【未来の記録】新・山陽九州新幹線(①鹿児島編)、N500系が320㎞/hに高速化

我脳引鉄

500系新幹線が国内初となる300km/h運転を開始したのは1997年。
「未来の新幹線」を思わせる斬新なデザインは、今なお子供だけでなく大人も惹きつけてやまない。
一方で山陽新幹線(新大阪~博多)の高速化はそれ以来進んでおらず、国内最速の座も東北新幹線に譲っている。
そこで、山陽新幹線とそれに接続する九州新幹線(博多~鹿児島中央)で320㎞/hが実現した未来を考えてみた。

500系新幹線

以下、九州に本社を置く鎮西ちんぜい新聞」から2037年3月某日の記事を引用する。

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【概要説明】320㎞/h運転で新大阪発博多まで1時間58分、鹿児島まで3時間4分

大阪から福岡を経て鹿児島に至る山陽・九州新幹線は、距離(実キロ)にして約800㎞、沿線の都市圏人口の総数は3千万人に及ぶ西日本随一の回廊である。
2027年に引退した伝説の500系新幹線が、1997年に国内初の300km/h運転を開始したのも山陽新幹線だった。
そして当時の新大阪・博多間2時間17分という記録は、実に40年ぶりとなる本日を以て更新されることとなった。
JR西日本とJR九州が共同開発した新型車両のN500系が、新大阪~博多~鹿児島中央で320km/h運転を開始したのである。
特に九州新幹線区間では最高速度が260㎞/hから60㎞も引き上げられた。

赤線が山陽・九州新幹線
国土地理院の地図を加工して利用

停滞していたスピードアップがようやく実現した最も大きな契機はリニア中央新幹線開業だった。
それまで「のぞみ」の東京・博多間の所要時間は5時間弱と、あまり実用的な移動手段ではなかった。
ところが、東京・大阪間がそれまでの2時間半から1時間余りに短縮されたことで、京阪神地区にとどまらず、関東から九州への需要を取り込む目途が立ったのである。

もとより、320km/h運転自体は東北新幹線でE5系が2013年から行っている。
N500系の強みは比較的カーブの多い山陽新幹線でも、数カ所の例外を除き320㎞/hで巡航できる曲線通過速度の高さにある。
さらに九州新幹線に点在する急勾配区間でも250㎞/h程度で上り下りでき、結果として加減速性能も大幅に向上した。

基本は8両編成だが、併結して16両編成で運用もできる。

500系のプロトタイプのWIN350

N500系による新大阪発鹿児島中央直通列車は1時間に3本設定された。
各列車の愛称・途中停車駅と所要時間を以下の表にまとめる。

博多久留米熊本新八代川内鹿児島中央その他停車駅
つばめ1:582:253:04なし
はと2:102:252:423:20新神戸・姫路・小倉
ひばり2:072:342:453:103:21新神戸・岡山・広島
旧みずほ2:242:583:42新神戸・岡山・広島・小倉
表1:新大阪駅からの所要時間を(時間:分)で表記
旧「みずほ」は2024年当時の最速(1日1便だけ)

新大阪から博多までノンストップの最速列車の列車名には「つばめ」が返り咲いた。
同区間の所要時間は1時間58分と2時間を切り、鹿児島中央までも3時間4分と大幅なスピードアップが実現した。

はと」も由緒正しき列車名である。
ひばり」は昔の上野・仙台間特急電車に使われたが、ヒバリが熊本県の県鳥であることから、この度九州の地に復活した。
「はと」と「ひばり」は途中停車駅を互いに分散させながら、博多・熊本・鹿児島への所要時間はほぼ同じになっている。

実際のダイヤを以下の表で示す。

行き先新大阪岡山小倉博多熊本鹿児島中央
つばめ鹿児島8:00(8:35)9:5810:2511:04
やくも出雲市8:038:53
はと+めじろ鹿児島・宮崎8:12(8:55)10:0510:2210:5411:32
のぞみ博多8:219:0010:2410:40
しおかぜ松山など8:249:13
ひばり+かもめ鹿児島・長崎8:409:2010:4711:1412:01
ひかり広島8:459:32
こだま岡山8:509:49
表2:各駅到着時刻、カッコ内は通過時刻

