バルト三国の一つリトアニアは、中世において現在のウクライナやベラルーシ領も含むヨーロッパ屈指の大国を築いた。
ヴィリニュスはそんな旧リトアニア大公国の首都の歴史を感じさせる。
歩んできた歴史においても、内陸部という地理条件においても、ヴィリニュスは他のバルト三国の首都、リガとタリンとは全く別世界を思わせる都市である。
2025年9月、2回に分けて(1日目夕方と2日目午後)ヴィリニュスを観光した。
バルト三国の全般的な説明については以下の記事を参考にしてもらいたい。
1日目夕方①:旧市街に入り市庁舎広場へ
ワルシャワから鉄道でヴィリニュスに着いたのは18時ごろ。
ホテルにチェックインしてから急いで市内観光に繰り出した。
旧市街は駅からは近いが結構広い。
旧市街を囲んでいた城壁の門のうち唯一残っている夜明の門をまずは目指す。
門の2階にはイコンがあって、熱心な信者が祈りを捧げていた。

少し歩くとギリシャ神殿風の旧市庁舎がある市庁舎広場だ。
この辺りは旧市街の中心で、旧リトアニア大公国の首都に相応しい威容を感じる。
旧市庁舎の壁にはリトアニアとアメリカ国旗が描かれたプレートがある。
これはリトアニアのNATO加盟を記念したもので、「リトアニアを敵とする者はアメリカも敵とすることになる」という、当時のブッシュ(子)大統領の言葉が有難く掲げられている。
今や小国となったリトアニアのNATOに対する忠誠心の表われに他ならない。
もっとも第二次トランプ政権となった現在では「リトアニアが保護に値する資金を拠出し、かつアメリカから武器を購入する限り」という留保を付け加える必要があるだろう。


1日目夕方②:ゲディミナスの塔から旧市街を見渡せる
旧市街をさらに北へ進んで、大聖堂のある広場に着いた。
大聖堂もギリシャ神殿を思わせる白亜の建物だ。
リトアニアはヨーロッパで最後にキリスト教化された地域だ。
13世紀にリトアニアのミンダウガス王がキリスト教を受け入れて、この地に最初の教会を建てたのはリトアニア史においてもヨーロッパ史においても重要な出来事だった。


近くの丘の上に建っているのがゲディミナスの塔。
これはかつてあった城の一部だ。
リトアニア国立博物館(2025年9月には臨時休業中だった)の前を通って丘の上を目指す。
ケーブルカーでも登ることができるが、こちらも営業を休止していた。
歩いてもさほど時間がかかったりしんどいわけではない。
ちなみにリトアニア史で頻出する英雄を3人挙げよう。
彼らの像は街中でもよく見かける。
- ミンダウガス=13世紀にキリスト教を受け入れた初代国王
- ゲディミナス=14世紀にリトアニアを安定化・拡大させた
- ヴィータウタス=15世紀にバルト海から黒海に至るリトアニアの最盛期を築いた


塔の内部は博物館になっていて、ヴィリニュスの歴史や1980年代のバルト三国の独立運動などについて展示している。
しかしここに入場する一番の目的は、塔の頂上からヴィリニュスの街を見渡すことである。
内陸部にあるので緑の中に都市があるといった感じで、赤い屋根が所狭しとびっしり並んでいる。
これは他のバルト三国の首都、リガとタリンと異なる点である。
それから最も印象に残ったのは教会の多さで、日本のコンビニや歯医者の倍くらいの密度で存在している。
そのほとんどがカトリックだがロシア正教会のものもある。


今夜は珍しく時間に余裕がある。
これも観光の一環ということで、郷土料理のレストランに行ってみよう。
バルト三国総論記事で述べた通り、バルト三国の郷土料理は舌鼓をうつグルメではなく、あくまでイベントとして楽しむものである。
というわけで、ビーツを使ったピンク色が鮮やかな冷たいスープと、ジャガイモのでんぷんで包んだ肉団子ツェペリナイを注文した。
同じメーカーのビール飲み比べはそれぞれ個性があって、私はこの国のビールの水準の高さを確信した。


ヴィリニュスの旧市街は迷路のように小路が入り組んでいるが、それでいて中欧の都会のような壮麗な雰囲気が感じられる。
少なくとも35年前までソビエトをやっていたとは信じ難い。
最も賑やかな市庁舎広場周辺には、夜になっても地元の若者たちがカフェで寛いでいた。
リトアニア人はポーランド人同様に長身の美人が多いが、より目がキリっとしている。
2日目夕方:リトアニア王宮
ヴィリニュス滞在の2日目は、カウナス日帰りから戻った午後から。
大聖堂の隣にあるリトアニア王宮を訪れた。
歴代のリトアニア大公が住んでいた国の中心部である。

建物の基礎部分の遺構から始まり、リトアニア・ポーランドの歴史パートは実に膨大なボリュームだった。
大国が徐々に衰退して、スウェーデンやロシアの動きに巻き込まれていく様子が描かれている。
説明書きが詳しいだけでなく、地図や絵もふんだんに盛り込まれているので歴史に興味がある人にとって非常に面白いだろう。


それ以外にも宮殿内の部屋の数々を見学したり、ギャラリーなどの展示も見ていると、ゆうに2時間は経ってしまう。
欲張って全部廻ろうとすると相当時間と体力が必要なので、自分の興味に合わせて見学するのがよいと思う。

2日目夜:ご当地オペラ「リトアニア人」
今夜は国立オペラ・バレエ劇場でオペラを鑑賞する。
リトアニアに限らずバルト三国はオペラ・バレエの水準が高く、これはソ連時代の数少ない正の遺産の一つである。
劇場は1970年代の建物で、日本でいう昭和レトロ風な内装だった。
演目は19世紀後半にイタリア人が作曲した「リトアニア人」という非常にマイナーな「ご当地オペラ」だ。
舞台はドイツ騎士団との戦争で疲弊した14世紀のリトアニアで、祖国のために敢えて敵国の軍人として忍び込む主役とその仲間たちの物語である。

この日はその初公演で、劇場の入り口には赤いカーペットが敷かれ、扉の前には中世の騎士の格好をした人が2人並んでいて観光地のようだ。
会場には関係者用の接待スペースや、観客が記念写真する場所もあった。


「リトアニア人」は王道的な騎士物語で曲も親しみやすく、特に打ちひしがれたリトアニアの人たちが祖国再興を祈る合唱などは感動的だった。
また演出はプロジェクション動画を取り入れつつも奇をてらった所もなく、国の威信をかけた公演であることがひしひしと感じられるオペラだった。
今回の公演を機に知名度が上がって欲しい作品である。

これでヴィリニュス滞在は終わり。
明日の朝は列車でリトアニアのドイツ、クライペダを目指す。
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