有明海と雲仙岳の狭間、島原鉄道の乗車記【車窓・車内や島原観光について】

私鉄

島原鉄道は新幹線も停まる諫早駅を起点に、島原半島の北半分を時計回りに海岸線に沿って島原港まで走る路線です。
小さなローカル私鉄ですが、両手に有明海と雲仙岳を望むダイナミックな車窓を楽しむことができます。

青線が現在営業中の路線、緑線は廃止された区間
国土地理院の地図を加工して利用

2024年2月初旬、朝の諫早を出発して島原港駅を目指しました。
また島原駅で途中下車して周辺を観光しました。

スポンサーリンク

車内はボックスシートでトイレあり

島原鉄道は諫早~島原港の43㎞を約1時間20分で走っています。
JRではないので切符を買う時は注意しましょう。
交通系ICカードは使えません。

運転本数が少ない日中でも、1時間に1本の列車が運行されています。
非電化の地方ローカル私鉄にしては利便性が高いです。

島原鉄道の気動車の車内

車内はボックスシートで、トイレもあります。
またボックスにはやや大きめのテーブルも付いています。

スポンサーリンク

チケットは一日乗車券か旅名人の九州満喫きっぷがおすすめ

島原鉄道の諫早から島原港まで全区間の運賃は1,540円。
営業距離が40㎞ちょっとなのを考慮すると高いです。
しかし、島原鉄道に有効なオトクなチケットが幾つかあります。

まず最初に紹介するのは「しまてつフリーパス」です。
一日用と二日用があり、島原鉄道の鉄道線・バス・フェリー(熊本行きの便ではない)がそれぞれの期間乗り放題です。
料金は一日用が3,000円、二日用が4,000円です。
使用できる曜日の制限等はないので、当日購入して乗車することができて便利です。

一日用は絶妙な価格設定となっており、鉄道で諫早と島原港を往復しても通常の往復運賃と変わりません。
島原港からバスで原城跡まで行くなど、精力的に動く必要があります。

もう一つおすすめのチケットが、JR九州の駅で買える「旅名人の九州満喫きっぷ」です。
これは「九州版青春18きっぷ」を拡大したような商品で、任意の3日(あるいは3人で)、JR九州の普通列車に加えてあらゆる私鉄(福岡の地下鉄や各都市の路面電車も含む)に乗り放題になります。
料金は10,800円(1回当たり3,600円)です。
利用する3日は連続する必要はありません。

島原鉄道だけでなくJRの普通・快速も利用する場合はこちらがおすすめです。
ちなみに私は長崎からJRで諫早へ、島原鉄道で島原港まで乗ってフェリーで熊本まで行き、さらに肥薩おれんじ鉄道を挟んでJRの普通列車で鹿児島まで、この切符を使い倒しました。
長崎と鹿児島では路面電車にも乗ったので、その日だけで2回分の元は取りました。

スポンサーリンク

乗車記:島原駅で途中下車

未明に長崎駅を発ち、諫早駅に着いたのは7時半前。
西九州の夜明けは遅く、ようやく辺りは明るくなってきた頃だった。
ここ諫早は長崎本線と大村線と島原鉄道が集まる文字通りの交通の十字路だったが、2022年にはさらに西九州新幹線が乗り入れている。
最近は半導体関連の投資も相次いでおり、県都長崎よりも景気が良いのではないかと思われる。

駅の隅にあるホームに停まっている島原鉄道の黄色いディーゼルカー2両編成に乗る。
無事に進行方向左側、つまり海側のボックスシートを確保。
通学時間帯なので高校生が次から次へと乗って来た。
不思議なことに、座席は空いているのに彼らは皆通路に一列に並んでいる。
「通学では着席禁止」のようなブラック校則のある学校なのかもしれないが、この後乗って来る人が座れないので、だとすれば迷惑な謎ルールである。

7時44分、軽やかに諫早駅を出発。始まりの高揚感に浸る間もなく次の本諫早駅に停車した。
すると2両編成の通路を埋め尽くしていた列がゆっくりと行進をはじめ、列車が動き出した時には車内はガラガラになっていた。
なるほど、彼らが通路に立っていたのはそのためだったようだ。(後で乗って来る人の問題は残るが。)

ローカル鉄道にとって高校生は最も重要な顧客である。
ただ、乗車するのがごく一部の時間帯に偏るので過大な投資が必要になるという問題がある。
今回のケースで言えば、たった一駅の通学輸送のためにこの列車は2両繋いでいるのだ。
また通学定期を使うので、鉄道会社からすると客単価が低い。

