未来の記録】山陰新幹線(後半)・広島から可部線ルートの「かぐら」が運行開始

我脳引鉄

これまで「未来の記録」シリーズで未実現新幹線計画を勝手に進めてきた。
山陽道・西海道(九州)・南海道(四国)ときて、ようやく山陰道である。
これで「私的日本列島改造計画」の西日本版がひとまずは完成する。

最終的な山陰新幹線は文字通り「東西二本立て」となり、本記事の内容は山陰新幹線の後半である。
後半では広島~浜田・益田ルートで実現した「西山陰新幹線」について記す。
以下、山陰地方の地方紙「五ヵ国連盟」より2042年3月の記事を引用する。

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【前置き】出雲と石見

昨日、取材班は岡山駅から新幹線「やくも」に乗って出雲市駅まで来た。
今日はまず山陰線特急「まつかぜ」で島根県西部の益田駅へ向かう。
「まつかぜ」は出雲市駅を出発すると程なくして平野が尽き、線路はあっという間に断崖絶壁に追い込まれた。
この辺りが律令制における出雲と石見の国境である。

国境付近の車窓

「朝のコーヒーが飲み終わらないうちに絶景じゃないですか。それにしても鉄道が開通する前は出雲と石見との交流は難しかったでしょうね。」
とカメラマン氏も驚く。
「君もたまにはいい所に目を付けるね。」

前回記事で出雲のズーズー弁について述べたが、石見弁は広島弁に近く出雲弁との類似性はあまりない。
酒飲みのカメラマン氏に後で聞いたのだが、日本酒の特徴も出雲は淡麗辛口、石見は濃醇甘口の傾向があるそうだ。

前置きが長くなった。
要するに島根県と一括りにされている出雲と石見は、風土的に異なる地域なのである。
そんなわけで国交省大臣を屈服させた例の島根県知事が、出雲以上に地理的に僻遠の地である石見にも目配りしたのは当然だったのだ。
それが西山陰新幹線(広島~浜田・益田)である。

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【ルート】可部線の廃止&未成区間が西山陰新幹線として復活

西山陰新幹線は山陽新幹線広島駅の西から分岐し、中国地方を北に横断する。
途中で広島市郊外の広島西口、そしてかつての可部線の終着駅付近に設けられた安芸三段峡温泉を経て、特急「まつかぜ」も停車する山陰本線の三保三隅駅みほみすみに達する。
そしてそのまま浜田駅に向かう線路と、スイッチバックして益田駅に向かう線路が分岐するのだが、両方とも米子~出雲市と同様に在来線特急と新幹線併用路線となっている。
また広島~三保三隅の新幹線区間は山陰新幹線よりさらに低い規格で建設され、最高速度は200km/hにとどまる。

青線は既存の山陽新幹線、赤線は山陰新幹線、オレンジ線が西山陰新幹線
国土地理院の地図を加工して利用

広島~三保三隅は75㎞。
200km/hで走ろうが300km/hで走ろうが大して変わらない距離である。
それはともかく、可部線(横川~あき亀山)はもともと終点の三段峡駅(2003年廃止)からさらに北進して浜田駅まで延びる予定だったから、西山陰新幹線はその計画をアップグレードしたうえで復活させたものとなった。
なお安芸三段峡駅は実際には安芸太田町の中心地につくられ、景勝地の三段峡まではバスかタクシーでのアクセスとなる。

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新大阪から浜田・益田まで「かぐら」で2時間30分

西山陰新幹線の列車名として、JR西日本は往年の列車から「いそかぜ」「さんべ」を候補として挙げた。
しかし弊社と島根県は「山陰新幹線と西山陰新幹線は同格である」という原則に従い、山陰新幹線「やくも」と同様に神話にちなんだ「かぐら」を提案し、最終的に了承された。
これは伝統芸能である石見神楽から採った列車名である。
かくして、新幹線列車「やくも」「くにびき」「かぐら」に在来線特急「はくと」も加え、山陰の地はより一層神々しい空気に包まれることとなったのである。

在来線特急時代の「やくも」

「かぐら」は新大阪から岡山まで「やくも」と併結して走る。
そしてここが山陽新幹線のダイヤで最も巧妙な所なのだが、次の停車駅の福山で米子方面から来た「くにびき」(出雲市~広島)と併結するのである。

つまり「くにびき」からすると、吉備駅での「やくも」との別れを悲しむ間もなく、今度は福山駅で「かぐら」と出会うのだ。
まことに八百万の神々らしい人間臭い戯れではないか。

