米坂線は奥羽本線の米沢駅(山形県)から羽越本線の坂町駅(新潟県)を結ぶ路線です。
山に囲まれた盆地から険しい行路を経て日本海側へ抜けるという、緩急のコントラストが明確でかつ、ドラマチックさもある路線です。
米坂線の概略を先に示すと
- 米沢盆地の南端・西端をなぞる、米沢~今泉~手ノ子
- サミットを越える険しい山間部、手ノ子~小国周辺
- 束の間の盆地に大きな工場がある、小国周辺
- 再び山間部で県境を越える、小国周辺~越後下関
- 荒川沿いに水田地帯を行く、越後下関~坂町
となります。
2021年3月上旬に、米沢駅から坂町駅を目指しました。
米沢盆地から越後平野へ
急行「あさひ」の末裔、快速「べにはな」も米坂線内は各駅停車
米沢~坂町の営業距離はおよそ90㎞。
全区間通しの列車は1日5往復だけで、所要時間は約2時間です。
その他では米沢盆地内の米沢~今泉・羽前椿で区間列車が運転されています。
車両は東北の非電化ローカル線では定番のディーゼルカーで、通路を挟んで2人用と4人用のボックスシートが並んでいます。
トイレも設置されているので長時間乗車でも安心して飲食ができます。
また、一部には新型車両も導入されているようです。
なお、普通列車だけでなく、新潟発着の快速「べにはな」が1往復設定されています。
しかし、この列車が快速運転をするのは新潟~坂町のみで、米坂線では各駅に停車します。
米坂線は山形県南部の内陸部と日本海側を結ぶ横断線の一つで、かつては仙台・山形~新潟のメインルートを担う急行「あさひ」も運転されていました。
「あさひ」は上越新幹線の速達タイプに使われていた列車名ですが、それまではローカル線急行として活躍していたのです。
「べにはな」はその名残とも言えますが、山形新幹線の開業で山形~米沢が標準軌化(つまり通常の在来線が通れなくなった)されたことで、こうした米坂線の性格は薄れています。
米坂線の車窓
米沢駅を10時29分に発車する坂町行きの列車は、駅の端にある切り欠きホームから福島方面へ向けて走り出しました。
山形新幹線とローカル線の力関係を表しているようです。
発車間際に乗り込んだため、空いているボックス席はなく、最後方のロングシートに座りました。
米沢駅の名物駅弁、牛肉どまん中
米坂線はまず米沢盆地の南端、その後は西の外周付近を辿ります。
南米沢・西米沢の順に駅が続くのはこのためです。
このあたりは左側に山地、右手に新しくお洒落な家が多い市街地が広がっています。
米沢というと牛肉くらいしか思い浮かばない人も多い(私もそうでした)かと思いますが、昔の繊維工業の技術を活かして今は先端技術産業が集積している地でもあります。
成島駅に着く頃には市街地は尽きて、広々とした雪景色となりました。
屋敷林のある散村は心和む風景です。
今泉駅では山形鉄道フラワー長井線と連絡しています。
私はいったんここで下車して、山形鉄道に乗り換えて終点の荒砥まで行って帰って来ました。
今泉駅に戻り米坂線の旅を再開します。
が、その前に昼食を済ませておきます。
米沢駅の駅弁といえば、何といっても「牛肉どまん中」でしょう。
そぼろ煮だけでもかなり食べ応えがありますが、しぐれ煮の方も糸こんにゃくや牛蒡といった「変化球」はありません。
まさに正々堂々とした「直球どまん中」の弁当です。
なお、この駅弁のマリアージュ(大袈裟?)には、山形産の赤ワインがおすすめです。
やや雑味が強かったですが、洗練されたフランスワインにはない野性味も地ワインらしい個性です。
今泉駅で降りた人もそれなりにいた模様で、1本後ろの列車は空いていました。
今泉駅を出た後もしばらくは平地が続きます。
水田の遥か向こうに見えるのは飯豊山でしょうか。
私は雪解けで水浸しになった田んぼは一番殺風景だと思うのですが、虫でも探して集まっているであろう白い鳥が、見栄えの悪さを埋め合わせているようです。
