【未来の記録】四国新幹線②、豊予海峡ルート編:四国から九州へ「ゆうなぎ」号が往く

我脳引鉄

全国で唯一の新幹線空白地帯となった四国。
近年は各県が一体となって新幹線誘致活動を行っている。
私はその構想が実現した未来(2038年と想定)をこの記事にて空想してみた。

四国新幹線の予想路線図
国土地理院の地図を加工して利用

ところで、四国新幹線の当初の計画案では、松山からさらに西へと線路は続き、豊予海峡を海底トンネルで通って大分に達することになっている。
この夢のような計画が実現すると、九州と四国が初めて1本のレールで結ばれるのである。
これからその夢も叶えることにしよう。
以下、四国同盟新聞の2039年3月の記事を引用する。

四国新幹線+東九州新幹線の路線イメージ
国土地理院の地図を加工して利用

(参考)
豊予海峡ルートに実現に向けて(大分市)
今後推進すべきインフラプロジェクト(JAPIC)

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四国新幹線豊予海峡トンネルルートが実現

もし15年前に「豊予海峡にトンネルを建設して四国と九州を繋ぐ新幹線をつくろう」と訴えたら、貴方はせいぜいロマンチスト、おそらくは国内の人口減少と財政状況を直視しない愚か者呼ばわりされたことだろう。
しかし、やたらと不安を煽るキャッチーな扇動ではなく、余計なことは言わず事実だけを語る時刻表を見るがよい。
四国と九州を結ぶ公共交通機関の1日当たりの便数は、福岡発の夜行バスが2便、飛行機は8便、そしてフェリーは愛媛県と大分県の間に30便以上が運行されているのである。(2024年実績)
とくに佐多岬の三崎港(愛媛県)と佐賀関港(大分県)との間で毎時運航される「国道九四フェリー」は、四国と九州との行き来の多さを示している。

愛媛県の八幡浜港から大分県の臼杵港へ向かうフェリー

また、九州は地方のなかでは比較的産業集積と人口動態が良好で、とりわけ福岡市は圧倒的な存在感を誇る。
豊予海峡トンネル建設によって、四国にも九州の成長力を波及させる効果が期待されたのである。

もちろん、費用のかかる海底トンネルの建設に対して懸念が無かったわけではない。
四国新幹線延伸区間の松山~大分の距離は約150㎞だが、その途中にある最も大きな大洲市(愛媛県)でさえ人口は3万人台に過ぎない。
そこで整備の説得力を増すために、おおまかに2点の工夫が行われた。

まず1つ目は、在来線と並行する松山~八幡浜やわたはまは純粋に新幹線を建設するのではなく、「新幹線電車も走れる高規格在来線を増設する」という名目で整備された。
同区間には特急「宇和海」(松山~八幡浜~宇和島)が運転されているが、「宇和海」の停車駅を経由する形で最高速度が160㎞/hの新線が建設された。
副次効果として松山周辺の反対列車待ち合わせが解消し、「宇和海」のスピードアップにも貢献している。

そして2つ目が肝要なのであるが、豊予海峡トンネルは新幹線単独ではなく、鉄道と道路の併用したトンネルとして建設された。
これは「第二青函トンネル」構想と同じで、下階に単線の鉄道が、上階に片側1車線自動車が通る2階建て構造となっている。

道路・鉄道併用2階建てトンネルのイメージ
出典:JAPIC 津軽海峡トンネルプロジェクト

海峡部はおよそ13㎞、前後の勾配区間も含めると豊予海峡トンネルの長さは20㎞程度となった。
50㎞以上もある青函トンネルと比べるとだいぶ短い。
また海底トンネル前後の区間も単線で建設されている。

出典:豊予海峡ルートの実現に向けて

筆者補足:上記図ではR=4000(数字が大きい程カーブが緩やかになる)、勾配25‰が想定されている。しかし200km/h台半ばで走るならR=2000でも十分だし、新幹線電車だけなら勾配の30‰越えも普通である。
こうした条件だと海底トンネルはもっと短くできるかもしれない。

