陸羽東線は東北本線の小牛田駅(宮城県)と奥羽本線の新庄駅(山形県)を結ぶ路線です。
東北地方の背骨である奥羽山脈を横断する、所謂「肋骨線」の一つに数えられます。
「奥の細道湯けむりライン」という愛称名が示す通り、陸羽東線の魅力は山越えの景色と、その途中に幾つもある温泉街の風情にあります。
陸羽東線を3つに分解すると以下の様になります。
- 盆地と山道が交互に続く、新庄~赤倉温泉
- 本格的な奥羽山脈越え、赤倉温泉~鳴子温泉
- 大崎平野の水田地帯、鳴子温泉~小牛田
2022年3月中旬に、新庄駅から小牛田駅、そして仙台駅まで、臨時快速「湯けむり」の指定席に乗車しました。
奥の細道湯けむりライン
リクライニングシートに車内販売付きの「湯けむり号」
臨時快速「湯けむり号」は、主に土日に仙台~小牛田~新庄で1往復運転されています。
朝仙台を出発し夕方に戻って来るダイヤが組まれています。
この列車は専用のラッピングや内装が施された車両が使われており、全席指定席で車内はリクライニングシートで特急並み、さらにワゴンの車内販売も行われるというサービスの良さです。
指定席は「えきねっと」で予約可能ですが、指定席券を事前に発券する必要があります。
定期列車は全て各駅停車で、ちょうど真ん中にある鳴子温泉駅を境に新庄寄りは数時間に1本、小牛田寄りはその倍くらいの運転本数があります。
また、全線乗り通す場合は鳴子温泉で乗り換えになる場合もあります。
乗り換え時間を除くと新庄~小牛田の所要時間はおよそ2時間で、全体的に下り(新庄行き)はもう少し時間がかかる傾向にあります。
普通列車の車両は「湯けむり号」と同じ形式ですが、特別仕様ではない普通のディーゼルカーで、通路を隔てて4人用と2人用のボックスシートが並んでおり、トイレもあります。
乗車記:車窓はどちらかというと左側がおすすめ
緩やかに盆地を登る
快速「湯けむり号」の発車時刻は15時00分で、その3分前に陸羽西線の快速「最上川」で新庄駅に着きました。
この絶妙な乗り継ぎのおかげで、とても効率よく東北を横断することができます。
列車は南向きに新庄駅を発車し、しばらくすると奥羽本線から離れ、新庄盆地を走ります。
東京では春を感じる3月中旬ですが、ここはまだ深い雪に閉ざされています。
次第に山が迫り小国川沿いに緩い勾配を登ります。
最初の停車駅、瀬見温泉駅の目の前にはしっとりとした温泉街の風情が漂っています。
快速「湯けむり号」をえきねっとで予約する際にはシートマップから座席を選ぶことができ、車窓は優劣つけがたいですが強いて言えば左側がおすすめです。
このまま谷が狭まっていくのかというとそうでもなく、また盆地が開けます。
概して急勾配が続く奥羽山脈越えの路線にしては穏やかな道で、いつまでもダラダラと登っている印象です。
この辺りでは主要駅の最上駅付近は住宅地もそれなりに多く、杉並木が綺麗です。
車内販売のワゴンが横を通ったので、野菜のかりんとうを買いました。
庄内地方(山形県日本海沿い)の野菜と米粉を使用したお菓子で、野菜由来の上品の甘味が感じられます。
陸羽東線の車窓ハイライト、鳴子峡
赤倉温泉駅からはようやく本格的な山越えが始まります。
それでも山形県側は意外と見晴らしが良いです。
勇ましく響いていたエンジン音がやむと、サミットの堺田駅を通過。
この駅からすぐに渡る橋梁が山形・宮城の県境です。
12月にここを通った時は、この駅を境に雪の降る向きが変わって驚いたのを覚えています。
なお、「奥の細道湯けむりライン」という愛称があるからには、確かに松尾芭蕉もこの辺りで奥羽山脈を越えています。
