ポーランドとリトアニアの両首都、ワルシャワ・ヴィリニュス間は最近になってようやく鉄道移動が現実的に可能となった。
国境のモツカヴァ駅での乗り換えを含め、両都市間が8時間半で結ばれたのである。
これは中欧からバルト三国へのアプローチとして、とても有意義な列車だといえるだろう。
2025年9月初旬、ワルシャワからヴィリニュスまで鉄道で移動した。
本記事では同区間の列車について、実際の様子やサービス・注意点などを解説していきたい。
バルト三国の鉄道全般に関しては、以下の記事を参照していただきたい。
ワルシャワ~ヴィリニュスを毎日1往復、所要時間は8時間半
歴史的に密接なかかわりがあるポーランドとリトアニアの首都が、ついに鉄道によって結ばれた。
両国の国境であるモツカヴァ駅でポーランドの列車とリトアニアの列車が接続するようになったのだ。
乗り継ぎは同じホーム上でできるので簡単だ。
これらの列車は毎日運行されている。
参照:LTG Link

ワルシャワ中央駅~ヴィリニュス駅間の所要時間は乗り換えを含めて約8時間半である。
時刻表を見ると、ワルシャワ発が9時間半、ワルシャワ行きが7時間半のように思えるが、これは両国の間に時差があるからだ。
ポーランドの列車はワルシャワ中央駅(Warszawa Centralna)だけでなく、ワルシャワ東駅(Warszawa Wschodnia)にも停車する。
ちなみに始発・終着駅が実はクラクフなのだが、ダイヤは早朝発・深夜着となるのであまり実用的ではない。
また同区間には高速バスも運行されているが、所要時間はほとんど列車と同じである。
ワルシャワ発↓ | ワルシャワ行↑ | |
ワルシャワ中央駅 | 755 | 2005 |
Białystok | 948/1030 | 1727/1814 |
Suwałki(方向変わる) | 1210/1245 | 1513/1547 |
モツカヴァ(乗換え) | 1435/1515 | 1452/1525 |
カウナス | 1624 | 1338 |
ヴィリニュス | 1729 | 1235 |
2025年9月の情報
リトアニアもポーランドもシェンゲン協定加盟国のため、パスポートコントロールは行われない。
もちろんベラルーシも経由しない。
ポーランドでは食堂車、リトアニアでは車内販売がある
とはいえ、モツカヴァ~ヴィリニュスの2時間半はいいとしても、ワルシャワ~モツカヴァの5時間半は長い。
だが、バスのようにずっと長時間席に座りっぱなしになる必要はない。
ワルシャワ発着の列車には食堂車が連結されているのだ。
新幹線の車内販売さえも廃止された日本人にとっては大変貴重な体験となることだろう。

モツカヴァからのリトアニアの列車にも、サンドイッチやホットコーヒーなど車内販売のサービスはある。
なお、バルト三国では公共の場での飲酒が禁止されているので、アルコールは販売されていない。
「吞み鉄」の一人として、禁煙化が進む社会における喫煙者の寂しさに触れたような気分である。

いずれにせよ、ワルシャワ~ヴィリニュスの移動で「飛行機は高すぎるけどバスでは退屈しそう」という方は、是非とも鉄道の利用を検討されてはいかがだろうか?
予約はリトアニア国鉄のサイトからできる
ワルシャワ~ヴィリニュスの費用は25€
この列車の予約はリトアニア国鉄のサイトから行うことができる。
予約できるのは国内線は1カ月前からだが、国際線は2カ月前からできるようだ。
ワルシャワ~ヴィリニュスの料金は25€で、これは早めに買っても直前でも変わらない。
ただ、直前だと売り切れになることもあるので注意しよう。

このサイトでは、ポーランド側の列車に関してシートマップから座席を指定することができる。
6人用コンパートメントの車両とオープンサロンの車両(日本の特急・新幹線と同じタイプ)があるので、自分の好きな方を選ぼう。
列車の進行方向と座席の向きが分かるようになっている親切なつくりだ。


