音楽の都ウィーンと、ショパンの故郷ワルシャワ。
オーストリアとポーランドの両首都を結ぶ夜行列車の名前は「ショパン号」です。
設備の整った寝台車が連結されており、10時間を超える乗車時間でも快適に過ごすことができます。
2023年6月初旬、ウィーンからワルシャワまでショパン号の個室寝台車に乗りました。
※2023年12月追記
ユーロナイト「ショパン」は2023年12月のダイヤ改正からミュンヘン~ウィーン~ワルシャワに経路が変更されました。
これにより、現在のウィーン発は深夜の23時過ぎとなっています。
中欧各地からポーランドの二大都市クラクフ・ワルシャワへ
ウィーン・プラハ・ブダペストを出発して、クラクフ経由でワルシャワまで行くユーロナイト「ショパン号」が毎日運転されています。
これら周辺諸国からワルシャワへは時間がかかるので、時間を有効に使うためには夜行列車がおすすめです。
なお「ユーロナイト」とは列車種別で、「ヨーロッパ国際夜行列車」の意味です。
ポーランドの二大観光都市を押さえていますが、クラクフの発着が深夜・早朝になってしまうので要注意です。
言うまでもなく、列車名の由来はポーランド出身のピアノ作曲家「フレデリック・ショパン」です。
余談ですが、ワルシャワを歩いているとアジア系の観光客の日本人比率が異常に高い(普通はほぼ中国人)ことに気づきます。
市内のショパン博物館を訪れるとその理由がすぐ分かります。
日本人だらけです。
「ショパン号」の編成は座席車・クシェット(簡易寝台車)・個室寝台車から成ります。
ただし、ウィーン発の編成にはクシェットはありません。
グラーツ発ウィーン経由・ブダペスト発・プラハ発の各編成は、合流しながらクラクフやワルシャワへ向かいます。
また、その途中でヴロツワフ(ポーランド南西部の主要都市)経由ベルリン行きの編成を切り離す作業も行います。
日本では見られなくなって久しい壮大な多層階建ての列車です。
寝台車の車内・サービス
「ショパン号」のうちオーストリアとハンガリー発着の編成は、ポーランドの客車が使われています。
一方、プラハ発着の編成はチェコの車両です。
そして、寝台車には普通寝台とデラックス寝台の2種類があります。
普通寝台の車内(ポーランド国鉄)
1~3人用ベッドに洗面台・アメニティーセットが付く一般的なタイプです。
寝台車の料金には朝食も含まれています。
パンやオレンジジュースは乗車前から個室に用意されていて、翌朝車掌がコーヒーを持って来てくれます。
シャワー・トイレ付デラックス寝台の車内(ポーランド国鉄)
車両あたり2部屋しかないデラックス寝台車はトイレ・シャワー付きです。
洗面台がなく、その代わりにバスルームがあります。
なお、デラックス寝台は1~2人用の個室です。
寝台車の車内(チェコ国鉄)
チェコ国鉄の寝台車はオーストリアのナイトジェットの一般的な寝台車と同じタイプです。
基本的な構造はポーランド国鉄の寝台車と似ていて、洗面台も各部屋にあります。
2015年10月
普通寝台とデラックス寝台の違いは、純粋にトイレ・シャワー付きのバスルームがあるか否かだけです。
デラックス寝台も1~3人で利用できます。
食堂車はなし。車内販売は商品が限られる
ショパン号には食堂車等の設備はありません。
一応車内販売として車掌から購入できるものはありますが、水・コーヒー・スナック程度しかありません。
よって夕食は乗車前に済ませ、アルコール類も事前に準備しておきましょう。
なお、これらはポーランド国鉄車両の話です。
プラハ発着のチェコ国鉄車両では、車内販売メニューはアルコールやホットミールなどもあります。
一人用デラックス寝台の乗車記
寝台車利用客はOBBラウンジが使える
いつも通り、夜行列車に乗る前にOBB(オーストリア国鉄)ラウンジで夕食後のコーヒーです。
ウィーン中央駅にあるOBBラウンジではコーヒーやジュースが自由に飲め、Wi-Fi・コンセント・トイレも利用可能と、旅行者にとって完璧なセーフティーゾーンです。
一等車や寝台車の利用客は割引チケットでも入場できます。
コンコース側のガラス窓からは、列車の発車時刻と発着ホームが更新される大きな掲示板が見えます。
今回乗車するワルシャワ行きユーロナイトはウィーン始発ではなく、国内南部のグラーツから来ます。