道路整備との抱き合わせで反対意見の風当たりを抑え、かつ費用が抑えられたために実現のハードルが下がり、やや曲りなりにではあるが四国新幹線の松山~大分が開通した。
かくして、今まで中国地方にぶら下がる状態だった四国は横から九州にも支えられることになり、広い視点で見た西日本一帯の一角として強固に取り込まれたのである。

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四国と九州を繋ぐ新幹線「ゆうなぎ」

既に開通済みの四国新幹線区間と東九州新幹線に乗り入れることで、四国各地から博多駅に向かう列車の運転が実現した。
松山から新幹線・在来線特急共用の高規格路線で八幡浜まで約60㎞、40分の所要時間である。
八幡浜から大分までの距離は約90㎞で、最高速度260㎞/hの新幹線が30分で走る。
大分から博多まで速達タイプで40分なので、松山から博多まで合計の所要時間は1時間50分と2時間の大台を切った。
高松からは2時間半程度、徳島からも3時間前後だ。
一部には途中の四国中央駅から四国山地を横断して高知へ行く列車も設定された。

博多大分
松山1時間50分1時間10分
高松2時間35分1時間55分
徳島2時間55分2時間15分
高知2時間40分2時間
速達便(高松・丸亀・松山・大分・別府温泉に停車)の各駅間所要時間目安

なお、新大阪から四国新幹線経由で大分・宮崎に至る列車も検討された。
しかし四国での停車駅を最小限にしても大分まで約3時間かかり、山陽新幹線を320km/hで走る現行の「にちりん」より30分くらい所要時間が長くなるため実現しなかった。

さて、日本の鉄道有史以来初の四国・九州直通列車ということで、大いに問題となったのは列車名だった。
これまでの新規開業新幹線と違って、踏襲すべき前身がないのだから当然である。
四国と九州のどちらにも偏り過ぎないようになるべく抽象的なものに絞られ、そのうえで静謐な瀬戸内海にぴったりで、かつて宇高航路に接続する特急列車にも使用されたことのある「ゆうなぎ」が最終的に列車名に決まった。

余談だが、沿線に柑橘類の産地が多い四国新幹線は別名「柑橘ライン」とも呼ばれており、公募で集まった列車名の案には「みかん」(愛媛)・「かぼす」(大分)・「すだち」(徳島)・「ゆず」(高知)なども少なからずあったという。
そして最近では、みかんの生産量トップの和歌山県が「柑橘ラインの総仕上げ」として、同県への新幹線延伸(徳島から紀淡海峡経由で関西に抜ける案もあった)を国土交通省だけでなく農林水産省にまで陳情しているらしい。

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【実録】松山駅から博多行き「ゆうなぎ」に乗る

四国に新幹線が走り始めた昨年に続き、2039年も松山駅は大きな喜びに包まれた。
四国新幹線がさらに延伸して、海の向こう側の九州にまで達したのである。
開業の熱気も落ち着いた3月某日、我ら四国同盟新聞取材班が松山駅から博多駅まで「ゆうなぎ」に乗車した。
今回乗車したのは徳島駅始発の便。
従来の10000系をベースにJR九州と共同開発した豊予海峡ルート専用の11000系が運用に就いている。

四国新幹線車両のモデルとなったフリーゲージトレイン試作車
四国鉄道文化館にて

松山駅を出発して高規格在来線を走る。
秋田新幹線や青函トンネルと同じで、狭軌・標準軌(線路幅のこと)両方の列車が通れるように線路が3本ある。
スピードも160㎞程度と、新幹線というより特急をもう少し速くした感覚だ。
ホームが新幹線電車に対応していない伊予市駅や内子駅には停車しない。

