シギショアラからブラショフへ、ルーマニアの私鉄Transferoviar Călători(TFC)に乗る

旧ユーゴ・バルカン

ルーマニアで最も美しい町シギショアラと、国内有数の観光の拠点ブラショフ。
国内西部のトランシルヴァニア地方で外せないこれらの都市を、ルーマニア国鉄の急行列車が約3時間半で結んでいる。

実は同区間には国鉄以外にも、TFC(Transferoviar Călătoriトランスファーヴァイルカラトリ )という民間会社の列車が運行されている。
2026年4月、シギショアラからブラショフまで、国鉄ではなく敢えてTFCに乗車した。
本記事では実用的なトピックスをいくつか扱った後、乗車記を綴っていきたい。

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ルーマニアには多数の民間鉄道会社が存在する

一般に、「バルカン」とも呼ばれるヨーロッパ南東部は鉄道後進国のイメージが強い。
列車は古く、速度も遅く、そのくせ遅延が頻発する。
これはルーマニアの鉄道にも概ね当てはまる。

しかし、近年のルーマニアでは国鉄の管理する線路を民間会社にも開放する「オープンアクセス」が行われ、同じ路線に複数の鉄道会社が切磋琢磨するようになっている。
ブカレスト~ブラショフ間などはその典型である。
今回紹介するTFC(Transferoviar Călători)も民間鉄道会社の一つで、ルーマニア各地で短距離・中距離列車を運行している。

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駅でチケットを買うことはできないので注意

TFCに限らず私鉄全般に言えることだが、駅の窓口に行っても列車のチケットを買うことができない。
駅の窓口はあくまで国鉄の窓口なのだ。
都市の大きな駅であっても私鉄各社の券売機というものは無いと思った方が良い。
つまり、私鉄が運行する列車に乗る場合は、事前に公式サイトからオンラインで購入するか、車内で車掌から直接買うかのどちらかになる。

ところが、TFCの公式サイトから予約する際にも大きな問題がある。
トップページまではたどり着けるが、どうも列車検索以降には何度試しても私のPC・スマホではアクセスできないのだ。
ルーマニアに着いてから試すと一発で繋がって購入までできたので、おそらく日本からのアクセスが不可能になっていると思われる。

TFCの料金・所要時間はルーマニアの急行列車(最も一般的な長距離列車)と同じ程度だ。
TFCの車両は短距離用で居住性は劣ることを考えると、敢えて積極的に選ぶべき会社ではないかもしれない。
とはいえ、私が今回利用したシギショアラ~ブラショフ間のように、旅行者にとって重要な割には国鉄の本数が多くない区間では利用価値が高いといえる。

もちろん、TFCの列車はルーマニア国鉄の列車検索からはヒットしない。
私鉄も含めた列車検索ができるページもあるにはあるが、こちらもあいにく日本からはアクセスできない模様。
幸いグーグルの列車検索ではTFCも表示されるので、納得できる国鉄の便が無ければ検討しよう。

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乗車記

昨日ハンガリーからの夜行列車で着いた時と同様、今朝のシギショアラ駅も静かだった。
なかなか立派な駅舎だがテナントは入っておらず、駅周辺にも商店はなかった。
人気の少ないホームに鶏の鳴き声だけが威勢よく響いている。

シギショアラ駅

出発時刻の8時30分になっても列車は来ない。
多少の遅れはルーマニアでは日常なのでなおも待っていたが、10分近く経っても到着する気配がない。
駅の窓口に行って尋ねても「私鉄だから分からない。」と、取り付く島もない。
遅れているだけならともかく、ダイヤ変更や運休だったらどうしようか、と不安になる。
すると近くにいた家族が「ブラショフ行きに乗るのですか?我々も同じです。もうすぐ案内放送が流れると思いますよ。」と教えてくれた。
こういう時に英語ができる地元の同行者がいると大変心強い。

しばらくすると、日本の唱歌に似た明るく古風なメロディーがスピーカーから割れた音で流れ、自動案内放送が始まった。
「もうすぐ来るそうです。行きましょう。」
家族と共に再度ホームへ向かう。
間もなく、2両編成のディーゼルカーが20分ほど遅れて到着した。
意外と新型車両だ。

車内はボックスシートの短距離地域列車仕様だった。
スマホを充電するコンセントもないので、人によってはブラショフまでの3時間半は長いと感じるかもしれない。
私はチケットを既に購入していたが、車掌から直接買っている人がほとんどだった。

ちなみに、私が今回TFCに敢えて乗った理由は、時間帯が最良だったのはもちろん、1本前の7時36分発国鉄の急行列車が、実は昨日乗ってきた夜行列車と同じ便だからである。
できれば違う会社・違う列車に乗りたいと願うのは、鉄道ファンとして当然の気持ちだ。

さて、シギショアラ(Sighisoara)駅を出ると、右側にシギショアラの旧市街が見えた。
列車から遠目に見えても、小高い丘とともに歴史文化をも背負った町だと感じさせる佇まいである。
やがてその小さな町も車窓の後方に消えた。

いつも通り、朝の農村は白く霞んでいる。
素朴な民家もベールに包まれて神秘的に見えた。

列車は牛や馬のいる牧草地を走る。
北海道の道東を思わせる雄大な景色だ。
しかしそのような情緒を台無しにしかねない光景もあった。
この区間で行われている複線高速化工事である。
大きな資材を使って牧歌的な田園を無残に掘り返して、新たな路盤を造成している。
ファンとしては鉄道が発展するのは喜ばしいが、慈しむべき風景が目の前で壊されているのを見ると、やはり複雑な気持ちになる。

川沿いの平地に出て10時40分頃、ようやく次の駅に着いた。
Augustinという駅だ。
シギショアラを出ること約2時間ぶりの停車駅だけあって、周辺の町並みは余計に活気づいて見える。
なだらかな牧草地にカラフルな屋根の家が点在する、スイスのように詩的な風景だ。

なおも山裾を迂回しながら進むと、丘陵地を貫いて建設中の新線が寄り添ってきた。
先ほどの車窓も、やがて新線のトンネルに代わるのだろう。

川幅は広がり、水鳥だけでなく釣り人の姿も目立つようになった。
この辺りまで来るとブラショフは近くである。
やがて線路は真っすぐになり、沿線には工場やマンションが林立している。
市街地を囲む山の中腹に、BRASOVの大きな文字が見えた。

驚いたことに、ブラショフ(Brasov)駅には11時44分、つまり定刻より20分近く早く着いてしまった。
部分的に供用開始している高速新線区間でのスピードアップが、まだダイヤに反映されていないため余裕が生じていると推測される。

もし私が一般の旅行者だったら、「ブラショフ滞在時間が延びて良かった」と無邪気に喜ぶことだろう。
しかし鉄道ファン、それも時刻表愛読者としては、これはいただけない。
私にとって列車ダイヤとは、車両性能・線路条件・人員配置など様々な制約のもと苦心を重ねて作成される、壮大にして繊細な芸術作品である。
20分遅れた列車が何食わぬ顔して20分早着するようでは、もはや列車ダイヤに意味など無く、時刻表の神聖さが汚されてしまうではないか。

ところで、朝食を抜いたため酷く腹が減っている。
目的地に着いてしまったのだから、もはや鉄道ファンとしてではなく一般の旅行者として、素直に自らの本能に従っても良いはずである。
そんなわけで、ブラショフに12時前に着いたおかげで、観光前にランチを楽しむことができそうだ。






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