全線復旧した南阿蘇鉄道の普通列車で立野駅から高森駅へ【車窓や絶景ポイントを紹介】

私鉄

雄大な阿蘇山の麓を走る、いじらしいローカル鉄道が熊本県にあります。
南阿蘇鉄道は豊肥本線の立野駅から高森駅までの約18㎞を結ぶ鉄道路線です。
2016年の熊本地震以来7年ぶりとなる2023年7月に、全線復旧を果たしました。

全線開通から1カ月半ほど経った2023年9月上旬、立野駅と高森駅の間を往復しました。

中央の緑線が南阿蘇鉄道
黒点が始点の立野駅
国土地理院の地図を加工して利用
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【車両】普通列車はロングシートが多い

南阿蘇鉄道では全線復旧に合わせて最近新型車両が導入されたようです。
実際に私が乗ったのも新型車両でした。

車内はローカル私鉄らしからぬロングシートです。
もっとも、乗車時間が30分程度と短いので気になるほどでもありません。
木目調の内装のためか、都会的な雰囲気の中にも自然な印象があります。

南阿蘇鉄道の車内

立野・高森間の運賃は490円です。
時刻表は南阿蘇鉄道のホームページで確認できます。
一部の列車は豊肥本線の肥後大津駅まで乗り入れています。
土日祝日(冬季除く)にはトロッコ列車「ゆうすげ号」が運行されています。
運賃込みで片道1,500円で利用できます。

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【乗車記】開幕直後が車窓クライマックス

熊本駅からおよそ1時間。
電車とディーゼルカーを乗り継いで、南阿蘇鉄道の始点、立野駅たてのに到着です。
豊肥本線の列車はこれより外輪山をスイッチバックしながらよじ登り、火口原の阿蘇谷へと向かうのです。

JR線のホーム隣に新しい駅舎があり、南阿蘇鉄道の乗り場は1階です。
切符売り場は無く、下車する時に車内清算します。

駅舎の2階はログハウスのような広々とした空間で待合室もあります。
とはいえ、トイレ以外の設備は無く、風通しは良いのですが室内にエアコンも無いので暑かったです。

導入されたばかりの新型車両に乗車します。
まだ新車の香りが漂っています。
往路で利用したのは立野駅12時7分発の便で、団体客などの利用も無く、発車直前に乗っても充分座れる混み具合でした。

スマートなエンジン音を鳴らしながら出発。
走り出したゾクゾク感がまだ収まらぬうちに、右手に立野ダムが見えます。
いきなりこんな光景に出くわすとは、まるで黒部峡谷鉄道のようなアトラクションです。

あっけにとられていると、すぐに今度はスリル満点の第一白川橋梁を渡ります。
新しく架け替えられた高さ60Mの橋です。

運転士(ワンマン運転なので車掌はいない)が「橋からの景色をお楽しみください」とアナウンスし、1両編成の列車は橋の途中でしばらく停車します。
そして、再び動き出すとそのままトンネルに吸い込まれました。

左手
右手

実に衝撃的に始まった南阿蘇鉄道の旅ですが、これ以降はずっと穏やかな南阿蘇の火口原を走ります。
計算高いオペラの序曲のような展開です。
段々状になった水田は少しだけ黄色づき、左右には尖った山や丸く裸の山が連なります。
序盤のようにアドレナリンが分泌される景色ではありませんが、決して退屈な車窓ではありません。

南阿蘇水の生まれる里白水高原みなみあそみずのうまれるさとはくすいこうげんに到着。
これはれっきとした正式な駅名です。
「この駅は少し前までは日本一長い駅名でしたが、今では3番目か4番目になってしまいました。」
と車内放送が入ります。
「3番目か4番目」という言い方で吹き出しそうになりました。

なお、熊本は水資源に恵まれており、サントリーのプレミアムモルツの工場もあります。
そして何と言っても近年、あの半導体製造の世界大手TSMCが熊本県に工場を建設することが決まったのも、要因の一つには豊富な水資源の存在があります。
熊本の景気の良さに乗じて、駅名も「お米と半導体をつくる南阿蘇水の生まれる里白水高原」にでも変えて、日本一を奪還してはどうでしょう。

客層は私のような不要不急の記念乗車組ばかりでなく、地元の人や会社の人も結構いました。
「天気が回復してきたので今は阿蘇中岳がよく見えています。」とまた放送が始まります。

多くの鉄道ファンと違って、私は基本的に車内放送が嫌いです。
幼稚園児を引率する先生のようなことを乗客に騒々しく説教して、それを(片言の)英語でもやるのでたまったものではありません。
しかし、マニュアル音読大会ではない、乗務員の自発的な放送は聞いていても不快になりません。

そんな調子で終点の高森駅に到着。
たいてい盲腸線(終点が他の線と接続していない路線)のローカル線の終点は「果て」の雰囲気があるものですが、高森駅はむしろ立野駅より開けています。

駅には切符売り場(団体またはJR直通切符のみ販売)を兼ねた売店があり、お土産やホットコーヒー・そしてアルコール飲料も売っています。
高森駅周辺には徒歩圏内にレストランが幾つかあります。
歩いて10分くらいの洋食レストランで、常連客の熊本弁を聞きながら食べる赤牛のハンバーグは美味しかったです。

売店でコーヒーを買って、後で帰りの列車に乗る時に地ビールも買いに来る旨を伝えたところ、駅員が「それじゃあ、それまでの間冷やしておきましょう。」ということで、戻って来た頃にはレッドエールがいい感じに冷んやりした温度になっていました。

帰りの列車は団体客で混雑していました。
復旧した南阿蘇鉄道全線乗車が組み込まれたバスツアーのようです。
5分前に乗車しましたが座れませんでした。

高森駅の売店で冷やして開栓してもらった地ビール

帰りの便の運転士は行きの運転士よりもさらに饒舌で、「このあたりは鹿がよく出ます。もし見かけたら鹿さ~んと声を掛けてみてください」と、車掌業務はおろか観光案内すら逸脱した放送で乗客の笑いをとっていました。
安全運行に支障無い範囲でやっていただいているなら結構なことです。

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廃止の危機を何度も克服してきた線路

南九州のローカル線の途中駅から延びる小さな私鉄、沿線に知名度の高い観光スポットは無し。
南阿蘇鉄道の環境は客観的にみて厳しいものです。
しかし、この鉄道には悲壮感はなく、過疎化・少子高齢化を感じさせない、若い職員たちの生き生きとしたサービス精神が何より印象的でした。

実は、南阿蘇鉄道は廃止予定だった国鉄高森線を1986年に承継した会社です。
そして、その年の10月に乗車した宮脇俊三氏も、運転士のお喋り好きについて記しています。(鉄道名所8 曲線勾配の旅)
地域の鉄道を残そうとする沿線の熱意と職員のホスピタリティは、会社創設以来ずっと続いているDNAのようです。

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