バルト三国で最も北に位置するエストニアには「2つの首都」がある。
一つは本当の首都で、政治・経済の中心地であるタリン(Tallinn)。
そしてもう一つは、文化・学術の中心として「エストニアの精神的首都」と呼ばれるタルトゥ(Tartu)だ。
いずれもエストニア観光では外せない都市である。
この両都市間の移動には鉄道を利用することができる。
本数はそこそこで車両は新型で快適、所要時間もバスよりやや速い。
しかも日本と同じくらい定時性が高いのも魅力だ。
この区間では現在も設備投資が進んでいて、今後のスピードアップも期待できる。
2025年9月、タルトゥからタリンまで急行列車に乗車した。
本記事ではチケットの買い方、ダイヤの調べ方や車内などを説明する。
タリン~タルトゥ間の所要時間は2時間20分~2時間40分
タリン~タルトゥ間の列車は1日10往復くらい運転されており、種別はexpress(急行列車)と普通列車がある。
急行列車の方が本数が多い。
所要時間は急行で2時間20分程度、普通(タリン近郊は快速運転)だと2時間40分程度だ。
車両は普通も急行も共通で、オレンジ色の良く目立つディーゼルカーが使われている。
比較的新しく、車内ではWi-Fiも利用できる。
また編成の端には1等車もある。

急行も普通も同じ車両が使われるが、料金は急行の方が高い。
例えばタリン~タルトゥ間の例だと、普通の料金は13.5€、急行は18€だ。
チケットの買い方の章で解説するが、オンラインまたは車内の券売機から購入すると10%割引になる。
| タリン~タルトゥ間 | 2等車 | 1等車 |
| 普通 | 13.5 | 16 |
| 急行 | 18 | 21.5 |
2025年10月のもの
なお、タリン~タルトゥ間では線路改良・電化工事が行われている。
最高速度160km/hの新型電車投入によって、2026年頃(?)には同区間が2時間未満で結ばれるらしい。
チケットはオンラインか車内で買う
エストニアでのチケットの買い方は少し厄介である。
まずIT大国エストニアでは、もはや駅ではチケットを買うことができない
一応国内にはタルトゥとタリンだけチケットオフィスがあるらしいが、結局私はそれに気づかなかった。
まず検討すべきがエストニア国鉄のサイト(Elron)からオンラインで購入する方法だ。
しかし私だけかもしれないが、日本からElronのチケット購入ページにアクセスしようとするとなぜかブロックされる。
現地のWi-Fi環境下だとほぼ問題なく繋がったので、向こうに着いてから試してみよう。
制度的にオンラインを誘導しておきながら、随分と不親切な点はJR東日本と似ていなくもない。
愚痴はともかく、以下オンライン購入の方法を説明する。
ちなみに以下の私が実際に購入した時の写真は上の料金表と食い違うが、その要因は分からない。
またダイヤを調べるだけなら、こちらのEastbound trains timetableの所から確認できる。
まずは区間・日付等を入力して列車検索画面へ。

上の写真は臨時ダイヤなので、所要時間は全体的に長くなっている。
普通と急行の区別は簡単に分かる。
列車を決めたら次にクラス(2等車か1等車か)を選択する。

discounted ticketは子供や障碍者用なので通常のチケットを買おう。
1等車の場合は以下の座席選択画面が表示される。

選択中の16番席は進行方向窓側であることが分かる。
最後に支払いだ。

最後にメールアドレスとクレジットカード情報を入力する。
海外のオンラインショップではカードがはじかれることが度々あるが、今回は特に問題なかった。
決済成功するとQRコード付きチケットが添付されたメールが届くので、それを保存して終了だ。
お疲れ様でした。
オンラインが無理な場合は車内の券売機から購入するとよい。
券売機は扉のすぐ近くにあるのですぐ見つかる。
どうしても現金を使う必要がある人は、車内を巡回している車掌から買うことになる。
ただその場合はオンラインや券売機より少し割高になることに留意しよう。
2等車と1等車の違い


各列車とも1両の半分が1等車になっている。
1等車に乗る利点は
- 座席が横4列(2等車は5列)で座席同士の間隔も広い。
- 床がカーペットで少しだけ高級感がある
- 座席指定制なので必ず座れる
- 2等車と違ってボックス席以外にもコンセントがある
が挙げられる。
追加料金は大したことはないので、プチ贅沢をしたい人には1等車がおすすめだ。
ただし座席数が少ないので、グループ利用があると1等車の方が逆に混雑することもある。
なお、車内の券売機からは1等車のチケットを買うことができない。
2等車の乗車記
タルトゥ観光を終えて駅に着いたのが13時15分頃。
駅舎にあるカフェでカプチーノを買って、13時29分発のタリン行き急行列車に乗車する。
私が乗車した2等車は比較的空いていたが、隣の1等車はドイツ人観光客のグループで結構埋まっていた。
ヴィリニュス~リガ間の列車でも見た光景だ。
それにしても、バルト三国では中高年ドイツ人の団体によく会う。


私が乗った2025年9月はこの区間の線路工事が真っ盛りで、徐行区間が多かったので普段よりも所要時間が長かった。
もっとも現在のディーゼルカーでも、線路さえ良ければ130km/h越えのスピードを出した。
起伏のある牧草地には馬や牛の姿が見られる。
エストニア北部の風景はバルト三国のなかで最も北海道に近い印象だった。


途中のタパ(Tapa)は、ロシア国境のナルヴァへの路線が分岐する大きな駅だった。
この列車もナルヴァ行きと接続しているようだ。
定時性の高いエストニアの鉄道なら短時間の乗り換えも安心できる。
ここで乗客が増えた。

タリンの郊外まで来た。
学校から帰る若者がどんどん乗ってきて券売機にカードをタッチしていく。
それを検札する車掌は忙しそうだ。
おとぎ話のような中世の街並みで名高いタリンも、郊外は粗末で廃墟に近い住宅が意外と多かった。
到着の直前、右手には旧市街の城壁や教会の塔が、窮屈そうではあるが誇らしげに建ち並んでいた。
この列車で唯一の、そして最大の車窓クライマックスである。
ゆったりとしたテンポのジョイント音と、重厚なエンジン音が荘厳なフィナーレを奏でる。

ワルシャワからおよそ1,200㎞。
16時10分、「バルトストリームライン」の終点タリン(Tallinn)駅に到着。

長旅の締めくくりに相応しい行き止まり式の駅だ。
ヨーロッパの中央駅ではよく見かけるが、このタイプはワルシャワを含めバルト三国の首都ではここだけである。
屋根のないホームにはオレンジ色の列車が幾つも並んでいた。
そんな開放的な雰囲気とは対照的に、駅舎は厳めしい表情のコンクリート建築だ。


駅から旧市街へは徒歩で行ける。
これから中世の北欧世界に迷い込むことにしよう。


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