再復活した夜行列車、ヨーロピアンスリーパーの寝台車でベルリンからパリへ

海外鉄道

パリとベルリンの間に民間企業による夜行列車、その名も「ヨーロピアンスリーパー」(European Sleeper)が走り始めた。
独仏の首都を取り持つという大役を買って出た新興鉄道会社の挑戦は、ヨーロッパ結束を願う市民の意思の表れでもある。

2026年4月下旬、前の月に運行開始したばかりのヨーロピアンスリーパーの個室寝台車に、ベルリンからパリまで乗車した。

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ヨーロッパの夜行列車も「官から民へ」

2020年代初頭、環境意識の高まりによってヨーロッパでは夜行列車の復活が相次いだ。
その象徴ともいえる存在が、ウィーンやベルリンからパリを結ぶオーストリア国鉄の寝台列車「ナイトジェット(Nightjet)」だった。
私も2022年10月にパリ発ウィーン行きのナイトジェットに乗車し、当ブログでも「夜のウィーン体制」のさらなる発展を願った。

復活した夜行列車、パリからウィーンのナイトジェット個室寝台車の旅【予約方法・費用】
2025年12月追記パリ~ウィーン間のナイトジェットはフランス政府の補助金打ち切りの結果、再度廃止されました。ウクライナ情勢を見ても分かる通り、なかなかヨーロッパ各国はまとまれないようです…西欧の芸術の都パリと、中欧の芸術の都ウィーン。行き…

ところが、2025年12月にこれらパリ発着のナイトジェットはあっという間に廃止されてしまう。
理由はフランス政府の財政支援の打ち切りだという。
あの数年前の熱意は何だったのだろうと誰もが感じただろう。
もっとも、崇高な理念を掲げた舌の根も乾かぬうちに、現実の壁に直面して内輪もめの末に手の平を返して方針転換する「欧州しぐさ」は、我々が国際ニュースで日常的に目にしている光景ではあるが。

しかし、それから僅か数か月後の2026年3月、パリ~ベルリン間の夜行列車は再び復活を果たした。
この路線に参入したキャリアは国鉄系ではなく、夜行列車専門の民間オペレーター「ヨーロピアンスリーパー」である。
なおヨーロッパでは日本のJRに当たる国鉄系会社以外にも、民間鉄道会社が列車を運行している。
ヨーロピアンスリーパーは2023年5月にベルリン~ブリュッセル間で運行開始した新興鉄道会社で、パリ~ベルリン間はそれに続く2つ目の定期路線となる。

二人で創ったベンチャー、ヨーロピアンスリーパー個室寝台車の乗車記【予約方法や費用など】
2023年5月下旬、新規参入したベンチャーキャピタルが運行する「ヨーロピアンスリーパー」がドイツとベルギーの間を走り始めました。ヨーロッパで夜行列車の価値が見直されつつある社会情勢のもと、旅客営業を実現するまでに彼らの歩んだストーリーは多く…

「国が頼りにならないなら自分たちで夜行列車を守る」と言わんばかりのベンチャー企業らしい活力だ。
2020年代前半が国の支援に主導された「官製夜行列車ブーム」だとすれば、2020年代後半の夜行列車復活劇の主役は、環境だけでなく経営の持続可能性にもシビアな民間企業ということになろう。

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運転日に注意、ダイヤと発着駅も頻繁に変更される

ヨーロピアンスリーパーのベルリン中央駅~パリ北駅間は週3日で運転されている。
毎日運行ではないので注意しよう。
しかしベルリン~ブリュッセル間に関しては、プラハ~ブリュッセル間を走る別列車も週3日設定があるので、事実上週6日運転となる。
なお、ブリュッセル行きはアムステルダム経由、パリ行きはハンブルク経由(7月から)とダイヤの芸が細かい。

公式サイトにも掲示されている基本ダイヤは、夕方出発して翌朝は遅めに到着となっている。
しかし、実際は日によってダイヤはまちまちで、しかも頻繁に変更される。
私の場合は数カ月前に予約した時のダイヤ(つまりチケットに表示されたダイヤ)と、その後公式サイトで表示されるタイムスケジュールが異なっていた。
予約後も直前にダイヤの確認を忘れないようにしよう。

