復旧したローカル線、スイッチバックのある豊肥本線の乗車記【車窓・ダイヤについて】

ローカル線

豊肥本線は熊本と大分を結ぶ路線で、ローカル線ながら本線の名称を持っている九州の横断線です。
豊肥本線の一番の魅力は、外輪山をスイッチバックを駆使して越えて阿蘇山の麓を走るダイナミックな車窓にあります。
また熊本付近を除けば、ほぼ全線でローカル線らしいムードが感じられるのも特徴です。

私は2020年9月に大分から熊本まで普通列車に乗車しました。
150㎞弱の路線ですが、今回は少し細かく4つに分類します。

  1. 川沿いののどかな風景が広がる大分~豊後竹田
  2. 勾配を登って阿蘇の火口原に達する豊後竹田~宮地
  3. 阿蘇山と外輪山の雄大な眺めを望み、スイッチバックで降りていく宮地~肥後大津
  4. 熊本近郊で電化された肥後大津~熊本
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大分~豊後竹田

徐々に本数が減っていく

豊肥本線のディーゼルカー。
大分駅にて。

この区間では、中判田・三重町と大分から離れるにしたがって、普通列車の本数が減っていきます。
豊後武田まで行く列車(あるいはスジ)は日中だと1~2時間に1本です。
豊肥本線は九州を横断する路線ですが、大分から三重町までは大野川に沿って南下していく進路を取ります。
大分~豊後竹田間の所要時間は約70分です。

川沿いに竹林の風景

高架式の大分駅を出発してからしばらく日豊本線と並走、川を渡ってから分岐します。

まだ大分を出たばかりではありますが、上に架線が無くなったからか、早速ローカル線ムードが漂い始めます。

日豊本線と別れる

車窓が長閑なわりには列車の本数が多いので、途中駅でよく対向列車と行き違います。

大分市の通勤通学圏の割には、駅はこじんまりとしている

若者で混雑していた車内ですが、大分大学前駅で彼らが降りたので一気に空きました。
そんな車内の変化を反映するように、外の景色もさらに山間部となっていきます。
左手に大野川を見ながら進み、周囲には竹林が多く見られます。

谷は次第に深くなりますが、開けた平地に出ると菅尾駅、それから三重町駅に到着します。
三重町は駅近くに旅館もある街です。

なおも川沿いの車窓が続き、白い岩肌がのぞく見事な崖が見えます。

緒方駅からは勾配が急になりトンネルも増えてきます。
山に囲まれた水田と集落の風景、そして灰色の屋根と白い壁の家屋と竹藪からは、しっとりとした風情が滲み出ています。
自称「ニッポンの文化に興味がある」外国人が来たら、この辺りには忍者がいると思うことでしょう。

緒方駅で列車行き違い。
駅はやや荒れているが、周辺の景観は趣がある

急勾配がひと段落したところで、豊後竹田駅に到着します。

豊後竹田駅に到着。
列車進入時から流れる「荒城の月」は一曲まるごと流されるので、乗客が下車した後もしばらく聞ける。

豊後竹田は惜しくも夭折した滝廉太郎(1879~1903)ゆかりの地で、列車が駅に到着すると「荒城の月」が流れます。
ピアノ伴奏付きでたっぷりと歌い上げる独唱とは違って、早めのテンポで淡々と奏でられる無伴奏の女学生による斉唱は、客観的に無情というものを表現しているように感じられます。

駅にある滝廉太郎の胸像

岩山に囲まれたこの駅は駅舎が立派で、待合所も落ち着いた雰囲気です。
近くの滝や川が立てる音、焚火をしている香り、そして大分駅で買ったブラウンエールの地ビールに良く似合う駅です。

城下町らしい豊後竹田駅の駅舎

ところで、この駅の構内は結構広く、ホームの向こうにも線路が沢山ならんでいますが、その多くは茂みに覆われてしまっています。
ご多分に漏れず、車の普及や道路の整備によって、1960年代以降は鉄道の輸送分担率は低下しました。

