リトアニアのヴィリニュスからクライペダへ、旧ソ連式3等コンパートメントに乗る

ヨーロッパ鉄道

リトアニア北西部の港町クライペダは、第一次世界大戦までドイツ領の北東端の都市だった。
今でもドイツ風の街並みが残り、首都ヴィリニュスとは全く異なる「リトアニアのドイツ」を感じられる街である。

2025年9月上旬、珍しい3等車という設備を利用して、ヴィリニュスからクライペダまで列車で旅した。

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所要時間は4時間~4時間半強、編成はディーゼルカーと客車の2種類

首都ヴィリニュスからクライペダまでの所要時間は4時間~4時間半程度。
本数は1日3~6往復となっている。
金・土・日曜日など乗客が多い日に増発されることが多い。

この区間の列車は2つの種類に分類される。
一つ目は新型のディーゼルカーで運転される便で、この編成には2等車と1等車がある。
所要時間が約4時間の速い便はこのタイプである。

リトアニアのクライペダ行き新型列車
新型ディーゼル車

もう一つはバルト三国の鉄道では珍しい客車、つまり機関車が他の車両を牽引する昔ながらの列車だ。
1等車(無いこともある)と2等車に加えて、この編成には3等車というものが存在する。
後述するが、3等車はかつてのヨーロッパや旧ソ連の鉄道の旅情が味わえる設備である。
このタイプの便は多客期に増発される遅い列車である傾向にある。
乗る列車がディーゼルカーか客車かどちらのタイプかは、次章で解説するチケット予約の段階で判別できる。

リトアニアのクライペダ行き客車列車
客車列車

なお、ヴィリニュス~クライペダ間の列車は途中のシャウレイまでは、ヴィリニュス~リガと同じ路線(当サイトでいう「バルトストリームライン」)を走る。
そのため、ヴィリニュスからリガへ行く途中にシャウレイやクライペダに寄る、といった柔軟な旅程を組むことも可能だ。

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予約方法や費用

ヴィリニュス~クライペダ間の列車は本数が多くなく、特に夏期は直前だと売り切れになる列車もある。
そのため事前にリトアニア国鉄のサイト(LTG Link)から予約しておくことをおすすめする。

LTG Linkのトップページから区間・人数・日付を入力して列車検索画面へ。

“Passenger carriage”とあるのが客車列車で、3等車付きで所要時間が長いことが分かる。
また、同じ等級でもディーゼルカーの方が客車よりも料金が高くなる。
料金は列車種類と等級によって固定されており、購入時期や列車の日付・時間帯によっても変動しない。
どのクラスにするべきかは次章で検討するとして、予約を進めていこう。

この路線では等級にかかわらず、シートマップから好きな座席を選ぶことができる。
1等車しか座席が選択できなかったヴィリニュス~カウナス路線とはその点が異なるので注意しよう。

座席選択画面、”Driving direction”が進行方向
別路線の1等車の例

座席選択以降は最後にクレジットカード情報を入力して決済完了すると、メールアドレスにチケットが添付されたメールが届く。
スマホに保存するか印刷して終了だ。
お疲れ様でした。

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【オススメは何等車?】車内・サービスについて

まずディーゼルカーの車内は、1等車も2等車もオープンサロン(日本の新幹線と同じタイプ)の客室で2&2座席配置である。
1等車の付加価値としては、コーヒー・チョコレートケーキが無料でサービスされる(2等車では購入する)ことと、ヴィリニュス駅のVIPラウンジが使える点が挙げられる。
とはいえ座席は大して変わらないので、ディーゼルカーなら2等車の方をお勧めする。

一方の客車列車はもう少し話が複雑である。
こちらは各クラスの居住性が差別化されており、1等車が2&1のオープンサロン、2等車が2&2のオープンサロン、そして3等車が6人用コンパートメントとなっている。
3等車というと安かろう悪かろうなイメージがあるかもしれないが、ロシア・ウクライナなど旧ソ連の鉄道の2等寝台車の昼間バージョンという面白い設備だ。

つまり、無難に2等車にしてもよいし、付加価値の高い1等車で贅沢するもよし、はたまた古き良き時代の鉄道旅を安価に楽しめる3等車と、それぞれに特徴があるのだ。
乗車時間が長いので一般的には1等車を勧めたい。
しかし「ソ連レトロ」な汽車旅に興味がある人は迷わず3等車にしよう。

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乗車記:3等車は混雑する

実際の旅程では、行きのヴィリニュスからクライペダまで客車3等車、帰りのクライペダからシャウレイまではディーゼルカー2等車を利用した。
旅行記は別記事に譲り、本章では行きの乗車記の部分だけ綴っていく。

