海よりも見応えある北浦橋梁、鹿島線・鹿島臨海鉄道の乗車記【佐原~水戸】

ローカル線

鹿島線は成田線の香取駅(千葉県)から茨城県の鹿島神宮駅に至るJRの路線です。
利根川や北浦を近代的な橋梁で渡る、短いながらもダイナミックな車窓が印象的です。

それに接続する鹿島臨海鉄道大洗鹿島線(以下、鹿島臨海鉄道)は、鹿島灘に沿って水戸駅を目指す第三セクター鉄道です。
砂丘の畑の車窓が続きますが、丘陵地や北浦の眺めが頃合いを見計らって割り込んできます。

2021年2月に香取駅の手前の佐原駅さわらから両線を経由して水戸駅まで乗車しました。

青線が鹿島線、ピンク線が鹿島臨海鉄道。
国土地理院の地図を加工して利用。
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鹿島線【佐原~鹿島神宮】

かつては特急「あやめ」も走った鹿島線

鹿島線の始点は香取駅ですが、列車はその一つ千葉寄りの佐原駅から発着しています。
佐原駅は水郷観光の拠点となる駅で、駅舎もそれらしいものになっています。

成田線・鹿島線のみならず、房総半島の鉄道交通は高速バスに押されていて、特急列車も削減されてしまいました。
以前は鹿島神宮行きの特急「あやめ」が東京駅から運転されていましたが現在は廃止されて、鹿島線を走る定期特急列車は存在しません。

鹿島線の列車は朝ラッシュ時以外は1~2時間毎に運転され、佐原~鹿島神宮の所要時間は20分です。
また鹿島臨海鉄道との接続は、良い列車も悪い列車もあります。

北浦橋梁の爽快な眺め

鹿島線の列車は成田線の佐原駅さわらの隅っこにある0番線から発車します。
成田線とて総武本線の補助線のような存在ですが、この0番線という響きは、さらにそこから枝分かれするローカル線らしいです。

次の香取駅からが正式な鹿島線の線路です。
ずっと利根川に寄り添う成田線から分岐して自由になるや否や、その利根川を渡ります。
さすがは日本一の流域面積を持つ大河だけあって下流は広大です。

高架線から田畑や川を見渡しながら走っていきます。
水郷地帯の名所近くの潮来駅いたこ付近には旅館が建ち、細い支流にはサッパ舟が停泊していました。

延方駅のぶかたを出ると左手前方に、鹿島線のハイライトである全長1,236Mの北浦橋梁が見えてきます。
短い(ように見える)間隔で橋脚が一列に並んでいる様子に、渡る前から感動を覚えます。

北浦橋梁の爽快さはその長さだけにあらず。
長くても下はほとんどが河原という橋もありますが、ここは東海道新幹線の浜名湖のように湖を渡るので水量は豊富で、まるで水上を飛んでいるかのような気分になれます。

北浦橋梁を渡り終えると、その興奮も冷めやらぬうちに終点鹿島神宮駅に到着です。

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鹿島臨海鉄道【鹿島神宮~水戸】

所要時間や混雑について。車両にはトイレがある

鹿島神宮から水戸までの所要時間は、およそ1時間半弱です。
日中は運転間隔が2時間空くこともありますが、それ以外の時間帯は1時間に1本程度で、朝はさらに多くなります。
本社がある大洗駅(水戸寄りの駅)~水戸は本数が増えて、だいたい30分毎の運転となります。

全体としては水戸に近づくにつれて乗客が多くなっていく印象でしたが、途中の市街地がある新鉾田駅からこの傾向は顕著でした。
非電化区間なのでディーゼルカーが活躍しています。
外見も車内もやや時代を感じる車両でしたがトイレ付きで、2人用クロスシートが並んでいて快適でした。

鹿島臨海鉄道のディーゼルカー

青春18きっぷは使えない

鹿島線と違って、鹿島臨海鉄道は第三セクターによる運営のため、青春18きっぷは使えません。
では購入する乗車券は鹿島神宮~水戸かというと、そうではないのがややこしい所で、鹿島神宮の次の鹿島サッカースタジアム駅(試合開催日のみ営業)までがJRの鹿島線なので、そこから水戸までの運賃1,400円が別途必要です。
鹿島神宮~鹿島サッカースタジアムは、JR線でありながら旅客列車は鹿島臨海鉄道の列車のみ(一部の臨時列車を除く)という珍しい区間です。

なお、連続する土日の2日間有効な週末パスは鹿島臨海鉄道でも有効です。

大洗駅の駅弁「三浜たこめし」

鹿島神宮駅を出発すると右手に鹿島神宮の杜を見ます。
近くに工業地帯があるとは思えない雰囲気です。

次の鹿島サッカースタジアム駅は試合開催日ではないので通過ですが、駅構内には機関車がたむろしています。
東京都心からの貨物列車がこの駅から鹿島臨海工業地帯へと向かいます。

