上海から広州へ、中国の高速鉄道「復興」号の2等席に乗る

アジア

中国旅行で訪れる都市としてまず候補に挙がるのは、首都の北京、それから経済・国際都市の上海だろう。
ではもう一つ別の地域を探すとしたら?
西安・成都など内陸都市もあるが、私は南部の広州を勧めたい。

華北地域の北京、華中地域の上海に対して、広州は華南地域の中心的都市で、二大都市とはまた違った南国風の中国を感じることができる。
また広州からは深圳や香港という、成長著しく魅力的な都市にも簡単に足を延ばすことも可能だ。
そして広州のある広東省は、中華料理でも最も親しまれている広東料理の本場であることも忘れてはならない。

本記事では上海から広州までの路線・列車の概要と乗車記を綴っていきたい。
なお、予約方法や車内設備など、中国高速鉄道の全般的な内容については以下の記事を参照していただきたい。

スポンサーリンク

上海~広州間の所要時間は6時間半から

まずは上海と広州の位置から確認しておこう。
上海は中国沿岸部の長江河口の都市で、緯度は鹿児島県と同じくらいである。
広州はずっと南、南シナ海に注ぐ珠江(中国第三の大河)の河口部の都市。
緯度は23度で、沖縄の那覇市よりも南に位置している。
上海よりもベトナムに近い場所にある。

上海から広州は遠い。
両都市の路線長は1300㎞程度と長く、「復興」号のうち速い便でも所要時間は6時間半程度、遅い便だと8時間以上かかることもある。
発着駅は上海側は上海虹橋駅シャンハイホンチャオ(Shanghai Hongqiao)、広州側は広州南駅グアンジョウナン(Guangzhounan)か広州東駅グワンジョウドン(Guangzhoudong)が多いが、それ以外の駅の場合もある。
上の地図にもある通り、上海から広州へは海岸沿いではなく、まずは西の内陸部へ進んでから南下するルートをとる。

料金は列車によって多少変動するものの、利便性が高く割引がない便だと、普通車に相当する2等席で約1,000元(≒20,000円)である。(2025年12月)
グランクラスに相当する最上位の商務席だと60,000円を優に超えてしまう。
このように、中国の高速鉄道は他の物価と比べると高いものだと思っておこう。

時間と費用を節約したい場合は、高速鉄道の夜行列車を利用する方法もある。
昼間の「復興」号より時間はかかるが、寝台でも料金は安くなることが多い。
ただし、日本やヨーロッパのような貸し切り個室寝台車はない。

(参考)高速鉄道の寝台車
写真は北京~香港の夜行「復興」号
スポンサーリンク

乗車記

巨大な上海虹橋駅は空港の近く

上海観光1日を終えて、いよいよ私にとっての本番、高速鉄道旅行が始まった。
今回乗る列車は上海虹橋駅8時発広州南行きの「復興」号。
中国の鉄道旅行は初めてなので、余裕を持って1時間前の7時に地下鉄の虹橋火車站駅に着いた。
「高鉄」(高速鉄道の意味)と書かれた案内表示に従って歩き、チケット代わりのパスポートを提示して、簡単なX線荷物検査を経て待合所(コンコース)へ進んでいく。
上海虹橋駅は実に巨大で、鉄道駅というよりは都会の空港のようだった。

上海虹橋駅の待合所

ホームに出られるのは出発20分前に改札が始まってからだ。
またパスポートをチェックされて、下りエスカレーターでホームに降りていく。
眼の前には、東京駅新幹線ホームを3倍くらい大きくした空間に様々な高速列車が並ぶという、実に壮観な光景が広がっていた。
私は少年のように目を輝かせていたはずである。

広州行きの「復興」号は「スマート編成」と呼ばれる新型車両だった。
シルバーの車体に赤と金色の線が波状に描かれていて、いかにも中国人が好きそうなデザインだ。
なお、「復興」号には多種類の編成が存在するが、「スマート編成では1等席や商務席がグレードアップされる」くらいの認識で十分である。
私のように2等席を利用するなら、一般客にとって車種などどうでもよい。
発売開始となる15日前に予約した結果、最前列の3列席窓側(日本で言う1A席)だった。
2列席窓側(日本で言うE席)を希望していたのだが、閑散期でもなかなか希望通りにはならない。

「復興」号のスマート編成

最高速度350km/hでも快適

定刻8時に上海虹橋駅を出発。
巨大な駅から出てきた幾つもの線路が、方々に散っていくダイナミックな光景は見事だ。
天気というより空気質の問題か、空は霞んでいて視界はあまり良くない。
発車直後だけは周りで電話をする人が結構いてやかましかった。
デッキに出て通話する人もいるが、客室とを隔てる自動ドアが事実上開放状態になるので、やはり話し声が漏れてくる。

