日本では絶滅危惧種になってしまった夜行列車。
西ヨーロッパでも運行が徐々に縮小されていることを知っている人もいるかもしれません。
そんな中にあって、自国と周辺国との間でに多数の国際寝台列車を走らせているのがオーストリア国鉄です。
「ナイトジェット(NJ)」のブランドで夜行列車を運行し、車両だけでなく乗務員によるサービスも高い水準を誇っています。
「ナイトジェット」の名前が使用される直前の2016年10月に、北ドイツのハンブルクからオーストリア首都の首都ウィーンまで、私が夜行列車の寝台車で移動した時の様子を紹介します。
ナイトジェットになってから塗装は変わっていますが、車内の内装はさほど変わっていません。
2022年現在、2階建て車両はこの区間では運用されていません。
この車両はウィーン~チューリッヒ、ハンブルク~チューリッヒの便に使われているようです。
ナイトジェットの編成
大まかに言って、座席車・クシェット(簡易寝台)・寝台車の3つの設備があります。
座席車は昔ながらのスタイルの6人用のコンパートメントです。
当然一番安い設備です。
クシェットは日本の開放寝台と同じような云々、と言いたいところですが、残念ながらそれは死語になってしまいました。
クシェット(簡易寝台)はドミトリータイプの相部屋の寝台が2列ずつ各部屋に並んだものです。
各ベッドにカーテンは無くプライバシーではあまり確保されませんが、安い追加料金で横になることができます。
4人用(2段ベッド2列)と6人用(3段ベッド2列)があります。
寝台車にはトイレシャワー付きのデラックス寝台と、そうでない寝台の2種類があります。
また個室寝台を貸し切りにするか相部屋で使うかも選択でき、当然貸切る方が高くなります。
デラックス寝台車乗車記
2階建て車両のトイレシャワー付き個室を利用
始発となるハンブルク・アルトナ駅から乗車します。
もちろん旅行者が普通使うのは中央駅の方ですが、やはり最初から乗っていたいものです。
2階建て寝台車は存在感がある。
トイレシャワー付きのデラックス寝台の部屋は2階部分にあります。
ヨーロッパの寝台車はベッドが昼間の座席を兼ねていることが多いですが、このタイプの車両の個室は広く、ベッドと席・テーブルが別々になっています。
日本の「サンライズ出雲」のシングルデラックスに似た感じです。
私は1人用として予約していたのでベッドは1つしかありませんが、2人用として予約すると上段のベッドも使われます。
シングルなので上段ベッドは格納されている
この2階建て寝台車は珍しいタイプで、大半のナイトジェットは平屋建ての構造です。
朝食などのサービスが充実
まず検札の時にウェルカムサービスとして、車掌がプリンのようなデザートを持ってきてくれます。
彼らには様々な車内サービスでお世話になるので、車掌というより「クルー」と表現すべきでしょう。
またテーブルにも水やスパークリングワインなどのドリンク類や、アメニティグッズなどがバッグに入って用意されています。
ナイトジェットのサービスで特筆されるのは朝食です。
寝台車の乗客には無料で提供される朝食は、渡されたリスト(3か国語)の中から好きなものを6つ選んでチェックするというシステムです。
コーヒー・ジュース・パンなどの他、バターやジャムも一つに数えられます。
好きな品目を6つ選べる。
朝食が提供されるのはたいてい目的地到着の30分前です。
私にとって、こんな嬉しいモーニングコールはありません。
眺望の良い2階から丘陵地帯やウィーン郊外を見ながら、夜行列車の旅の最後のひと時を過ごしましょう。
ちなみに乗客がチェックを入れた品物は、夜間に途中駅で積み込まれるというシステムのようです。
またナイトジェットには食堂車などはありませんが、軽食やアルコール類もクルーに注文することができます。
朝食は何を選ぶ?リピーターのおすすめを紹介
これまでナイトジェット寝台車に何度も乗った私が朝食の品目で何を選ぶかを少しアドバイスすると、まず特段の事情が無ければコーヒー・紅茶+パンはほぼ確定でしょう。
それから、写真の通りパンは大きなもの(質量も結構ある)が2つなので、パンに付けるものが欲しいです。
無難にバター(日本のものより芳醇)でも良いですし、私のおすすめはレバーペーストです。
水は前日から配られていますが、車内は乾燥しますしビタミン補給も兼ねてオレンジジュースがあった方が良いかと思います。
以上で4品なので、あとはあまり戦力バランスを考えず好きに注文してください。
私はたいていターキーハム(smoked turkey breast)とフルーツ入りヨーグルトにします。
ウィーン中央駅のOBBラウンジが使える
オーストリア国内の主要駅には1等車の乗客専用のラウンジがあり、夜行列車の寝台車(割引料金も含む)の乗客も利用することができます。