また、発着駅も同じ市内にある別の駅に変更されることが時々ある。
このケースは特にベルリンに多い。

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【車内・サービス】設備は4種類ある

ヨーロピアンスリーパーの予約は公式サイトから行うことができる。
各国の国鉄と比べると、全体的に親切・丁寧なサイトだ。

設備は4種類。
安い順に

  • Budjet(座席)→6人用座席のコンパートメント
  • Classic(簡易寝台)→ヨーロッパで一般に「クシェット」と呼ばれる、2&3段ベッドが並ぶ相部屋の5人用ドミトリー寝台。ミネラルウォーター付き。
  • Comfort Standard(簡易個室寝台)→車両は②Classicと同じだが、1~3人で部屋を貸切ることができる。ミネラルウォーター付き。
  • Comfort Plus(個室寝台)→1~3人で利用できる洗面台付きの個室寝台車。ミネラルウォーター・朝食付き。

予算重視の人は、横になれるうえに座席とそれほど料金が変わらないClassicがおすすめだ。
Comfort StandardもComfort Plusもプライバシーが保たれる個室なので、贅沢したい人もあとは好みで良いだろう。
またQRコードから注文する車内販売も、商品は多くないもののクラスにかかわらず利用できる。

なお、予約方法やヨーロピアンスリーパーブランドについての解説は、ベルリン~ブリュッセル間の列車の記事でもしているので参照していただきたい。

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乗車記

ドイツの鉄道は遅延が多い

ベルリン中央駅の駅舎

ヨーロピアンスリーパーが発車するのはBerlin Hbfベルリン中央駅の13番ホーム。
ホームが上下階に分かれた立体的な通過式(行き止まり式でない)の駅で、13番ホームは明るい上の方だ。
行先の”Paris Nord”の文字が輝かしい。

あいにく遅延が頻発していて、出発時刻5分前になって発車ホームが隣の14番に変わってまもなく、列車がようやく滑り込んできた。
銀色の機関車に客車は全車両が青一色というすっきりした編成だ。
客層は実に多様で、若者のグループやバックパックの家族連れ、それにミニスカートの女の子という夜行列車らしからぬ姿もあった。
ヨーロピアンスリーパーのブランドイメージに違わない、市民のための親しみやすい夜行列車といった雰囲気である。

当初私は最上位のComfort Plusのシングルを予約していたのだが、技術的な問題でComfort Standardのシングルに変更となる旨のメールを受け取っていた。
両者の違いは洗面台の有無なので、それほど問題にはならない。(差額は返金された)
意気揚々と列車に乗り込む。
部屋・トイレ等も綺麗だった。
しかし座席(兼ベッド)の柔らかくゴワゴワした懐かしい毛触りは、年季の入った中古車両ならではのものだ。

黄昏時のドイツを行く

出発時刻はとっくに過ぎているがなかなか発車しない。
列車が動き出したタイミングで缶ビールを開けたいのだが、いつになるか分からないので「食前酒」としてしまおう。
結局出発は30分以上遅れた19時7分だった。
高架線から見渡すベルリン市街の景色はもう飽きるほど見たことがあるが、それでも夜行列車の個室からの車窓は格別である。
ビール片手に並走するSバーン(日本でいう各駅停車)を悠然と眺める。

しばらくすると若い男性クルーが検札にやって来た。
ヨーロピアンスリーパーの乗務員は丁寧でフレンドリーだ。
車内放送は英語→ドイツ語の順で、現地語の先に英語というのは珍しい。

この時(2026年4月)のダイヤではベルリンを出て次の停車駅は翌朝、ベルギーのリエージュである。
もちろんずっと走りっぱなしではなく、運転停車(客扱いをしない乗務員の交代のための停車)を何度も繰り返した。
先に述べた通り、7月からは北ドイツのハンブルクにも停車するという面白い経路になる。

列車は夕日を追いかけるようにして、ドイツの平原を160km/hで駆け抜ける。
窓を開けると、持ち込んだピザの匂いがたちこめる部屋が、夕暮れ時の森のキリッとした空気と繋がった。

