南九州のワンマン特急「きりしま10号」自由席の乗車記【車窓の左右・混雑具合など】

幹線

南九州の二県都・鹿児島と宮崎を結んでいるのが特急「きりしま」です。
運転区間も列車名も焼酎が似合うこの特急は、晴れた日には豪快な車窓を存分に楽しませてくれます。

2024年2月上旬、鹿児島中央駅から宮崎駅まで「きりしま10号」の自由席に乗車しました。
本記事では「きりしま」の概要や乗車記の他、おすすめのチケットや設備についても解説します。

スポンサーリンク

鹿児島から宮崎まで所要時間は約2時間

鹿児島市の中心の鹿児島中央駅から宮崎駅までの所要時間はおよそ2時間です。
距離が126㎞ですから特急としてはあまり速くありません。
全線単線で最高速度も多くの区間で85km/hに抑えられているためです。
途中で霧島神宮や都城を経由します。
運転本数は1~2時間毎、1日8往復設定されています。(早朝・深夜には鹿児島県区間のみ便が1往復あり)

青線が「きりしま」の運転経路
国土地理院の地図を加工して利用

「きりしま」には787系というグレーの重厚な車両が使われています。
1992年に登場した古めの車両ですが、内装もシックな雰囲気です。
4両編成で鹿児島寄り先頭車がグリーン車と普通車指定席、残りは普通車自由席です。

なお、JR九州では「きりしま」を含む4両編成の特急列車はワンマン運転となっており車掌は乗務していません。
ただし警察官が車内を巡回していることはあります。(悪質な無賃乗車の動画の影響か?)
もちろん不審者がいないか確認しているだけで検札はしません。

国鉄時代なら間違いなく労組が全力でワンマン化を阻止したでしょうが、合理化と人手不足の時代では割とすんなり受け入れられたようで、この種の取り組みは今後も全国に広まっていきそうな気がします。

スポンサーリンク

「きりしま」の車内

普通車の車内と座席

特急きりしまの普通車の車内
普通車の車内
奥がグリーン車の客室

カーペット敷に蓋つきの荷物棚、そして落ち着いた色調の座席と、外観からイメージされる通りの高級感のあるインテリアです。
車両によって座席の柄が異なります。

特急きりしまの普通車の座席
普通車の座席

本節の写真は1号車の指定席ですが、窓側にコンセントが付いています。
しかし自由席にはコンセントはありません。

グリーン車の車内と座席

特急きりしまのグリーン車の車内
グリーン車の車内

1号車の運転台寄り半分を占めるグリーン車は、何処かレトロ調に思える内装です。
横3列のどっしりとした座席に座ると、古民家の洋風応接間にあるソファに腰を下ろしている気分になります。

特急きりしまのグリーン車の座席
グリーン車の座席

コンセントが無いが、混雑しない自由席がおすすめ

「きりしま」では指定席よりも自由席をおすすめします。
「指定席の窓側にはコンセントが付いているのになぜ?」と思われるでしょうが、その理由は座席供給量が圧倒的に自由席の方が多いからです。

4両編成のうち2~4号車が自由席、1号車はグリーン車と普通車指定席が半分ずつです。
次章で紹介する「九州ネットきっぷ」では自由席も指定席も同じ値段なので、それならばと指定席を選んでしまいがちですが、グループ利用でもあれば狭い指定席は結構混雑してしまいます。
「きりしま」の自由席は概して空いているので、敢えて座席指定をするメリットはほぼありません。
一般的に鹿児島寄りの区間ほど相対的に混雑しています。

車内販売・自動販売機はない

JR九州の特急(観光列車除く)では車内販売は廃止、さらには自動販売機も撤去されています。
「きりしま」の運転区間は全線単線ですがダイヤが上手くできており、安心してホームの自販機で買い物をできるようなタイミングもありません。

スポンサーリンク

予約は九州ネットきっぷがおすすめ

予約はJR九州のサイトから行うことができます。
「九州ネットきっぷ」だと定価の半額近くで購入することができます。
また割引率は落ちますが、グリーン車にも割引設定があるのも特筆すべき点です。

「九州ネットきっぷ」は写真で紹介した鹿児島中央・宮崎間だけでなく、宮崎・都城間や鹿児島中央・都城間のような途中区間にも設定されています。
また、南宮崎駅を発着にすると「九州ネットきっぷ」の対象外となります。
なので、南宮崎駅を利用する時でも切符は宮崎駅発着にした方がオトクです。

JR九州が格安の切符を販売している理由は、もちろん競合の高速バスに対抗しているためです。
なお鹿児島・宮崎間のバスは利用者減少のため運行を休止しています。
これは「きりしま」にとってもライバルが脱落したと喜んではいられない、南九州の厳しい経営環境を反映しています。

スポンサーリンク

乗車記:景色が良いのはまず右、その後は左

2月上旬の昼間、晴れ渡った鹿児島の気温は20度近くにまで上がりました。
鎖国時代の薩摩藩の留学生の群像と観覧車が、南国の青空に向かってそびえ立っています。
駅にはスーツケースを持った観光客が多数いました。

今回乗車するのは鹿児島中央駅を11時50分に出発する「きりしま10号」です。
自由席の乗車率は半分弱、狭い指定席はほとんど埋まっていました。
鹿児島発の場合、まずは進行方向右側の座席を確保しましょう。
後に左側に移るので、できれば通路の反対側も空いている席が望ましいです。

鹿児島中央駅を出発。
人口60万人の都市にもかかわらず、すぐに山が迫って城山トンネルに入ってしまいます。
この辺りはシラス台地が張り出しているため、鹿児島の市街地は東西ではなく南北に発展しています。

鹿児島駅は海の傍で、その向こうには早速桜島のお出ましです。
ここは名前の割には小さな駅で、乗って来る人もほとんどいません。
後ろの客が「ここ東鹿児島とかに駅名変えればいいのにね。」と話しているのを聞いて、私も確かにそうだなと思いました。

第一の主役登場に合わせ、私も芋焼酎の準備をします。
「きりしま」が繋ぐ「芋焼酎二大国」の鹿児島と宮崎では、鹿児島の方が「芋臭い」ものが多いです。
もちろん悪口で「芋臭い」と言っているのではなく、その個性を褒め称えているのです。
減点法ではなく加点法。
皆さんもそう思われませんか?

