【小さな国際列車】ポルトガルのポルトからスペインのビーゴへ鉄道で移動

ヨーロッパ鉄道
国際列車

イベリア半島にあるスペインとポルトガル。
この二か国を結ぶ鉄道には、大西洋沿いに南北に縦断する路線もあります。
ポルトガル北部に位置する同国第二の都市ポルトと、スペイン北西部ガリシア地方の漁港都市ビーゴとの間に国際列車が運転されています。

2023年11月上旬、ポルトからビーゴまでの列車に乗車しました。

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ポルト・ビーゴ間の所要時間は2時間半

ポルト・ビーゴ間には1日2往復の国際列車が運転されています。
いずれの方向も朝と夜の便があります。
距離にして約120㎞で、所要時間はおよそ2時間半。
時刻表を見る時にはスペインとポルトガルでは1時間の時差があることに留意してください。

車両はポルトガル国鉄の3両編成のディーゼルカーでした。
国際列車といっても特別なことはない、ありふれた快速のような車両です。
車内はクロスシートで二等車のみ、車内販売等のサービスは一切ありません。
トイレはあるので安心してください。

車内

この列車には”Celtaセルタ“という名前が付けられています。
これは「ケルト人」という意味で、おそらくケルト人となじみの深いスペイン北西部のガリシア州にちなんでいるのでしょう。
そういえば、ガリシア州都のサンティアゴ・デ・コンポステーラの旧市街で演奏されていた民族楽器は、スコットランドのバグパイプそっくりでした。

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予約方法と費用

ポルトガル国鉄の車両で運転されている列車ですが、予約はスペイン国鉄のサイトからしかできません。
ポルトはカンパニャン駅しか候補に出ませんが、ビゴー側には2つの駅があります。
Guixar駅か「全ての」を意味する(Todas)にして検索しましょう。

一等車・二等車や複雑な予約クラスなどない、「シンプルな商品」なので比較的簡単に予約できます。
一応全席指定制でチケットには号車と座席番号が書かれてはいるのですが、実際には乗客は好き勝手な席に座っていました。

私が乗車した2023年秋だと、ポルト・ビーゴ間の料金は約15€。
早めでも直前でも料金は変わらないようです。
ただ、期間限定でセールをやることがたまにあって、その時は10€前後になります。

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乗車記:国際列車「セルタ号」の旅

ポルト・カンパニャン駅を出発

「セルタ号」はリスボン行きの列車も発着するポルト・カンパニャン駅(Porto Campanha)から出発します。
旧市街地からはメトロ(トラムと一体化している)でアクセスするのが便利です。

あるいは市内中心部にあるポルト・サンベント駅(Porto São Bento)から国鉄の通勤電車に乗るのもおすすめです。
サンベント駅は駅舎内部の壁画が芸術的で、駅そのものが観光地にもなっています。
頭端式ホームのすぐ先にトンネルがあるのも旅情をそそられます。
そして、サンベント駅から市街地を流れる渓谷のようなドゥエロ川沿いを走る列車は、もはや通勤路線ではなく秘境ローカル線でした。

サンベント駅

カンパニャン駅に着いたのは朝8時前。
駅にカフェがあったので、ここでパンとコーヒーをテイクアウトします。
通学時間帯のためか駅は学生で溢れかえっていました。
メトロのホームの隣で待機していたビーゴ行き列車は3両編成のディーゼルカーで、車両の中央寄りにドアが2つある珍しい車両です。

8時13分、「パーン」と勢いよく警笛を鳴らして出発。
見てくれはともかく、いっちょ前の形式を済ませてから発車するあたり、やはり国際列車に乗っているのだなと感じます。
座席はせいぜい半分が埋まっている程度でした。

曇り空の大西洋の車窓

途中で海が見えるだろうと思って進行方向左側の席に座った(一応座席は指定されているが、誰も気にしていない)のですが、最初の方は右側の谷間の方が車窓は綺麗でした。
ポルトガルの田舎の家は、ほとんどがオレンジ色の屋根に白という質素な造りで、山あいの曇り空とあっては陽気さも感じられません。
また、ヨーロッパで最もコメの消費量が多いこの国では、車窓から水田がよく見えます。
河岸段丘になっているのか、日本の棚田の風景を思わせます。

