭急行の車両でした。
智頭急行線の運用の間合いで、因美線のバイトをしているのでしょう。
乗客は増えましたが、今度は2両編成なので余裕があります。
智頭駅を出てもまだ中国山地越えは終わっていません。
特に次の因幡社駅までは山間部の景色です。
しかしそれも長くは続かず、谷は広がっていきます。
途中の用瀬駅で反対方向の「スーパーはくと」の通過待ちをしました。
ちなみに、この日の帰りは特急で因美線を通ったのですが、同じ線路を走っているのにスピードがずいぶん速いなと感じました。
河原駅の手前では左手遠方には河原城が見えます。
若桜鉄道が分岐する郡家駅で乗客が増えました。
耕地は水田ばかりだったのが、果樹園も散見されるようになります。
山陰本線で京都方面から来る時などは特にそうなのですが、因美線の場合も鳥取駅に到着する間近まで市街地が現れません。
山陰地方は平野部が狭く、それ故に都市の規模も小さいのですが、控えめながらも味と骨のある歴史文化を持つ土地でもあります。
「渇殺」と呼ばれる壮絶な籠城戦の舞台となった鳥取城もその一つです。
像は兵や民の命と引き換えに切腹した吉川経家
山陰本線と合流する鳥取駅は高架式の駅ですが、電車とは無縁で架線が張られていません。
鳥取駅は駅弁の「かに寿し」でも知られています。
「元祖」と銘打っているだけあって、見た目も味も「駅弁らしい」素朴な一品です。
明暗分かれる因美線
因美線は、智頭急行によって時代から取り残された智頭以南と、逆に智頭急行を引き継ぐ形で陰陽連絡線の一画として高速化された智頭以北とで、その歩みが対照的な路線です。
鉄道としての価値は明らかに後者が高いですが、皆さんも既にお分かりの通り鉄道旅行の面白さでは圧倒的に前者に軍配が上がります。
観光名所や特筆すべき絶景ハイライトもない線区ですが、自然とその中にある生活に根差した風景は、まさに純粋なローカル線の旅の美しさです。
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