隣の席には大分県の調味料製造メーカー勤務の40代前半の男性がいた。
四国各地の小売店や飲食店を営業で回った帰りだという。
「調味料は食文化の基本であり、その意味で九州と四国には共通の文化があると思っています。例えば四国でも麦味噌や甘口醬油をよく見かけますよね。だから私どもにとって四国は非常に魅力的なマーケットなんです。現在弊社では鯛めしやカツオのたたき専用のタレを開発しています。九州と四国がレールで繋がったのを機に、新しい食文化を創造していきたいと考えているのです。」

みかんの産地として知られる八幡浜駅やわたはまに到着。
ここからがいよいよ本格的な新幹線区間である。
佐多岬半島の風景を楽しみたいところだが、あいにくトンネルが多いのは致し方ない。

フェリーから眺めた佐多岬半島

前方の席で写真を自撮りしていたのは20代の女性グループだった。
旅行初日は有馬温泉、翌日は四国新幹線「しおかぜ」に乗って道後温泉へ、そして今日は「ゆうなぎ」で別府温泉に行き、西日本三大名湯巡りが完結するのだという。

私(主筆者)の横にいたカメラマン氏が「あの子たちを見て考えついたんですけど。」とだしぬけに言う。
「瀬戸内海の向こう側には、四国新幹線と平行して山陽新幹線が走っているわけですよね。それを利用して時刻表トリックを用いたミステリーを作れませんか?有馬・道後・別府、西日本三大名湯・女子大生連続殺人ルートなんていかがでしょう?アリバイ工作は岡山駅とか松山駅あたりでやるんです。」
「四国と九州を舞台にした作品なら、松本清張の『渡された場面』があったね。」
「プロットは貿易戦争による肥料高騰と輸出規制に苦しみながら人手不足ゆえ外国人労働者に頼ってミカン農家を経営する老夫婦、健気な彼らを脅迫する悪質ブローカーや不動産ファンドとその背後にいる政治家。そいつらの娘さんたちが富裕層向け温泉旅館で次々と事件に巻き込まれるんです。」
「いかにも社会派推理小説っぽいじゃないか。清張が今の世に生きていればそんな作品を書いたかもしれんな。」

やがて「ゆうなぎ」は警笛を鳴らして豊予トンネルに突入した。
先ほどまで馬鹿話に興じていた取材班一同も神妙な顔つきとなる。
青函トンネルと違って貨物列車とのすれ違いの問題がないため、海峡区間でも高速走行が可能だ。
ちなみに四国への入り口が2つになったことで、1982年の仁堀航路廃止以来実に57年ぶりにJR線の最長片道切符のルートに四国が組み入れられた。

九州上陸を果たしたのは僅か5分後であった。
程なくして大分駅着。
この駅は四国新幹線と東九州新幹線、すなわちJR四国とJR九州の境目なので乗務員が交代する。

次の別府温泉駅では先ほどの女性客たちがホームから会釈してくれた。
カメラマン氏が「ご無事で。よい旅を。」と呟く。

「ゆうなぎ」はもう大分県を過ぎただろうか。
我々の後方には、福岡県を拠点とする通信会社勤務の30代前半の男性が座っていた。
「我が社ではデータセンターの新設を計画していて、その候補地に挙がっているのが香川県のとある工場跡地です。広い土地が安く確保できそうですし、災害が少ない地域なのでリスク分散の点でもメリットがあります。昨日現地の自治体関係者に我々がもたらす地元経済への波及効果を説明させていたただきました。豊予トンネル開業以来、四国に九州資本が相次いで進出しているので、関西勢は警戒しているなんて話をよく聞きますね。」

松山駅出発から2時間も経たないうちに終点の博多駅に着いた。
いやはや、悔しいが松山や高松が田舎に思えるくらい都会である。
「四国民の我々も負けてられん。ここで一旗揚げようではないか。」
そう言って我々取材班は中洲の屋台へと繰り出したのであった。
(了)






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