昔の光今いずこ」。
豊肥本線とて他人ごとではありません。

廃線の草
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豊後竹田~宮地

最も本数が少ない区間

豊後竹田から宮地までは、豊肥本線で最も列車本数が少ない区間です。
普通列車だと4時間に1本くらいで、特急も2020年8月以降は豊肥本線全線を走る列車が減ったので、やはり乗車機会は限られます。
そのため豊肥本線を旅程に組み入れる場合は、この区間を軸に計画を立てる必要があります。
特に、豊後竹田駅で途中下車したくなりますが、その後の列車の時刻・乗り継ぎは要注意です。
宮地までの所要時間は40~50分と、駅の数が少ない割には時間がかかります。

私が乗車したのは9月中旬の日曜日ですが、1つの列車に乗客が集中するためか、普通列車でも観光客風の人で結構混雑していました。

県境を越えて阿蘇へ

豊後竹田を出るといよいよ本格的な登り坂となります。
標高が高くなり、遠くの山なみも綺麗に見えてきました。
また辺りもすらっとした針葉樹林が目立つようになり、車窓の印象がそれまでとは大きく異なります。

ディーゼルカーが唸り声をあげながら一生懸命に走りますが、急勾配のためあまりスピードは出ません。
途中の滝水駅のすぐ手前に大分と熊本の県境があります。
なおも上り急勾配は続き、空と畑が目の前に広がる高原らしい風景になります。

波野駅は九州で一番高い所にある駅で、標高は754m。
ちなみに私は九州で一番高所を走るのは肥薩線かと思っていましたが、こちらの最高地点は矢岳駅の536mと、その印象の割にはそれほど高くありません。

九州最高峰であることをしきりにアピールしている

波野駅から先も上り勾配が1㎞程続いて、ようやくサミットを迎えます。
しばしレベル(勾配のない平坦な路線)の後、少し長い坂の上トンネルに入って今度は下り急勾配です。

線路が縦に曲がっている。
サミットが見えた。

坂の上トンネルを出ても短いトンネルが幾つか続きます。
そして、ブレーキを利かせながら軽やかなジョイント音を刻む列車の車窓からは、トンネルの合間に雄大なパノラマが望めます。
この展開はかなりドラマチックで、多くの乗客が歓声を上げながら進行方向右手の景色に見入っていました。
その山容もさることながら、山肌も特徴的な阿蘇山が左手に近づいてきて、やがて宮地駅に到着です。

はじめはトンネルの合間に見え隠れするパノラマだが、すぐにゆっくりと見えるようになる。
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宮地~肥後大津

蘇った特急「あそ」

宮地駅からは普通列車の本数がやや増えます。
肥後大津までの所要時間は1時間少々です。
また、特急列車ではそれまでの「九州横断特急」「あそぼーい」に加えて、2020年8月の全線復旧に伴い新設された「あそ」が土日には3往復、熊本~宮地間で運転されています。

キハ185系の特急「あそ」。
同じ形式が四国にも存在するが、九州の車両は内装がリニューアルされている。

こうしたダイヤからは、豊肥本線の役割は九州横断線というよりは、熊本からの阿蘇観光路線としての性格が強いことが分かります。
実際に阿蘇観光の拠点となる宮地駅・阿蘇駅からは、口を真っ白にしてソフトクリームを手にした子供を連れたグループが乗って来て、車内はとても賑やかでした。

車窓ハイライトの後は立野駅でスイッチバック

宮地駅で乗り換え時間が1時間半ほどあり、昼時だったのでここで昼食も兼ねて一休みです。
近くのレストランで赤牛のハンバーグを食べて、駅のカフェでコーヒーを飲みました。
そうこうしているうちに天気も良くなり、転車台の向こうでは阿蘇山がより艶やかに映えています。

宮地駅からは阿蘇山がよく見える

宮地駅を出発した列車は阿蘇山の火口原を朗らかに快走し、阿蘇駅からも多くの観光客が乗車しました。

阿蘇駅を出てしばらく、内牧うちのまきくらいまでが豊肥本線の車窓のハイライトだと言えましょう。
前方には外輪山が巨大な壁のように立ちはだかり、左手には阿蘇山が少しずつ形を変えながら、残暑の日差しを浴びて輝いています。
清々しく、そして雄大な景色です。