ポルトから約1時間、大きな川を渡りビアナ・ド・カシュテロ(Viana do Castelo)駅で海沿いに出ました。
割と大きな駅で、ここで降りる人が多かったです。

列車はしばし大西洋沿いを北に走ります。
空と同じ灰色をした海から白波が縮緬状になって襲い掛かります。
明るく穏やかな地中海に面した「南欧」のイメージとは程遠い、「ニューシネマパラダイス」ではなく「砂の器」が思い浮かぶ風景です。
まるで波の音が車内にも聞こえてくるようです。

やがてスペイン・ポルトガル国境を成すミーニョ川に至ります。
このまま渡るのかと思いきや、激しい波と潮風に懲りたのか、対岸のスペインを窺いながら列車は川に沿って内陸部へと(東へと)ゆっくり進んでいきます。
車内も気怠い雰囲気で、日本の通勤電車と同じくらい眠っている人の割合が高いです。

スペインへ入国

そうこうしているうちに殺風景なヴァレンサ(Valenca)の市街が見えてきました。
ここが国境駅です。

車掌は交代しますが、パスポートコントロール等の手続きはありません。
なぜか検札さえもありませんでした。

ヴァレンサ駅を出発し、それまで未練がましくポルトガル領内を走っていた列車が、意を決したように加速しながらミーニョ川を渡りスペインに入国します。
国が変わったからといって大きく景色が変わることはありませんが、時差の関係で時間は1時間進みました。
一般的なスペインのイメージとは違って、このガリシア地方は緑が多く、今の季節はところどころ紅葉しています。

本場のリアス式海岸を見てビーゴ・ギサール駅へ

まもなく終着という段階で、右側に海が見えて不意を突かれます。
スペイン北西部のガリシア地方の海岸線は非常に入り組んでおり、右手に見えているのはビーゴ湾(スペイン語ではRiaリア de Vigo)です。
この「湾」を意味する「リア」の複数形「リアス」こそが、我々に馴染みのあるリアス式海岸の語源なのです。

三陸・紀伊半島・宇和海など、各地のリアス式海岸を見てきましたが、ついにここで「本家」と対面することができました。
あの恐ろしい形相をした外洋とは正反対の静かな海です。
養殖しているのは、ビーゴ市内で売っていた牡蠣でしょう。

前方に市街地と港湾施設が見えてくると、ビーゴ・ギサール駅(Vigo Guixar)に到着です。
スペイン国鉄の電車がたむろする構内に、ポルトガル国鉄の3両編成のディーゼルカーが堂々と乗りつけます。
この駅はいかにも港町の終着駅といった風情があります。

市内中心部へは歩いて15分程(坂道あり)です。
ビーゴは人口20万人ほどと、そこそこ大きな都市。
リスボン・ポルトとポルトガルの港町から来た私にとっては、だいぶ「エキゾチックさ」が消えた雰囲気に感じました。

なおビーゴには駅が2つあり、ギサール駅以外ではビーゴ・ウルサイス駅(Urzaiz)からも中距離列車が発着します。
ビーゴ発の列車に乗る時はどちらの駅か確認しましょう。

ウルサイス駅の入り口はギサール駅よりも高台にあり、その建物も駅というか実際は新しいショッピングセンターなので分かりづらいです。
建物に入りエスカレーターで下に降りていくと、地下(実際は山塊の中?)に駅があります。

ビーゴ・ウルサイス駅の入り口。
外からは駅に見えず、案内も無いので分からない。
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実は希少なスペイン・ポルトガル間の国際列車

意外なことに、スペインとポルトガルを結ぶ国際列車は多くありません。
しかも両国の首都のマドリード・リスボン間すら直通列車はなく、同区間を鉄道移動する場合は馴染みのない駅で乗り換えながら、中距離列車を丸1日かけて乗り継いで行く必要があります。

よって、両国の主要な都市間を繋ぐ「まともな」国際列車である「セルタ号」は、極めて貴重な存在です。
リスボン・ポルト間ではポルトガルのアルファペンデュラール、ガリシア地方からマドリードまではスペインのアルビアと組み合わせることで、両国の地方都市を観光しながら首都間を移動できるルートが完成するのです。

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