千葉駅を起点として内房線と外房線に乗って房総半島を一周しました。
このルートは東京から近いにもかかわらず、南国のような風景を楽しむことができるのが特徴です。
だんだんと春らしさが感じられ始めた、そしてまだ日本が比較的穏やかだった3月中旬の、良好な天気に恵まれた一日の旅行記です。
千葉~館山~安房鴨川の内房線
通勤特急に成り下がった特急「さざなみ」
内房線は君津までは首都圏の近郊といった様相で、総武快速線の電車が乗り入れています。
君津から先は観光地らしい風情の路線になりますが、土日の朝(館山方面行)と夕方(千葉方面行)に運転される「新宿さざなみ」と、平日の逆の時間帯に君津発着となる「さざなみ」しか特急の設定はありません。
高速道路の整備によって房総エリアは全体的に特急が減らされましたが、内房線ではそれが顕著になっています。
一方普通列車は君津までは1時間に2本、君津からは1時間に1本あります。
車両はかつて京浜東北線などで活躍していた209系が使われています。
両端の車両にはボックスシートが設置されており、トイレもあるので首都圏から脱出した気分は味わえます。
東京湾の車窓
千葉駅を出ると右手遠くには臨海工業地帯が見えます。
やがて京葉線が近づいてきて蘇我駅に到着。内房線の線路はここから始まります。
蘇我駅からは住宅も減ってきますが、それでもまだ都市圏といったところでしょう。
しかし、五井駅では小湊鉄道のレトロな車両たちが集結しており、まるで突如としてタイムスリップしたかのようです。
姉ヶ崎駅からも右手に工場が割と近くに見えますが、やがて辺りは田園地帯となります。
木更津駅を出て軽く山越えをすると君津駅に到着します。
内房線は以後は複線から単線になりますが、面白くなるのはここからです。
君津からは単線になって軌道も弱くなったのか、乗り心地が悪くなったような気がします。
また列車の編成も短く駅もこじんまりとしていて、いよいよローカル線らしいムードが漂い始めます。
東京湾が見えるのは大貫駅を出てからですが、この時はまだ遠くに望むだけです。
景色を楽しめるようになるのは佐貫町駅~上総湊駅間からです。
内房線はこの先館山駅まではトンネルを挟みながら海沿いを走っていきます。
「遥か」と言うほどでもありませんが、遠くには三浦半島が浮かんでいます。
浜金谷駅に着く頃にはすっかり南国ムードが感じられるようになります。
沿線は海辺の保養地らしい趣です。
岩井駅からは線路が海面よりやや高い位置にあるので、見晴らしも良くなります。
那古船形駅からは車窓は開けて館山駅に到着します。
館山駅周辺は南欧リゾートのような雰囲気で、太陽もひときわまぶしく感じられます。
ここが房総半島の南端ですが、内房線はこの先も安房鴨川駅まで続いています。
たいていはこの駅で安房鴨川行きの列車に乗り換えですが、接続はせいぜい数十分と良好です。
もっとも多くの乗客が館山で下車して、先の列車に乗り換えた人は僅かでした。
館山駅を出発した列車は左に大きくカーブして進路を東に定めます。
これから房総半島の南端の部分を横断するのです。
館山~安房鴨川間は現在では土日も含めて特急列車が走っていない、内・外房線でも最もローカル色の濃い区間といえます。
迫力のある館山以北及び安房鴨川以北の間に挟まれたこの区間には鄙びた情緒があり、いわば房総半島一周旅行における個性的な緩徐楽章の役割を果たしています。
海岸から一旦離れると、それまでの陽光のさす明るい雰囲気から大きく変わって、内陸の農村の風景が広がります。
何の変哲もない景色ですが、急から緩への移行は鮮明な印象を与えます。
亜熱帯地域の植生が当たり前のように存在します。
まるで植物園に来ているような気分です。
千歳駅の前で早くも房総半島の東海岸が見えます。
海岸に近づくのは南三原駅を過ぎた頃です。
今度の海はもはや「湾」ではなく外洋で、水平線を遮るものはありません。
沿線には温暖な気候を生かした太陽光発電パネルやビニールハウスが目につきます。
江見駅~太海駅間では海辺の砂浜に架かる山生橋梁を渡ります。
道路がやや邪魔ですが気持ちの良いものです。
安房鴨川駅は内房線と外房線が接続する駅ですが館山駅と比べると規模は小さく、東京から見て「裏側」といった印象がぬぐえません。
とはいえ、この駅にあるコンビニでは駅弁が販売されています。
安房鴨川~勝浦~千葉の外房線
外房線は特急が健在
内房線が君津まで近郊区間だとすると、外房線は千葉から上総一ノ宮までがそれに対応しています。
