北京から上海へ、中国の高速鉄道「復興」号の1等車に乗る

アジア

中国の二大都市、北京と上海。
この区間の主要輸送手段は高速鉄道だ。
世界最速350km/hで両巨大都市をおよそ4時間半で結んでいる。

2025年12月、北京南駅から上海駅まで高速列車「復興」号の1等車に乗車した。
本記事では北京~上海の列車・路線の概要に続いて、実際の乗車記を綴っていく。
なお予約方法や車内設備など、中国の高速鉄道全般に関する内容は以下の記事を参照していただきたい。

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メインルートは北京南駅~上海虹橋駅、所要時間は約4時間半

首都北京から天津・南京を経て経済の中心上海へと至るこの回廊は、国内で最も利用客の多い路線である。
日本でいえば東海道新幹線のような存在だ。
その沿線人口は1億人余り、つまり日本の人口に匹敵する。

高速列車が発着する駅は北京南駅ペイチンナン(Beijingnan)と上海虹橋駅シャンハイホンチャオ(Shanghai Hongqiao)がほとんどで、北京駅や上海駅に乗り入れる便もたまにある。
特に上海虹橋駅は市中心部から地下鉄2号線でアクセスするのに時間がかかるので注意しよう。

北京~上海間の所要時間は「復興」号のなかでもバラツキが大きく、停車駅の少ない便ではおよそ4時間半だが、遅い便だと6時間以上かかることもある。
日本の普通車に相当する2等席の料金は670元程度、日本円換算で15,000円弱といったところ。(2025年12月)
実際には料金は需給に応じた変動制が採用されており、時間帯が悪かったり遅い便ほど割引率が高い傾向にある。
とはいえ、たいていはせいぜい20%程度の割引にしかならない。
また、一般的に1等席(グリーン車)の料金は2等席の1.5倍、商務席(グランクラス)はさらにその倍以上となっている。
よって利便性の高い便で商務席を利用すると50,000円近くかかる。

ちなみに北京南駅~上海虹橋駅の距離は1302㎞で、最速列車(途中停車駅は南京南駅のみ)の所要時間は4時間18分。
停車時間も含めた平均速度である表定速度は303㎞/hに達する。
この距離は日本だと東京駅~鹿児島中央駅(新幹線の実際の距離)とほぼ同じだが、「のぞみ」(東京駅~博多駅)と「みずほ」(博多駅~鹿児島中央駅)の最速便の所要時間を足しても6時間かかってしまう。
いかに中国の「復興」号が速いか分かるだろう。

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乗車記

駅到着には余裕を持って

北京の冬は寒い。
緯度では秋田県とほぼ同じなのでさほどでもないと思うが、内陸部に位置しており、シベリアからの乾燥した寒気が押し寄せるのだ。
未明の朝6時半前にホテルを出た時、気温は-8度だった。

乗車するのは北京南駅8時発の「復興」号。
駅には7時過ぎに着いた。
「高鉄」(高速鉄道のこと)と書かれた案内表示を頼りに広大な駅を歩き、待合所になっている2階のコンコースに向かう。
待合所に入るためにはチケットの代わりとなる身分証明書(外国人の場合はパスポート)を提示し、簡単なX線の荷物検査も受けなければならない。
また、その前のエスカレーターで2階に上がる時にも荷物検査があり、スーツケースの中のワインをチェックされた。
とにかく駅が広く手続きが多いので、30~60分前を目安に駅に着くことを心がけよう。

今回は時間に余裕があるので、「李先生」という牛肉麵のチェーン店で、パイ生地の肉まん(美味)のようなものをテイクアウトした。
それにしても、李先生のロゴが隣のKFCとあまりに似ているので笑ってしまった。

中華風フライドチキンチェーン店、ではない。

さて、出発20分前に改札が始まった頃には既に長い列が自然とできていた。
再度パスポートを提示して、エスカレーターでホームに降りる。
今回乗るのは、北京駅発で北京南駅経由の上海駅行きという珍しい便である。
繰り返すが、ほとんどの高速列車は市内中心部の上海駅ではなく、空港に近い上海虹橋駅に発着するので注意しよう。

ホームで待っていると、「復興」号が長い胴体を折り曲げながら入線してきた。
特急「ひたち」と「サンダーバード」を足して2で割ったような顔立ちである。
空も地面も車体も白い世界だ。

予約していたのは1等車。
新幹線グリーン車というと混んでいるイメージは無いが、私の乗った車両は満席だった。
幸い窓側の席が取れて、同じ列には小さな子供2人と母親2人が残りの3席に収まっていた。

たしかに座席はゆったりしているが、居住性ではグリーン車と比べるとやや劣る印象だ。
客層は2等車よりも外国人(特に白人)の割合がずっと多い。
2等車もそれほどうるさくはないが、やはり1等車の車内は静かだった。
なお、今回の車両は「復興」号のなかでも「通常型」と呼ばれる編成で、新型車両の「スマート編成」の1等席はもっと快適らしい。

定刻8時、積雪をなだめるような頼りない朝陽を浴びながら北京南駅を出発した。
1等席の乗客には水またはジャスミン茶と軽食のサービスがある。
同じタイミングで売り子が通りかかったのでホットコーヒーを購入。
軽食の中身はクッキーとジャーキーのようなものだった。
クッキーは美味しかったが、ジャーキーの味付けは私の口には合わなかった。

出発して5,6分で都市部を抜けてしまい、もう300km/hを越えるスピードで走っている。
北京は大都会のはずなのに意外である。
下りの新幹線で品川を出て5分というと、まだ横須賀線と並んでゆっくり走っている頃だろうか?