この日は珍しくオーストリア各地でダイヤが乱れている様子。
デラックス寝台に乗車
頃合いにホームに行くも、5分経つ毎に3分遅延が延びる始末でした。
ようやく列車が滑り込んで来た時には周囲の客と共に「おぉ~」と歓声をあげました。
ポーランドの客車は予想以上に綺麗でした。
シャワー・トイレ付きのデラックス寝台を一人で贅沢に使います。
内装はわりと簡素ですが清潔でした。
注意書きにロシア語(ウクライナ語?)があるのもポーランドらしい感じがします。
30分以上遅れてウィーン中央駅(Wien HBF)を出発。
ショパンの「英雄ポロネーズ」の勇敢な冒頭部分が頭の中で流れ出します。
ポイント通過する時のジョイント音も、両手で低音部の16分音符の音型を5回繰り返す部分とそっくりです。
個室にはテレビとDVDプレイヤーが付いていました。
もっとも操作方法はおろか電源の入れ方さえ分からず、DVDも持っていないので使い道がありません。
そもそも、既に脳内再生が始まっている私には、DVDプレイヤーもYouTubeも必要ありません。
ハンガリーワインを飲んでいると車掌が検札に来ました。
中年の男性であまり愛想が良くありません。
スマホに保存したチケット画面を見せると「プリントしたものはないか?」と聞かれました。
今回の旅行では30以上の列車に乗りましたが、紙を求められたのはこれが最初で最後でした(結局念のためプリントしたものがあった)。
バスルームをチェックしていると、シャワーの水が出ないことに気づきました。
国によってはよくあること(イタリアなど)なので、ポーランドもそうなのかと諦めます。
出発時の興奮も冷め、今やノクターン(夜想曲)が流れています。
外は建物もほとんど無く、何も見えません。
「夜を想う」とは決して消化の良い可愛らしく感傷的なメロディーではなく、何も見えない夜空を見上げる夜汽車の車窓のように静謐で情熱的な内省なのです。
ショパンの最高傑作の一つ、ノクターン13番を聞けば私の言わんとすることが分かっていただけると思います。
クラクフ着は早朝。シャワーは使えたが…
朝6時前にクラクフ中央駅(Krakow Glowny)に到着しました。
ヨーロッパの6月は日照時間が長くて良いのですが、夜行列車では外の景色が気になって寝られないのが悩みどころです。
ところで、昨夜使えなかったシャワーが今朝は使えるようです。
理由は分かりませんが、とにかく朝シャワーです。
睡眠不足など吹き飛ばして陽気に下着一丁でバスルームから出ると、なんと列車は駅に停車中で、目の前のホームでは人々が虚ろな表情で通勤電車を待っているではありませんか。
想像してみてください。
あなたが朝ラッシュの横浜駅で東京行きの東海道線を待っていて、そこに停車したサンライズ出雲の個室「シングルデラックス」内で私のような外国人を見たらどう思うでしょう?
まあ、優雅な経験をしたり偉そうなことを書くことはあっても、海外旅行とは概して泥臭いものです。
気を取り直して、列車はポーランドの平原をひた走ります。
チケット代に含まれる朝食はライ麦パン
しばらくすると車掌がモーニングコーヒーを持ってきました。
昨夜無愛想だった車掌は、一晩経つと英語は不得手ながらも明るい表情をしています。
朝食内容は他の中欧諸国と比べると簡素で、パン・コーヒー・オレンジジュースにチーズやジャム、それにお菓子が付いている程度です。
しかし、何と言ってもパンがライ麦パンなのはポーランドらしい。
この酸味があってモソモソした食感のパンに、やはり酸味があってクリーミーなチーズをのせて食べるのが私のおすすめの食べ方です。(一時期は会社でいつもそれをやっていたので、なぜか上司から帰国子女だと勘違いされていた…)
あいにく平原が続きますが、時々白樺の林を通ります。
やがて殺風景な市街地が現れ、30分遅れでワルシャワ・グダンスク駅(Warsaw Gdanska)に到着です。
「ショパン号」は通常ならワルシャワ中央駅(Warsaw Centralna)を経由しますが、この時は臨時ダイヤでした。
グダンスク駅はパッとしない町外れの駅で、中央駅まではメトロで数駅です。
電気機関車に描かれた民族衣装を着た女の子はマズルカを踊っているのでしょうか?