長い夜に備えて用意していたビールもワインも飲み干してしまった。
もうこの辺でお開きにしよう。
何処かの田園でまた立ち往生しているうちに私は眠りに着いた。

ゆったりとした荘厳なレールのジョイント音で目が覚めた。
ポイント通過で足元の台車が軋む音が副旋律に加わる。
かなり大きな駅に入線しているようだ。
いや、「入線」というより「入城」といった方が的確である。
カーテンを開けて外を覗いてみると、そこはケルン中央駅だった。
しばらく運転停車した後、駅前にそびえ立つケルン大聖堂に敬意を表するように、また列車はゆっくりと走り始めた。

ベルギーで朝ラッシュに巻き込まれる

再び目を覚ますともう朝だった。
Liegeリエージュを過ぎてBrussel近郊まで来ているようだ。
朝日に照らされた古い街は情緒的に輝いている。
まだ30分くらい遅れていて、そのせいで朝ラッシュ時間帯に突っ込んでしまった。
昨晩ビール片手に睥睨したはずの通勤電車に、今度はこちらが道を譲る。

Brussel Zuidブリュッセル南駅では乗客だけでなく乗務員も降りて行った。
この駅がヨーロピアンスリーパーの拠点だからだろう。
車内放送を行う車掌もフランス人に変わったようで、フランス語→英語の順番になった。
ブリュッセルからパリまでは高速鉄道のユーロスターなら1時間半もかからないが、ヨーロピアンスリーパーは3時間半以上かかる。
まだまだ先は長い。

列車はいつの間にかフランスまで来た。
ヨーロッパのなかでもひときわ農地が広い。
通りかかった車掌に朝食が欲しいと尋ねると、「乗務員は2人しかいなくて対応しかねるので、パリに到着する30分前くらいまで待って欲しい」と言われた。
仕方がないので、メニュー表のQRコードから紅茶を注文する。
画面上では部屋に持って来てくれるように書いてあるが、実際は乗務員の準備室まで自分で取りに行く方式だった。

日光浴とアリバイ工作

ブリュッセルを出て1時間半ほどの所で、本来通過する駅で運転停車するため遅れが広がる、とのアナウンスが流れる。
続いて、「列車から降りてホームに出てもかまいません。乗客の皆さん、日光浴をお楽しみください。」
朝ラッシュも終わった田舎町の駅に、長大編成の列車が腰を据えた。
本当に眠気を催すような心地よい日向ぼっこで、ホームに出てきた乗客・乗員は誰も遅延のことなど気にしていないようだ。

もし日本の車掌が遅れている列車の車内放送で「日光浴を楽しめ」などと言ったらクレーム必至だろう。
とはいえ、車掌が乗客のためにできることは、実際のところそれくらいではないだろうか?
遅延の原因は複雑なので、車掌に聞いて状況が分かるわけでも、まして運転再開するわけでもない。
何もできないのに、「何かしているフリをさせる」社会は健全とは言い難い。

それにしても、運転停車する駅で列車から降りるとは新鮮な気分だ。
こんなことができるのは「寝台特急○○殺人事件!××駅での△△分の空白!」みたいな世界の話だけだと私は思っていた。
もしここで列車を降りて急いでブリュッセルに引き返して、「然る後」にユーロスターに乗ってパリに着いて適当な時間に証人をこしらえれば、ブリュッセルで相当なことをしてもアリバイは成立するはずである。
などと考えていると、出発するから車内に戻れと車掌が乗客たちに合図する。

朝食を摂りながらパリへ

10時過ぎに朝食が運ばれた。
一度私が催促したためか、「遅れてすみません」と車掌が詫びる。
パンにヨーグルト・オレンジジュース、コーヒーといった簡単なものだが、時間に追われずにゆっくり過ごす朝は贅沢なものである。

落書きだらけの雑然とした市街地に入った。
ここはどこだろうかと思案しているうちに、今度はいかにも高級そうなマンションが現れた。
もうパリまで来ているではないか。
定刻の10時45分から50分程遅れた11時35分、終着のParis Nordパリ北駅に到着した。
冷戦終結の象徴である近代的なベルリン中央駅とは対照的に、クラシックで重厚なボルドーワインのような駅舎だった。

パリ北駅

設備のダウングレードやダイヤ変更に遅延など、イレギュラーな要素はあったが、愉快で愛すべき16時間半に及ぶ夜汽車の旅であった。
そしてそれは官が投げ出した夢を民の活力が繋ぎ止めた、等身大で日常のヨーロッパの姿でもあるのだ。





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