イタリアの高速鉄道は国鉄のFrecciarossa(フレッチャロッサ)が有名ですが、民間会社が運営するItalo(イタロ)もあります。
フレッチャロッサに負けない程のスピード・快適さ・安さで対抗しています。
2022年10月、南イタリアのナポリから北イタリアのミラノまで、イタロの1等車に当たるプリマクラスで国内を縦断しました。
本記事ではライバルであるフレッチャロッサとの比較も意識しながら、イタロの乗車記と共に予約方法・車内の様子などを解説していきます。
イタロとフレッチャロッサの比較については、以下の記事をご覧ください。
最高速度は300㎞、民間会社の高速列車
さりげなくイタリア国旗をあしらうのも上品
近年ヨーロッパの鉄道では「上下分離」といって、インフラ(線路など)の管理と列車を運行する企業を独立させることが一般的となりました。
例えば東海道新幹線は線路等の設備をJR東海が管理し、新幹線の運行も同社が排他的に行っています。
ところが、ヨーロッパでは国鉄(またはそれに準ずる企業)だけでなく、民間企業、あるいは外国の国鉄さえもが列車を運行するのが当たり前になりつつあります。
イタロはこうしたオープンアクセスの環境下で会社設立された、ヨーロッパ初の民間による高速列車です。
2012年より運行を開始し、その後もルートを拡大するなど成長を続けています。
列車の最高速度は国鉄のフレッチャロッサと同じ300㎞で、所要時間は基本的に変わりません。
イケメン揃いのイタリアの高速列車の中でも、イタロはひときわデザインが秀逸だと思います。
その赤い個性的な外観から「フェラーリ特急」と呼ばれるそうですが、実際にフェラーリの元会長が運行会社の立ち上げに関わっています。
また、走行性能や環境適合性にも優れており、設計上では最高速度360㎞の実力があります。
ちなみに、デッキに立つと聞こえるモーターの音が独特です。
イタロの車内・座席とサービス
イタロは3クラス制です。
2等車のSmart(スマート)・1等車のPrima(プリマ)、そして特等車のClub Executive(クラブエグゼクティブ)から成ります。
スマートの車内
2等車に当たるスマートクラスは通常の2&2配置の座席です。
各座席に充電用コンセントがあり、Wi-Fiも使うことができます。
イタロのスマートはフレッチャロッサのスタンダードに対応するクラスです。
大きな違いとして、こちらは集団見合い型(全列の座席が車両中央部を向いている)の座席なので、向かい合わせの4人席(フレッチャロッサはほとんどがこの形)が車両中央部にしかない点が挙げられます。
グループではなく少人数の場合はこちらの方が都合が良いでしょう。
プリマの車内
1等車のプリマクラスは2&1配置の座席です。
フレッチャロッサ流表現ではビジネスクラスになります。
こちらもスマートと同じ集団見合い型で、特に一人旅にはありがたいです。
クラブエグゼクティブの車内
筆者はこのクラスに乗っていないので、公式サイトのブログから写真を借ります。
イタロ公式ブログより
クラブエグゼクティブでは、プリマよりも充実した、アルコールも含む軽食サービスが受けられるようです。
また駅にあるラウンジを利用できるのもこのクラスの利点です。
軽食堂車はなし。プリマ以上には軽食・コーヒーのサービスあり。
フレッチャロッサには軽食堂車ビストロがありますが、イタロにはこの種の設備はありません。
その代わりにもなりませんが、編成のうち3・7号車にコーヒーと水・スナックを変える自動販売機があります。
プリマ以上のクラスではお菓子と飲み物のウェルカムサービスが有ります。
出発後1回きりではなく、途中停車駅を出るたびに何かしらをくれました。
私が乗車した朝または夕方の速達便ではクロワッサンも提供されます。
スマートのみスーツケースの制限あり
イタロのスマートクラスでは75x53x30㎝を越える荷物の持ち込みを禁止しています。
スーツケースでもかなり大きな部類に入りますが、その場合はプリマ以上のクラスを予約しましょう。
なおイタロのスーツケース置き場には、コイン(後で返って来る)を入れて使えるチェーンロックがあるので安全です。
乗車記:ナポリからミラノまで所要時間は4時間半
喧騒の中、ナポリ中央駅を出発
ナポリを訪れたことがある人は、まるで事故渋滞でも起きているかのような車のクラクションの騒音に驚いたことでしょう。
朝まだ7時過ぎでしたが、ナポリ中央駅前は既にそんな状態でした。
私が乗るのは7時40分発、イタロのプリマクラスです。
まだ早いので駅でナポリ郷土料理のカプレーゼのサンドイッチを買います。
モッツァレラチーズにトマト、スイートバジルはイタリア国旗と同じ組み合わせです。
ゲートを通過して列車に乗り込みます。
誰でもホームに出入りできなくなったことで、駅の安全性は高まりました。
イタロの車両はアマゾンの巨大魚のような変わった先頭部で、深紅と黒というカラーリングが決まっています。
多様性のあるイタリアの国土を南北に縦貫
定刻に発車。
スマートは混んでいましたが、プリマは空いています。
ナポリの風景を語るうえで欠かせないベスビオ火山の火口から、朝陽がこぼれ出てきました。
列車は速度を上げ、たちまちのうちに最高速度300㎞に達しました。
ウェルカムサービスのクロワッサンとエスプレッソが配られます。
南イタリアの耕作地はヨーロッパの中では珍しく小規模です。
未だに少数の地主と多数の小作人の関係がある、と高校の地理で聞いた時は驚きました。
1時間少々で首都のローマテルミニ駅に到着。
ここで一気に客が増えてほぼ満席になりました。
イタリアの中部になり、だいぶ我々が想像するヨーロッパの農地の風景になりました。
地中海性気候なので背丈の低い木が目立ちます。
ローマを出ると、またウェルカムサービスがありました。
せっかくなのでもう1杯エスプレッソを頂きます。
内容はフレッチャロッサの方が充実していますが、乗車中に何度か飲み物をくれるのは嬉しいサービスです。
フィレンツェを通過してフランス風の丘陵地が広がり、そしてアペニン山脈越えが始まります。
上越新幹線の高崎~越後湯沢と同じで、この先しばらくはずっとトンネルが続きます。
地下のボローニャ駅を過ぎると、ついに北イタリアのロンバルディア平野に出ます。
畑は広く、ポプラのような木や工場が散見されます。
何となく日本、それも北海道の石狩平野辺りに近い感じでしょうか?