無料でコーヒーなどを飲みながら自由に過ごすことができます。
Wi-Fi・トイレも利用可能です。
出発前、あるいは到着後、駅の混雑とスリの危険をよそに、安全快適に時間をつぶせます。
予約方法と費用
予約はオーストリア国鉄のサイトで
一番良いのがオーストリア国鉄のサイトから直接予約・購入することです。
以下、予約方法を写真付きで説明します。
パソコンを使っていますが、スマホでも同様にできます。
オーストリア国鉄のサイト(英語)にアクセスします。
画面右下のところに、出発地と到着地と日付を入力して「Book ticket」に進みます。
予約画面になったら、赤鉛筆で示した帯の所をクリックします。
指定した日時・ルートの旅程の候補が出てくるので、ハンブルク中央駅(Hamburg Hbf)20:29発の「NJ」を選びます。
列車を選択するとまずは料金プランのようなものが出てきます。
一番上の「Sparschiene」は最も安いが変更・取り消し不可という制限があります。
航空機などの早割と同じです。
ご覧の通り早めに予約すれば追加料金なしの座席車なら、29.9€で移動できてしまいます。
先ほどの画面から下にスクロールすると、設備が選択できます。
寝台車の場合はエコノミーかデラックス(トイレシャワー付き個室)を何人用(≠何人で)で利用するか、で料金が変わってきます。
例えば1人で3人用として個室を予約すると相部屋になる可能性があります(男女区別あり)。
希望する設備を選択し、性別やベッドの段の希望(上中下)を入力したら画面右上の「Add to basket」に進みます。
設備選択を終えたら、名前を入力して支払い・確認画面です。
メールアドレスとクレジットカードの情報を入力します。
購入に成功したらメールが届きますが、メールそのものはチケットではありません。
メールの中にチケットをダウンロードできるリンクがあるので、そこからPDFを印刷したものがチケットです。
私は家にプリンターがありませんが、保存したものをコンビニで印刷しています。
お疲れさまでした。
費用
予約方法の説明の際に触れたように、一番制限の厳しい「Sparschiene」で座席車を早めに予約すると30ユーロ程度で済みます。(必ずしもこの価格ではない)
定価が100€以上ですから、日本のえきねっとの早割よりもはるかに割引率が高いです。
ただし割引がきくのは乗車券部分のみで、寝台車などの追加料金はそれほど変わりません。
寝台料金は一番安い3人用で80€程度、トイレシャワー付きのデラックスにするとさらに20ユーロ増し、一番高いシングルでのデラックス寝台は170€くらいになります。(これも列車・時期により変動あり。)
もっとも一人でデラックス寝台を貸し切っても合計200€で済むわけで、そのサービス水準を考えると安いと思います。(「サンライズ出雲」の東京~出雲市で付帯サービスのないシングルデラックスの利用でも28,000円以上します。)
このようにナイトジェットは同じ列車においても、価格に敏感な層と追加料金を払っても快適に移動したい層の両方を満足させることができています。
寝台車の車両について
今回紹介していたのは2階建て車両ですが、ナイトジェットの寝台車全てがこのタイプではありません。
枕木と平行にベッドがあり、昼間は座席としても利用する一般的な車両もあります。
予約する時に車両を見分ける方法は明らかではありませんが、3人用デラックス寝台が選択可能か、が一つの基準ではないかと思います。
このオプションが無い場合は2階建て車両、というのが私の仮説です。
設備選択の時に写真が見れますが、実際に3人用デラックス寝台がある場合と無い場合では写真が違います。
これは公式の情報ではないので、あくまで参考にしてください。
平屋建て車両と思われる。
2階建て車両と思われる。
欧州の夜行列車の救世主
冒頭にも述べた通り、オーストリア国鉄は国際夜行列車の運営に積極的で、ドイツ国鉄が撤退した「シティナイトライン」の路線を継承したことでも注目を集めました。
なお、その他ではロシア国鉄が豪華な寝台列車を運行しています。
「日本の鉄道は世界最高水準」とか「外国人が絶賛したニッポンの鉄道の〇〇」といった自画自賛が氾濫する昨今ではありますが、雨後の筍のように誕生した観光列車以外はサービスが簡素化されていく一方の現状を、今一度謙虚に振り返るべきではないでしょうか。
明治時代より、先人たちはヨーロッパの鉄道を模倣することから始まり、やがてその技術・ノウハウを自分たちのものとして発展させてきました。
令和時代、日本の鉄道が見習うべき要素はイギリス・ドイツ・フランスよりも、オーストリアにあるのかもしれません。