予土線は土佐くろしお鉄道の若井駅(窪川駅の隣)から北宇和島駅(宇和島駅の隣)を結ぶ路線です。
予土線の列車は土讃線の終点である窪川駅から、予讃線の終点の宇和島駅までを運行しており、四国の二大幹線の終着駅を繋ぐ役割を持っています。
とはいえ、予土線は優等列車の設定は無く、純然たるローカル線の趣が感じられます。
本記事では予土線を途中の江川崎駅で分割して説明していきます。
その特徴をざっくり示すと、
- 四万十川沿いの風景が広がる窪川~江川崎
- 田舎の集落をガタゴト走るローカル私鉄風の江川崎~宇和島
それでは、それぞれの区間の魅力を探っていきましょう。
四万十川の清流の車窓、窪川~江川崎
窪川駅は土讃線の終点ですが、土佐くろしお鉄道中村線(以下中村線)がここからさらに西へ伸びているので、実質的には途中駅といったところです。
窪川駅から次の若井駅までは中村線の線路なので、青春18きっぷ利用客も1駅分の運賃210円が必要になります。
窪川駅を出るとすぐに進行方向右手に、四万十川の支流である仁井田川が現れます。
若井駅を出てしばらくは中村線と共用区間で、途中の川奥信号場で正式な予土線の線路が始まります。
信号場では直進する線路と右にカーブする線路が分かれます。
路線図から普通に考えると予土線が右に折れるように思えますが、実際は直進するのが予土線で、中村線は右に折れた後ループ線を描いて予土線の線路の下を通って西へ向かいます。
予土線が左側、中村線は右側の線路。
さて、予土線が現在の形になったのは1974年と遅く、この時に若井~江川崎間が開通しました。
それまでは宇和島~江川崎間の線路は「宇和島線」と呼ばれていました。
1960年代以降に建設された路線というのは、ローカル線の一部区間であっても、トンネルを多用したり比較的緩い曲線で敷かれていることが多いです。
廃止された三江線の途中区間もそうでしたし、今回の予土線の若井~江川崎間もその一例です。
家地川駅からは四万十川の清流を見ながら走っていきます。
この日は時折雨が降ったりした天気でしたが、それでも穏やかな流れです。
川の流れは進行方向と同じく、江川崎へと向かっている。
土佐大正駅、土佐昭和駅と縁起の良い駅名が続きますが、この辺りは蛇行する四万十川にあまり従わず、トンネルや橋梁で切り抜けます。
車窓が中断されるのは残念ですが、左右どちらでも川の景色が楽しむことができます。
土佐大正~江川崎間が四万十川の車窓が最も綺麗で、日によってはこの区間にトロッコ車両が連結されます。
四万十川名物の沈下橋も所どころで見られます。
夏休みシーズンには、麦わら帽子を被ったランニング姿の少年が川の中を歩いている、そんな原風景が思い浮かんできます。
このあたりが最も「しまんとグリーンライン」らしい車窓が広がる。
大正・昭和ときたので「土佐平成」を期待したいところですが、次の駅は十川です。
その後も四万十川と共に徐々に標高を下げながら江川崎駅を目指していきます。
ここでしばらく停車する列車も多い。
江川崎駅は予土線の中では主要駅です。
トイレや休憩所・小さな売店がありました。
駅舎の近くで体長80㎝ほどの蛇に遭遇しましたが、駅員は特に驚く様子もなく、慣れた手つきで長い棒のような道具を使って、招かれざる客を遠くに投げ捨てていました。
軽便鉄道時代の名残が残る江川崎~宇和島
予土線は江川崎駅を境にしてその表情が異なります。
比較的新しい時期に建設され線形も良いこれまでの区間に対して、特に吉野生~北宇和島間はナローゲージ(線路幅が狭い)の軽便鉄道として大正時代に開業しています。
江川崎駅の次の西ヶ方駅までが高知県で、その先真土駅との間に愛媛県との境があります。
依然として四万十川の支流に沿って走りますが、川の流れる向きはそれまでの進行方向から逆向きへと変わっています。
これから上り勾配が続くことを意味する。
本章の冒頭に述べた通り、吉野生駅からはかつて軽便鉄道だった路線なので、急曲線が多いのが特徴です。
今までは特急が走っていてもおかしくない規格でしたが、単行気動車がよく似合う線路になってきました。
江川崎からはやや乗客が増えました。
自分が座っていた向かい側には、大きな荷物を持った買い物帰りとおぼしきお婆さんがいました。
マスク着用率の低さ(この乗車記は2020年6月中旬のもの)もさることながら、服装なぞも関東とは一味違った印象でしょうか。
沿線には集落がそれなりに存在しており、駅間もローカル線にしてはかなり短い傾向にあります。
カーブの多さだけでなく、こういった点にも軽便鉄道の名残を感じることができます。
急曲線のため列車の速度がとても遅く、保守にもそれほど手をかける必要もないのか、線路は時々雑草で覆われています。
しばらくこうしたのどかな盆地の風景が続きますが、務田駅からその次の北宇和島駅からその雰囲気は一変します。
集落は尽き、緩やかな上り坂から突如として険しい山道の下り勾配区間が始まります。
その途中には曲線半径160m(数字が小さい程カーブがきつい。一般に主要幹線では400m以上。)という、ローカル線でも珍しいほどの急カーブが介在します。
なかなかスリルのある締めくくりである。
運転席からはブレーキハンドルをこまめに調節する音がガリガリと鳴り響いています。
運転席横の先頭部分にいると、こちらにまでその緊迫感が伝わってきます。
ついに運転手が「一仕事やってのけた」というかのような仕草でブレーキを解除して、視界は開けて街中に出ると北宇和島駅に到着。
この駅で予讃線と合流します。
列車の終点の宇和島駅は行き止まり式の駅で、ここが事実上の予讃線と予土線の起終点です。
これまで川沿いの山間部や盆地を走っていたわけですが、駅前で迎えてくれる南国風の植物が、明るい海沿いにやって来たことを教えてくれているようです。
予土線の普通列車の車両にはトイレはない
窪川から宇和島までの所要時間は2時間~2時間半です。
ところがけしからんことに、予土線の普通列車の車内にはトイレがありません。
幸い各列車は途中の江川崎駅でしばらく停車するので、その間に済ますことはできますが、私のように列車に乗りながらビールが飲みたい人にとっては切実な問題です。
実は私は江川崎駅出発直前になってトイレに行きたくなり、運転手に相談したところ、待ってくれそうな感じではありました。(結局出発時間には間に合った)
また座席はロングシートです。
基本的に空いているので足を延ばせて快適ではありますが、今一つローカル線ムードに欠けるのが残念です。
また通常の普通列車やトロッコ列車以外に、新幹線を模したような「ホビートレイン」も運行されていますが、まあ、私はそんなもので喜ぶ年齢でもありませんので…
ということで、予土線というと清流四万十川の車窓というイメージばかりがありますが、ナローゲージの軽便鉄道時代の趣を留める江川崎以西もこの路線のもう一つの要素です。
陳腐な表現になりますが、「日本の懐かしい風景」が観光地化・商業化されることなく至る所に漂っているのが予土線の魅力です。
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