飛鳥は日本の礎である。
ここを舞台として我が国は仏教を取り入れ、律令制度を整えて天皇中心とした国づくりを進めた。
2024年9月上旬、大阪から近鉄特急に乗って飛鳥まで日帰り旅行をした。
飛鳥・吉野に行く近鉄特急には一般車両の他に「さくらライナー」と「青の交響曲」の2種類が走っている。
行きは前者、帰りは後者を利用し、その間に飛鳥をレンタサイクルで散策した。
本記事は行きの「さくらライナー」の乗車記である。
料金が手頃なデラックスカーはおすすめ
飛鳥・吉野方面への近鉄線は大阪阿部野橋駅を始点としている。
この駅は天王寺駅のすぐそばにある。
他の路線と違って大阪難波駅や上本町駅ではないので要注意だ。
特急だと大阪阿部野橋駅から飛鳥までが40分、終点の吉野まで80分程度の所要時間である。
「さくらライナー」は吉野行き特急の一部で運転されていて、角ばった印象の一般型特急車とは対照的に軽快な流線型の車両だ。
所要時間や料金は変わらないが、この列車にはJRのグリーン車に相当する「デラックスカー」が連結されている。
また運転席の後ろには展望スペースがあって、誰でも自由に前面のパノラマを楽しむことができる。
どの便が「さくらライナー」かは時刻表に明記されている。
平日と土日でダイヤが大きく異なるので気を付けよう。
この路線の特急料金は一律520円、デラックスカーの特別車両料金は210円。
普通の車両でも十分快適なのだが、僅かな追加料金でアップグレードできるデラックスカーは、個人的にはかなりお得だと思う。
特急券の予約購入は近鉄の公式サイトから行うことができる。(会員登録不要)
チケットレス特急券なので駅で発券する必要もない。
さくらライナーで飛鳥へ
朝ラッシュに揉まれながらJR天王寺駅に到着、目の前に建つ「あべのハルカス」の真下が大阪阿部野橋駅だ。
乗車する「さくらライナー」は8時10分発。
まだ少し時間があるので改札内でうどん屋で朝食をとった。
関西でうどんを食べると、東京ではあんなに辛いそばを食っていたのかと思う。
出発間近になってから流線型の「さくらライナー」が入線。
車体は白く、下の方は桜を思わせる淡い上品なピンク色になっている。
登場したのが1990年と民営化直後の世代だが、外観も車内もリニューアルされていて古さを感じさせない。
デラックスカーは2&1列の座席にフットレスト付きと、JRのグリーン車に匹敵する設備である。
側面窓も上下左右に広々としている。
乗車券・特急券の他に210円の特別車両券で利用できるので、ちょっとした贅沢を味わえる。
もっとも、大阪から平日の朝早くにわざわざデラックスカーに乗る人は少ないようで、車内は閑散としていた。
デラックス席に身を任せながら住宅密集地を過ぎていく。
古市駅を通過した頃に展望スペースを訪れた。
ここには腰掛が設置されていて、大型の前面窓から景色を楽しめる。
ちょうど大阪府と奈良県の境の山地を越える所だった。
乗客にとっては良いことだが、運転手は四方をガラス窓に囲まれて落ち着かないのではないかとも思う。
奈良県に入って盆地が広がった。
実りを迎えた季節、緑色を敷いた田んぼの絨毯の向こうには青垣のような山脈が横たわっている。
平凡さの中にも神々しい情感が車窓には漂っていた。
奈良盆地南部の要衝である橿原神宮前駅からは上り坂となるが、すぐに目的地の飛鳥駅へ8時50分に到着。
たった40分しか乗車できなのが勿体ないくらい快適だった。
飛鳥駅はその歴史的重みにもかかわらず、特に何の変哲もない無人駅であった。
名残惜し気に列車を見送る。
「さくらライナー」は懐かしいモーター音を響かせて吉野へ去っていった。
リニューアル効果もあって古さは感じないのだが、乗降扉がスライド式ではなくバスのような折り戸であったりと、この車両にはレトロな要素もある。
登場した時期(1990年)も、国鉄水準からJRの新型車両へと技術的に大きく進歩していく頃である。
つまり、「さくらライナー」は新旧の過渡期に位置する車両なわけだが、それは飛鳥にも当てはまるのだ。
そのことを確かめるべく、レンタサイクルを利用して飛鳥を観光する。
駅でトイレを済ませて改札を出ると、日差しが幾分強くなっていた。
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