ヨーロッパ南東部に位置するルーマニアは、国土面積が本州とほぼ同じ。
小国がせめぎ合う東欧ではそれなりの大国である。
2007年にEU加盟を果たしたが、経済水準では欧州先進国にはまだまだ及ばない。
そんなルーマニアだが、実は多様な列車・会社が切磋琢磨している鉄道大国でもある。
本記事では日本人が最もよく利用すると思われるブカレスト~ブラショフ間を例に、国鉄と私鉄各社の列車たちについて整理したい。
【共通】所要時間は2時間半前後
便によって多少前後するが、ブカレスト~ブラショフ間の所要時間は約2時間半。
ブカレスト側はBucuresti Nord(ブカレスト北駅)を発着する。
定時性に関しては、15分以上遅れることはあまりないと思ってよい。
ルーマニアの鉄道は頻繁に遅れるイメージが強かったが、最近はインフラ整備の成果もあってか改善しつつあると感じる。
この区間はカルパチア山脈を越えるため、車窓がとても良いことでも知られている。
特にブカレスト・ブラショフ両駅から1時間程度のシナイア駅付近は、渓谷に沿った高級保養地や高原、そしてアルプスのような雪山が見られる絶景区間である。
ブカレスト発だと進行方向右手がおすすめだ。

【前提】国鉄の他に多数の私鉄が存在する
まずは最も身近で本数も多いルーマニア国鉄(CFR)について解説しよう。
国内列車の種類はR(Regio:普通列車)・IR(Inter Regio:急行列車)・IC(Inter City:特急列車)の3つがある。
このうち、旅行者がよく使うのは優等列車であるIRとICだろう。

さて、ルーマニアの鉄道の特徴は、国鉄の線路を民間会社にも開放する「オープンアクセス」が進んでいることである。
日本ではJRの線路を走るのは原則JRの列車だけだが、オープンアクセスの下では国鉄の線路を競合する私鉄の列車も走っている。
西欧諸国、あるいはチェコ・ポーランドなど中欧で見られる形態が、ルーマニアにも波及しているのである。
以下では国鉄に加えて、私が乗車したことのあるAstra Trans Carpatic(アストラ・トランス・カルパティック)、Softrans(ソフトランス)、Transferoviar Călători(TFC)を紹介しよう。
①【国鉄(CFR)】急行列車IR

おそらく観光客が最も利用する機会が多いのが、ルーマニア国鉄のIR(急行列車)だろう。
中長距離列車として国内各地の路線で運行されている。
ほとんどが機関車が客車を牽くスタイルの列車だが、客室は昔ながらのコンパートメント(個室)ではなくオープンサロンのボックスシートが主流である。

国鉄のIRは1等車を連結していることが多い。
料金は2等車の1.5倍だが、個人的には敢えて1等車に乗るほどの付加価値はないと思う。
しかし、座席配置が通路を挟んで2&1列なので、1人旅で1人掛け座席にこだわりたい人にとっては利用価値がある。
②【国鉄(CFR)】特急列車IC

国鉄列車のなかで最上位の種別がIC(特急列車)だ。
IRよりも停車駅が少なく所要時間が短く、料金もIRと比べて15%程度割高となっている。
ブカレスト~ブラショフなど限られた路線にしかない、文字通り「特別な急行列車」である。
一般にICに使われる車両は新しいが、編成の中にはIRと同じ古い車両も交じって運転されている。
ちなみに私が利用した1等車は古い車両で、隣の新型車両の2等車の方が機能的で快適だった。


ICの大きな特徴は食堂車を連結していることだ。
食堂車といっても売店にカウンター席が幾つかある程度のものだが、ルーマニアワインを飲みながらカルパチア山脈の景色を眺めるのは至福の鉄道旅行である。



