意外なことに、スペインとポルトガルの両首都、マドリードとリスボンの間には直通列車が走っていません。
かつてはこの区間に食堂車付きの寝台列車「ルシタニア」号が運転されていましたが、2020年に新型コロナを理由に休止され、結局そのまま廃止されました。
昼間に運転される直通列車もありません。
※よって、「寝台車で快適に移動できる」と書いてある記事をよく見かけますが、それらは情報が古いので注意してください。
しかし、そんな状況にあってもイベリア半島の二か国の首都を鉄道だけで移動したいという熱心な方向けに、本記事では2つのルートを考察したいと思います。
ルート1:最短でも一日かかる
「ヨーロッパ鉄道時刻表」や権威ある海外のサイトでも紹介されているのが、国境駅のBadajozを経由するルートです。
1日2往復スジがあり、朝出発して夕方・夜に着くか、昼頃に出発して深夜に着くかです。
これが現状のマドリード・リスボン間の鉄道での最短ルートです。
一応2023年秋時点でのタイムテーブルを載せておきます。
Madrid | Badajoz | 国境 | Entroncamento | Lisbon | 備考 | |||
⇒ | 850A発 | IC | 1324/1409 | 1552/1600 | IC | 1700着 | 日・祝運休 | |
⇒ | 1055C発 | MD | 1611/1941 | 2137/2201 | IC | 2300着 | ||
⇐ | 1938A着 | MD | 1430/1313 | 928/923 | IC | 815発 | ||
⇐ | 2204A着 | IC | 1736/1726 | 1336/1329 | IC | 1230発 | 土曜運休 |
マドリード駅はA=アートチャー駅、C=チャマルティン駅
リスボンは終着のサンタアポローニャ駅の時刻
赤斜字のMDは途中のMeridaで乗り換え
一番理想的なのがマドリードを朝出発するスジで、①スペインの特急列車(新幹線AVEではない)・②国境区間・③ポルトガルの特急列車、と乗り継いでリスボンに夕方着きます。
このパターンだと所要時間は9時間で済みます。
逆に乗り換えが増えたり、乗り換え時間が何時間もあったりで、最終的に12時間かかることもあります。
スペインとポルトガルには1時間の時差(ポルトガルの方が遅い)があることに留意してください。
この案の難点は①最短とはいえ移動が1日がかりとなること、②国境区間はローカル列車、スペイン側も1往復は中距離電車となること、③途中で宿泊するにしてもメジャーな都市を経由しないこと、が挙げられます。
一方、車窓は良いらしいです。
ルート2:おすすめはポルト、サンティアゴ・デ・コンポステーラ経由
私がおすすめする(そして実際使った)第二案は、マドリード・リスボン間を少し回り道して途中観光しながら辿る行き方です。
立ち寄るのはスペイン北西部ガリシア州のビーゴとサンティアゴ・デ・コンポステーラ、そしてポルトガルのポルトです。
まずは、ポルトガルのリスボンを起点に考えましょう。
ポルトガルを旅行する人は、北部にある国内第二の都市ポルトにも行くのではないでしょうか。
リスボンからポルトまでは、ポルトガルの看板列車アルファペンデュラールで3時間です。
そしてポルト観光後はリスボンに戻るのではなく、そのまま北上してスペイン国境を越えて、スペイン最大の漁港ビーゴへ行きます。
ポルト・ビーゴ間には毎日2往復の国際列車が走り、所要時間は2時間半です。
ビーゴから直接マドリードへ行くこともできますが、せっかくガリシア州に来たからにはローマ・エルサレムと並ぶキリスト教三大聖地のサンティアゴ・デ・コンポステーラも訪れたいところです。
ビーゴからサンティアゴ・デ・コンポステーラまでは1時間~1時間半です。
サンティアゴ・デ・コンポステーラからマドリードまでは、スペインの高速列車アルビアに乗って約3時間半で着きます。
この区間の直通列車は1日4往復です。
以上、このルートでも合計乗車時間は約10時間で、実は最短ルートの最短乗り継ぎよりも1時間長い程度です。
アルファペンデュラールはポルトガル国鉄のサイト、それ以外の列車はスペイン国鉄のサイトで予約できます。
実際の旅行記ダイジェスト
第二案の具体例として、実際に私が2023年11月上旬に実行したポルトガル→リスボンのスケジュールを紹介します。
①リスボン→ポルトのアルファペンデュラール
リスボン滞在は二日間。