ペアである陸羽西線(奥の細道最上川ライン)には「五月雨を…」に始まるあまりに有名な句がありますが、芭蕉が鳴子温泉近くの尿前の関で詠んだのは「蚤虱 馬の尿する 枕もと」という、沿線イメージとしてはまったく有難くないものです。
分水嶺を越えると今度は迫力のある深い渓谷の景色となります。
いよいよ陸羽東線の車窓ハイライト、中山平温泉駅と鳴子温泉駅の間にある鳴子峡が近づいてきました。
トンネルに挟まれた短い橋梁から、息をのむような深い峡谷を見下ろします。
梅雨のさなかに泊まった関所の番人の家などではなく、松尾芭蕉がここの風景を詠んでくれていたら、陸羽東線の営業成績はもっと良かっただろうと悔やまれます。
快速「湯けむり号」では事前に鳴子峡について車内放送で知らせてくれるだけでなく、車窓をゆっくり眺めることができるように徐行してくれます。
普通列車ではこうしたお膳立てはないので、中山平温泉駅から3つの短いトンネルを出た所、鳴子温泉駅からは1つ目の長めのトンネルを出た所、と覚えておきましょう。
普通に走っていれば一瞬で通過してしまいます。
やがて左手の川沿いに鳴子温泉の温泉街が見えてきます。
奥州三名湯の一つに数えられるだけに大型ホテルもあり、沿線の他の温泉街よりも都会的な雰囲気です。
次の鳴子御殿湯駅までこのような景色が続きます。
広々とした水田地帯を快走
鳴子の温泉街を過ぎると、平坦な道のりになります。
いつの間にか雪はほとんど消えてしまいました。
次の川渡温泉駅で「温泉」が付いた駅名は5つ目(鳴子御殿湯を含めれば6つ目)です。
ちなみに国鉄時代は線内に○○温泉駅は一つもありませんでした。
駅名に「温泉」を付け足して観光促進を図るのは全国で見られる現象ですが、陸羽東線はそれが最も露骨な例です。
山脈が遠ざかり温泉地も一段落すると、陸羽東線は次の観光資源として伊達政宗を持ち出します。
伊達藩祖、伊達政宗が米沢から転封されて以来、1603年に仙台城に移るまで10年間居城とした岩出山は、有備館駅が最寄りです。
僅か1㎞先に岩出山駅がありますが、1996年に有備館駅が開業しました。
なお、駅名になった有備館は駅近くにある仙台藩の学問所です。
広々とした大崎平野を快走し、駅前には住宅地も増え始めます。
水田に浮かぶ島の様に屋敷林が点在しています。
ホテルが立ち並ぶ市街地が現れると、東北新幹線の高架駅と交差して古川駅に到着です。
新幹線効果で仙台と近くなったためか、農業のみならず製造業も発達した県北部の中心都市です。
古川~小牛田だけの短い区間列車も朝・夕方に設定されています。
なおも水田を走って陸羽東線の終点、小牛田駅です。
東北本線の運転系統が変わり、陸羽東線・石巻線が東西に延びる鉄道交通の要衝ですが、新幹線や高速道路が古川駅のある大崎市を通るようになり、こちらはやや寂しそうにしている駅です。
陸羽西線と直通できれば飛躍できそう
陸羽東線は温泉や史跡など沿線の観光資源に恵まれています。
途中下車できなくても、それらの風情がそれなりに感じられます。
さらに、東北本線と奥羽本線という東北の二大縦貫幹線の要衝駅を結ぶこの路線は、陸羽西線と併せて仙台から山形県の最上地方・庄内地方に至る横断ルートとして活用することができます。
両線とも意外と線形が良くスピードが出せる強みがあります。
ローカルな観光路線にとどまらない、東北の中央部を東西に結ぶ横断線として活躍して欲しいものです。
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