【万能型フリーゲージトレイン】スペインのアルビアでサンティアゴからマドリードへ

ヨーロッパ鉄道

日本人観光客からも大人気の行き先、スペイン。
その中にあって、北西部のガリシア州は今一つ知られていません。
しかし、ガリシア地方は豊かな自然を有しリアス式海岸の良好な漁場も持つ魅力的な地域です。

その州都サンティアゴ・デ・コンポステーラは、キリスト教三大聖地の一つとして巡礼路の目的地でもあります。
そんな巡礼の地へも、現在ではスペインの高速列車アルビアを使えば首都マドリードから3時間半で行くことができます。

2023年11月上旬、サンティアゴ・デ・コンポステーラからマドリードまでアルビアの一等車に乗車しました。

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アルビアとは:在来線にも直通できるスペインの新幹線

フリーゲージかつハイブリッドのダブル二刀流車両

スペインはヨーロッパで最大の高速鉄道の路線長を持つ鉄道大国です。
高速鉄道は西欧諸国と規格を合わせるために同じ標準軌(レール幅1435㎜)で建設されましたが、在来線はそれよりもレール幅の広い広軌(1668㎜)となっています。
1960年代から「タルゴ」という列車が、軌間を変えることでフランスやイタリアと直通運転をしていました。

2006年に登場した「アルビア(Alvia)」はこのタルゴを発展させたものです。
標準軌区間で最高速度250㎞/h運転を行い、かつ広軌の在来線にも直通することができる高速列車で、スペイン国内の高速鉄道網を画期的に拡大しました。
日本が放棄したフリーゲージトレインの技術を、15年以上前から実用化しているわけです。(ただしスペインの在来線の軌間は日本の1.5倍あり、単純に技術的優劣は判定できない)

そして、2012年に登場したS730系は、それまでのアルビアをさらに改良してハイブリッド型にした車両です。
タルゴ型客車を挟んで電気機関車が付いているところまでは従来車と同じですが、両端の機関車と客車の間にディーゼルエンジンを搭載した動力車が1両ずつあるのが特徴です。
つまり、S730系によってアルビアは非電化区間にも進出したのです。
フリーゲージとハイブリッド機能を併せ持った、投手・野手兼任かつ両投げ両打ちの「ダブル二刀流」ともいうべき車両です。

手前がディーゼル動車、その奥の先頭が電気機関車
客車は機関車と比べてかなり車高が低い

このS730系はマドリードとガリシア地方各地とを結ぶアルビアで運用されています。
ちなみに、スペインには「アベ(AVE)という新幹線も走っています。
アベとアルビアの違いは、アベが標準軌の新幹線区間のみを走るのに対して、アルビアは新幹線と在来線両方に乗り入れる点です。
アベが「はやぶさ」、アルビアは「こまち」「つばさ」のような関係です。

マドリード~サンティアゴ・デ・コンポステーラの所要時間は3時間半

首都マドリードからサンティアゴ・デ・コンポステーラまでの所要時間は3時間半前後です。
所要時間としては長過ぎない範囲かと思いますが、問題は本数があまり多くない点です。
サンティアゴ・デ・コンポステーラへ直通するアルビアは1日4往復しかありません。

救済策としては、途中のオーレンセ(Ourense)までビーゴ(Vigo)など他のガリシア地方の街へ行くアルビアで行って、そこから別の列車に乗り換えることもできますが、難易度・遅延リスクの問題があります。

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アルビアの車内

二等車の車内と座席

スペインのS730系アルビアの二等車の車内
二等車の車内

客車が小型なので、客室も普通の車両よりも狭いです。
車内のインテリアはやや古い印象。
なお天井部に幾つかあるスクリーンでは、初めのうちは列車の走行する路線図・次の停車駅などの情報でしたが、途中から映画に切り替わりました。

一等車の車内と座席

スペインのS730系アルビアの一等車の車内
一等車の車内

一等車は横3列の座席です。
物理的にはゆとりがありますが、それ以外はほぼ二等車と変わらないので、付加価値としては今一つといったところです。
一人旅で独立シートを狙うのでなければ二等車で充分だと思います。

スペインのS730系アルビアの一等車の座席
一等車の座席

カフェテリア車両あり

アルビアにはカフェテリア車両があります。
飲み物の他、サンドイッチなどの軽食を販売しています。
カウンターで注文して自席に持ち帰るもよし、立ち席スペースで気分転換するもよしです。

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予約方法と費用

予約はスペイン国鉄の公式サイトから行うことができます。
座席表から好きな席を選ぶこともできますが、その場合は5ユーロの追加料金が必要です。
看板列車のアベと違うのは、アルビアでは一等車かつ車内の食事サービスやラウンジ入場権のあるプレミアムクラスの設定がない点です。

一般にスペインでは60日前から予約ができるようになると言われています。
ただ、実際はもっと後にならないと予約できないケースもあります。
参考までに、私がサンティアゴ・デ・コンポステーラ→マドリードのアルビアを予約できたのは1カ月前になってからで、一等車の費用は75€でした。

詳しい予約方法は以下の記事をご覧ください。

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乗車記:S730系アルビア一等車に乗る

序:巡礼路の終着サンティアゴ・デ・コンポステーラ

スペイン北西部の角にあるガリシア州の州都がサンティアゴ・デ・コンポステーラです。
人口はあまり多くない都市ですが、聖ヤコブの墓がここで発見されて聖地となりました。
大きな広場に面した大聖堂とその周辺の建物は、まるで要塞のように見えます。

