パリから独仏の狭間のルクセンブルクへ、高速列車TGVで2時間の小旅行

海外鉄道

ヨーロッパの二大国フランスとドイツの間にある小国ルクセンブルク。
東京都より少し広い面積の国土に70万人弱の人(島根県と同じくらい)が暮らし、一人当たりGDPが約15万ドル(日本は3万6千ドル程度)と、世界で最も豊かな国の一つである。

首都のルクセンブルク市へは、フランスの誇る高速列車TGVでパリから僅か2時間程度でアクセスできる。
何気ない高速列車の小旅行でもその土地ならではの旅模様を感じるものだ。
2026年4月下旬、昼下がりのTGVに乗ってパリからルクセンブルクを訪れた。

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直通列車以外にMetz駅乗り換えもある

2階建てTGV

ルクセンブルク行きのTGVはパリ東駅に発着する。
パリには長距離列車が発着する駅が複数あるので気を付けよう。
所要時間は2時間10分程度で、だいたい数時間毎に運転されている。
フランス国内でもお馴染みのオール2階建てのTGVで、国際列車だからといって車両は特別なことはない。

TGV2等車の車内

ルクセンブルク行きの直通列車以外にも、TGVで途中のMetzメス駅まで行って、そこからローカル列車に乗ることもできる。
接続時間にもよるが、この場合でも所要時間は2時間30分~40分程度とそれほど変わらない。
というのも、Metzから先はTGVも高速線ではなく在来線を走るためだ。
なので、直通列車がない時間帯であっても代替案として十分検討に値するだろう。

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乗車記

ベルリン発の夜行列車「ヨーロピアンスリーパー」でパリ北駅に着いたのが11時半過ぎ。
ルクセンブルク行きTGVが発着するパリ東駅へは歩いて10分もかからない。
駅の売店で昼食のバケットサンドを買い、13時39分発の列車を待つ。

パリ東駅

フランスでは出発の20分ほど前になってから発着するホームが判明する。
ホームの手前でチケットのQRコードを見せて列車に乗り込むことができる。
なお、この手続きは出発2分前に終了するので、ギリギリで飛び込み乗車はできない。
そういえばこの日も、直前に駆け込んできたものの係員に制止され、泣きそうな顔で出発する列車を見送るカップルがいた。

乗車前の検札

昼間の便にもかかわらず列車は混んでいた。
定刻にParis Est駅パリ東を発車。
結局昨夜ベルリンを発って2時間だけパリに滞在した後、再び私は東を目指すわけだ。
落書きと瀟洒なマンションが同居するパリの街並みはすぐに尽きた。

昼食後ともあって眠気に襲われる。
おまけに前の列の人がブラインドをほとんど閉めてしまい、外の景色も見れなくなった。(窓が大型で2列に跨っている)
これではいけないと自らを奮い立たせ、バー車両(軽食堂車)に向かう。

2022年10月

バーの乗務員はとびきり甲高い声をした黒髪のラテン系の明るい男性だった。
彼にカプチーノを注文しただけで、カフェインを摂取したように頭は冴えわたってしまった。
緑と黄色と灰色の波打つ海原をTGVは320km/hで航行する。
乗り心地は良いが、丘陵地のアップダウンが激しいので重力の変化を強く感じる。

バーには様々な言語が飛び交っている。
意外と一番よく聞こえたのは英語で、それに続いてフランス語、時々ドイツ語も耳にした。
ところでルクセンブルクの公用語であるルクセンブルク語は、言語学的には「ドイツ語の方言」と言われる。
しかし、挨拶(旅行者はそれくらいしか理解できない)の幾つかはフランス語によく似ていて、「ありがとう」が”merci”(フランス語と同じ)、「さようなら」が”addi”(フランス語は”adieu”)となる。
だからフランス語はほとんど理解できない私が聞きとったフランス語は、実際はルクセンブルク語であった可能性も高い。
いずれにせよ、言語一つとってもドイツとフランスに挟まれたルクセンブルクという国の特殊性が分かる。

高速線を降りて在来線を走る。
パリから1時間半弱でMetz駅メスに到着。
駅前には蒸気機関車時代の給水塔を見かけた。
あまりに大きく優美なので、イスラム建築のミナレットかと思ったが、たしかに給水塔跡のようだ。

車窓もこれまでのフランス風の広大な農地から、モーゼル川沿いに並ぶ木組みの家や古い工場など、ドイツ・鉱工業を思わせる風景へと一変する。
ここはフランスとドイツが石炭資源をめぐって取り合ったロレーヌ地方である。
19世紀後半から20世紀半ばまでの石炭・鉄鋼業は重工業時代の主力産業で、今のAI・知識社会における半導体のような存在だったのだ。

相変わらずバーではトランプをする人、パソコンで仕事をする人、談笑する人たちがいる。
フォーマルな背広を決めた男性はルクセンブルクの金融マンだろうか?
乗務員のカウンターテナーの歌声を聞きながらゆったりとした時間を過ごしていると、ドイツとフランスの緊迫していた歴史も遠い過去なのだと思えてくる。

フランスとルクセンブルクの国境付近には、コンテナや車・石油を積んだ貨車が沢山停まっていた。
消費財の生産に限界がある小国にとって重要な物流センターなのだろう。
いくらルクセンブルクが金融業で栄えているからといって、実体のあるモノなくして生きることはできない。

5分遅れで終着のLuxembourg駅ルクセンブルクに到着。
駅舎は重厚なクラシックな建物だったが、その外縁部には近未来的な曲面ガラスが取り付けられていた。
まるで歴史的建造物を活用した現代美術館にいるようだ。

新旧、そして独仏の融合したルクセンブルクの姿は、観光する前から2時間の列車旅にも映し出されていたのである。

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