やはり総武快速線の電車が上総一ノ宮まで運転されており、車窓の雰囲気もこの辺りを境に変化します。
外房線は内房線ほどは特急列車が減らされておらず、特急「わかしお」が行楽輸送手段として機能しています。
車両は255系とE257系の2種類ありますが、グリーン車の有無で判別できます。
グリーン車無しがE257系で、グリーン車有が255系ですが、本数としては前者の方が多くなっています。
普通列車も半島の先の方が1時間に1本で、上総一ノ宮まではもっと多いといった具合です。
車両も内房線と同じ209系が使われています。
E257系特急「わかしお」に乗車
安房鴨川駅からは特急「わかしお」に乗車しました。
房総半島のカラーとなった青と黄色に塗装されたE257系です。
E257系は首都圏の標準型特急車両といった位置づけですが、このエリアで運用される500番台は房総らしい車内の雰囲気になっています。
グリーン車もなく255系の脇役といった立場ですが、新型である本形式の方が乗り心地はやや良いように思われます。
外房線は内房線ほど海は見えない
安房鴨川駅を出発して鴨川市内を見た後、すぐに砂浜の美しい海岸沿いを走ります。
外房線も御宿駅までは線路は海に近いのですが、内房線以上に頻繁にトンネルがあるため、その合間に所々海が見えるといった感じです。
急曲線が多く停車駅も多いので、列車は特急らしからぬのんびりとしたスピードで走ります。
安房天津駅付近にて。
レジャー施設が多く集まる勝浦駅の手前は、リゾート地らしい海岸と砂浜の風景が見事に展開されます。
それまではガラ空きでしたが、ここで乗客が少しだけ増えました。
その次の御宿駅に着く頃には海から離れ、内陸部の山地を進んでいきます。
夏は海水浴客で賑わうのだろう。
大原駅あたりからは周囲は開けて、上総一ノ宮駅の2つ先の茂原駅は高架になっています。
南国からあっという間に都市部に戻って来たようです。
私はここ茂原駅で特急から普通列車に乗り換えました。
その後も淡々と進みますが、大網駅からは房総半島の北部を横断するために丘陵地帯を走ります。
この区間は電化の際に線路改良されているので曲線は比較的緩くなっています。
こんな改良が内房線と外房線の随所で行われていれば、房総特急も高速バスに対してもっと競争力があったのでしょうが、逆にそれをやってしまうと車窓の魅力が損なわれます。
時刻表テツの鉄道旅行は、まさにこうしたジレンマと常に向き合う必要があるのです。
勾配を下りきるとすぐに内房線や京葉線と接続する蘇我駅。
そしてモノレールが見えたら今回の起点である千葉駅に到着です。
実際の距離よりもずっと遠くを旅していたような錯覚を覚える。
255系「しおさい」で帰京
千葉まで来たら後は東京へ帰るのみですが、そのまま今朝と同じく総武線快速に乗るのもつまらないので特急「しおさい」を利用することにします。
となると千葉からだと乗車時間が短すぎるように思われるので、総武本線で一旦成東まで引き返してそこから乗車しました。
「しおさい」には専ら255系が使用されています。
255系は海水浴などの行楽客向けにデッキにサーフボードが置けるスペースがあったり、座席を向かい合わせにしても使える肘掛け内蔵型のテーブルが装備されています。
ところが、車内に入ってみるとその明るい外観とは裏腹に、意外にも暗めの雰囲気であることに驚きます。
今まで見てきたように内房線や外房線は都市間輸送・通勤輸送の需要もあり、そういった客への配慮もあるのでしょう。
千葉駅を過ぎた頃には、それまでの陽気な太陽に代わって街の灯りが辺りを照らすようになりました。
東京スカイツリーが近くに迫って来た錦糸町を通過して間もなく、列車は地下に潜り東京駅に到着です。
千葉の魅力
かなり昔の話ですが、寝台特急に乗りあわせた千葉県出身の人が「千葉は東京の植民地ですよ。」と言っていたのをよく覚えています。
あの有名なテーマパークや成田空港を思い出すまでもなく、2階建てグリーン車を連結した長大編成の総武快速線の電車を見ている者としては、失礼ながら「まあなるほどですね」くらいにしか当時は思いませんでした。
しかし房総半島を鉄道で一周してみると、東京と密接に結びついた千葉県とは違った、独自の風土を持つ千葉県が見えてきます。
東京から距離が近いためか、その魅力に気づきにくい面もあるかとは思いますが、青春18きっぷでも簡単に日帰りできてしまうおすすめのモデルコースです。