読者ご存じの通り、つい最近になって揉めに揉めた西九州新幹線が全通した。
「ひばり」は長崎行き「かもめ」を併結し、博多駅で切り離す。
またJR九州によると、2037年現在では建設中の東九州新幹線(小倉~大分~宮崎)についても、開通後は「はと」から小倉で切り離された「めじろ」が走る予定らしい。
やはり最近開通した山陰新幹線や四国新幹線も岡山まで山陽新幹線を通るので岡山まで列車本数が多いが、鹿児島中央行きの速達列車も邪魔されずに走ることができる。

N700Sで運転される東京発「のぞみ」も含めて、博多まで1時間当たり4本、熊本まで3本、鹿児島中央は「ひばり」の3分後に「つばめ」が到着するので事実上2本の列車が設定されている。
京阪神対鹿児島の新幹線輸送シェアは、最速列車でも4時間弱を要していた2020年代初頭には20%程度と苦戦していたが、高速化・増発・停車駅分散によって航空機に対する大幅な競争力強化が期待されている。

また、リニア中央新幹線で品川から新大阪まで67分かかる。
新大阪駅での乗り換え時間が8分なので、1時間15分を表1の最速「つばめ」の所要時間に加えると、東京からは博多まで3時間13分、熊本まで3時間40分、鹿児島は4時間19分となる。
本数の多さも考慮すれば熊本までは航空機に対して互角程度、鹿児島でもそれなりに対抗できると思われる。

人口と産業が集中する東京~大阪~九州は、国内で最も華やかな回廊である。
鉄道が「陸の王者」と呼ばれていた1950年代半ばには、各等級座席車・寝台車に食堂車を備えた長距離急行が社会の縮図として君臨し、高度成長期の1960年代~70年代にかけてはその最盛期を迎えたブルートレインが文字通り列をなして人々の夢を運んだ。
そして本日飛翔した3羽の新幹線は、これら往年の名列車が生まれ変わった姿であると言えよう。
ここに鉄道復権は実現した。

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【実録】鹿児島中央→新大阪の「つばめ」に乗る

2037年3月某日、南国鹿児島はすっかり麗らかな春の気配である。
本日のダイヤ改正によって登場したN500系「つばめ」に乗って、鎮西新聞薩摩支部取材班の我々は鹿児島中央駅から新大阪駅を目指す。
思えばパリ万博で幕府の「日本国」とは別に「薩摩」として別個の展示場を設け、そして倒幕を実現した1867年の快挙から170年。
そして1877年、南洲翁こと西郷隆盛を盟主とした西南戦争の敗戦から160年という、薩摩隼人にとっても節目の年である。
新幹線高速化、即ち文明開化に関する取材ならば西郷隆盛よりも大久保利通を讃えるべきであるが、ここは人情ということで鹿児島の読者諸氏なら許してくださるだろう。

さて、お国自慢はほどほどにしなければならぬ。
8両編成の「つばめ」が鹿児島中央駅を発車した。
すぐにトンネルに入り、急勾配を登っていることが体感されるのだが、N500系はお構いなしにぐんぐんと加速していく。

我々と通路を隔てて座っていたのは、大阪の小売店へ営業に行くという、鹿児島の焼酎メーカー(A社)勤務の20代後半の女性A氏だった。
彼女はもともと芋焼酎が苦手だったが、臭くなく飲みやすいA社の銘柄に感動して転職を決意したという。
「実は地元のお酒好きからはフルーティーで軽快な芋焼酎は邪道だと言われてるんです。ですが私がそうだったように、お酒が苦手な都会の若い人にも焼酎の良さを知って欲しいんです。今後は関西から多くの方が鹿児島に観光に来るでしょうから、旅行で焼酎ファンになった人が帰ってからも自宅で飲んでくれることを期待して、弊社では大阪を中心に営業強化を図っているんですよ。」

彼女の言葉は標準語だったが、時おり感じられる歌うような訛りに薩摩弁の片鱗を聞いた。
トンネルの合間に八代海とミカン畑が見え隠れし、平野に出ると海の向こうに天草列島や雲仙岳が浮かび上がった。
やがて熊本駅に到着。
ここで「つばめ」は増結して16両編成となる。
熊本から需要が増えることもあるが、鹿児島中央駅のホームは16両に対応できないという事情もある。