まあ、過不足なく必要なことはできたといった感触です。
移動初日の朝9時にリスボン・サンタアポローニア駅(Lisbon Santa Apolonia)を出発するアルファペンデュラールに乗車します。
少し古い車両ではあるものの、リニューアルされていて車内は綺麗でした。
予約したのは一等車でしたが、二等車でも十分だと思います。
大西洋が見える側の席は二人掛けなので、一等車の一人掛け座席の利点もほぼ消えます。
昼頃にポルト・カンパニャン駅(Porto Campanha)に到着。
メトロ(車両はトラム)で中心部に行き、ゲストハウスに荷物を預けて市内観光開始。
街を歩きながら教会をのぞいたり、対岸の高台にあるカフェで名産のポートワインを飲んだり、やや駆け足ながらも満足なポルト滞在となりました。
②ポルト→ビーゴの国際列車
二日目。
朝8時13分にポルト・カンパニャン駅発のビーゴ行きに乗車。
国際列車とはいえ、冴えない3両編成のディーゼルカーです。
車内も快速のような雰囲気でした。
乗車時間は約2時間半弱。
ビーゴ着は10時35分。ではなく、1時間時差があるので11時35分です。
2時間の乗り継ぎを利用して市内観光。
さすがにこの滞在時間だと消化不良なのは否めません。
何より雨の中スーツケースを持って石畳の坂道を登るという最悪の状況でした。
大きな荷物が無く、もう少し時間があり、天気も良ければ、高台から海に面した街が綺麗に見えて、近くで養殖された牡蠣を食べることもできたでしょう。
③ビーゴ→サンティアゴ・デ・コンポステーラのMD
ビーゴには駅が2つあります。
ビーゴ発の中距離電車MDは、到着したギサール駅(Guixar)ではなくウルサイス駅(Urzaiz)発でした。
ショッピングセンターの入り口が駅の入り口も兼ねているので、非常に分かりにくいです。
入り口から地下に降り、荷物検査を受けて13時半過ぎに発車する便に乗ります。
MDは全席指定の速い電車で、サンティアゴ・デ・コンポステーラまでの所要時間は1時間です。
普通列車は1時間半かかります。
トンネルの合間にリアス式海岸をちらちらと覗き見ます。
「リアス式海岸」という用語の語源が実はこの辺りの海岸で、スペイン語で「湾」を意味するRiaの複数形が「リアス」です。
15時前にサンティアゴ・デ・コンポステーラ(Santiago de Compostela)着。
大聖堂前の大きな広場では、今も木の杖を持った巡礼者の姿を目にします。
大聖堂への入場は無料で、内部は神々しいまでに意匠を凝らした造りでした。
旧市街は小さく、大聖堂以外に特段訪れなければならない所も無いので、あとは自由に市内散策をします。
リスボン、ポルト、ビーゴと、「チャラけた」港町が続いていたので、サンティアゴ・デ・コンポステーラの文教的な宗教都市の慇懃たる雰囲気はとりわけ印象的です。
夕食はバルでガリシア州の海の幸とワインを堪能しましょう。
この地方は日本では知名度が高くないものの、スペイン観光の穴場だと思います。
マドリードやバルセロナのような人混みもありません。
首都間移動のついでといっては失礼ですが、この機会にその魅力を発見してはどうでしょう?
④サンティアゴ・デ・コンポステーラ→マドリードのアルビア
三日目。
朝7時47分にマドリード行きの高速列車アルビアに乗車。
ポルトガルと同じ経度でもスペイン時間なので、夜が明けるのがとても遅いです。
「グリーンスペイン」と呼ばれるスペイン北部は雨が多く緑豊かで、列車はいつまでも薄暗い山間部を幾つものトンネルを抜けて走ります。
ガリシア地方からスペインの中心部カスティーリャ地方に出ると、一気に車窓が開けて明るくなります。
上越新幹線を思わせるダイナミックな展開です。
11時半過ぎに終着のマドリードに着きました。
到着するマドリードの駅は、植物園があってバルセロナ行きが発着するアートチャー駅ではなく、チャマルティン駅です。
アートチャー駅までは近郊電車で約10分です。
将来はマドリード・リスボン間に高速鉄道も
現況のマドリード・リスボン間の線路は、まるで両国の間に深刻な対立でもあるかのように冷え切っています。
最近ヨーロッパで盛んな夜行列車復活の波も、イベリア半島には及んでいないようです。
一方で、スペインでもポルトガルでも高速鉄道の建設が進んでいます。
それぞれの線路が繋がった時、両国の鉄道は正常化された状態だといえるでしょう。
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