廃止されゆく弱小な本線、留萌本線の乗車記【旧増毛駅までの廃線跡もバス利用】

ローカル線

留萌るもい本線は函館本線の深川駅から留萌駅に至る路線です。
かつては港のある留萌を拠点に貨物輸送でも活躍しましたが、乗客の減少により留萌~増毛ましけが廃止されました。
この先も段階を経て全線廃止されることが決まっています(後述)。

赤線が留萌本線
国土地理院の地図を加工して利用

2022年7月に留萌本線に深川から留萌まで乗車し、さらにバスに乗って旧増毛駅を訪れました。

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思ったほどガラガラでもなかった留萌本線

簡易リクライニングシート装備で快適なキハ54形

2018年12月の留萌駅

留萌本線のダイヤは単純で、1日7往復で区間運転の便もありません。
普通列車のみですが、一部の駅を通過する事実上快速のような列車もあります。
所要時間は1時間弱です。

車両はキハ54形という、道東や道北でよく見かける1両編成の古いディーゼルカーです。
昔急行列車にも使われていただけあって車内は快適で、2人用の座席が車両中央を向いている「集団見合い型」と呼ばれる座席配置です。
向きを変えることはできませんが、ひじ掛けの下の白いレバーを動かすと少しだけ座席を倒すことができる簡易リクライニングシートなのも特徴です。
また、車内にはトイレもあります。

キハ54形の座席
車両中央部はボックスシートになる

乗車記:車窓の見せ場はないが、途中の駅が魅力的

私が乗車したのは深川駅を11時過ぎに出発する列車です。
平日の中途半端な時間帯ゆえに、乗っているのは鉄道ファンだけかと思っていましたが、意外と土地の人も三分の一くらいは乗っていました。
進行方向左側の後ろ向きの席に座ります。

留萌本線の大まかな流れは、恵比島駅までは平坦な地形で、その後軽く山越えをして日本海側の留萌に出ます。
深川駅から札幌方面を向いて出発すると、開拓された水田地帯を走ります。
札幌~旭川の特急「ライラック」に乗っても似たような車窓ですが、電車特急に乗ると「内地」に感じられる景色も、窓の開くディーゼルカーでは「北海道らしさ」が感じられます。

と言っても正直なところ、留萌本線の車窓には特徴的な要素はありません。
その代わり各駅が醸し出す雰囲気はなかなかのものです。
一つ目の北一已駅きたいちやんからして、いかにも北海道らしい駅名が個性的です。
ここは1日の平均利用者が1人程度で、粗末な古い駅舎は静かに廃線の日を待っているようです。
どうしたわけか、花壇だけが手入れされています。

線内で強いて「主要駅」を挙げるなら石狩沼田駅でしょう。
ここで乗客が減り、残ったのは予想通り鉄道ファンらしき人達でした。

今や札幌の通勤圏のみになった札沼線も、以前はこの駅まで延びていました。

その後少しずつ両側から山が近づきますが、なおも平地を走ります。
恵比島駅はテレビドラマ「すずらん」のロケ地として有名になりました。
「明日萌」の駅名が付けられた木造のレトロな建物は旧駅舎を再築したセットで、その横にある小さな貨車のような建物が駅舎です。

明日萌こと、恵比島駅を出ると山越え区間になります。
何度も留萌川を渡りますが、車窓も実際の勾配もそれほど険しくありません。

時折見える深川~留萌の高規格道路が最近開通したことによって、留萌本線の存在意義はますます低下しました。

それまでは晴れでしたが、分水嶺を越えて日本海側に出ると曇りになっていました。
カーブの途中にある大和田駅には、ホームから少し離れた所に貨車を利用した駅舎が置いてありました。
はたから見ると忘れ去られた物置小屋です。

やがて市街地が見えてくると終点の留萌駅に到着です。

留萌駅

駅そばのある留萌駅

廃線目前の路線の終着駅と聞けば、自然に帰りつつある小さな駅をイメージするかもしれません。
ですが、留萌駅は1両編成の列車が数時間毎に発着するだけの路線とは思えない程の規模です

現在使われているのは1番線だけですが、2,3番線ホームも残っています。
2018年に訪れた時には利用できた跨線橋は、既に封鎖されていました。
1987年まではさらにその向こうに、日本海沿いに北上する羽幌線のホームがありましたが、現在は公園になっています。