モツカヴァから先のリトアニアの列車については特に座席は指定されない。
よってチケットにはポーランドの列車の情報しかないでの不安になるが、ヴィリニュスまで有効なのでご安心を。
座席を決めたら、以降の有料追加サービスで選べるのはヴィリニュスの市内交通チケットやヴィリニュス駅のVIPラウンジ入場券など。
最後はメールアドレスとクレジットカード番号を入力。
決済完了するとチケットが添付されたメールがアドレスに届くので、これを印刷するかスマホに保存するかして完了だ。
お疲れ様でした。
なお、ポーランド国鉄のサイトからも予約することができる。
料金はポーランドズロチ建てだが、ユーロ建ての金額より少しだけ高いか。
また、こちらからだと選択できる号車・座席が限られるようなので、リトアニア国鉄のサイトをお勧めする。
1等車に乗りたいなら国別で分割して買う必要あり
ところで、どちらのサイトで予約するにせよ、ポーランド~リトアニアの通しのチケットは2等車しか販売されていない。



しかし、実は両方の列車に1等車も連結されているのである。
敢えて1等車に乗りたい場合は、それぞれの国鉄のサイトでワルシャワ~モツカヴァとモツカヴァ~ヴィリニュスのチケットを分割して買う必要がある。
なお、モツカヴァ~ヴィリニュスのチケット代は2等車が16€、1等車は23€だ。
つまりリトアニア側の1等車だけで、ワルシャワ~ヴィリニュスの2等車の通しチケットとほぼ同じ料金となるのである。
果たしてその超過料金に見合うだけの付加価値が1等車にあるかどうかだが、はっきり言って「ない」。
まずポーランドの列車に関して言うと、1等車は2等車と同じ6人用コンパートのみなので、オープンサロンを好む人にとっては付加価値どころかマイナス要因になる。

リトアニアの列車にしても、あいにく2等車と同じ2&2のオープンサロンである。


強いて言えば、ヴィリニュス駅では1等車利用者は無料でVIPラウンジに入場できるメリットがある。
ラウンジは静かでトイレが無料で使える。
とはいえ飲み物等は有料となるので、そのために1等車に乗るほどのものではない。

カウナスで途中下車もオススメ
両都市を移動する間にどこか地方都市に寄り道したいという方は、リトアニア第二の都市カウナスを訪れよう。
モツカヴァから1時間半、ヴィリニュスまであと1時間のところにある。
ワルシャワからの料金は20€だ。
首都ヴィリニュスが中世以来の歴史を有する他民族都市だったのに対して、カウナスはより「リトアニア的な」近代都市の性格が強い。
ポーランドとヴィリニュス領有をめぐって争っていた戦間期には、カウナスはリトアニアの臨時首都だったこともある。
カウナス~ヴィリニュス間には都市間快速列車がおよそ1時間毎に運転されている。
所要時間も国際路線の列車とほぼ変わらない。
もちろんヴィリニュスを起点に日帰りすることも可能だ。
乗車記
支線区にもかかわらず混雑
ワルシャワ中央駅は気分の晴れる旅立ちの舞台ではない。
味気ない街並みにどんより曇った朝の空が覆いかぶさっている。
駅舎も周囲と同様に威圧的なコンクリート造りでホームは地下にあるので、とにかく重苦しい雰囲気だ。
電車かと見間違えるほどスマートな機関車を先頭に、モツカヴァ行きのIC(インターシティ=都市間急行)が入線してきた。
指定された2等車のオープンサロン席に座る。
平日にもかかわらず列車は混雑している。
2分遅れでワルシャワ中央駅を出発した。


外の気温は16度。
朝霧で視界が非常に悪く、車窓を楽しむどころではない。
複線電化された区間なので列車のスピードも速い。
途中の通過駅で、軍用トラックと戦車を積んだ貨物列車を追い抜いた。
まさかロシアの同盟国のベラルーシに供与するわけがないから、おそらく従順なNATO加盟国のリトアニアに行くのだろう。
Białystokで機関車交換のため30分以上停車
次第に晴れ間が広がり、9時53分に5分遅れでBiałystok駅に着いた。
ここが沿線最大の駅で、電気機関車からディゼル機関車に交代するために30分以上停車時間がある。
この先の長時間乗車に備えてストレッチでもしよう。
よく言えば近代的・合理的、悪く言えば無機質な駅が多いポーランドの主要駅にあって、Białystokはクラシックな趣を感じる駅である。

