「ポテンシャルはあるのに、今一つパッとしない」
おそらく貴方の周りにそういう人がいるでしょうが、鉄道の世界でもそんな路線は全国にあります。
その筆頭ともいえるのが、今回紹介する北上線です。
北上線は北上駅(岩手県)から奥羽山脈を横断して横手駅(秋田県)に至る路線で、途中に錦秋湖の絶景を見ることができます。
かつては特急列車が運転されたこともある線区ですが、現在は名ばかりの快速と普通のみが走るローカル線となっています。
2023年3月上旬、北上駅を昼過ぎに出発する快速列車で横手駅に向かいました。
かつて特急も走った北上線
快速の停車駅は小松川駅以外全て
北上線で通しの列車は1日6~7往復あり、そのうち快速として運転されるのは横手行が3本、北上行きが1本です(臨時列車は除く)。
その快速列車ですが、通過するのはなんと小松川駅のみで、残りのすべての駅に停車します。
これで「快速」を名乗るのもはかばかしいと言わざるを得ません。
実は以前はもう少し通過駅があったのですが、それらの駅が廃止されてしまった経緯があります。
北上~横手の距離は約60㎞で、所要時間は70~80分です。
車両はキハ100系
北上線で使用される車両はキハ100系という、少し古いディーゼルカーです。
通路を挟んで4人用ボックスシートが並び、車両の端にはロングシートがあります。
2列&1列の配置の車両も多いですが、こちらは2列&2列です。
快速であっても特別なことはなく、全席自由席です。
景色は左側(南側)がおすすめ
北上線の一番の車窓は錦秋湖です。
よって左右どちらの景色が良いのかは、錦秋湖とそれに接続する川がよく見えるのはどちらか、という問題に尽きます。
結論、北上駅発の場合は進行方向左側(南側)がおすすめです。
もう少し詳しく話をすると、初めは右側の方が川沿いなので景色が綺麗です。
ゆだ錦秋湖駅~ほっとゆだ駅の間で湖を渡るので、その後は左側に車窓ハイライトが続きます。
なので、もし空いていれば最初は右側の座席に座って、橋を渡るタイミングで左側の座席に移動できればベストです。
代走特急「秋田リレー」
冒頭述べた通り、北上線にはかつて特急列車が走っていました。
線内初の特急は1971年に仙台~秋田で運転された「あおば」で、同区間を約4時間で結びました。
しかし、この時代は東北地方でも電化が進み、周りの特急は電車化されていきます。
すると、「あおば」だけのためにディーゼル特急車を確保するのは合理的でないため、この列車は僅か4年後に廃止されました。
その後北上線が脚光を浴びたのは1990年代です。
1997年の秋田新幹線開業のために、田沢湖線(盛岡~大曲)が1年間工事で運休になります。
そこで、田沢湖線経由の秋田行き特急「たざわ」に代わって、北上線経由の「秋田リレー」が代走として走ったのです。
あくまで臨時処置でしたが、北上線経由になって東京~秋田の所要時間が短縮されたケースさえありました。
これは北上線の線形が比較的良いことと、距離が田沢湖線回りよりも短くなったことが理由です。
とはいえ、無事に秋田新幹線が開業すると、「特需」の消えた北上線はまた静かになったのでした。
【乗車記】前半は右側、後半は左側の景色が良い
東北新幹線「やまびこ」で北上駅に着き、7分の接続時間で北上線の快速列車に乗り換えです。
ボックスシートにはどこも1人以上座っており、とりあえずは右側の進行方向逆向きの座席に陣取りました。
北上駅から盛岡方の方(つまり北)を向いて出発。
すぐに左にカーブして進路を西に定めます。
北上線の盛岡寄りは幹線と見間違うほど線形が良く、勾配もカーブも緩やかです。
江釣子・立川目・横川目と、この辺りの駅名には東北らしいエキゾチックな響きがあります。
それらに比べると、これより先のゆだ錦秋湖・ほっとゆだなどの駅名は、いささかシラケます。
それぞれ陸中大石・陸中川尻から改名されたものです。
さて、北上市街地が水田地帯になり、やがて地面に雪が目立つようになりました。
3月上旬の関東は春の気配が強まっていましたが、ここはまだまだ冬です。
前方には奥羽山脈が立ちはだかっています。
横川目駅を過ぎると山越えが始まります。
しかし東北地方に数ある奥羽山脈横断線の中では、北上線はもっとも地形が穏やかな路線です。
右手には和賀川が見えてきます。
和賀仙人駅を出てしばらくすると、和賀川はダムによって造られた錦秋湖に姿を変えます。
湖の水面はまだ氷で閉ざされています。
北上線の車窓の主役登場に合わせて、北上駅の短い乗り換え時間で買った日本酒を取り出します。
岩手県の銘酒、「南部美人」。
周囲の銀世界がより一層輝き始めました。
ゆだ錦秋湖駅を出てトンネルを抜けた後に通過する赤い橋が、前の章で触れた第二和賀川橋梁です。
湖上を橋で横断する珍しい光景です。
以降、錦秋湖は左手に見えます。
ほっとゆだ駅に着く手前でもう一度和賀川を渡ります。
左手の広大に膨れ上がった湖は半分くらいが氷に覆われています。
ここが北上線の景色のクライマックスです。
ところで、この列車は強風のため錦秋湖付近では速度を落として運行するため、途中から遅れが生じる旨、事前にアナウンスがありました。
温泉があることで知られるほっとゆだ駅には10分遅れで到着。
ここは観光の拠点となる駅で、キャリーバッグを持った人たちが降りていきました。
ちょうど良いことに左側のボックスが空いたので、そちらに移動して私もほっとします。
一段落しますが、線路は依然として登りです。
岩手湯田改めゆだ高原駅は、駅名に似合わず実に素朴な佇まいの山村にあります。
○○温泉・××高原と安直に駅名を変えただけで、地域の活性化ができるわけがありません。
ゆだ高原駅から少し走ったところにあるサミットが秋田県との県境です。
トンネルも無いまま下り勾配に転じ、黒沢川の深い渓谷に沿って、何度も蛇行する川を渡っていきます。
ここが北上線で最も険しい区間です。
相野々駅を過ぎると横手盆地が開けてきます。
最近また雪が降ったのか、汚れなき純白でしっとりと質感のある雪です。
緩くなった下り坂を、列車は軽やかに走ります。
終点の横手駅には15分程の遅れで到着。
日本海側では結局雪が消えることはありませんでした。
接続する奥羽本線の電車が北上線の到着を待ってくれていたので、無事に乗り継ぐことができました。
北上線が秋田新幹線になっていたら…
仮に秋田新幹線が田沢湖線経由ではなく、北上線経由だったとしたら…
運転距離が短くなった「こまち」は、現在よりもさらに所要時間も短くなっていたはずです。
さらに、比較的産業が発展している北上と秋田県第三の都市の横手を結び、錦秋湖など観光資源も抱える北上線は、この地方を代表する横断線として活躍していたことでしょう。
しかし、北東北の首都・盛岡の存在が田沢湖線の地位を高め、北上線は高速交通の時代から取り残されてしまったのでした。
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