自分の車両が満席でも空いている車両に移れるかもしれない

しばらくすると、隣の若い母親が英語で話しかけてきた。
「すみません、子供2人の面倒を見なければならないので、隣の車両に移っていただけませんか?空席はたくさんありますから。」
“Would you mind~”で始まる、丁寧で洗練された表現である。
この日は6日間の中国旅行最終日だったが、彼女ほどこなれた英語を話す人は今までいなかった。

「そちらが移ればよいのでは?」と思わなかったわけではないが、私はジャパニーズビジネスマンならぬジャパニーズジェントルマンである。
ベビーカーや大きな荷物など持って女子供が移動するのは大変だろう。
それに、これからビールを飲むにしても、隣に親子連れがいるよりはいない方が良いに決まっている。
「分かりました。空いてる席に座ればいいんですね?」
「そうです。ありがとうございます。」

そんなわけで隣の1等車に来て驚いた。
予約していた車両は満席なのに、隣の車両はほとんど空席(緑ランプ)になっているではないか。
後で車内を視察して分かったことだが、2等車・1等車を問わず、座席が埋まっている車両と空席だらけの車両がはっきりしていた。
昔の日本の国鉄では手間・費用を抑えるために、閑散期には指定席の客をなるべく1両に集めていたという話を聞いたことがあるが、中国でも同じ売り方をしているのかもしれない。(現状中国では予約時にシートマップから席を選ぶことはできない)

ということで要するに、自分の車両が混んでいても、空いている車両に移動して座席上のランプが緑の席に座れば問題ないようだ。
実際に私のようにしている人もいたので、混雑が気になる人や希望通りの席(窓側・通路側)が取れなかった人も、周囲の車両を覗いてみると良いかもしれない。

北京・華北地域の景色は北の大地

さて、列車はもう最高速度の350km/hで走っている。
だが私が感心したのは350km/hを出したことではなく、これだけのスピードで走りながら揺れがほとんどないことだった。
少なくとも東北新幹線よりはずっと快適だ。
大半の区間が高架式、つまり線路が地面より高い所に敷かれているので、その速さと相まって着陸寸前の飛行機に乗っているような感覚に近い。

景色は相変わらず、ただただ雪を被って霞んだ北の平坦な大地が広がるのみ。
近くに万里の長城があるように、北京は北方騎馬民族に対する戦略的価値を持った、「シベリア・モンゴル平原の果て」なのではないかと思わせる。
そういえば昨日食べた名物の北京ダックや羊肉の串焼きも、どこかトルコ料理と似ていることにふと気付いた。

9時24分、最初の停車駅の済南西駅ジーナンシー(Jinanxi)に到着。
駅周辺には東欧を思わせる、画一的な高層アパートが建ち並んでいる。
この駅での乗り降りはあまりなかった。

ずっと平坦だった土地に、やがて鉱山や風車が見えてきた。
そして見渡す限りの工場群が、寒空に向かって白い息を吐いている。
荒涼とした雪国にそびえる生産基地。
男の心をくすぐる、なかなか「エモい」光景ではないか。

10時を回った頃、ようやく外気温は0度を超えて雪も消えた。
場所を確認すると山東省の南端だった。
緑が蘇り、明らかに沿線の人口が増えたようだ。
この辺りを境に、北は畑作地帯、南は稲作地帯と、中国東部の平野は南北でその風土が大きく異なっている。
外気温はあっという間に7度まで上がった。

長江流域は日本と似た風景に

中国最長の大河、長江を渡って南京南駅ナンチンナン(Nanjingnan)に到着。
かつて北京に対抗して中華民国が首都としただけあって、途中駅の中でも格段に大きな都市だった。
ちなみに北京南駅~南京南駅までの1018㎞を、最速列車(ノンストップ)は3時間14分で走る。
平均速度は315km/hと、新幹線の最高速度とほぼ同じ速さだ。
実際に乗っていても途中大きなカーブもなく、ほぼ連続して350km/hで走っていた。
普段から東海道新幹線(270km/h制限が多数)に乗っている日本人としては羨ましい限りである。

南京南駅付近

南京からは人口密度がさらに高くなり、山あいに茶畑が広がったりと、日本と変わらない風景になった。
浜名湖かと間違えそうになる長江が時々姿を見せる。

到着の20分前には上海の郊外のような雰囲気になり、列車の速度も落ちた。
高速鉄道がまるで都会の通勤路線のように複雑に交差している。
私が乗っているのは北京発だから日本風に表現すれば「下り列車」なのだが、印象としては東北新幹線で盛岡や青森から「東京に上って来た」感じである。

上海市内を徐行して、終着の上海駅(shanghai)に3分遅れの12時35分に着いた。
日本以外の国ではこの程度の遅れは「誤差範囲内」とされる。
上海の空は青くて明るかった。

一般に12月中旬は旅行に適した時期ではない。
だが、華北地域と華中地域の風土の差を明確に見せてくれる季節だった。
北京の冬の寒さにも、日中関係悪化に伴う不気味な圧力にも抗った甲斐があったと思う。








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