外輪山が前方にそびえる。
いずれはこの山々を越さなければならない。

枕木が草に隠れている線路ですが、所どころ路盤が真新しくなっています。
この辺りが2016年の熊本地震以来不通になっていて、2020年8月に復旧した区間です。

新しくなった線路

内牧駅からも相変わらず緩やかな下りで阿蘇山の麓を走ります。

火口原は赤水駅で終わり、ここからは急勾配で阿蘇外輪山を下っていきます。
左手には流れの急な川が寄り添ってきます。

赤水駅からは険しい線路となる

険しい地形だけに熊本地震の傷跡も大きく、崖には崩壊した道路が垂れ下がっていました。

生々しい震災の爪痕

深い谷間に道路を架ける工事が行われており、とてもダイナミックな景色です。
列車は恐る恐るブレーキを掛けながら坂を下っていきます。

遥か前方には熊本平野が見えてきてホッとしますが、山越えはまだまだ終わりません。

立野駅は急勾配の合間にあるため、スイッチバックの駅です。
昔は蒸気機関車が長い勾配の途中、ここで水を飲んで力を蓄えていました。
ここが今回の豊肥本線の旅で最後の見せ場といってよいでしょう。
阿蘇観光帰りの子供たちに交じって、私も列車の先頭にかぶりついてスイッチバック式の線路を確認します。

立野駅の前で進行方向が変わる
右の線路を降りて立野駅に着き、左の線路でまた下っていく。

立野駅を過ぎてもなお下りは続きます。
やがて視界が開けてきて市街地に入ると肥後大津駅に到着です。

立野と肥後大津の間にある瀬田駅。
近くで見ていた阿蘇山を今度は遠くに見上げる。
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肥後大津~熊本

電化区間ならではのダイヤ

肥後大津からは電車に乗る

肥後大津からは豊肥本線は電化されています。
ここまで来れば終着の熊本までは約40分程度です。
列車本数も一気に増えて1時間に3本と、都市近郊区間らしいダイヤとなります。
車両はほとんどがロングシートの車両ですがトイレはあり、窓が非常に大きいので外が見やすいという長所はあります。

なお、熊本駅は大きな駅ですが市街中心部からは離れており、ホテルや飲食店が多いのは水前寺周辺です。
もっとも熊本駅から繁華街までは市電などの市内交通を利用するのが一般的です。

住宅地を行き、熊本へ

肥後大津駅を出発すると、電車の加速の速さと滑らかさに驚きます。
客層も若者や学生が増え、都会らしくなりました。
これまでさんざん素晴らしい景色を見てきたので、正直言って今さら車窓を楽しむという風ではありません。
いかにも最近になってできた感じがする光の森駅というキラキラした駅で、たくさんの乗り降りがありました。
新しい街並みに杉並木が整っている箇所があり、竜田口駅あたりは丘陵地帯を走ります。

宅地が進んでいる沿線風景の割には、駅はこじんまりしているように思えます。
熊本の一つ前の平成駅でさえローカル私鉄のようです。

平成駅

白川を渡り熊本市街を迂回するようにして鹿児島本線と合流し、終着の熊本駅に到着しました。

熊本駅に進入する。
市街地中心から離れているせいか、今一つパッとしない。
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災害と復旧を繰り返してきた路線

宮地駅にある豊肥本線災害復旧資料館。
これまでに遭った被害と、それらを乗り越える努力について辿る。

直近の熊本地震に限らず、豊肥本線は幾たびも自然災害によって運休を余儀なくされてきました。
山間部の路線でも海沿いの路線でもそうですが、車窓に優れた路線というのは自然条件が厳しいことが多く、災害の被害を受けやすい傾向にあります。
残念ながら被災後に復旧を断念して、廃止された(またはされゆく)路線も数多くあります。

災害多発地域である、それも数字の上では不採算と呼ばれる豊肥本線を、これまで何度も復旧させた人々には、熊本と大分を結ぶ九州横断線を絶やしたくないという想いがあるのでしょう。
それが言うほど簡単でないことは容易に想像がつきます。

主要幹線に次々と新幹線が開業する中で、残りの在来線(特にローカル線)がぞんざいに扱われがちな近頃ですが、豊肥本線は鉄道の役割・あり方について考えさせてくれる一例と思われます。

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