ミラノはナポリとは別世界
時間どおりにミラノ中央駅に到着しました。
ドーム型の天井を持つ、ヨーロッパでも屈指の美しさを誇る駅です。
駅舎や構内の造りも、駅というよりは美術館を思わせます。
そして市内を歩くと、クラクションの洪水も車の信号無視も、そして洗濯物もなく、なんと落ち着いて洗練された街なのでしょう。
ナポリと同じ国とは思えません。
ファッションの都と言われるだけあって、さすがに洒落た格好をしている人が結構いますが、ナポリの方が美人は多かったです(地下鉄の乗客をサンプルとした比較)。
ナポリの人々がミラノ風の服装をしたらどうなるだろうか、などと思ってしまいましたが、それはトマトとモッツァレラチーズのピッツァの上にカツレツを載せると同じくらい邪道な考えでしょう。
予約方法と費用
イタロの予約は公式サイトから行うのが手数料なしで便利です。
ただし、その前にTrainlineのような代理店のサイトで検索することをおすすめします。
なぜなら、イタロ以外に国鉄の運行するフレッチャロッサも有力な選択肢となるからです。
最安値は19.9€
そのうえでイタロに乗るようなら、まず公式サイトにアクセスします。
使いやすいサイトですが、若干動作が重いような気がします。
ここではミラノ中央駅(Milano Centrale)からローマ・テルミニ駅(Roma Termini)までの切符を買うことを想定します。
両都市には複数の候補駅がありますが、最も大きく中心部にも近いのがこれらの駅です。
候補が出てくるので希望する列車を選択すると、料金表が現れます。
縦列のsmart,prima等は既に説明しました。
ちなみに、salottoはクラブエグゼクティブの中でも4人用個室ですが、個室単位ではなく座席単位での販売となります。
つまり4人未満で予約すると相席になる可能性があります。
横の行はチケットの自由度で、下のものほど安い代わりに制限が厳しくなります。
- Flex→変更は無料、返金は20%の手数料を差し引き
- Economy→変更は20%の手数料、返金は40%の差し引き
- LowCost→変更は50%の手数料、返金不可
- eXtra MAGIC→変更・返金不可
希望する設備・プランを選択して、右下の赤いボタンで進んでいきます。
なお上の写真の料金は執筆時より2カ月以上先のものを照会しており、ほとんど最安値だと思って良いです。
それにしても東京・大阪間に相当する距離で、高速列車の値段が19.9€(3,000円未満)というのは驚きです。
名前・メールアドレス・電話番号を入力します。
電話番号は普通に国内用の080~で大丈夫でした。
右上のチェック欄でキャンセル保証のオプションを付けることができが、返金されるのは全額ではなく80%です。
会員登録をする必要はありません。
座席指定は別料金
予約内容の確認画面では任意で座席の指定ができます。
別料金がかかりますが、通常座席で2€、テーブル座席でも4€と格安です。
その後、支払い画面です。
もしクレジットカードがはじかれてしまったら、PayPalを試してみましょう。
決済が成功するとメールアドレスにチケットが添付されたメールが届きます。
バーコード付きの画面を印刷するか、スマホに保存すれば完了です。
料金はフレッチャロッサよりイタロの方が安い
全般的な費用はフレッチャロッサと比べると、イタロの方が安いです。
特に外国人旅行客がよく使うであろうプリマクラスは最安だと29.9€と、フレッチャロッサのスタンダード最安値と同じです。
プリマの比較の対象とすべきビジネスは、最安比較だとプリマクラスより10€ほど高いです。
こちらも2カ月以上先でほぼ最安値が揃っている
また、最も差が付くのが最上位のクラブエグゼクティブで、フレッチャロッサの150~250€に対して、イタロは80~140€です。(およその範囲)
とにかく、ハイレベルな競争の結果、乗客は快適な高速列車に安く乗ることができるわけです。
孤高のイケメン、イタロ
ヨーロッパの鉄道はオープンアクセスが進んだとはいえ、関連業種で実績を挙げた既存の企業でなければなかなか成功できないのが現実です。
ところが、イタロはその高品質なサービスとリーズナブルな料金、そして何よりインパクトのある美しい見た目によって、完全な新規参入ながらたちまちのうちに知名度を上げて勢力を拡大しました。
そして対抗するフレッチャロッサもサービスを改善し、両者が切磋琢磨しているのがイタリアの鉄道です。
長い間閉塞感が拭えない日本の鉄道にとって、この自由化による恩恵は参考にすべき点が多いように思えます。
どこぞの大手企業の会長や実業家が立ち上げた会社の運行する電車が、東海道新幹線で「のぞみ」と競い合う未来を貴方は想像することができますか?
コメント