ヴィリニュス駅で客車列車に乗車

首都ヴィリニュスの駅舎は、この街の大聖堂や市庁舎を思わせる立派な造りだ。
土曜日の朝7時半でも旅行者で賑わっていた。
駅には売店がいくつかある。

これから乗車するのは7時47分発のクライペダ行き。
機関車は赤い新型だが、客車はソビエト時代からのものだろう。
周りの軽快な電車や気動車とは対照的に重厚感のある6両編成である。
各車両の扉の前には車掌が立っていて、彼女たちにチケットを見せて乗り込む。
これもロシア式のやり方だ。

今回予約したのは6人用コンパートメントの3等車。
部屋はやや狭い。
もとは2段式ベッドが2つ並ぶ4人用寝台で、上段のベッドを壁に畳んでいるのがすぐ分かる。
窓側にコンセントが2つあったが、場所がかなり上の方なので使い物にならなかった。

列車には車内販売あり

ヴィリニュス駅をゆっくりと出発。
古い車両なので乗り心地が心配だったが特に問題はなかった。
最初の30分くらい、カイシェドリース駅まではカウナス行きと同じ線路を客車列車は目一杯の120km/hで走った。
バルト三国の車窓は概して森と農地を交互に繰り返す単調なものである。
背の高い針葉樹林は赤い松や白樺と緑でカラフルだった。

一段落したので駅で購入したキビナイを食べた。
私がリトアニアで最も気に入った食べ物だ。
これはクリミアのトルコ系民族がもたらしたミートパイで、たしかに南東ヨーロッパのパン屋でよく見かけるものに似ている。
北はバルト海から南は黒海まで支配した全盛期のリトアニアの歴史を味わおう。
スーパーマーケットのパンコーナーでも売っている。

クライペダ線の列車には車内販売がある。
車両端にある車掌室に出向いてコーヒーを頼んだ。
リトアニアの各地方が描かれたカップのイラストが旅情と食欲をそそる。
なお軽食のサンドイッチは温めて提供してくれるので美味しい。

10時過ぎにシャウレイ駅に到着。
リガへと続く「バルトストリームライン」とクライペダ線の分岐点だ。
ここで半分以上の乗客が入れ替わり、コンパートメントは6人満室となった。
そもそも客車列車が運行されるのは乗客が多い日なので、基本的に3等車は混むと思った方が良さそうである。
他人と膝を詰め合わせるのが苦手な人は1等車を予約しよう。
リトアニア人はヨーロッパの中ではどちらかというと寡黙な印象がある。
それでもおばさんとお母さんが計3人集まれば、さすがにコンパートは賑やかになった。

シャウレイ付近

「バルトストリームライン」から外れても、相変わらず120km/hで走った。
改めて考えれば当たり前だが、リトアニアにとってはヴィリニュス~シャウレイ~クライペダこそ幹線であって、シャウレイ~ラトビア国境は末端区間なのである。

フリースペースで気分転換

気分転換に他の車両を観察する。
連結部分はドアが固く、揺れも大きく、音もうるさく、そして隙間も広くてスリリングだった。
一番先頭の1等車の一部はフリースペースになっていた。
コーヒーマシンと軽食・飲み物の自動販売機がある。
通りかかった車掌に何も言われなかったので、1等車の乗客専用というわけでもなさそうだ。
ここでならスマホを充電することができた。

我がコンパートは満室のはずなのに途中駅でまた一人乗ってきて、まさかの7人部屋となった。
車掌が検札で何か言っていたが察するに、7人目の客は正しく予約した席に座っていて、ずっと乗っているお喋りなおばさんが何故だか知らないがこの部屋にいるようだ。
事情があるにせよ、それでいて進行方向窓側席に座っているのだから、随分と図々しいものである。

シャウレイ駅を出て1時間程、視界が広がって土地に起伏がでてきた。
サイロや風車が現れて、車窓の雰囲気が変わったようだ。
ちなみに、かつてリトアニアでは原子力発電が主要エネルギー源だったが、ソビエトに代わる支配者EUへの加盟に際して、基準に満たないとのことで閉鎖を余儀なくされた。
その後も、EUのお達しによって再エネ促進として北西部に風力発電が進められているわけである。

終着クライペダ駅へ

港町クライペダも近くになり、松林の向こうに海の気配をついに感じた。
結局それは「予感」だけで終わってしまい、車窓から海を眺めることはかなわなかった。

12時28分m終着クライペダ駅着。
広大な留置線に貨車がいくつも並んでいた。
旅客線としてはここが終点だが、おそらくこの先の港まで貨物船が続いているのだろう。

クライペダは第一次世界大戦まで旧ドイツ帝国の北東端の都市だった。
旧市街には古いドイツ式の木組みの家が建ち、ドイツ語の地名「メーメル」は、今でも街中でよく見かける。
そんな「リトアニアのドイツ」をこれから散策しよう。








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