駅舎も無機質なコンクリート造りで、国鉄風なものが好きな人にとっては、留萌駅は文字通り「萌える」と思います。

古めかしい雰囲気の待合所の片隅には駅そばがあります。
ここの名物は「にしんそば」で、ちょうど昼時だったこともあり多くの人が注文していました。

留萌駅のにしんそば
にしんそば
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廃止された留萌~増毛の沿岸バス

右手に海、左手に廃線跡

廃止済みの留萌~増毛の区間は留萌駅から沿岸バスで辿ることができます。(リンク先が同社ホームページの時刻表です)
駅前の停留所から市内中心部を経て旧増毛駅まで約35分です。

この区間は車窓が良いことで知られていましたが、バスもかなり留萌本線に忠実に走るので、右手にはどんよりした日本海を、左手には廃線跡を見ることができます。

駅から市街地部分までは結構乗客がいましたが、海が見えてくる頃からだんだん空いてきました。

廃線後に増築された増毛駅の蛸ザンギ

廃線後の増毛駅は取り壊されるどころか、開業当時の大きさに拡張して駅舎の外観や内部も当時の姿に近づけて、観光の拠点として活用されています。
特に天井部分の装飾は見物です。
札幌から車で来る人が後を絶ちませんでした。

旧増毛駅

観光シーズンには揚げたての「蛸ザンギ」が販売されています。
「ザンギ」とは勿論ソ連の格闘家の名前ではなく、北海道ではポピュラーな竜田揚げのようなものです。
食べ始めるとずっとガムみたいに嚙んでいたくなるとでも言いますか、とにかく500円とは思えない程の味・量で、洋ナシジュースにもよく合います。

ホームと線路も保存されていて、今にも行商人を乗せた魚臭い列車がやって来そうです。
間違いなく増毛駅が留萌本線で最も綺麗に整備されている駅でしょう。

駅周辺には豪商の旧宅や日本最北にある「國稀酒造」の酒蔵があり、「和人」の文化が色濃い漁業で栄えた町でした。

旧商家丸一本間家
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いずれは全線廃止か?

そもそも短い路線にもかかわらず、なぜ「本線」なのか

現状たったの50㎞、留萌~増毛を含めても67㎞に過ぎない留萌本線ですが、なぜ「本線」を名乗っているのでしょうか?
それは留萌本線の持っていた独自の役割にあります。

留萌を中心とした天塩地方の日本海側は、かつてニシン漁や木材・石炭の産出で栄えていました。
また、留萌~幌延(宗谷本線との接続駅)には羽幌線という路線もあり、留萌駅は人やモノの集積地として機能していました。
そのため、距離は短いながらも羽幌線を従える留萌本線には、北海道の日本海側と札幌・旭川といった中枢部とを結ぶ重要な役割が与えられていたのです。
昔の時刻表からも、そのことが読み取れます。

1967年10月号時刻表の路線図

留萌本線の1967年10月号時刻表
1967年10月号時刻表より

23年3月に石狩沼田~留萌、その3年後に残りも廃止

しかし、漁業は不振になり、60年代以降のエネルギー革命により石炭輸送も激減します。
沿線産業の衰退に伴い人口は減少し、そして道路整備も進んだことにより留萌本線は衰退の一途をたどります。

1987年3月には自身の倍以上の路線長を持った子分である羽幌線が廃止されました。
2016年には留萌本線の留萌~増毛も廃止され、全長50㎞程度の弱小ローカル線同様となります。
この時に「本線」を名乗る路線では筑豊本線を抜いて最短となりましたが、このタイトルは2021年に日高本線が部分廃止されたことで返上しました。

廃線部分から撮影した留萌駅

このあたりで留萌本線のさらなる縮小は時間の問題となり、JRと沿線自治体との間で2022年3月の石狩沼田~留萌、残った深川~石狩沼田も2026年3月に廃止されることが決定しました。

全線廃止までの道のりが示されたわけですが、人の生活する気配が全くない原野を健気に走る道東や道北のローカル線と比べると、留萌本線は余程恵まれた環境です。
しかし思えば中途半端に恵まれているだけに、訴求力のある北海道的な雄大な車窓風景や観光資源に乏しく、観光列車によって乗客を誘致することもできなかったのでしょう。
もちろんこれは一般的な話であって、SNS映えはしないものの、駅や町の随所に染み渡る留萌本線独特の雰囲気は私にとっては魅力的です。

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