今でも巡礼のために100㎞以上歩いてくる人が多く、木の杖を持ってレインコートにリュックサック、そして巡礼のシンボルであるホタテ貝を付けています。
頂上に達した登山者と同じように、清々しい笑顔で仲間たちと抱擁を交わしていました。
彼らを見ている私にまで、ワーグナーの楽劇「タンホイザー」最終部のコラールが響いてくるようです。

大聖堂

大聖堂内部はこれでもかというくらいに意匠を凝らした、圧巻の造りです。
なお、大聖堂に入るためにチケットや料金は必要ありません。
これほどの施設がバルセロナやマドリードにあれば、1時間待って30€以上のチケットを買い、スマホ様に写真・動画を収めてSNSにせっせとアップする観光客たちに揉まれながら見学することになるでしょう。
やはりここは観光地ではなく、聖地なのです。

正面に見える聖像の裏側に行くこともできる

旧市街は小さいので市内散策に時間はかかりません。
バルでは隣のオーストラリア人に「貴方も巡礼で来たのですか?」と尋ねられました。
「いえ、ポルトガルから列車で来て、明日も列車でマドリードに行くのです。」と答えます。
「列車に乗ることが私にとっては巡礼なのです。」みたいな余計なことを言うのはよしました。

それはともかく、食感を残しながら味香りも引き立つようにグリルされたイカに、ガーリックとパセリ風味のオリーブオイルがかかっています。
改めて、ガリシア地方はスペインの穴場ですよ。

荷物検査の後に乗車、自然豊かなガリシア地方を行く

前置きが長くなりましたが、翌日朝7時半前に小雨が降るサンティアゴ・デ・コンポステーラ駅(Santiago de Compostela)へ。
経度がポルトガルと変わらないのにスペイン時間のため朝が遅く、外はまだ真っ暗です。
スペインの高速列車は乗車前に荷物検査がありますが、液体を持ち込むこんでも問題ありません
地方の駅なら乗客も少ないので、出発10分前に駅に着けば十分(バルセロナは20分以上前を推奨)です。

6分遅れてアルビアがやって来ました。
先頭のアマゾンの巨大魚のような形をした電気機関車の「ギーン」というモーター音が過ぎると、その後ろのディーゼル動車が「ドドドド」と続きます。
これは「音鉄」にとってはたまりません。

二等車は8割近く埋まる一方、一等車は空いていました。
しばらくは在来線を走行。
ここでも200㎞/h以上の速度を出します。

カラッと晴れるスペインの印象とは違って、「グリーンスペイン」とも呼ばれる北部は雨が多く自然が豊かです。
ずっと薄暗い山間部をひた走ります。

朝8時過ぎでもまだ暗い

広軌から標準軌へゲージ変換

オーレンセ(Ourense)駅を過ぎ、列車は一旦停止した後に徐行します。
すると線路脇にゲージ変換の標識が見え、床で「ガツッゴリゴリ」という今までにない不思議な感触がありました。
いよいよ標準軌の新幹線区間に入ります。
そういえば反対側の線路幅も縮まりました。

ア・グディーニャ駅(A Gudiña)からも山の中をトンネルの連続で進みます。
なお、この地名表記はガリシア語で、スペイン語(つまり標準語)ではLa Gudiñaとなります。
バスク・カタルーニャ程ではなくても、ガリシアも民族アイデンティティーが強固です。

ひときわ長いトンネルの中で、強い下り勾配の重力を感じます。
きっと山越えも最終盤なのでしょう。

トンネルを抜けると開けてスペインらしい大地に

トンネルを抜けると一気に開けた大地に出ました。
地理的にも歴史的にもスペインの中心をなすカスティーリャ地方です。
あいにく曇り空にもかかわらず明るくなり、それまでとは全く違っていかにもスペインらしい風景になります。
新幹線の上越国境越えを思わせる劇的な車窓変化に私は感動したのですが、周りの乗客はほとんど関心を示していませんでした。

私が乗ったアルビアは停車駅が多いタイプで、わりと小規模の駅にも停まりました。
途中駅で下車していく人も意外と沢山いて意外です。
セゴビア(Segovia)を過ぎて再びトンネルで山越えです。

到着するのはマドリード・チャマルティン駅

気が付くと青空が4割くらい広がり、やがてマドリードの市街地が見えてきます。
この街はいつ来ても赤い高層ビルが目立ちます。

5,6分の遅れを維持したまま終着。
ガリシア地方からの列車が到着するのはマドリード・チャマルティン駅(Madrid Chamartin)です。
バルセロナやアンダルシア方面行きの列車が発着して、植物園のような一画があるアートチャー駅ではないので注意しましょう。

いぶかしげな駅員・乗務員の視線を浴びながら、改めてS730系をじっくり観察しました。
昼間になってから見ると車体の傷みが目につきます。
大きな機関車4両に対して、挟まっている小さな客車は9両。
機関車の総重量の方が客車より大きいのではないでしょうか。

チャマルティン駅からアートチャー駅まで国鉄の近郊電車で10分程です。
グーグルマップで調べてもいかんせん路線図が複雑なので、切符の買い方と乗る電車は駅員に聞きました。

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聖地へ赴く異端児的な車両

「ヨーロッパの西の辺境」と言われるガリシア。
万能型フリーゲージトレインS730系は、そのガリシア地方に残る非電化区間を走るために開発されました。
多様性の国スペインを走る列車も多様なものです。

サンティアゴ・デ・コンポステーラ駅の荷物検査場で見つけた、巡礼のシンボルのホタテ貝

ローマ・エルサレムと共にキリスト教三大聖地に数えられるサンティアゴ・デ・コンポステーラは、ヨーロッパの精神的首都です。
これは日本の島根県に出雲大社があるのと何処か似ています。


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