山形鉄道フラワー長井線(以下、山形鉄道)は、かつての国鉄長井線を第三セクターが運営している路線で、奥羽本線(山形線)の赤湯駅から荒砥駅を結ぶ路線です。
また、途中の今泉駅でJRの米坂線とも接続しています。
この路線は全般的に山地に囲まれた最上川流域の平地を淡々と進んでいきます。
2021年3月に赤湯から荒砥までを往復しました。
山形鉄道の乗車記
トイレが付いている車両と付いていない車両とがある
区間運転の列車はなく、全列車が赤湯~荒砥間におよそ1~2時間毎に1本運転されています。
所要時間は1時間弱で、赤湯~今泉は20分程度です。
また、運賃は全区間だと760円、赤湯~今泉は470円です。
私が乗った車両はいずれもロングシートでトイレもない車両でしたが、一部にはボックス席でトイレも付いている車両があるようです。
米沢盆地を行く
山形鉄道の起点となる赤湯駅は、今や山形新幹線の停車駅。
大きな体育館のような駅舎が特徴的ですが、お土産の他、地酒・地ワインも豊富に販売されていました。
比較的暖かい昼下がりは地元の人もあまり多くありません。
そんな中で学生らしき男女7,8人が、私の予想通りに東京行き「つばさ」に乗り込んでいきました。
駅の隅っこにポツンと停車するのが、山形鉄道の1両編成のディーゼルカーです。
車内は空いていました。
山形鉄道は米沢盆地(長井盆地とも呼ばれる)をずっと走り、車窓風景自体はさほど変化もなく特筆するべきものもありません。
一方で途中駅のレトロな造りは地方のローカル私鉄ならではのもので、なかなかの見物です。
周囲は山地に囲まれ、水田やサクランボ畑が広がっている車窓の図式は、JRの左沢線と非常によく似ています。
梨郷駅を出てからしばらくすると最上川を渡ります。
この橋梁も時代を感じさせる石積みです。
天気が良く穏やかな日でしたが、東北の雪国らしい風景です。
今泉駅ではJRの米坂線と接続します。
ちょうど二次関数のグラフでいう、2つの曲線が接するような形となっています。
米坂線もローカル線ではありますが、山形鉄道と比べるとホームの雰囲気はだいぶ新しいです。
今泉を出てしばらくすると米坂線との分岐点があり、ここはかつて白川信号場と呼ばれていた場所です。
かつて職員が勤務していたであろう小屋を、通りすがりに恐々と覗いてみたのですが、そこまで不気味な感じはしませんでした。
左沢線ほどではありませんが、沿線にはサクランボ畑が見られます。
ずっと平坦な地形が続き、遠くはどこを向いても高い山地です。
眠たくなってきたので、気分転換に赤湯駅で買ったお酒を開けました。
原料の品種の「つや姫」は酒米ではなく食用だったはずですが、丸くチャーミングな割には綺麗な味わいでした。
珍しく近代的な駅舎の長井駅には山形鉄道の本社があります。
後で調べたところ、市役所と一体化された珍しい新駅舎で、2021年5月に開業予定らしいです。
参照:長井市のホームページ
このあたりは市街地が比較的よく発達しているようです。
羽前成田駅には大きな防雪林が並んでいました。
やはり冬の雪はかなり厳しいのでしょう。
沿線は果樹園よりも水田の方がはるかに目立ちます。
「フラワー長井線」という路線名ですが、初春のこの頃はようやく雪が消えて地面が顔を出したといったところです。
四季の郷駅を出ると河原の広い最上川を渡ります。
いよいよ前方に山が迫ってきたところで、終着の荒砥駅に到着です。
荒砥駅は意外とお洒落な駅舎で、鉄道や土地にまつわる小さな資料館らしきスペースもありました。
面白い駅でしたが折り返し列車に乗ったため、惜しくも7分の滞在となりました。
この駅は白鷹町に位置しており、白鷹山も近くにあります。
沿線をアピールしたがるはずの地方私鉄の終着駅が、旧町名のままというのは珍しいことです。
ちなみに、「私は国鉄が軽々しく駅名を改称して観光業者におもねるのをけしからんことと思っている。(中略)それは姓名を廃して国民に番号を付けるのとおなじ危険な思想であることに気づいてほしいと思う。」と書いていた作家の宮脇俊三氏でさえも、その直後に「しかし、いささか舌鋒が鈍るが、この荒砥は白鷹と改称したほうがよいのではないだろうか。」と述べています。(時刻表2万キロ・河出書房新社より)
地方私鉄の魅力
全体としては地味な印象ですが、途中駅は古く味わい深い駅がたくさんあり、心和ませてくれる路線です。
一方では、市庁舎と一体化する長井駅や、魅力的な終点の荒砥駅など、利便性向上・乗客誘致のために積極的な姿勢も感じられます。
穏やかな春もよいですが、今度花の咲く季節に訪れてみようと思わせる山形鉄道でした。
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