上海虹橋駅から45分で杭州東駅ハンチョウドン(Hangzhoudong)に到着。
中国の中でもかなり大きな古都で、この駅で多数の乗り降りがあった。
なお日本語読みすると、杭州ハンチョウ広州クワンチョウは同じ「コウシュウ」になるので注意しよう。
杭州東駅を出てすぐに銭塘江という川を渡った。
中国の大河の河口部というのは、もはや湖か海峡のように感じられる。

さて、お待ちかねの最高速度350km/h運転を行う区間はここからである。
加速は東海道新幹線の車両と比べるとゆっくりだった。
スマホのスピードメーターアプリがなぜか機能しないので、客室上部にあるモニターで時々表示される速度を確認する。
ついに350km/hに達した。

言われてみれば確かに速い。
「言われてみれば」と付けたのは、揺れも騒音も予想以上に小さいので、乗っている感覚ではさほど速く感じないからである。
上海空港から乗ったマグレブリニア(最高速度300km/h)の方がずっと速く思われる。
路線の大部分が高架、つまり線路が高い位置に敷設されているので、着陸寸前の飛行機に乗っている感覚に近い。

内陸部の乾燥した大地には水田はほぼなく、畑も日本と同様に粗放的で小さなものだった。
あまり工場も見かけない。
この辺りは海岸部の都市と比べると貧しい地域なのだろう。

ワゴン販売の弁当は高いがボリュームあり

11時頃になるとワゴン販売で弁当を売りに来た。
適当に指さして注文すると、弁当箱を3つも渡された。
「いや、1個でいい。」と言うと、「これが1個だ。」とのこと。
おかずが2段、ご飯が1段より成る、ボリュームたっぷりの3段重ね弁当だ。
値段は80元(≒1600円)で、数種類ある弁当のうち最も高い商品だった。
なお、中国で80元のランチとなると贅沢な部類に入る。

弁当の内容は牛肉と海老、野菜炒めなど。
味の方もなかなか美味く、少なくとも機内食なんぞよりはずっと上である。
ちなみに、「復興」号には「食堂車」が連結されているが実際はただの売店なので、何か買いたいものがあればワゴン販売を待っていればよい。
在りし日の東海道新幹線の車内販売よりも通りかかる頻度は高い。

車内では、乗務員がワゴン販売以外でもモップ掛けやごみ回収のためによく巡回している。
そのため、「意外と」と言っては失礼だが客室やトイレは清潔だった。
ヨーロッパの乗務員は明るくフレンドリーでよく雑談をしているが、中国の乗務員は働き者である。

昼食を終えた頃、車窓は赤い土、背の低い木、そして洒落た家と、南イタリアかスペインを思わせる風景になっていた。
新幹線ほどではないが、トンネルを度々通過する。

長沙南駅チャンシャーナン(Changshanan)より、これまでの東西を結ぶ路線から南北を繋ぐ路線に入る。
この路線は北京や武漢(内陸部で有数の大都市。新型コロナで有名になった。)から広州方面へ向かう列車も乗り入れる大動脈なので、対向列車とよくすれ違った。
相対速度700km/hのすれ違いだが、ショックはさほどでもない。
列車の速度はずっと320km/hから350km/hの間を保っている。
慣れてくると、日本・ヨーロッパ最速の320km/hと350km/hの違いが明らかに分かるようになった。

トンネルを抜けると南国だった

長めのトンネルを抜けると、また景色が一変した。
耕作地は水田が多くなり、植生も南国風のものになった。
そして何より日差しが明るい。
どことなく東南アジアを思わせる風景である。
上海を出発してから既に1000㎞近く走っている。
これがヨーロッパだったら、幾つの国境を越えているだろうか?

広州の市街が見えてくると、あちこちからの路線が集まってきた。
並走する高速列車を追い抜くというひとコマに出会えるのも、中国ならではである。
14時39分、時間通り終点の広州南駅に到着。
初めての中国高速鉄道ということで、色々と感心しているうちにあっという間の6時間半だった。

広州南駅付近
前方を走っているのは日本の新幹線をベースにした「和階」号

12月中旬だというのに気温は25度。
空気が湿っていて日本の夏のように蒸し暑い。
地下鉄に乗ると、車内は冷房がよく効いていて涼しかった。







コメント

タイトルとURLをコピーしました