ワルシャワからBiałystokまでは比較的需要があって本数も多い区間だ。
ここで乗客が減るものかと期待していたが、ここで下車する人はほとんどおらず依然として車内は混雑していた。
10時30分にBiałystok発。
他の車両の様子を見てみる。
私が乗っているオープンサロン車両が一番混んでいて、2等コンパート車両は空いていた。
1等車はさらに閑散としている。
もしこの乗車率が一般的な傾向なら、オープンサロン派の人も比較的空いていてゆったりできるコンパートも検討の余地があるかもしれない。
食堂車はクレジットカード利用可
11時を過ぎたので、そろそろ早めの昼食に食堂車へ向かうことにしよう。
立ち飲み風のテーブルと4人席が通路を挟んで並んでいる。
ポーランドズロチの現金がなくてもクレジットカードが使えるのでご安心を。
古き良き鉄道旅行ができる中欧4か国(チェコ・スロバキア・ハンガリー・ポーランド)の食堂車は、どれも各国ならではの個性があって魅力的だ。
その中でも、ポーランドの食堂車はとても評判が良い。
今回注文したハンバーグは濃醇な味付けが効いていて、ディルに飾られた粘り気のあるポテトも良かった。
ビーツ(赤かぶ)はあまり好みではないが、北国の貴重な野菜なので有難くいただく。


さて、非電化単線区間となり列車の速度は明らかに遅くなった。
ガタンゴトンとのんびりしたジョイント音を奏でながら80km/hくらいのスピードで走っていく。
車窓も広々とした農地から森林や湖へと変わっていく。
途中駅は保養地のような雰囲気で、乗客は次第に減っていった。

Suwałki駅で進行方向が変わる
12時55分にSuwałki駅に到着した。
定刻よりも45分も遅れている。
ここから進行方向が変わるので、機関車を編成の反対側に付け替える作業が行われる。
田舎のターミナルといった感じの良い駅だ。
カメラを持った見物人が何人かいるのを見て、やはり物好きはどの国にもいるのだなぁと実感する。
なお、終着のモツカヴァ駅まではあと1時間弱なので、予約で座席を選択する際に進行方向が変わるのを気にする必要はないだろう。
秋田新幹線「こまち」の大曲~秋田のようなものだ。

出発を待っていると、車掌がやって来て乗客一同に向かってポーランド語と英語で話し始めた。
「いつもはこの列車はモツカヴァ駅まで行きますが、今日に限りTrakiszki駅止まりとなり、そこからはバス代行となります。モツカヴァ駅ではヴィリニュス行きの列車が待っています。皆さんよろしいですか?」
私が頷いたのを確認して(他の乗客は全員白人だった)、車掌は隣の車両に移って同じ説明を始めた。
ちなみにこの時に分かったことだが、この日のディーゼル機関車はいつもより非力な車両だったのでBiałystok駅から遅延が発生していたそうだ。
13時10分、Suwałki駅発。
モツカヴァ駅でリトアニアのディーゼルカーに乗り換え
Trakiszki駅に着くと既にバス2台が手配されていた。
かつてのソ連との国境越えは拍子抜けするほど何事も無かった。

モツカヴァ駅でリトアニア鉄道の3両編成のディーゼルカーに乗り換える。
国境を越えた乗客はバス2台で収まる程度なので、当初懸念したほど混まなかった。
短い旅客列車の横には長大なタンク貨車が並んでいた。
ヨーロッパのエネルギー供給も大変である。
モツカヴァ駅を出発したのは20分遅れの15時15分。
道中いろいろあったが、手際よく事が運んだおかげで意外と「軽傷」で済んだ。

リトアニアの車両はポーランドの車両よりも座席の間隔が広くて快適だった。
各駅にはリトアニア国旗が掲げられ、駅舎も立派だ。
途中で隣の席に乗ってきた60歳前後の男性が、キリル文字のショート動画を見ていた。
風景は全然変わらないが、ロシアが確実に近づいたことを実感する。


リトアニア第二の都市カウナス駅からだいぶ人が乗ってきた。
カウナス~ヴィリニュスはバルト三国でも屈指の輸送量を誇る区間だ。
160km/h で森林を突っ切る。
整然とした針葉樹林ではなくて雑木林だ。
平地に出ると湖が水面を輝かせた、のではなくあたり一面の太陽光パネルだった。
「ロシアからエネルギーを輸入するくらいなら、どこまでも太陽光パネルを敷設してやるぞ」と言いたげである。

ヴィリニュス駅近くの車両基地には、ソ連時代のものと思しき古い機関車が果てしなく連結されて放置されていた。
不要な機関車まで継承して処分に困っているということなのだろうか?

終着ヴィリニュス駅には17時50分に着いた。
順当に20分遅れたことになるので、事実上の定時運行だ。
20分なら誤差範囲内とはいえないが、想定内ではある。


9月のリトアニアはまだまだ明るい。
早速これから中世の大国の首都を散策することにしよう。
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