熊本駅から我々の前の席に台湾人の家族連れが乗ってきた。
30代半ばの父親T氏は半導体世界大手のT社社員で、数年前から熊本に勤務している。
「うちの会社は激務なのですが、久々に休暇が取れたので家族旅行です。子供と妻の希望で今日はまず新幹線とリニアで東京まで行きます。その後名古屋・大阪にも滞在して熊本に帰ります。」
小さい頃祖父が教えられたこともあって流暢な日本語を話す。

戦前、台湾は日本の植民地だった。
しかし今や九州、特に熊本にとってT社の本社がある台湾は「宗主国」である。
2020年代前半、各県の知事たちは半導体関連の工場を誘致するために台湾へ「朝貢」したものだった。
豊富な水資源と安価な電力に恵まれた熊本に半導体産業が集積し、その経済効果は九州全体に波及してシリコンアイランド復活に至った。

しばらく平野が続き、背振山地を急勾配トンネルで越えると眼下に福岡平野が広がる。
熊本から博多までは僅か25分だった。
イチゴや明太子のイラストが描かれたお土産袋を持っている客がたくさん乗って来て、車内はほぼ満席である。

30年も前から人口減少時代に突入した我が国において、福岡市は依然として人口増加が続いており、その数は170万人に迫っている。
また北九州市も含む北九州・福岡大都市圏の人口は500万人を超える。
かつて三大都市に続く札幌・仙台・広島・福岡は「札仙広福」と呼ばれていたが、その中で福岡の規模と成長率は突出しており、2030年代になってからは東京・名古屋・大阪・福岡を「四大都市」と括るのが一般的になっている。

福岡市

「つばめ」は山陽新幹線区間をノンストップで走る。
九州男児としては気持ちが良いものだが、ここは広島・岡山を通過するダイヤを承認したJR西日本の英断に敬意を表したい。
小倉駅を通過してまもなく新関門トンネルに入り、九州に別れを告げた。

急勾配のない山陽新幹線は主要駅付近を除き、ほぼ320㎞/hで走り続ける。
しかし徳山駅前後には規格外のカーブがあって、N500系でも200㎞/h台前半に落ちる。
眼の前には大きな化学工場があって、その向こうの穏やかに煌めく瀬戸内海と対照的だった。
もっとも、穢れなき自然はもちろんだが、情報産業の時代にあっては重厚長大な工場さえ、もはやノスタルジーの対象である。

後ろの席に座っていたのは福岡に赴任している金融機関B行勤務の40代前半の男性B氏で、これからリニアを乗り継いで東京の本社に行くという。
「今まで東京行きは飛行機でしたが、新幹線とリニアは速くて移動中の仕事もはかどりますね。福岡はいい所ですよ。本社から仲間が来た時に案内するラーメン屋と居酒屋の開拓には日々余念がありません(笑)。福岡勤務だとアジア各国からのお客様も多いです。」

博多駅出発から1時間58分で終着新大阪駅に着いた。
スーパーの「イチキュッパ」みたいなセコさは否定できないが、それでも高速化のインパクトは大きい。
「つばめ」に乗っていた客の多くがリニア中央新幹線乗り換え口に急いで行った。

ここで我々薩摩支部の取材は終わり、これから夕方の西九州新幹線直通「かもめ」に乗車する肥前支部に引き継ぐことにする。
続きは新・山陽九州新幹線(②長崎編)にて。

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鉄旅遊民管理人あとがき

ダイヤの部分で触れた西九州新幹線・東九州新幹線・四国新幹線・山陰新幹線については、別の記事で詳しく自説を開陳したいと考えている。

ちなみに鹿児島中央から新大阪まで「つばめ」に乗車したA氏の出張目的について、当初案は「実は芋焼酎がお好み焼きにも合うことを説得するために、大阪の飲食店に営業に行く」というものだった。
私はこの仮説を検証するために、猛暑日に自宅でお好み焼きをつくって芋焼酎とペアリングさせてみたのだが、どう工夫しても合わなかった(結局はビール一択)ので設定を変更した。

今後も旅行と勉強を積み重ねながら、実体験とデータに基づいた妄言を吐き続けていきたい。






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