③【私鉄】快適でコスパの高いAstra Trans Carpatic

Astra Trans Carpatic(アストラ・トランス・カルパチック)は数ある私鉄の中でも代表的な存在だ。
インパクトのある黄色と緑色の列車は、他の会社にはない格調を感じさせる。
Astraの魅力は、国鉄のIRの2等車と同程度の料金であるにもかかわらず、接客設備が格段に優れていることである。
機関車が牽く客車かディーゼルカーの2種類の編成がある。

Astraに乗れば、「旧態依然としたルーマニアの鉄道」という固定観念が崩れることだろう。
近代化の途上にあるルーマニアの鉄道の象徴と言ってよい。
とにかく、快適に移動したい人にとっては間違いなく最良の選択肢である。

④【私鉄】国産車両メーカー直営の格安鉄道会社Softrans
次に紹介するSoftrans(ソフトランス)は国産鉄道車両メーカーの子会社である。
自社製の「Hyperion(ハイペリオン)」というユニークな容姿の電車を運行している。

Softransの特徴は、近代的な電車でありながら運賃が格安であることだ。
先ほど紹介したAstra Trans Carpaticの半分程度の運賃で利用できる。
「肉屋直営の格安ステーキ店」ならぬ「メーカー直営の格安鉄道会社」といったところだろうか。
座席の広さや快適さは並みのレベルだが、スマホの充電ができるコンセントだけでなく車内にコーヒー自販機がある。

ブカレスト~ブラショフ間の2時間半程度の乗車時間なら、特に苦痛になることもなく利用できるだろう。
安さを重視したい人に特にオススメできる会社である。

⑤【私鉄】地域の足、Transferoviar Călători
Transferoviar Călători(TFC)はルーマニアの様々な地域で列車を運行している私鉄である。
車両は新型の近距離~中距離用のものが使われており、車内は清潔だった。

運賃は国鉄のIRの2等車やAstraと同じ。
つまり、普通列車並みの車両で急行列車と同じ料金を支払わなければならない。
競争力のある私鉄が参入しているブカレスト~ブラショフ間で敢えてTFCを選ぶ理由は正直ない。
とはいえ、シギショアラ~ブラショフのようにSoftransもAstraも走っておらず、かつ国鉄の本数も少ない区間では利用価値がある。
国鉄とメジャーな私鉄2社以外にも、意外と頼りになる会社があることを頭の隅に入れておこう。

私鉄各社のチケットは駅では買えない
私鉄各社を利用する時に必ず注意したいのがチケットの買い方だ。
駅の窓口では購入できないのである。
というのは各駅の窓口はあくまで国鉄の窓口であり、チケットの購入はおろか列車情報なども「私鉄なので分からない。」と言われてしまうだろう。
よって、私鉄のチケットは各社のサイトからオンラインで購入するか、あるいは車内で直接車掌から購入することになる。
サイトによっては日本からは繋がりにくいこともあるので、その場合は現地に行ってから試してみよう。
「ネットで予約するより駅で切符を買うのが安心する」という人は、必然的に国鉄のIRかICを利用することになる。
なお、会社横断的に列車の時刻を調べられる便利なサイトがあるものの、残念ながら日本からのアクセスはできないようだ。
結論
ルーマニアの私鉄全てを網羅したわけではないが、とりあえずメジャーなものは本記事で紹介した通りである。
最後に、以上の話をまとめよう。
- 安さ重視⇒softrans(ソフトランス)
- 快適さ重視⇒Asra Trans Carpatic(アストラ・トランス・カルパチック)
- 1人旅で1人掛け座席はマスト⇒CFR(国鉄)のIR・ICの1等車
- チケットは駅で買うのが安心⇒CFR(国鉄)のIR・IC
- 道中ではバー車両で旅情を感じたい⇒CFR(国鉄)のIC
といった具合である。
鉄道会社が乱立気味で分かりづらいところもあるが、高度に画一化された日本の鉄道にはない、ルーマニアの活力を感じることができるのではないだろうか?

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