さて、ここからしばらくは錦江湾に沿って走ります。
周りの客も「よう噴火しとるな」とつぶやいたように、正面で噴煙を上げる桜島は絶好調のようでした。
もっとも住民にとっては迷惑なのでしょう。
ともかく、錦江湾・檳榔樹・桜島の組み合わせこそ鹿児島を象徴する風景です。

そして天気の良いこの日は、後方に延びる薩摩半島には綺麗な円錐型をした、薩摩富士こと開聞岳かいもんだけがちょこんと見えるではありませんか。
錦江湾に堂々と横たわって煙を吐く桜島と、薩摩半島の南端にちょこんと立つ開聞岳は実に対照的です。

そして今度は前方にもっこりとした霧島連邦が見えてきます。
鹿児島・宮崎を代表する山をまとめて3つも拝むことができて、昼食前にもかかわらず焼酎が進みます。
列車の由来である霧島連邦とは、今後断続的に長い付き合いになります。

やがて錦江湾から離れて平地に出ます。
列車のスピードが上がりますが、単線で線路規格は高くないのでよく揺れます。
遠ざかっていく桜島の噴煙が、まるで我々に手を振っているようです。

隼人駅はやとに停車する手前で通り過ぎる、石の塔が建った公園が隼人塚です。
隼人族とは古代の大隅半島に居住した勇武な民族で、大和朝廷に対して反旗を翻したこともありました。
「日本人」の成り立ちについて考えさせられます。

沿線人口が多い国分駅までの各停車駅で降りる人をちらほら見かけます。
国分駅を過ぎると列車は勾配を上り始め、車窓右側の国分平野がどんどん下に離れていきます。
この「離陸」が一段落したら、進行方向左側の座席に移動しましょう。

トンネルを幾つか抜けると左眼下に霧島川のつくった谷が広がります。
杉並木に遮られがちで見過ごしやすいですが、南九州の力強さを感じるパノラマです。

そして前方には霧島連峰が見えます。
九州の山はこういう不細工ながら愛嬌のある形をしたものが多い気がします。

霧島神宮駅で降りる人が一定数いました。
その後も上り勾配が続きます。
サミット近くで、駅名がほとんど消えかけた北永野田駅を通過。

今度は急勾配を下っていき、都城盆地に出ます。
サミットが県境ではなく、盆地の西端で宮崎県に入ります。

都城駅みやこのじょうに到着。
畜産業と芋焼酎の生産で名高いこの都市は、ふるさと納税の寄付金額が全国一です。
ちなみに繁華街は一つ手前の西都城駅の方が近いので、飲み歩きたい方はこちらのエリアに宿泊した方が良いかもしれません。

また都城は島津家発祥の地で薩摩との繋がりが強く、そうした歴史的背景もあってか都城駅で降りる人が多数いました。
今や車内は閑散としています。

都城島津邸

なおも霧島連峰を仰ぎながら盆地を走ります。
そろそろ山に差し掛かろうかという頃に後ろを振り向くと、遠方で桜島が以前よりも勢いよく噴煙を上げています。
まるで発煙筒で自らの存在を我々に知らせてくれているようです。

二回目の山越えでは川を何度も渡ります。
一段落して一旦開けたかと思うとまた山に入ったりと、宮崎市内まではせわしない車窓が展開します。

南宮崎駅はバスターミナルに近いですが、駅自体はさほど大きくありません。
そして最後の仕上げとして、大淀川をゆったりと渡ります。
川沿いには亜熱帯植物が並び、南国宮崎を訪れた人を歓迎してくれます。
ここは昔から撮影地として有名な所です。

陽光の降り注ぐ宮崎駅に到着。
県庁所在地ながら案外こじんまりとした駅で、人口規模以上に鹿児島中央駅との格差を感じます。
新幹線が無く在来線も貧弱なため、福岡や本州へは鉄道がほぼ利用されていないのです。

駅にある立ち飲み屋へ行くと、「キャンプを見に来たんですか?」と質問されました。
どうやら2月はあちこちの球団が暖かい宮崎でキャンプをするため、それを見に来る客でホテルが値上がりするそうです。
実際にオフシーズンにしてはかなり高かったので、そういうことかと納得しました。
おすすめの芋焼酎を持ってきた店員さん曰く、
「2月には宮崎に来ない方がいいですよ。」

スポンサーリンク

まとめ

「きりしま」運用に就いている787系は特急「つばめ」(博多~鹿児島中央)用に造られた車両で、今は日豊本線(小倉~宮崎~鹿児島)南端のローカル特急に「左遷」された状態です。
しかし、このどっしりとした787系のイメージは鹿児島と宮崎を結ぶ特急にはよく合っているのではないかと思います。

写真はイメージです

それはともかく、「きりしま」の車窓の醍醐味は、寂し気な山間部や渓谷の風情ではなく、おおらかな山を拝んだり盆地を見渡す豪快な景観にあります。
そのため天気が雨や曇りだとその魅力が半減していしまいます。
以前「きりしま」に乗った時は桜島や霧島がよく見えなかったという人は、是非再チャレンジして南九州を味わってください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました