本州を除く主要三島のなかで、九州・北海道と比べると存在感が薄いのが四国である。
全体的に穏やかというか地味な印象で、福岡・札幌のような圧倒的な力を持つ都市もない。
そして日本最後の新幹線空白地帯でもある。
2024年11月下旬、そんな四国を七日間かけて高松を起点として反時計回りに一周した。
本シリーズでは旅程を「みぎうえ」「ひだりうえ」「ひだりした」「みぎした」の4パート(部)に分けてその様子を綴っていく。
なお、一周旅行全体のルートや「上下左右」の概念については、ガイダンス記事を参照していただきたい。
いよいよ最終パートの第4部「みぎうえ」へと突入する。
本記事は最終日の午前。
徳島駅から終着の鳴門駅まで鳴門線の列車に乗る。
また、今回は通り過ぎただけの徳島市についても触れることにする。
県庁所在地にしては物足りない徳島
もともと地味な印象のある四国においてさえ、徳島は最もブランド評価の低い県だろう。
例えば「県別魅力度ランキング(2024年)」では前年に続き42位と低迷し、四国では最下位となっている。
無論このランキングは真面目に議論する価値があるものではないが、誰もが即座に徳島県を連想する「温泉・城・グルメ・偉人・ゆるキャラ」という素人を惹きつけるキラーコンテンツがスダチ以外にないのも事実だ。
実際に駅の裏側には徳島城があるが、天守閣はおろか櫓など城の遺構はほとんど残っていない。
超濃厚でクセになる徳島ラーメンも、さぬきうどん・鯛めし・カツオのたたきに知名度では敵わない。
私は2024年7月に「みぎうえ」エリアを周遊(高松~丸亀~阿波池田~徳島)した時に徳島駅周辺を観光した。
徳島城のグラウンドのように何もない本丸跡もそれはそれで味わいがあるし、特に博物館の隣にある庭園は良い意味で荒々しくて見応えがあった。
そもそも、史実と異っても(あるいは実際に存在しなくても)城に天守閣を造ればいいという話ではない。
俄かには信じがたいが、明治時代前半まで徳島市は全国でも10番目に人口の多い都市だった。
染料として使われる藍が吉野川流域で生産され、その流通・販売の拠点となった徳島市に大きな富をもたらしたのである。
阿波おどり会館からロープウェイで眉山に登って展望台から市街と吉野川を見渡すと、今でもそんな時代に思いを馳せることができる。
夜は鱧や鮑を食べた後に徳島ラーメンで締めるのも良い。
というわけで、県庁所在地の街並み・史跡としてはやや物足りない感じがするとはいえ、私としては徳島滞在をそれなりに楽しんだつもりである。
徳島駅からは神戸や大阪行きの高速バスが頻繁に運転されている。
鉄道が通っていない淡路島を経由し、神戸までの所要時間は2時間弱である。
現在の構想で四国新幹線が徳島まで開通(新大阪~岡山~高松~徳島)しても、明らかに遠回りになるので所要時間はそれほど変わらないだろう。
やはり高松からも神戸・大阪方面への高速バスが多数出ているが、こちらは3時間程度かかるので新幹線の勝算は十分にある。
とにかく四国「みぎうえ」は京阪神地方との結びつきが強く、それ故に四国の社会・経済の中心的存在でもある。
街並み・史跡・自然などの見所もコンパクトにまとまっていて、他のエリアと比べてはるかに交通の便が良い。
しかも「みぎうえ」エリア内で完結するルートが鉄道だけで作れるので、「四国周遊入門編」として2日間程度の旅程を組むのに最適だ。
そして「みぎうえ」を満喫した暁には、私がそうだったように、四国を一周したいと思うに違いない。
赤線が今回のルート、オレンジ線は以前周遊したルート
国土地理院の地図を加工して利用
鳴門線で終点の鳴門駅へ
さて、今回は牟岐線の列車で徳島駅に着いたのが10時42分。
鳴門行きの列車が出るのは10時58分だから、今日は徳島駅は素通りである。
列車はしばらく高徳線を走り、池谷駅からが鳴門線の区間だ。
高徳線は特急「うずしお」(高松~徳島)が1時間毎に走っているが、距離が短い鳴門線には普通列車しかない。
鳴門行きの1両編成の列車は意外と混んでいた。
外国人観光客の姿も散見される。
2024年7月
徳島駅を出るとすぐに吉野川を渡る。
まるで海を渡っているような壮大な眺めである。
高徳線から鳴門線が分岐する池谷駅は、それぞれの路線のホームが離れていて、その間に駅舎があるという変わった構造で面白い。
いよいよ鳴門線に入ったわけだが、車窓風景は平凡な水田地帯で特筆すべきこともない。
通路を隔てたボックス席のおばさん4人組の会話が盛り上がっているようだ。
徳島の人は香川や愛媛と違って「○○けん」をあまり使わないので、神戸弁話者の私にとっても母国語のように聞こえる。
4人組の服装・荷物を見ても、地元民なのか関西からの旅行者なのか判断がつかない。
が、私はおばさんたちが旅行者であるという決定的な証拠を入手した。
会話の中で「この電車」という言葉が出たのである。
徳島県は全国で唯一「電車」が走らない、つまり全区間が非電化の都道府県である。
ちなみに徳島駅~佐古駅の1駅分が高徳線と徳島線の単線並列区間になっている以外は、県内の路線は全て単線のままだ。
そのため地元の人ならば「電車」ではなく「汽車」と言う。
よってこのグループは昨日大阪か神戸あたりからバスで徳島に来て、今日は鳴門に行くものと考えられる。
などと思案していると、眼鏡を光らせながら立て板に水の如く推理を披露する名探偵になったような気分だ。
なお隣の高知県は徳島県よりもさらに田舎だが、高知市内を走る路面電車があるので辛うじて不名誉な記録から逃れている。
さて、徳島駅から約40分で終点の鳴門駅に着いた。
ここも普通の市街地の駅だった。
ルートからは外れることになるが、せっかく鳴門に来たのだから鳴門海峡までバスで行こうと思う。
次回は鳴門公園、そして大鳴門橋にある四国新幹線建設予定スペースを見学した後、香川県東部の城下町引田を散策する。
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