ワルシャワは実際にはクラクフほど景観が美しい所ではありません。
とはいえ、第二次世界大戦で破壊された街並みを忠実に再現しており、王宮や旧市街広場など見所も多いです。
そんな街並みをにらみつけるように、ワルシャワ中央駅近くにスターリンの建てた文化科学宮殿が聳えています。
2015年10月
予約方法と費用
ショパン号の予約はポーランド国鉄のサイトでできるはずなのですが、私が試したところ途中でエラーが出てしまいできませんでした。
それ以外の方法として、ウィーン発着便はオーストリア国鉄から可能です。
また、プラハ発着便はチェコ国鉄のサイトからできます(むしろ寝台車の予約はポーランド国鉄からはできない)。
ブダペスト発着便に関しても、やはりハンガリー国鉄のサイトではうまくいかず。
ということで、ウィーン発着便はオーストリア国鉄、プラハ発着便はチェコ国鉄のサイトで予約し、ブダペスト発着の場合は手数料を払って代理店サイトを利用するのが良いと思います。
以下、オーストリア国鉄のサイトでの予約方法を解説します。
チェコ国鉄でのユーロナイト予約方法はこちらの記事を参照してください。
列車選択まで
トップページにアクセスして、日付・区間(都市名で可)を入力し、”Book Ticket”のボタンを押下します。
これ以降も赤いボタンで先に進んでいきます。
次の画面では人数を調整し、”Find Service”から”One-way~”を選びます。
列車選択画面です。
選ぶのは乗り換えなしのユーロナイトです。
右側に書いてある金額は座席車の最安値です。
費用は料金カテゴリーと利用する設備で決まる
まずチケットの柔軟性に関わる料金カテゴリーを決めます。
上のSparschineは下のComfortより安いですが、キャンセルは一切できません。
また次で行う設備選択でも、Comfortでなければ選択できない設備があります。
下にスクロールして設備を選びます。
ウィーン発着なのでクシェットはありません。
夜行列車で座席車は快適性・安全性からおすすめできません。
ヨーロッパの寝台車は個室単位ではなくベッド単位で販売されます。
例えば一人で3人用トリプルを予約すると、同性の他者二人と個室をシェアする可能性があります。
個室を貸し切りたい時はシングルで予約しましょう。
個室を貸切らない場合は性別と希望するベッドの上中下を選択します。
寝台車でも60~200€と費用の幅は広い
上の写真では、一番高いデラックス寝台を一人利用して寝台料金は133€です。
この時はSparscieneでは予約できなかったのでComfortの運賃と合わせて合計約200€になります。
また、同じ設備でも寝台料金の部分は料金カテゴリーによって変わります。
デラックス寝台と普通寝台の差額はさほど大きくありません。
むしろ個室をシングルで予約するとダブルに対して大きく跳ね上がります。
とにかく安く寝台車に乗りたい場合は、Sparscieneとトリプルの組み合わせで60€くらいでウィーンからワルシャワに行けます。
最後に名前・メールアドレスを入力して、クレジットカードかPayPalで支払いです。
決済成功するとチケットが添付されたメールが届きます。
乗車記の章で述べた通り、チケットはダウンロードして印刷しておきましょう。
ショパンの故郷、ポーランドへの夜行列車
ワルシャワからウィーンへ発って以来、ショパンは祖国ポーランドに戻ることはありませんでした。
故郷を思い続けた彼の意志を受け継ぐように、ユーロナイト「ショパン号」は毎日両都市を行き来しています。
ショパンがポーランドの誇りであるように、人気都市を結ぶショパン号もこの国を代表する国際列車です。
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