小国駅までの車窓は左手がおすすめ
羽前椿駅を出てしばらくすると盆地も終わり、いよいよ山越えが始まります。
左手に流れる白川が作った深い谷に沿って、勾配を登って行くと曇り空になりました。
分厚い蓋のようになった積雪が、川の流れる部分だけちぎられています。
北の朝日岳と南の飯豊山に挟まれたこの辺りは、人の住んでいる様子もあまりなく、トンネルと橋梁が続く険しい道です。
針葉樹は枝を上向きに伸ばしています。
小さな集落がある羽前沼沢駅に、列車は有難そうに停車しますが乗り降りはありませんでした。
米坂線のサミットは手ノ子駅~羽前沼沢駅の間にあり、ここからはほぼ一方的に下っていきます。
川の流れは進行方向と同じに向きになりますが、列車よりも速いのではないかと思うくらいの急流です。
小国駅で25分停車。
羽前松岡駅あたりで一旦視界が開けます。
山に閉ざされた曇り空の鄙びた景色の中で、突然大きな工場が現れるのは意外です。
小国駅では25分も停車しました。
ここでリュックサックを背負った人が数人降りていきました。
小国駅の駅舎はこのあたりにしては立派なものです。
駅前にも周りに似つかわしくない工場が鎮座しています。
少し駅周辺を散策し、スーパーでまた酒を買いました。
田舎の店がどこでもそうであるように、無駄に広いスペースに中高年向けの婦人服売り場ばかりが目立ちます。
坂町行きの列車を散々待たせた対向列車は新型車両でした。
県境を越え羽前から越後へ。今度は右側の車窓が良い。
盆地も束の間で、その後もすぐに渓谷沿いの車窓になります。
荒川に沿って相変わらず険しい線路ですが、雪はだんだん減ってきたように感じます。
小国駅から3つ目のトンネルを出ると新潟県に入ります。
少し走って着いた駅は早速というべきか、越後金丸です。
曇り空を窺うばかりだった遠くの山地は、ようやく陽光に照らされてきました。
新潟と東北の各県は一体何が違うのだろうかと考えることがよくありますが(特に日本酒を飲んでいる時)、列車旅の車窓に関して一番明白なのは民家の屋根だと私は思います。
一般的に東北地方の屋根はカラフルで簡素な造りが多いのに対して、新潟県では灰色で質実剛健な家が多く見られます。
荒川を右に見ながら、越後平野の水田を走る
越後下関駅あたりで山間部の景色は終わり、いよいよ越後平野に差し掛かります。
水田とゆったりとした川にホッと一息つきながら後ろを見ると、今まで走ってきた山地にはまだ雲が垂れ下がっています。
広大な水田を見るとようやく新潟に来たという実感が湧いてきます。
右手を流れる荒川と同様に日本海に注ぎこむように羽越本線と合流、終点坂町駅に到着します。
観光列車は無いが、車窓の良い路線
米坂線の沿線には格別の観光や車窓の名所はありませんが、渓谷を挟んで盆地や平野、さらには遠方の山岳を堪能できる、総体的に景色の良い路線だと思います。
寧ろ、宣伝文句に惑わせることのないこうした路線こそ、素直に楽しむことができるのです。
山形新幹線開業により奥羽本線の米沢前後の線路幅が変わり、以前のような都市間輸送を担うことは望むべくもありませんが、鉄道の空白地帯が広い山形県にあって、米坂線の存在意義は意外と大きいのではないのでしょうか。
コメント
こんにちは.大阪の伊藤です.
米坂線もぜひ乗車したいと思っていますが,不通ですね…
管理人様がよく発言されているように「風光明媚なローカル線ほど
自然災害の被害を被る」のとおりです(肥薩線などもそうですね)
鉄道を守り続けるにはもはや国民が知恵を絞る時かもしれません…
伊藤英樹様、仰る通りですね。
米坂線は経営体力のあるJR東日本だから何とか、と思っていたのですが、今年の豪雨被害で状況は一層厳しくなったようです。