十勝亜阿房列車②:士幌線跡巡り前半、士幌駅・第三音更川橋梁跡を経て糠平駅跡へ

旅行記

梅雨後半の日本の7月上旬は旅行に行きたくなる季節ではないが、梅雨がない北海道は例外である。
他の地域よりは涼しいし、何より湿度が低いのでカラッとしていて過ごしやすい。
そんなわけで2025年7月の第2週、私(185系)と元同僚で某寺院副住職の地蔵氏の二人は、2日間レンタカーで道東の大地十勝を巡った。
廃止された国鉄士幌線しほろの関連設備を見たい私と、十勝平野の直線畑を車で運転したい地蔵氏の興味が嚙み合ったのだ。

本記事は第2回、士幌線跡巡りの前半。
士幌線の駅や橋梁を訪れながら、温泉街に佇む糠平駅跡を目指す。
なお「亜阿房列車」とは題しているものの、今回は実際に列車に乗るわけではなく、廃線跡や駅跡を訪れてかつて列車が走っていた姿を偲ぶのが目的である。

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十勝平野を北上

レンタカーで帯広市内を北上し、十勝川を渡ると市街地は途切れて、碁盤目状に開拓された畑に放り出された。
沿道には「○○農園入口」と書かれた看板が目立つ。
ここは日本有数の食糧基地である。
相変わらず道路はずっと真っすぐだ。
窓を開けて気持ち良く走っていると、天然の堆肥の香りが車内にも容赦なく漂ってきた。
気温も上がってきたことだし、結局窓は閉めることにした。

これほどの穀倉地帯にもかかわらず、水田は全く見当たらない。
「同じ北海道でも、函館・渡島半島の海沿いの昆布小屋とは全然違いますね。」
昨年の「北海道亜阿房列車」と比較しながら感心した。
「前回の江差や松前なんかは東北地方の日本海側の延長みたいで、『内地』に近い風土でしたが、今回はまさに『日本の新世界』らしい北海道の風景ですよ。」

帯広市から数キロのところにある音更町おとふけの道の駅で休憩した。
地元の人も利用する農産売り場には地元産の巨大な野菜や肉が売られている。
「今の仕事をクビになったら帯広に移住したいね。」と地蔵氏が突然呟く。
もっとも、副住職をクビになるにはよほどの事をしでかさなければならない。
それはともかく、地蔵氏はいつも以上に気分よさげなので、帯広が気に入ったのは確かだろう。
生鮮食品の代わりにソフトクリームを食べた。
ついでに気になっていた十勝ワインと地ビールも調達。
なお士幌線沿線には音更町以外にも、士幌町と上士幌町に道の駅があって意外と便利だ。

なおも十勝平野を北上する。
すると地蔵氏が「ほら、家畜運搬車ですよ。」と言う。
彼の言う「家畜運搬車」とは即ち都会の通勤電車のことを意味するので、「そんなわけないやろ」と返すと、前方のトラックのことらしい。
果たして、交差点を曲がっていったトラックには乳牛たちが乗っていた。
「先ほどのソフトクリームはご馳走様でした」と見送る。
こうしたトラックを道中何度も見かけた。

やがて士幌線の最初の目的地、士幌交通公園に着いた。
ここが士幌駅跡で、集落の隅っこにあるので入り口が分かりづらかった。
古い木造だがよく手入れされた立派な駅舎にホーム、そして農産物輸送に活躍していた貨車と車掌車が保存されている。
転轍機(ポイントを手動で切り替える設備)もあって現役時代が偲ばれる。
「相変わらず185系さんはこういう所に来たがるよね。」
「おかげ様で。」

車掌車とは、昔の貨物列車の最後尾に連結された車掌の詰め所のような車両である。
机と仮眠用のベッド、そして中央にはダルマストーブがあった。
「こんな所に夜中一人でずっといると、どんな気分になるんでしょう?」
と地蔵氏に尋ねると
「精神衛生上良いとは言えませんね。まあ185系さんが今いる会社ほどではないでしょうが。」
「せやな...」

駅舎には鍵がかかっていて、役所に連絡すると開けてくれるらしかった。
だが外からも内部は見ることができたのでよしとする。

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山間部にはコンクリートアーチ橋跡が点在する

近くにある道の駅で昼食(士幌牛ハンバーグ)を済ませ、しばらく車を走らせるとようやく十勝平野の北端に至り、ずっと遠くに見えていた山々がもう目の前に迫っていた。
「ほぼ直線だった士幌線も、この辺りからカーブや急勾配が現れたようですよ。」
と国鉄時代の線路縦断面図を見ながら説明する。
そして、士幌線廃線跡の魅力であるコンクリート製アーチ橋群が見られるのもこの辺りからだ。

中でも道路の橋から眺められる音更川第三橋梁跡は、タウシュベツ川橋梁を除けば最も見応えがあるものだろう。
標識もあるので注意していれば見逃すことはない。
雄大なアーチを描いた橋梁には線路がまだ残っていた。
現存する北海道内のコンクリートアーチ橋としては最も古いものだ。
外壁はコンクリート、その内部は現地の砂利を充填することで建設コストを抑えたという。
たしかに簡素な造りには見えるが、90年という月日によく耐えている。

士幌線関連で次に行きたいのは上士幌町鉄道資料館である。
だが私の都合ばかりでは運転している地蔵氏に申し訳ない。
ということで、自称「ダムハンター」ないしは「ダム寺住職」のご希望に従って糠平ダムに寄ることにした。
国道から逸れて、辛うじて車が通れるくらいの山道を緊張しながら進むと湖畔に出た。

つい先ほど見た華麗なアーチ橋とは対照的な、無機質でどす黒いコンクリートの塊が水流を塞いでいる。
方やダム湖の周辺は複雑な地形で、瀬戸内海を思わせる光景だった。
地蔵氏も「うむ。満足じゃ…」とうっとりしている。

いくつかトンネルを過ぎると、ぬかびら温泉郷に出た。
この辺りには観光ホテルが点在し、翌日訪れるタウシュベツ川橋梁など周辺の観光地への拠点となっている。
かつて糠平駅があった所に上士幌町鉄道資料館はある。

以降の話は次回、士幌線跡巡りの後半編にしよう。

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