国土地理院の地図を加工して利用

途中駅での分割併合なども含め、「かぐら」は新大阪~広島まで1時間35分程度を要する。
西山陰新幹線で三保三隅まで35分、そこから浜田または益田駅へは10数分。
トータルでは新大阪から2時間半くらいで両都市に行けるようになった。

山陰地方のなかでもとりわけ中央からの時間距離が長かった石見国にとって、交通革命というべき出来事である。
さらに、今まで鉄道が使えなかった広島~浜田・益田が高速列車によって1時間未満で結ばれたことは、広島を中心とした中国地方の交通体系構築という観点からも意義のあることであった。

安芸三段峡浜田・益田
広島20分50分
新大阪1時間55分2時間25分
東京(品川)3時間10分3時間40分
各駅間の所要時間
東京からの時間はリニア中央新幹線乗り継ぎ

新幹線とはいえ速度が比較的遅く、短距離利用も促すために特急料金はかなり抑えめに設定された。
また九州の博多南線のように気軽に乗ってもらえるように、広島~広島西口の特急料金は僅か200円となっている。

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【実録】西山陰新幹線「かぐら」で益田から広島へ

益田駅(2019年)

出雲市駅から特急「まつかぜ」で益田駅に到着した。
ここは山陰本線から山口線が分かれる駅。
とはいえ、新山口で山陽新幹線に連絡する特急「スーパーおき」が走る山口線と比べ、益田より西の山陰本線は普通列車しかない超ローカル線で、実態としては山口線の方が「本線」となっている。
駅前は地方の小都市なりにホテルや役所があった。

ひと休憩してから「かぐら」に乗って広島駅へ向かう。
車両は昨日の「やくも」と同じW8系だ。
益田駅から三保三隅駅までは先ほど来た共用区間を戻る形となる。
「さっきも思ったんですけど、今までの在来線だとこの辺りは景色が良かったですよね。特に国鉄型気動車に乗ると風情がありました。それに比べて新線はトンネルばかりでつまらないな。」
とカメラマン氏がぼやく。
「そういう『懐古鉄』と呼ばれる連中のような考え方はよろしくない。鉄道というのは文明なのだ。本来はノスタルジーに浸りながら感傷を味わう対象では決してない。」
と言ってはみたものの、本音では私も同感ではある。

三保三隅駅で進行方向が変わり新幹線区間へ。
乗っている感じでは新幹線と特急の間くらいのスピードだ。
益田から乗っていた隣の席の女子大学生は、広島で野球観戦と買い物をして日帰りだそうだ。
気軽に都会に行けるようになって嬉しそうだった。
「やっぱり若い女性は都会に憧れるものなんですね。」
「まあ、それは仕方あるまい。それでも九州における福岡市のように、広島市が中国地方の『人口流出を止めるダム』になればある程度は地元とのつながりは保たれるから、東京に出てしまうよりはいいだろう。その点からしても、西山陰新幹線開業は意義のあることだよ。」

そんな話をしているうちに安芸三段峡駅を通過したはずなのだが、単線区間の小さな駅ゆえに不覚にも気が付かなかった。
新幹線にしてはカーブが多いとはいえ、渓谷を縫うように走った可部線の廃止区間を思うと隔世の感を禁じ得ない。

意外なことに外国人旅行者が一人いた。
スペイン人の彼は英語が使えたので話を聞くと、大阪を拠点に松江城・出雲大社・玉造温泉・石見銀山・津和野を周ってきたという。
「私の住むスペイン北西部のガリシア地方も冷涼で雨の多い辺境の地です。しかし世界中から信者が巡礼に訪れるカトリックの大聖堂があります。日本を代表する出雲大社のある山陰地方と不思議な縁を感じるのです。漁業が盛んなことも共通していますね。昨日の夕食はカニ・ノドグロ・アンコウなどご馳走でしたよ。それに世界的な銀の産地だった点もスペイン人として興味があります。(編集部注:石見銀山の最盛期と同時期にスペインは南米で銀を大量に生産した)
城・神社・温泉・産業遺産・街並み・グルメ…、どれも一級の観光資源を有する山陰の魅力にようやく人々が気づきつつあるようだ。

広島市の郊外の広島西口駅からも結構客が乗ってきた。
新幹線の乗客というより、ちょっと近所に出かけるといった感じの風貌だった。
やがて山陽新幹線と合流して終着の広島駅に着く。
これで今回の取材は終了だ。
駅ビルの店で軽く祝杯をあげてから、「くにびき」に乗って本社のある松江へ帰る。

昨日と違って日本海側もよく晴れて、雪もだいぶ解けたようだ。
「山陰も明るくなりましたね。」
光輝く大山を見上げながらカメラマン氏がしみじみと口を開いた。
(了)




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