この路線は鹿島灘沿いに走りますが、その名前の印象とは違って車窓から海は見えず、その存在が感じられる程度です。
その代わりに砂丘の畑の景色が続きます。
意外かもしれませんが、茨城県の農業産出額は鹿児島県に次いで全国2位(2017年。1位はやはり北海道)。
大消費地の首都圏向けの野菜(米よりも商品価値が高い)の生産が盛んなためです。
関東在住の方は今度スーパーに行ったときに、野菜の生産地に注目してみてください。

大洋駅からはやや内陸寄りの丘陵地を走ります。
そろそろ山間部らしい車窓になってくるのか、と思っているうちに前方に北浦湖畔が開けます。
この一連の展開はなかなか気持ちが良いものです。

鹿島線の北浦橋梁を渡った時の広々とした湖の景色とは違い、北端に近いこの辺では川のように見えます。
築堤にある北浦湖畔駅は展望台のようです。

高架線を走り、新鉾田駅しんほこた付近には市街地が形成されています。
このあたりから乗客数が明らかに増えましたが、特に印象的だったのが外国人と思われる人が目立つことです。
北関東では高度経済成長期以来、都心部からの工場移転が続いていますが、近年の動向として外国人労働者が多く在住しているのでしょう。
同様の特徴は両毛線(栃木県の小山駅~群馬県の新前橋駅)でも見られます。

その後も丘陵地を経由しながら、またも広大な畑が広がります。
涸沼駅ひぬま付近では汽水湖の涸沼が見えます。
水郷地区から始まった今回の旅行ですが、どこまでも水が豊富です。

涸沼駅からはちょっとした山越えですが、大小数個のトンネルで難なく超えて、海水浴場やフェリーターミナルがある大洗に到着です。

大洗駅は客の乗り降りも多い大きな駅で、私はここで途中下車しました。
その目的は駅弁を買うためです。

大洗駅の改札を出た所にある小さな売店で何種類か弁当が販売されていましたが、有名なのは「三浜たこめし」のようです。
錦糸卵と菜の花が明るく彩る弁当は、ご飯まで赤くてタコの香りがします。

大洗駅の駅弁、三浜たこめし

ちなみに私は詳しくないのですが、ここは有名なアニメの舞台となったらしいです。
ヒラヒラした制服を着た女の子たちが、黒い戦車の前で愛想を振りまくイラストが駅に飾ってありました。

幸い大洗駅からは列車本数が増えるので、さほど待ち時間もなく次の列車に乗ります。
今まで基本的に北に進んできた列車は、大きく左にカーブして進行方向を東に変えます。
立派な高架橋が90度向きを変えているのは壮観です。

水戸行き列車から後方を見る

住宅の建てこむ水戸市街地の高架を、1両のディーゼルカーが恥ずかしそうに走ります。
遠方には小高い丘が散見されます。

やがて鉄橋を渡ると常磐線上り線(東京方面行)と並走して、終点水戸駅に到着です。

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高架が続く理由は建設された年代にあり

鹿島線・鹿島臨海鉄道に乗っていて気づくのは、踏切が無く、平地を走っている時も線路が高架であることです。
いずれも幹線ではなくローカル線で、高速の特急列車を走らせるために改良されたわけでもありません。

その理由は建設された時期が鹿島線は1970年、鹿島臨海鉄道は1985年と新しいからです。
土木工事が近代化された1960年代以降に建設された線区は、鹿島線に限らず贅沢なつくりになっています。
例えば以前の線路は、川を橋で渡った後も地平に降りて盛土の上を走り、また堤防に上がって橋を渡るという具合ですが、新しい線路はずっと高架の上を走ります。
当然建設費はかかりますが、保守の手間は抑えられるという利点があります。

そのため、同じ線区でも区間によって建設された時代が異なる路線は、カーブや勾配がきつかったのが途中から突然トンネル主体の良好な線形になります。
紀伊半島の紀勢本線や三陸鉄道が好例です。

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東京色に染まりきらない茨城県

鹿島線は短い路線ながらも、大河や湖を渡っていくダイナミックさが魅力です。
その光景は、なぜ関東平野がこれほどまでに膨大な人口を抱えて発展できたのかを理解するのに十分な気がします。
一方の鹿島臨海鉄道も砂丘の野菜畑やゴルフ場のような丘陵地など、「都会から程よく距離を置いた地方」らしい景観が続きます。
旅とまではいかない日帰り旅行として、このコースは東京都は全く違った関東地方を手軽に味わうことができます。

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