その後列車は、工場の隙間で肩身が狭そうにしているバス停のような駅を過ぎ、左手には干拓地が広がる。
東北地方か道央の穀倉地帯のような風景だ。

景色が良くなってきたので朝食にしよう。
西日本ではトビウオを「あご」と呼ぶ。
麦焼酎は昨夜の晩酌の残りを水で薄めたものだ。

さすがに私とて、通学中の高校生を満載した列車でこんな事をするほど非常識でもないので、すぐに車内が落ち着いて良かったと思う。
「そのまんまあご」は骨のバリバリした感触も内蔵の苦みも、全てそのままだった。
塩味だけで余計な味付けは無く、麦焼酎とも大変相性が良い。
思えば、長崎・福岡・大分と青魚が美味しい県はどこも焼酎は麦である。

愛野駅で残っていた客のさらに半分が降りた。
ここが雲仙市の中心のようだ。
そして我妻駅あづまを過ぎた頃に海が見えてきた。
なお、この2駅を繋げると「愛しの我が妻」となることから、両駅間の切符が人気らしい。
あいにく今日はそんなロマンチストはいなかった。

古部駅こべという海の傍にある小さな駅で行き違いのためしばらく停車。
上着を車内に置いて外に出ると、潮風が少しひんやりした程度だった。
有明海も駅前の集落も静まり返っている。

雲が分厚く、雲仙岳はほとんど見えなかった。
麓には畑や牧場が多く、遠方がせり上がっていて立派な裾野を持つ山なのだということは分かる。
この辺りでは牛乳やブランド鶏を生産しているらしい。

大三東駅おおみさきは「日本一海に近い駅」として有名で、ホームには願い事を書いた黄色いハンカチがはためいている。
たしかに「インスタ映え」な駅ではある。

その後も海沿いが続く。
健気な漁村の家の庭、あるいはテレビをつけた居間を覗き込むように列車が走る。
かと思うと、目の前には雄大な海と、少しずつだが姿を現してきた雲仙岳がある。
島原鉄道の本当の魅力はここにあるのではないかと思う。

島原駅で途中下車した。
ここは有人駅で売店まであった。
駅を出ると目の前には島原城が雲仙岳をバックにして聳えている。
城のパンフレットも正直に書いている通り、四万石の藩には過大なほど立派な造りである。

島原駅の駅舎も城に似せている
駅前より撮影

城内は郷土資料館になっている。
特に面白かったのが「隠れキリシタン」たちが使った、一見すると仏具だが実はマリア像だったり、小さく十字架が描かれている聖像など。
皮肉なものだが、弾圧によって人は創造的になり、戦争によって技術は進歩する。
それにしても、地獄絵図そのものの弾圧を覚悟のうえで祈りを唱えた人々の信仰とは、いったい如何なるものであったのだろうか?
それを考えるためにも、遠藤周作の「沈黙」を一読されることをおすすめする。

その後は武家屋敷や鯉の泳ぐ道などを散策した。
全部で2時間弱しかなかったが、最低限見るべきものは見れたように思う。

島原駅に戻り、終点までの残りの数キロに乗る。
今や雲仙岳がよく見える。
今度の列車は1両編成で、先ほどの列車を島原で降りた時よりも混んでいた。

僅か10分で終着の島原港駅に到着。
中高年の女性たちが「速かねぇ~」と感心している。
いったい何と比べているのだろうか?
島原駅と比べると実に簡素な造りで、終着駅としての威厳は全くなかった。

ところで、終点の先はまだ線路が続きそうな気配がある。
それもそのはずで、かつて島原鉄道はこの先の加津佐駅まで営業していた。
しかし、2008年に島原港~加津佐の35㎞が廃止された。
これ以上廃線区間が増えないことを祈るばかりである。

島原港からは熊本行きのフェリーか高速船が出ている。
フェリー乗り場までは数分歩く距離だった。
有明海を横断すれば、遅いフェリーでも1時間で熊本港に着くことができる。

スポンサーリンク

島原半島に「分相応な」鉄道

乗車記の章で記した通り、島原鉄道の見所は海や山が綺麗に見えるインスタ映えスポットではありません。
雄大な自然と沿線の人々のささやかな営みの対比こそが、島原鉄道の風景の醍醐味です。

島原城

島原藩は分不相応な規模の城のために藩主が領民から搾取を行い、それが島原の乱の原因となりました。
郷土の哀しい歴史を教訓にしてか、この小さな地方鉄道は等身大のディーゼルカーが等身大の速度で、地域の人々の生活を守っています。


コメント

タイトルとURLをコピーしました